#67 ツンデレた
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
クロスがアトラージュの服を作ってる間に、魔物の警戒にあたっていたみんなが続々と帰ってくる。タイミングがバラバラだからクロスたちは毎回自己紹介をして、着ている服になんらかの反応を示されていた。
みんなびっくりはするけど、自作したと聞いて納得する。
「あなたがミシンを借りたいと申し出た勇者ですわね? もしかしてご自分でデザインからその服をお作りしましたの?」
「はい。リヴィナさんがアルカナさんの服を作ったと聞いたのでお話ししたかったです。アルカナさんに似合うようデザインされてる感じがしたので、その辺詳しく聞きたいです」
「わたくしにはない技術ばかりお持ちですので参考になるかは分かりませんが……。わたくしもクロスのお話し聞いてみたいですわ」
「今アトラージュの服を作ってるので見ますか?」
「是非拝見したいですわ」
ジャンルは違うけど共通の趣味で話せるっていいなぁ……。
翌日にはアトラージュの服の仮縫いが終わり、私が着た状態で妖精に戻り、服を渡した。羽根を出すのにちょっとだけ手伝い、背中のチャックを上げてあげる。
ほら、やっぱり似合ってる。
私も自分の服を着たらクロスを呼んだ。
「変なところはない?」
「……ないんだわ」
「……」
喜ぶ様子のないアトラージュに、クロスは複雑そうに口を噤んだ。
再び着替えの為にふたりきりになる。
「……クロスに作ってもらって嬉しいとかないのよ? 私なんてテンション上がりまくったのよ」
妖精は飛ぶ為に軽装のほうが都合が良い。ひらひらはしててもロリータファッションみたいなフリルたっぷりっていうのは着ない。
でも、着たい気持ちはあるはずだ。
「私が似合うって言ってるのに信じられないのよ?」
「フィエスタしか言ってないんだわ」
言われる人数の話し?
たとえリオに褒められたって多分受け入れないでしょ。だったら誰に言われたいのか、そんなのひとりしかいないじゃない。
それから本縫いをリヴィナとやって、アルカナも見学していたようだ。完成したらアルカナから念話が入り呼び出される。
客室をそのまま自室にしてるから秒で着くわ。
アトラージュとふたりになって脱ぎ着すると、みんなを部屋に招き入れた。
「こうして改めて見ると妖精って小さいですわ……このサイズの服を作るとなるとかなり簡略化したデザインでないと難しいでしょうね。フィエスタがいてよかったですわね、アトラージュ」
「それは言えてるんだわ」
「重くて飛びにくくはないのか?」
「まぁ、なんとか飛べるんだわ」
アトラージュがみんなの目線の高さまで飛ぶ。
「……やっぱり少し重いんだわ」
「……気に入ってはくれないかな……」
気にしてるのは分かるけどそうじゃないでしょ!
もうこの子たちはぁああ!!
クロスをけしかけるのもなんか違うからアトラージュに耳打ちした。
「似合うかどうか訊くのよ。私の言葉じゃ信じられないんでしょ?」
「な、なんでいちいちそんなこと……」
「いいからっ!」
「……、に、似合ってると……、思うんだわ……?」
「似合っている」「似合っていますわ」
ごめん、ふたりには訊いてないんだ……。
アトラージュの視線に気付いたクロスはようやく自分に訊いていると察した。
「……アトラージュは不本意かもしれないけど、僕も似合ってると思う……アトラージュの為に作ったんだ。似合わないわけないよ」
やん、素敵なこと言うじゃない……。
「……嬉しいんだわ……なんなのだわ……、全然、違うんだわ……」
もう恋しちゃってるじゃん……!!
アトラージュのこんな顔見たことない。
妖精は所謂繁殖行為はしない生き物だ。
生まれる時は妖精の森の中心にある大樹の実の中に生を受ける。実ができるのは誰かが死んだ後、数を補充するように生る。
そんな生まれ方だから性欲というものがそもそもない。
それでも人の好き嫌いは勿論あるし、カップルになってる妖精たちもいる。永く生きてればどうしたって気持ちは移ろうけど、執着心の薄い子が多いから泥沼にはならない。深い関係にもならないから淡泊とも言える。
人を好きにはなる。けど、異種族となると成就は難しいだろう。
アルメーラが永い間ノアに片想いしていたのとはまた違う。
アトラージュは小さい身体の妖精で、クロスは短命な人間だ。アトラージュの想いが叶うことはないに等しい。
「違うって……?」
クロスが困惑してしまってる。まぁ、アトラージュも理解してるか怪しいしここで説明するのもな……。
「嬉しいって言ったの聞こえなかったのよ? ちゃんとクロスが作った服気に入ってるのよ」
「……そう、なの?」
「そうなのだわ……クロス、ありがとうだわ」
照れたまんまであんまり嬉しさ全開って感じではないけど、お礼を言われたクロスのほうが嬉しそうだ。
あとはふたりを見守ろう……これ以上私にできることはそんなにない。
「着てみたい人に服を作り終わっちゃったけど、クロスはこれからどうするのよ? 寿命までアルカナを封印しないにしても、この城に住むのよ? それとも故郷で過ごすのよ?」
「そうですね……。いつまでもお世話になるのも迷惑だろうし、家に帰ります……」
「寿命までとは、どういうことだ?」
そういえばアルカナたちにはまだ何も話してなかった。
「アルカナとも話し合ってから決めるのが筋だったのよ。もうすぐ夕飯だしみんなと話しましょう」
ようやく本題というか、すっかり忘れてた封印のタイミングについての話し合いが食後に行われた。
寿命までというのはちょっと現実的じゃない。クロスが家に帰るなら、どこかのタイミングでまた城に来なきゃいけないからだ。死ぬ直前にそんなことできっこない。
そもそも私とアトラージュの為を思って言ってくれたことだけど、人間の寿命なんて私たちにとってはとても短い時間だ。そこまで気を遣ってくれなくてもいい。
「クロスはふたりの為にアルカナの封印を先延ばしにするつもりなんだな」
「先延ばしにするとその間、アルカナの身内・知人が次々と亡くなっていくことになる……。少なからず人間たちに被害が出るだろう。勇者への非難が増すがその覚悟はあるのか」
「新たな勇者が生まれたことも公言していないようなのでそれほど心配は要らないかと」
リーフまでの勇者と違って、クロスは顔バレしてないはずだ。紋章さえ隠してしまえばまさか勇者だとは思われない。
「時代は変わったな……」
「俺たちが変えたんだろ? 王様がちゃんと俺たちの主張を理解してくれてて安心したよ」
「勇者の意向は分かった。改めてタイミングについてだが、誰かが死に、アルカナの精神が乱れてるうちに封印するのはやめたほうがいい。封印が解けて間もなく魔物が暴れる可能性が高い」
「そうなると、誰かが死ぬ度に封印のタイミングが遅くなっていくんすね」
「……魔族でない者は、この城に来ないほうがいいのではないか?」
アリストの言葉にリーフはハッした。
「リヴィナたちのように寝泊まりだけでも城から離れてる者はまだ長生きできるだろうが、生きているうちに逢わないようになればいつ死んだかも分からない。魔物が暴れる回数も確実に減らせる」
「それって、僕もアリストと逢わないようにしろってことっすか⁉」
「……そのほうが、お前は長く生きられる」
「アリストといられる時間を減らすくらいなら早死にしたほうがマシっすよ⁉」
痴話ゲンカすんなよ……。
アリストはリーフのことを第一に考え過ぎて当人が望んでない結論に辿り着いちゃうな。自分の気持ちも大事にすれば、リーフだってこんなに怒らないのに。
「俺もリーフの気持ちのほうが分かるな」
「……アリストは正論を言っている。俺も他の者は城に入り浸らないほうがいいと思う」
「ゼスト――」
「だが、肝心なお前の想いは考慮していないだろう。お前はもう魔王ではない。後悔しない死に方を選べ」
「……、リーフ、悪かった。……死ぬ瞬間まで、俺の傍にいてほしい」
「なんすかそれ……もう、最初からそのつもりなんすけど……」
「悪かった……」
テーブルでよく見えないけど手繋いだなあのふたり。秒で仲直りしたわ。
「もし俺が死んだあとに封印したら、目覚めた時リーフもアリストもいないって哀しいよな? この中で一番長生きかもしれないのはアリストか。アリストが死んだ数か月後……がいいかな?」
「元魔王がどれほど長く生きるか分からんが……勇者のほうが先に危ういようならその時は仕方ないだろう」
「結局クロスの寿命近くになるかもしれないんだな。クロスは本当に勇者のままでいてもいいのか?」
「僕は別にいいです」
「……ずっとアルカナを封印しないままでいて、直接じゃなくても誰かに何か言われたり、つらいことがあったら、俺たちが今話したことなんて忘れて封印しにきてもいいからな……」
「……はい、ありがとうございます。そうします」
学校の授業で登場人物の気持ちを答えなさいみたいな問題も出されるのかな……。
演説でリーフは、リオは勇者の役割から解放されたかったんだと話した。
リオの気持ちが後世に伝わってると信じたい……。
「アトラージュはクロスと一緒に行くのよ?」
「え? なんでなんだわ?」
「え? いやだって……私よりクロスと一緒にいたいんじゃないかなって……」
「あの……。僕がここに居候するのはダメでしょうか?」
「うん? 構わないよ。勇者でいる限り魔素の影響は受けないし、クロスの寿命が短くなったりしないから、安心してくれ」
「それって、アトラージュは……」
「妖精にとっては10年も100年も誤差に過ぎないんだわ」
「……そうなんだ」
「……クロスは随分アトラージュのこと大事に想ってるんだな」
それは感じてた。まだ逢っても間もないはずなのにアトラージュに対してタメ語使ってるし。ゴスロリを可愛いと言ってくれて嬉しかったのは分かるけど、もっと特別な感じがする。
「そうでしょうか?」
自覚なしなの……?
「……そうかもしれません。アトラージュは僕の初めての友達だから……」
友達……! それ禁句じゃん!
アトラージュの表情を盗み見てみると、口元がにやけそうなのを堪えた変な顔になっていた。
え? 友達で満足なの? 私の勘違い……?
「嬉しそうなのよ……」
「べ、別に嬉しくないんだわ!」
ツンデレた。
永年親友やってるけど、妖精の森に居続けていたら絶対に見られない表情だ。
まぁ恋かそうでないかは今は追及することないかな。
それからスターレット一家とノア、ルーミーはカフェの2階へと少しずつ私物を移動させ、引っ越しをした。これからは特別な用がない限り城には来ないことになった。
もう33歳になってるセリカはパートナーのところに押し掛けて結婚を迫るらしい。アグレッシブだ……。
カフェの営業も再開させて半年くらい経った頃、
「そろそろお店を畳もうと思うんだ」
まだ全然働けそうなのに、リオはみんなにそう話した。
おまけ。
キザシたちが引っ越す前日、初代たちは髪を切ってもらうことにしたらしい。
私も切ってもらいたかった……もう無意味だわ。
「僕も切ってほしいんすけど……ダメっすか?」
「あぁ? 何便乗してんだ」
「……切ってしまうのか?」
「仕事上団子にできる長さにしてただけなんで。なんだかんだタイミング失ってたんすよねー。ショートカットでお願いします」
元剣道DKにしては髪伸ばしてるんだと思ってたけどそんな事情があったんだ。
「なら……俺も切るか」
「おい待て。客が増えたじゃねぇか」
「え⁉ いやそれは……勿体ないっつーか……」
自分はいいけど推しはダメなやつ。分かる。
いやリーフにとっては推しじゃないだろうけど。
勿体ない気持ちはよく分かる!! 初代の時もそう思ったし!!
「長いのが不便な気持ちは分かるだろう」
「いやそうなんすけど……。だって切ったら……、え? 普通にイケメン過ぎない? 世界観大事にしましょうよ。ってか単にふわふわの長い髪好きなんすよね」
世界観とか言うな。ここがファンタジー世界だと思ってるの私とリーフだけだから。
「……お前が好きなら、分かった。切らない」
好きな人好みに染まっちゃうタイプかよ……!
「だがそれを言うなら俺もお前の髪が好きだ。俺より指通りが良い」
「……そ、そういえばよく髪触られてたような……」
待って待って想像しちゃうから。その辺で。
「いちゃ付くなら部屋でやれ」
「いっ、いちゃ付いてはいないっすよ⁉」
「で? 切るのか? 切らねぇのか?」
口ではあれこれ言ってたけど切ってくれる気はあるらしい。
「……ほ、保留で……」
「……まぁ、切りたくなったらお前が俺んち来いよ」
「分かりました……」
これ当分切らないな、と私もキザシも思った。
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