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#68 趣味の延長

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。


 リオはお店を畳むことを決めたらしい。


「キザシたちにはもう話してきたんだ。それで……よかったらなんだけど、クロスの服を売るのはどうかな?」

「え……?」

「売り上げとか土地代は考えなくてもいいよ。他に使い道もないから利用してくれると有難いって話しだから、断ってくれても構わない」


 売り物にするってことは、ある程度誰でも着られるフリーサイズを作るってことになるのかな。

 クロスはフィット感を大事にしてるみたいだったし、どうなんだろ。


「少し、考えさせてください……」

「うん、すぐに決めなくてもいいよ。カフェもいきなり締めちゃうとお客さんががっかりするだろうから、告知してから1か月くらいは続けるつもりだ」


 ちらりと初代の様子を窺うと、どこか寂しそうな表情に見える。

 ……まさか、魔素の影響の兆候が……?


「……リオ、どこか、悪いのよ……?」


 リオは申し訳なさそうに微笑んだ。


「俺は凄く元気なんだけど、たまに力が入らなくなるんだ……。今は指先だけだけど、食器をダメにしちゃうことが多くなってきてて……。多分これから、全身に広がると思う。立っていられなくなるかもな……」

「……段々心臓の機能が弱まっていき、やがて止まるだろう」


 最期が近くなると寝たきりになるってこと……? 苦しまずに死ねるなら、そのほうがいいのかな。老衰に近い状態かもしれない。


「もしかして、僕と初めて手合わせした時からその症状があったんですか?」


 え、クロスが初見で勝てたのもそれが原因……?


「あー……うん、あの時初めて違和感があったんだ。クロスが肘で切っ先の向きを変えようとしただろ? 剣を落としそうになって気が逸れちゃって、次の動きに入れなかった……。負けた言い訳をするみたいで言えなかったんだ……済まない」

「いえ、謝られることでは……」


「それで……これからは料理を任せてもいいかな? レシピを残そうとは考えてるんだけど」

「私の担当になりますね! 任せてくださいっ!」


 シエラはリオの弟子として、リーフと同等くらいには料理できるようになっている。レシピ通りに作れば美味しくできあがるはずだ。

 こんな形でリオが教えたことが役に立つなんて……。


「他にも迷惑掛けると思うけどよろしくな」

「……激しい運動は身体に障る。今後は朝の鍛錬も……やめたほうがいい」


 も? 明言を避けたけど察するわ。

 リオも何が言いたいか正しく理解していた。


「俺はギリギリまで生きてる実感を味わいたいよ。ゼストの腕の中で死ねたら幸せだ」

「……冗談になってないぞ」

「冗談でこんなこと言わないよ」

「……お前はそういうやつだったな。もしそんなことになったら俺が驚くからやめてくれ」

「ふふ、そうだな」


 そりゃ最中に事切れたらびっくりするわ……。

 リオは今でも死ぬのが怖くないのかな。

 私はこのいつものいちゃ付きでさえ、明るい気持ちで聞いていられないのに。




 翌日になって、クロスが出店に関しての考えを伝えた。


「お店をするなら、オーダーメイド専門店にしたいです。その人その人に合ったものを着てもらいたい……。あの、できるでしょうか……?」

「オーダーメイド! そんなお店もあるんだ! 俺、お店のことはよく分かんないから、キザシに相談しようか。このあと一緒に馬車に乗っていく?」

「え……忙しいのでは?」

「自宅兼事務所だしいつ行っても話しくらい聞いてくれると思うよ」

「お邪魔でないのなら、お願いします」


 リオとシエラで仕込みが終わると馬車に積み込み、私も妖精の姿でついていった。人間サイズだと場所を取るし目立つ。

 因みにルーミーのケーキはカフェ内の厨房で作ってるらしい。リオが城で仕込みをしてるのはそのあとにみんなのお昼を作る必要があるからだ。


 いつものように搬入すると開店準備が始まる。それと同時にキザシはカヴァーリへの搬出だ。


「クロスの出店(しゅってん)のことなんだけど、話しは戻ってからのほうがいいかな?」

「道すがらでいいなら聞いてやるよ。その代わり手伝ってもらうからな」

「分かりました」


 城から連結させていた荷台の後列部分を切り離し、カヴァーリへと出発した。


「結局店は出すのか?」

「少し興味あります。ただ何着も置いてある中から選んでもらうんじゃなく、ひとりひとりに合う服を作りたいんです」

「オーダーメイドか。なるほどな……」


 察しの神は健在だわ。


「リオは店の維持に関してからっきしだからお前になんて言ったか知らねぇけど、そのデザイン性でオーダーメイドってなるとかなり高額な商品になる。布代と手間だってバカになんねぇだろ。まぁこれは店に帰ってからでもいいが、1着当たりの材料費から原価率を出さねぇとな」


 ガチの経営者の発言……。私も経営のことは全然分からん。


「確かに布は高いので、それ以上はお金を貰わないといけませんね」

「デザインのアイデアひとつ取っても商品だ。唯一無二の一点物という価値、クオリティの高さ……どれを取っても王侯貴族相手のほうが商売しやすそうだな。あんな辺鄙な場所にその服を態々買いに一般客が来るとは思えねぇ」


 商売の難しさを突き付けるわぁ……。

 私もアトラージュもクロスの為に出店させてあげたいけど、まったく反論の言葉が出てこない。


「……では、一般客向けにもなりそうな小物とか……下着を店に置くのはどうですか?」

「そ、そうなのよ! リオと初代にレースの下着を作ってあげてたのよ! あれは一部の人に絶対ウケるのよ!」

「レース製品か……一定の需要はありそうだな。その中に服を作ってもらいたい客が出てきたら儲けもんだ。王侯貴族に対しては営業――……、実際その服を見せに行って、勇者だと明かしたほうが話しが早ぇんじゃねぇか?」

「……驚かれますね。新たな勇者が生まれたこと自体、みんな知らないですから」

「問題はそこだな……恐らくどこからともなく噂が広がっちまう。ただでさえその服着て歩いてたら目立つしな。宣伝効果は高いが商売するならメリットばかりじゃねぇ。お前も変な目で見られることが多くなるし、「商売やってねぇで魔王を封印しろ」って思うやつは少なからずいる」


 勇者の使命か……。私たちにとっては最早どうでもいいことなんだけど、あの演説で分かってくれていない人も多いだろう。

 世界は変わったのに、古い考えをさっさと捨ててほしいものだ。


「宣伝方法はまた考えるか。仕事の時間だ」

「……キザシさんって考え方がゼストさんに似ている気がします」

「オイ、やめろ」


 私も実は思ってた。知略が得意だし似たもの同士なところがある。

 同族嫌悪感があるのかな。始めの頃よりお互い丸くなったし仲悪い感じはしなくなったけど、仲良くなったわけでもない。“腐れ縁”って言い方がしっくりくる。


 委託先の店舗に着くと、相変わらずクロスの服に驚かれつつ搬入を完了させ、キザシが売り上げを回収する。

 さらっと店主に閉店が決まったことを話した。まだ詳しいことは詰めていない為、閉店日が決まったら伝えると残し店を後にした。


「ギアのとこにも顔出しとくか」


 そう言って向かったのはギアが所属している商業ギルドだ。

 初代たちの魔法具という名の便利グッズの仕入れだけじゃなく、リオのお店の担当でもある。閉店のことも新規オープンのことも話しておかなきゃいけない。

 ギルドの受付さんにギアに話しがあることを伝えると、商談室みたいな部屋に案内された。

 暫くしてノックをしたギアが入室してきた。


「やぁ、キザシが来るなんて珍しいな。……その人は?」


 クロスは礼儀正しく腰を上げて一礼する。


「はじめまして、クロス・オーリスです」

「こいつが新しい勇者な」

「あー……、アルカナが生まれてもうそんなに経つんだな……。よろしくな。私はギア・フィールダー、ゼストの友人だ」

「……ども」


 服のこと以外にはリアクション薄いな……。


「近々リオの店を閉めることになった」

「……急に本題だな。リオも覚悟があって短命になる道を選んだんだ。尊重するよ」

「で、空いた店でこいつの服を売るって話しが出てる」

「確かにデザインが凝ってると思ってたよ……これは君が?」

「はい、趣味でして」

「凄いな……。だが客を選ぶというか……1着いくらくらいにするつもりなんだ?」


 ロリータファッション云々ではなく価格が高過ぎて買い手が付くかという懸念だろう。


「まだ原価率も出してねぇよ」

「あ、まだ構想段階なのか」

「実際服見せたほうが早ぇと思ってな。詳細は追々知らせるが、宣伝のアイデアとかあれば魔石で教えてくれ。基本的に店内ではレース製品の小物を売る。服はオーダーメイドのみだ。靴も作れるらしい」

「アイデア……なるほどそういうことか。分かった、考えてみるよ。お店、形にしてみせるよ、クロス」

「……ありがとうございます」


 帰りの馬車の中で、クロスがぽつりと漏らした。


「趣味の延長みたいに軽く考えてたけど、お店やるのってこんなに大変なんだ……」


 味が美味しいとか、素敵な店員がいるとか、そんなことよりキザシがちゃんと経営してくれてるからリオのお店は成り立ってるんだ。

 流石すべての黒幕。

 クロスのお店もお客さんに愛されるお店にしてあげてほしい。


 カフェに戻ってくると裏口から居住フロアの2階へ上がる。共有スペースのような大きめのローテーブルとソファが置いてあるとこに案内され、暫く待たされるとドリンクを持ってきてくれた。


「市販のものだからリオのほど美味くねぇけどな」


 営業中に作ってもらうのも悪いしね。

 それから口出しもできないくらい畑違いの話し合いだから、私とアトラージュはただそのやり取りを聞いていた。

 作ってもらったあとだけど、めちゃくちゃ高価なんだなやっぱり……。普段着にとかできないわ。


 暫くクロスはレースの小物を数点作り、キザシに見てもらうというのを繰り返した。

 全部同じ原価率じゃ服がバカ高くなるらしく、バランスを取る為に商品ごとに変えるのが普通らしい。お子様ランチが採算度外視の価格にしてるみたいなことかな?

 端切れでも作れる小物類は原価に対してかなり売り上げの見込める商品になるようだった。


「案外イケるかもしれねぇな……。一見アクセショップみたいに見えちまいそうだが」

「確かに。服も見本として飾りましょうか……」

「……そういえばお前、接客できんのか?」

「え……? 僕が……?」

「他に誰がやるんだよ」


 基本無表情なクロスに接客できるの……? それにゴスロリ少年は敬遠されてしまうのでは……?


「人に似合う服を作りたいとしか考えていませんでした……」

「あー……まぁ商談に入ったら接客どころじゃねぇし人員は必要だな……。アテとかねぇのか?」

「アテ……僕人間の友達いないですから」


 アトラージュが初めての友達って言ってたな……。

 キザシたちはカフェが店仕舞いしたら隠居するのかな。歳も歳だし老後をゆったり過ごすのもいいだろう。クロスのお店を手伝うにしても近い将来、人員は確実に必要になる。


「フィエスタがやれりゃいいんだがな……アメイズだとバレた場合がめんどくせぇ。シエラもカフェの客たちに不老不死を勘付かれたら同じくめんどくせぇ。なんで魔族たちが既に顔バレしてんだよ……」

「アルカナに狼の誰かと契約してもらうとか……?」

「言語も会計も教えるんじゃ時間掛かんだろ」


 狼同士はテレパシーのようなもので意思疎通を取ってるみたいで、喋ることに不慣れだ。ケイたちがどうだったかは聞いてないけど、アヴァンシアが人間の姿を取れるようになった時はカタコトだった。

 金銭感覚もないに等しいから確かに教える手間がある。


「あたしがやるんじゃダメなんだわ?」

Copyright(C)2024.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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