#62 性教育
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
「妖精の言う愛について俺も詳しいわけではない。リオに対しての俺なりの愛し方なら教えてやれる」
よし来た、それを詳しく聞こうじゃない。
「俺はみなの前でリオに触れるのは控えている。これはリオに言われたことだが、情欲の滲んだ表情を他の者に見せたくないそうだ。俺もそれには同意した」
「情欲……? 発情するということか」
「む……お前はたまに言動が動物的だな。平たく言えばそうだ」
「触れると発情するということか?」
「きっかけのひとつにはなる。先程の小娘もそういう顔をしていた。お前の触れ方は煽情的だったからな」
「あの赤い顔は体調の所為などではなかったのか……私はやはりやり過ぎたのか? だがシエラは嫌ではないと言っていた。いつでも触れていいと……それでもみなの前で触れてはいけないのか?」
少し不安そうになってる。
初代の説明は的確で分かりやすいけど、ちょっと違う方向からも教えたほうがいいかも。
「アルカナ、触り方の問題なのよ。たとえばリーフとアリストはよく手を繋いでるけど、それくらいだったら発情したりしないしみんなの前でだって触っていいのよ。さっきいきなりハグとかするから、正直びっくりしたのよ?」
「ハグ……抱き締めることか。シエラが手を広げていたからああするのが正解だと思ったのだが」
「密着度が高いからな……その分情を煽りやすくなる」
「触れる程度の問題か……」
「それと、まさぐるように触っちゃダメなのよ! 狼じゃないんだから! その人の形を触って確かめるなんて……それこそ、性行為の前段階みたいなものなのよ!」
「そうだな……お前に好意のある相手に対して、お前が他意なくそういう触れ方をするのは良くない。好意のない相手にすれば嫌悪されるだけだが、小娘はもっと触れられたいと欲が出てしまう。だが恐らく……その想いを言わないだろう。最初からお前を諦めるつもりでいるんだからな。無暗に期待させるな。お前が小娘と性交渉したいと思い小娘も了承すれば先程のような接触行為は自然だろう。だがそんな意図はない、しかも性的行為を同意なく行うことは罪だ。妖精、話しを纏めて図解してほしい」
「え……っ?」
初代は性的行為に当たることを挙げ連ね、私はメモを取ってそれを簡易的な絵で表現した。棒人間だと分かりにくいからちょっとは肉付けして。
前にやった会議の時書紀はリヴィナがやってたけど、今はアルカナの服を作ってて忙しいのよね……。
「うむ、フィエスタの絵は分かりやすい。人間と動物では随分相違があるのだな」
「基本的には他人に気安く触らない、触ることを許されても性的に感じられる接触はダメ、ってことなのよ」
「よく分かった。ならフィエスタ、手を握ってもいいか?」
「え? あー、いいのよ」
私が座っててアルカナが立ってるから、なんだか握手みたいになってるけど……まぁいいか。ついでに恋人繋ぎも教えておこう。素でやり兼ねないわ。
一旦席を立ってアルカナの隣に行く。
「親子でも友達でも手は繋ぐのよ。でもこういうのは、恋人だけがする繋ぎ方なのよ」
「うむ……掌が密着する感じだ。なるほど……、これは性的行為か?」
「ううん……私が今からやることはそう受け取れるから真似しちゃダメなのよ」
親指で手の甲を撫でたり握り直したり、腕を巻き込むようにして抱き付いたりしてみせる。アルカナはリーフの遺伝で胸があるから故意に当てられるだろうけど、私にはできん……くそ。
「私はされたら嬉しいが、私がそう思うことをすると誤解を招くということだな……気を付けよう」
「……自分がされたら嬉しいことをしてあげたいって思うのは素敵なのよ。でも相手が嬉しがるかまでちゃんと考えないとなのよ」
「他人の気持ちを汲み取るのは骨が折れそうだ……」
「会話をしてその人を知っていけば段々分かるのよ。みんなが触られるの嫌いって話してくれたから触らないでおこうって思ったでしょ? そういうのの積み重ねなのよ」
「会話か……分かった」
「ではこの流れで性交渉についても話しておこう。契約を結んでいる者への体液供給及び粘膜接触は、勇者の場合魔素に変換され腹に留まるが、普通の人間の場合マナが消失すると考えられる。ノアのようにほとんど感知できなくなり、魔法が一切使えなくなるだろう」
シエラのマナがもしなくなったらルーミーとの契約が切れるんだ。人間の姿を取れなくなってしまう。
他の……魔族になったことのないキザシとかとなら契約し直せるから心配するほどじゃないかな。
元魔族のリヴィナの血を受け継いでるセリカはどうなんだろ?
「勇者以外の人間に契約時以降、追加で体液吸収させることはほぼないとは思うが、頭の片隅に留めておけ。では体液と粘膜についてだが、人体構造から話しておこう」
ここから結構専門的だったり生々しかったりするからカットで。
ヒール使える人ってこんな医学的なこと勉強してるのかな……。
初代の講義はがっつり1時間以上あった……。本当によく喋る人だ……。アルカナはずっと興味深そうに聞いてたけど、アリストも多分こんな感じだったんだろうな。
それからは初代の講義が続いて、世界の理、魔王の役割、公表後の現状なんかを教えた。
そこへリヴィナが転移で現れた。
「ご講義中失礼いたしますわ。仮縫いが終わりましたので試着していただけませんこと?」
「うむ」
「待て、ここで脱ぐな。無暗に人に肌を見せるのは良くない。特にお前は仕草が妖艶過ぎて誘惑しているように見える」
「……そういうものなのか。気を付けよう」
リヴィナとアルカナがふたりで転移して暫く、またここに戻ってきた。
「華やかだな。デザインも似合っている」
「フードを被ると耳が潰れるがそれほど痛くない。気に入った」
リヴィナの故郷の影響か、本人も歴代魔王たちも和服感漂ってたけど、フードが付くことで和洋折衷な雰囲気だ。知ってたけどリヴィナってデザインセンス良い。
「キツイところはありませんこと?」
「ないな」
「ではこれで本縫いしていきますわね」
「これで完成ではないのか? 十分ではないか」
「解きやすいように縫っていますもの、すぐほつれてしまいますわよ」
「服を作るというのは随分面倒なのだな……」
「そう思うのでしたら大切に着てくださいませ」
「分かった。約束しよう。これから本縫いとやらをするのだろう? 私も見ていてはダメか?」
アルカナに問われてリヴィナは初代に視線を送る。
元々講義中にお邪魔しちゃったわけだしね。
「興味を持つのは良いことだ。リヴィナの邪魔にならなければ見に行っていい。知識を詰め込み過ぎても疲れるだろう」
「私も見学したいのよ!」
「よろしいですわよ。では参りましょう」
転移でリヴィナの私室に飛ぶと、ベッドやテーブルに布やら型紙やらが散乱している。流石に床には落ちてないけど……昨日来た時は綺麗だったのに凄いな……。
「散らかっていて申し訳ありませんわ。アルカナは一旦脱いで元の羽織りを着てくださいませ」
アルカナはほつれに注意してなのかゆっくりと脱いだ。逆に妖艶なんだけど。
「あまり人前で脱ぐことはないとは思いますが、後ろを向いて相手に配慮するということも覚えておいたほうがいいですわよ。自らに羞恥心があろうとなかろうと、ですわ」
「配慮か……。人間は気を回し過ぎではないか?」
「人を不快にさせることはしない、と考えればいいんですのよ。自分勝手が過ぎると嫌われてしまいますもの。あまり周りと合わせ過ぎても自分を見失ってしまいますから、人それぞれ、自分にとっていい塩梅を見つけていくしかありませんわ」
仮縫いされた服を受け取って、リヴィナは作業に入る。
「人付き合いは面倒なことも沢山ありますが、人付き合いの中でしか、自分のことは見えてこないものですから」
「うむ……。みなにいろいろ教えられて少しは分かってきたつもりだ。確かに考えることが多くて面倒だが、極力人に嫌われたくはない」
「その気持ちを持っているのでしたら努力もできるでしょう」
リヴィナはミシンで服を縫っていく。
動力は電気じゃなくてマナだ。魔石を電池のように利用して残量が減ってくるとマナを補充。何度も使えるエコなミシンだ。
リヴィナの魔族歴が何年か知らないけど流石の手際。めっちゃ早い。
余裕で夕食までに間に合った。
「そうだ。リヴィナ、感謝する」
「どういたしましてですわ」
夕食の時にみんなにお披露目して大反響だった。
それから勇者が現れるまで日常を過ごす。
シエラが休みの日はアルカナと弓を一緒に引いたりして楽しそうにしている。契約したことでアルカナの名前を呼べているシエラは幸せそうで、この先がどうなろうと後悔しないように過ごしてほしいと願うばかりだ。
「昨夜、新たな勇者が誕生した。恐らく15年前後でここに来るだろう」
初代がそう宣言したのは、リーフの紋章が消えて3年程が経った頃だった。
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