#63 別れと出逢い
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
リーフの紋章が消えて約3年。
「昨夜、新たな勇者が誕生した。恐らく15年前後でここに来るだろう」
初代は私たちにそう話した。
絵本と一緒に公表の出来事についても学校で習うはずだから、勇者は一般人としてみんなと一緒に知識を付ける。リーフみたいに学校行かず働いてしまったらちょっと分からない。多分シュタインメッツ王が理解度を確認してくれるでしょう……。
今度はどんな勇者が選ばれたんだろうか。
「15年かぁ……長いなぁ」
「年々、一年過ぎるのが早く感じるのだから、思ったほど長いと思わないのではないか?」
15年経ったらリオは55歳か……。イケおじになること間違いなしだわ。
「だがリオは……、リオたちは平均寿命より早く寿命を迎えるかもしれん。この城は人間の町より魔素が濃いからな……」
「じゃあゼストたちは長生きかもしれないんだ」
「お前のいない世界に耐えられる気がしない。自死を選ぶ気さえする」
「ダメだぞそんなの。残される人の気持ちも考えないと……って、俺が言えたことじゃないか」
「……悪い。暗い話しにしてしまった」
私が見取る側なのは分かってたことだけど、リオが死んだらまた腑抜けになるわ……。でも、私は一度経験してる。アルカナのフォローに徹するぐらいでいないと。
でもリオだけじゃなく、数10年経ったら魔王城は随分寂しくなるな……。
ひとりから魔族を増やした初代と違って、アルカナもアリストも周りに人がいるのが当たり前なのにこれからはどんどん減っていってしまう。
もうちょっと魔族を傍に置いたほうがいいような気もするけど、こういうのは人数じゃないしね……。
アルカナに頼ってもらえる存在に私がなれたらいいんだけど……。
「まだ先のことだと思うけど、アルカナは心の準備を始めておいたほうがいいかもな」
「うむ……。リオたちはいつかはいなくなってしまうのだな……」
「寂しがらないでくれとは言えない……。でも沈んだ気持ちの時間を短くするにはどうしたらいいか、一緒に考えよう」
この城で最初に寿命を迎えるのは狼たちだろう。勇者が来る前に何度か魔物が暴れてしまうかもしれない。シュタインメッツの騎士団やギルドの人たちと連携を取ったほうがいいな。まぁ私が言わなくても初代も考えてることだろうけど。
狼の姿に戻ったアヴァンシアは子孫を残し、老いて寿命を迎えた。狼としては長生きし、不老不死でなくなってから19年が経とうとしていた。
もういつ勇者が来てもおかしくない。
「……眠ってるようだ」
アルカナは横たわるアヴァンシアの頭を撫でてそう呟く。
「アルカナ……」
「大丈夫だ……。アヴァンシア以外の狼とも別れを味わっている。父君、私が……アヴァンシアを葬ってもいいか」
「……ああ」
アリストは冷静な表情をしていたけど、リーフの手をずっと握っている。
魔王じゃなくなったからもう哀しんでもいいのに、アルカナの前で見せないようにしてるんだ。
棺の蓋が締められ、みんなそこから離れる。みんなと言っても、歴代魔王と勇者、それと現魔族の私とシエラだけだ。他のみんなはもしもの時の為に、騎士団やギルドと協力して町の警備や森の巡回に出ている。
アルカナが棺に向けて手を翳し、炎魔法を放つ。
木製の棺が燃えていく。
もし300年以上前から火葬が広まっていたら、もっと早くリオは生き返っていたかもしれない。そうなっていたらノアは心を壊すことはなく、キザシたちとは逢わない未来になっていた。セリカが生まれることはなく、アリストがリーフと逢うのは300年以上経ってから。私はきっとリオを見取ってから妖精の森へ帰って、腑抜けながら生きていたのだろう。
たらればなんて考えてもしょうがないけど、今こうして関わった人の最期に立ち合えているのは、哀しいけど、嬉しいとも思う。
たとえ個人的な理由だったとしても、私に魔族になることを提案してくれたシエラには感謝しかない。
みんなに逢えたことが、とても尊く感じる。
アヴァンシア……輪廻転生したとしても、きっとあなたは愛される。
誰ひとりとして涙を見せず、火葬は終わった。
「アヴァンシアの火葬が今終わった。各自、1週間程待機してもらう。魔物に動きがあればまた連絡する」
初代が魔石でみんなに報告する。
アヴァンシアが亡くなった実感が数日後に湧いてくる可能性があるからだろう。
骨さえ残さず燃やしたから後片付けすることはなく、そのまま鍛錬場から食堂に転移した。
「む……?」
「うん? どうしたんだゼスト?」
「森の入り口に誰かいる……。映像を映す」
魔石で投影されたそこにはひとりの人影が見える。シルエット的に女性かな……?
シュタインメッツ側から勇者が謁見しにきたことと、クロス・オーリスって名前は聞いてたけど……男性だと思ってた。
もしかして勇者じゃない? 誰?
「勇者なのかな? とりあえずお茶の用意してくるよ」
「分かった。いきなり魔王が出向くと恐怖心を煽るだけだろう。妖精か小娘が出迎えてやれ」
同性だからってこと? でももし攻撃されたら嫌なんですけど……不老不死とはいえ痛いのは回避したい!
シエラはアヴァンシアを亡くしたばかりのアルカナについていたいよね……だったら、
「リーフ! ついてきてなのよ!」
「え? なんで僕?」
「もし襲われてもリーフなら対処できるのよ!」
「まぁ何しに来たどんな人かも分かんないっすからね……。一応フード被っていきますか。城の中で怪しさ満載っすけど」
ふたりして獣人だもんね。差別する人だとまた面倒だし。
謎の訪問者が転移してくるまでエントランスで待つ。うん、確かに怪しいな私たち。
転移陣が光るとやがて訪問者が現れた。
魔石の映像じゃ遠くて分からなかったけど、ゴスロリだわ……! 初めてこんな間近で見たかも……高そうな服。厚底凄い。
髪はショート……っていうか、女性……じゃないな?
「こ、ここどこなんだわ⁉ 城の中⁉」
「誰かいる……」
ん……? 聞いたことある声……。
背中からひょっこりと現れた妖精とばちっと眼が合って、咄嗟にリーフの後ろに隠れた。
ア、アトラージュ⁉ なんでここに⁉
「え? なんすか? フィエ――」
「ままま待って私の名前言わないで! アメイズなのよ!」
「ちょっと今隠れた人⁉ ちゃんと顔見せるんだわ⁉」
「ちょちょちょマジで何⁉」
アトラージュが回り込んでくるから、私はリーフの背中に引っ付いて服を引っ張りサイドの顔を隠す。
「フード被っててもアホ毛が出てるんだわ! 説明するんだわフィエスタ⁉」
バ、バレてたぁ……。まぁばっちり眼合ったしな……。
「……アトラージュこそ、なんでここに……」
「勇者と契約したからに決まってるんだわ!」
「あー、知り合いだったんすね」
「ども。勇者になりました、クロス・オーリスです」
愛想の欠片も感じない言葉と表情でお辞儀をして、スカートがふわりと揺れた。
アルカナたちのとこに行く前に現状確認しないと! ……それと、私の説明よね……。どうしたって契約で主と同じ姿を取れるようになることは話さないといけない。
「えーっと、まずはクロス、よろしく、フィエスタなのよ。あなたは絵本のことも、それが真実だってことも知ってるのよ?」
「はい、学校で習いました」
「絵本? 学校で?」
「アトラージュは知らない? 王様がくれたから僕持ってるよ」
「……これ、紙? それにフィエスタの絵に似てるんだわ……」
「私が描いたのよ」
「えっ⁉」
「マジですか。サインいいですか」
「え? アメイズで通ってるんだけど、それでもいいならいいのよ」
「そういえばそんな名前の魔族が演説したって習いましたね。お願いします」
「え、演説? ちょっと逢わない間に何してんのだわあんた……」
私もあの時のことは怒涛の数年に感じてるわ。
サインした絵本をクロスに返し、本題だ。
「今から話すことは、人間の町にも妖精の森にも広めないようにしてほしいのよ……」
「なんなのだわ……でも、親友の秘密をバラすなんてことしないんだわ!」
本当に良い親友を持ったわ。
クロスも頷いて約束してくれた。
そして血の契約のこと、リオと一緒にいたくて3代目魔王と契約したこと、ついでにリーフのことも遅れて紹介した。
フードを取って改めてリーフが自己紹介する。
「あ、えっと。先代勇者のリーフ・アリ……ヴェ、ヴェラールっす……」
「ども。先輩」
「わー、すげー懐かしい響き……」
学校行ってなかったし転生してからずっと呼ばれる機会はなかったもんね。
ってか結婚後フルネーム自己紹介初で慣れてなさ全開。
「そうか、2代目魔王と結婚したんですよね」
「けっこん……うん、いや、まぁ……」
なんだその煮え切らない返事は。
「っていうことは、フィエスタはもう妖精の森には帰ってこないつもりなんだわ……?」
「……そのつもりなのよ」
「……あたしは、帰りを待つって言ったんだわ……! それなのに!」
「ごめんなのよ何も言わず勝手に決めて……。でも後悔はしてないのよ。私はアトラージュともう逢えなくなったとしても、あの森には帰りたくなかったのよ」
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