#64 好きを語る
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
「……フィエスタが噂嫌いなのは知ってたんだわ。よくひとりで泉のほうまで行ってたし……「動物に襲われる危険を冒してまで何してんだわ」って思ってたんだわ……。フィエスタが勇者リオのこと大好きなのは知ってたし、泣き言を聞いてあげるくらいしかあたしにはできなかったんだわ。勇者リオを最期まで見届けることがあんたの幸せになるっていうなら、もう、待たないんだわ」
「……アトラージュ……」
「あの、とりあえず僕が死ぬまではここにいたらいいんじゃない?」
クロスが発した言葉は、私たちの目から鱗を吐き出させた。
「英雄リオの寿命があと何年か知らないけど、僕の寿命分、君たちはまだ一緒にいられるよね?」
「……そ、そうなんだわ!」
「ま、待って! それじゃアルカナの封印は寿命が尽きる寸前までしないって言うのよ⁉ シュタインメッツ王はそれでもいいって言ってるのよ⁉」
「王様は特に言ってなかったな……タイミングは魔王と話し合いでいいんじゃないですか?」
てっきりすぐ封印してくるよう言われてるかと……。そんな緩い感じでいいの? 大丈夫?
「フィエスタさんがリオさんの最期に立ち合う為にはアルカナを封印されちゃ困りますもんね。話しの分かる勇者で良かったじゃないっすか」
た、確かにそうなんだけど……この肩透かし感どう処理したらいいの。
「あれ? なんでそんなところで話し込んでるんだ? 全然来ないから迎えに来たよ」
「リオ!」
「お茶淹れたからあっちで一緒に飲もう。君が新しい勇者だな。はじめまして、リオ・ヴェラールだ」
「ヴェラ……あ、フィールダーで聞き慣れていたので。そうですよね、はじめまして」
「俺の戸籍はもうないから自称だけどな」
「英雄リオ……ですよね? ……本物。まさかお逢いできるとは。クロス・オーリスです」
無表情ながらテンション上がってるらしい。ちょっとだけ早口になった。
「英雄はやめてくれ……。あと俺がまだ生きてることは内緒にしてくれないか?」
「あ、そうなんですか? 分かりました」
「ありがとう。それにしても、凄い服だな」
ツッコむタイミング逸してたわ。訊いてくれてありがとうリオたん。
「あ、ツッコんでいいやつなんすね。触れちゃいけないのかと」
「ありがとうございます。趣味で作りまして」
「手作りなのか⁉」「自作なんすか⁉」「ハンドメイドなのよ⁉」
「めちゃくちゃ可愛いでしょう⁉」
アトラージュは綺麗系でサバサバしてるけど、可愛いもの好きなのよね。
なんで勇者と契約できたのか想像できたわ。妖精の森にこの格好のまま行ったのだとしたら、女装家の変な勇者の噂が広まって、隣を飛びたくないと考える妖精ばかりだっただろう。アトラージュは偏見で人を判断しないし可愛いものは正義だと思ってる。
ところで、女装家……でいいのかな? 自分の服の宣伝で着てるとか?
「そう思うならアトラージュのも作るって言ってるのに」
「あたしには似合わないのは分かってるんだわ。それに重くて飛ぶのが大変そう」
「僕、似合ってると思う?」
「似合ってるんだわ?」
「……」
なんだか思うところがありそうだけど、掴みにくい勇者だ。無表情過ぎる。
けど、アトラージュはゴスロリ似合うと思う。眼帯とかしてほしい。
食堂に向かいながらリオにアトラージュのことを紹介した。
「よろしく、アトラージュ」
「よろしくだわ。あんたが勇者リオ……? フィエスタが熱を上げてるからどんなイケメンなのかと思ったのに案外普通なんだわ」
「熱を……?」
「もう! 余計なこと言わなくていいのよ!」
「すぐに勇者との旅から帰ってきたかと思えば何100年も塞ぎ込んで大変だったんだわ。たった数年でよくそこまで入れ上げられるんだわ……余程のスケコマシ勇者なのかと思ったんだわ」
「アトラージュ!」
「あら? そういえばなんで勇者リオが生きてるんだわ?」
もう、喋り出したら止まらないんだから……。
「あとで絵本読んで……」
「それは読みたいんだわ!」
あっという間に食堂に着くと、歴代魔王たちが既にコーヒーで1杯やっている。アルカナはラテのほうが好きらしい。
「……誰が魔王なんだわ? 3人とも同じ顔だわ。親きょうだい?」
「アトラージュ、鑑定が使えるはずなのよ?」
「そうだったんだわ! <鑑定>」
「こっちが初代のゼスト、こっちは俺たちの子どもの2代目、アリスト。こっちは孫の3代目アルカナだ。今の魔王だな」
「女性魔王なんだわ……!」
「みなさんはじめまして、勇者になりましたクロス・オーリスです」
ガタッと音を立てて立ち上がったのはシエラだった。
「……か、可愛いのです……!!」
近寄って握手を求めるとクロスは素直に応じた。
「シエラ・ストラーダと申します! とても素敵な衣装ですね⁉」
「ありがとうございます。興味があるなら作りましょうか?」
「ふぇ……クロスさんがお作りになったのですか⁉」
「はい、趣味でして」
「ですが可愛過ぎて私にはとても……着るタイミングもないですし……」
「……僕は普段着にしてますけど」
「ふぁあ! そうなんですね⁉ 魔王城を訪ねるから気合を入れたのかと……⁉」
「……この服を褒めてくれる人はいるのに着てくれる人がいないのはなんでなんだろう……」
えぇ、しょぼんとしちゃった……。
「わ、私は興味あるのよ。着てみたいとも思ってる……んだ、け」
「ほんとうですか……っ」
えぇええぇクロスの眼に生気が満ちた……!
服以上に可愛いじゃない……!
「布は何枚か持ってるんですが流石にミシンを持ち運べなくて……魔王城にありますか? 貸してもらえないでしょうか?」
「リヴィナなら持ってるけど……勝手に借りるのはどうかと思うのよ?」
「その方は今はいないんでしょうか?」
「魔石で訊いてみればいいのよ! とりあえずお茶にするのよっ!」
あのでっかい鞄の中身、もしかして全部布なのかな……。
クロスもアトラージュも紅茶を飲んでひと息吐く。
「美味しい……」
「ありがとう。一応本業だからな」
「紅茶屋ですか?」
「ううん、カフェだよ。カヴァーリから来る途中に店が1軒あっただろ?」
「あ……可愛い佇まいで気になってました。リオさんのお店だったんですか……行ってみたい」
「クロスが店内にいると絵になりそうだなぁ。暫く臨時休業だけど、明日クロスの貸し切りで開けようか」
「私も行きたいのよ!」
結局店内でゆっくり食事したことないのよ! 貸し切りならアメイズとしてバレることもないし!
「……! リオさんその話し保留でいいですか? フィエスタさんに服を作り終えるまで待ってもらえませんか?」
「うん、分かった。フィエスタの服楽しみにしてるよ!」
え? 私ゴスロリで外出決定なの?
クロスがわくわくしてるっぽい顔してるから、まぁいいか……。きっとリオも可愛いって言ってくれる。
「勇者よ、お前が服を作るところを見たい」
びっくりする程存在スルーされてた現魔王アルカナが、ようやく喋り掛けた。
勇者と魔王の初対面、歴史に残るはずの1シーンだ。
「いいですよ」
恐怖心の欠片もない……だと?
「魔王も興味ありますか? 作りましょうか?」
「うむ……私は窮屈そうな服は好かん」
「そうですか……。確かに魔王の服に比べると僕の服は、特に上半身は身体のラインに沿ったデザインに……、その服、デザイン凝ってますね。市販品じゃない?」
「うむ。これはリヴィナが誂えてくれた」
「リヴィ……ミシン持ってる人! 是非お話ししたい……いつ頃戻る予定ですか?」
「問題が起きなければ1週間後だ。先程ミシンの貸し出しに許可が出た。あとで持ってきてやる。好きに使え」
「初代、ありがとうございます。なんだ、みんな良い人……」
「クロスはもしかして……カヴァーリの出身なのか?」
「いえ、隣……というにはちょっと遠いストーラ村ですけど」
「そうか……」
「む……勇者の親がカヴァーリへ買い出しに出ていた可能性もある。お前は俺たちの名前は呼べないのか?」
「名前……ですか? 魔王の名前は呼べないのでは? えっと……ゼス、ト・ヴェラール……あ、呼べますね? アリストさん、アルカナさん、呼べます。あれ? ただの伝承だったんですか?」
「違うよ。カヴァーリにいた人みんなを対象に実験してたんだ」
魔王と仮契約することにより、魔王への恐怖心を知らない間になくす実験だ。
クロスみたいにみんな魔王の名前を自ら呼ぼうとする人がいないから、疑問を持つ人はいないだろう。
「絵本のことも公表のことも歴史を変えた凄い人たちはやることが違う……」
半分以上キザシ考案なんだけど。すべての黒幕と言っても過言じゃない。
私は片棒担がされてただけよ……。
「クロスに子どもができてその子も恐怖心を抱かないといいんだけどな」
「セリカと違って仮契約止まりなのも懸念材料だったが、実験対象の子どもと知り合えたのは僥倖だ。どこまで血が薄れると効果がなくなるのか調べる為にも被験者は多いほうがいい」
「僕に期待されても……この趣味を分かってくれる人と結婚できるか分かりません」
「あ、済まない。これはこっちの話しだ。クロスが責任を負おうとしなくていいんだ。……でも、分かってくれる人はいると思うよ。どんな趣味を持っていようと結婚できるかとか子どもができるかとか、人それぞれで直接的に関係はないよ。クロスが好きになった相手が、分かってくれる人だといいな」
「……はい」
クロスはひと口紅茶を飲んだ。
無表情でよく分からないけど過去にフラれたりしたのかな……。
絵本を読み終えたらしいアトラージュが会話に加わる。
「クロスはどんな子がタイプなんだわ?」
「タイプ……? この服が似合う人……かな?」
「……着せてみないことには分からないんだわ?」
「かも」
あれ? 好きな人できたことないパターン?
それは自分が結婚できるかなんて想像もできないか。
「そういえば勇者なら剣に才能があるんだよな? 剣持ってないのか?」
リオに指摘されるとクロスは徐に席を立ち、少し腰を落とした。
「護身用の為に収納しています」
腕をクロスさせてブーツに隠されていた剣を2本抜く。短剣の二刀流だ。暗殺者なの?
「一応ここにもあります」
スカートをたくし上げ、ガーターベルトに隠しナイフ! 暗殺者なの⁉
なんてそそる装備してるの⁉
「靴も手作りなのか? 凄いな!」
リオたん、そこなの?
「クロス、パンツ見えちゃうんだわ」
「気にすること……?」
「あら? パンツは女性ものじゃないんだわ?」
「ユニセックスのボクサーだよ。レースの」
「おしゃれだわ!」
下着まで見せなくていいから! 良からぬ想像しちゃうから!
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