#66 貸し切りFiesta
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
翌朝クロスが朝食に来なかったので、寝てるか作業中かもしれない、と届けるついでに様子を見に行った。
ノックを控えめにするも返事はない。
一応各部屋、鍵付きなんだけど不用心にも開いていた。
「クロス、入るのよ?」
机に突っ伏して、完全に寝落ちしてる。
服は綺麗に畳まれていてもう出来上がってるらしい。
机の空いてるところに朝食を置こうと近付くと、気配を察してか起きた。剣士は人の気配に敏感な人が多いな。
「おはようございます……」
「ふわぁ……もう朝なんだわ?」
「おはようなのよ。昨日晩かったならまだ寝ててもいいのよ?」
「いえ、ここ数日怠惰に過ごしたのでちゃんと起きます」
趣味に没頭することを怠惰と言わないで……耳が痛い。
「リオさんのお店今日開けてもらえるんでしょうか……」
「別に明日とかでもいいのよ?」
「早くこの服を着たフィエスタさんと出掛けたくて……」
そんな可愛いこと言われたらなんも言えないじゃぁああん!!
「リオには私から伝えておくから、ゆっくり食べてて。お店開けるにしてもお昼になるのよ」
「あ、そうですよね。ありがとうございます」
朝食を食べたばかりじゃほとんど何も食べられない。元々リオのお店はランチタイムからの営業だし。
出来上がった服を持って部屋を後にする。
厨房を覗けばまだリオが朝食の片付けをしていた。
「リオ、クロスが今日お店に行きたいって言ってるのよ。開けられる?」
「うん、大丈夫だよ。服できたんだな。早く見たいなぁ」
「リオは先にお店で待ってて! 見せるのはお客として行った時なのよ!」
「分かった。楽しみにしてるよ。開けるのはランチでいいか……みんなの分作り置きしておかないとな」
喋ってる間に泡で手が滑ったのか、シンクに食器が落ちて鈍い音がした。
「割れなくてよかったぁ。これゼストのお気に入りのカップだ」
リオが割ったって普通に許しそうだけど。
「そういえば、俺が勇者だった時、魔蟲(まむし)が現れるほど感情がマイナスに傾いたのはなんでだったのかって、訊いたことがあるんだ。お気に入りのカップの取っ手が取れちゃったからなんだって。ゼストは物を大事にするから長持ちして人より愛着湧いちゃうんだろうな……ふふ、可愛いよな」
唐突に惚気られた……。
当時の被害の大きさからとても笑える話しじゃないんだけど、普通の人間だったなら確かに微笑ましいエピソードだ。お気に入りが壊れてショックを受ける気持ちも分からなくない……。
一番大変だったリオが笑い話しにしてるなら、それでいいのかな。
リオが先に死んだ時、初代はカップなんかとは比べものにならないくらい気落ちするだろうな……。
この世界の平均寿命は大体70前後。初代の懸念通りならリオの寿命は10年前後ということになる。
魔素の影響がどれほどなのか分からないけど、だからこそリオとのこういうなんでもない時間を大切にしたい。
「惚気るリオのほうが可愛いのよ」
「えー? 惚気てないよ?」
お昼を少し過ぎて、徒歩でリオの店に向かう。リオが食材を積んだ馬車で先に行ったから、お店横の厩舎にはもう停めるスペースがない。
あー、靴も作ってもらいたいなぁ……。
妖精になってから永いこと裸足に慣れちゃったからシンプルなパンプスしか持ってないのよね……。
でも靴って作るの時間掛かりそうなイメージ……。
Closedの看板が掛けられたドアを開けると、リオが「いらっしゃいませ!」と挨拶してくれた。
「フィエスタ、凄く可愛いなっ!」
あぁああぁ作ってもらってよかったぁああ!! このひと言の為に私は今日この服を着たのよ!! 期待を裏切らないリオたんすきぃいい!!
「あっちの席だと湖が見えて綺麗だよ」
「……素敵です」
「注文は何にする?」
お店のメニューをそれぞれ渡される。ちゃんと見たのは初めてだ。
おしゃれとかじゃなく、良い感じのシンプルさ。リオのちょっと癖のある字が……初代じゃないけど「愛しい」としか感情が出てこない。
「いつもの俺の店なのに違う世界にいるみたいだ。服の力って凄いな」
クロスははにかむのを見られないように窓の外を眺めた。
横顔が嬉しそう……。
注文して暫くするとリオ手ずから提供してくれて、隣の席でいっしょにお昼をとった。
「リオさんの料理はいつも美味しいですけど、こんなに素敵なお店で食べるともっと美味しく感じます」
「私もなのよ……。クロス、服作ってくれてありがとうなのよ」
「……僕のほうこそ、着てもらえて、嬉しいです」
普段から無表情だから、感情が見えるとめっちゃ可愛いなこの子……。
「アトラージュも作ってもらえばいいのに。自分では似合わないって言ってたけど多分似合うのよ?」
「……あたしは人間サイズにはなれないんだわ。きっとクロスが納得できる服にはならないんだわ」
「確かに妖精サイズは作ったことないけど……」
「……たとえば」
私は妖精のサイズに戻って見せる。
は、羽根が服の中だから伸ばせなくてちょっと痛い……!
「服は着ていれば一緒に小さくなるのよ。持ってる物は大きいままだけど。アトラージュのサイズに合わせて作った服を私が一旦着て渡せば、アトラージュも着られるのよ」
「……羽根はどうなってるんだわ?」
「うん……服の中なのよ……。クロス、羽根を出せる隙間を作るか元から背中を露出させるかのデザインでも作れるのよ?」
「羽根の位置を測れば作れます。脱ぎ着に苦労するかもしれませんけど……後ろにチャックを付けたほうがいいかな……? 露出は、僕はあんまり好きじゃないです……」
羽根が痛いから人間サイズに戻った。
「クロスの趣味を反映させたほうが作ってて楽しいのよ? アトラージュに似合う服作ってなのよ!」
「……アトラージュはどう思う?」
「……クロスが作りたいなら、着てあげないこともないんだわ……」
ツンデレかっ。
ふたりが可愛いって思う感性は同じはずなのに、お互いに遠慮してる空気感があるな……。可愛いについて話せばもっと仲良くなれるのに。
「シエラも言ってたけど、可愛過ぎて着られないってことかな?」
「……あたしにはとても似合わないんだわ」
「自分よりも他人の似合う似合わないって判断のほうが正しいと思うな。俺は服に興味ないからほとんどフィエスタに選んでもらったんだ」
リオは本当に着られればなんでもいいってくらい適当で、勇者パーティーとしての旅が始まってから仲間より先に服を調達しに行った。あの服でシュタインメッツ王に謁見したとか、もうちょっと良い服はなかったのかと思ったわ。アーデンを出る前ノアに言われなかったのかな……。
折角の素材が台無しよ! と意気込み、私が選んだ服に嫌な顔もしなかったから趣味全開で選ばせてもらった。
自分じゃ着ないけどノースリハイネックに紋章を隠すフィンガーレス手袋……最高か。外套からチラ見えする実は筋肉質な二の腕とか拝みたくなる尊さだった。
「フィエスタさんは元々服に興味が?」
「興味というほどでもないのよ。ちょっとだけ自分に似合う服はどういうのか調べたりしたから、骨格別似合う服っていうのは大体分かるのよ」
「骨格……! フィエスタさんの見識の広さには驚かされます」
「一体どうやって調べたんだわ……?」
ただのネット情報よ……。
「そんなフィエスタが似合うって言ってるんだから、アトラージュが気後れする必要はないと思うよ」
「……本当にあたしに似合うと思うんだわ?」
「ゴス……モノトーンを着こなせると思うのよ! 別に着たくないわけじゃないんでしょ?」
「……まぁ」
「……僕にこの服が似合うって言ってくれたアトラージュを、信じるよ。……頑張って作る」
「……好きにすればいいんだわ」
ツンデレかっ。
食後の紅茶とケーキを楽しみつつ、アトラージュの服のデザインを纏めた。すべての食器をリオが洗い終わり馬車の準備もできて暫く。粗方イラストを描き終える。
妖精の採寸をするのはクロスには難しいだろうということで、私が指示を受けながら測ることになった。私の妖精時のサイズを測り、人間時との差から何%サイズアップさせればいいのか割り出せば、アトラージュの人間時サイズが分かるはずだ。
アトラージュもアルカナと契約すればこんな面倒なことしなくていいんだけど……不老不死になる強要はできないしなぁ。
結局閉店時間くらいまで居座っちゃった。リオの運転で一緒に魔王城へ戻った。
「そうだ。来る前に下着作ったので、ゼストさんに2枚とも渡してあります」
「そうなんだ、ありがとう。今夜穿いてみようっ」
早速汚すのかな?
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