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#61 名前を呼びたい

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。


「お話し……したいのです」


 私とリヴィナとの会話の中で少しは前向きになってくれたみたい。

 シエラを温室で待たせて、私とリヴィナは食堂へアルカナを呼び出しに行った。


「アルカナ、ちょっと話したいことがあるんだけど、いいのよ?」

「うむ、いいぞ」

「……えっと、ここじゃなくて、温室で……。話したいのは私じゃなくてシエラなのよ」

「まだ挨拶をしていない者だな。体調が良くないとか」

「もう大丈夫なのか?」

「ううん……まぁ」


 なんて言ったらいいか。大丈夫、ではないんだろうな……。

 流石にリオも私たちの様子のおかしさに気付いてるよね……。


「リオ、また私が間違えそうになったら指摘してほしい」

「……俺はいいけど。俺も聞いていい話しなのかな……?」

「シエラに訊いてみるのよ。とりあえず行きましょう」


 食堂から温室は近いので徒歩で向かう。

 温室に入るとシエラは背中を向けて座っていて、私たちの気配は感じてるだろうに振り向きはしない。緊張してるのかな。

 アルカナは何も知らないからなんの遠慮もなく近付く。

 テーブルに指先を付けると、シエラの顔を覗き込むように首を傾げさせた。

 なんという色気……。素でできるアルカナの末恐ろしさよ。


「お前がシエラだな? 体調が良くないと聞いたが……」


 あぁっまたアゴクイするし!


「血色は良過ぎるくらいだな。熱があるのか?」


 心配してるのは分かる……分かるけど、シエラには刺激が強いわ……!


「アルカナ、また手が出てるぞ」

「……うむ。悪かった……お前も触れられるのは嫌いか……?」

「……そんな、……ことは……」


 アルカナの手が離れると赤い顔のまま俯いてしまった。


「……私に何か話しがあるのではなかったのか?」

「俺も聞いていい話しかな? ダメだったら出ていくけど……」

「だ、大丈夫なのです……」


 私はシエラの隣に、真正面はアルカナ。シエラの正面はリオで着席した。

 アルカナは頬杖というか顎杖をついてシエラをじっと見る。

 仕草がいちいち色っぽい。シエラじゃなくても見惚れるわ。


「あの、えとえと……支離滅裂になってしまうかもしれないのですが、聞いてほしいのです……。初代さんが永遠を生きてこられて、どれほどおつらかったか、私にはとても想像できません……。けれどリオさんという勇者と恋に堕ちて、魔王という役割から解放される方法を見つけられ、今後の魔王さんたちにも希望を残すことができたのだと思います。重い役割から解放される為には勇者と恋に堕ちなければならない……なので、これは、どうしたって私の横恋慕なのです……。私は求めてはいけない……それは分かっています。それでも私は、魔王さんのお名前を呼びたい……。決して魔王さんの恋路の邪魔はしないと誓います。どうか……、お傍に置かせてはもらえないでしょうか……」


 耐え切れず涙が頬を伝う。


「……私を愛してくれるならば構わん」

「ちょっと待ってくれアルカナ……!」

「? 私はまた何か間違えたか?」

「いや……間違ってないよ。でも……、不安なんだ。泣くほど強い想いなのにそれを殺そうとしてる……。アルカナもよく考えてくれ。つらそうなシエラを見て、つらくはならないか?」

「……私がシエラを愛せばいいではないか」


 事も無げに……。

 多分恋愛のそれじゃないけどシエラはそれでいいんだろうか。たとえ今はそれでいいと思えていても、一緒にいる時間が長くなるにつれ思いも変わるかもしれない。

 けど、私にはもう止められない。


「……シエラ、アルカナを哀しませないと約束して。あなたがいくら哀しくても、つらくても、そのことが引き金になってアルカナがマイナスの感情を持ってしまえばどうなるか、知ってるのよ? 初代は魔王歴が長かったけど……もしシエラがノアと同じように心が壊れてしまったら、アルカナはきっと哀しんでしまうのよ」

「……はい。私よりも魔王さんのお気持ちのほうが大事です」


 シエラの気持ちも大事なはずなのに……そうは言ってあげられない。


「……分かってるなら、いいのよ。でも契約するなら腫れた目を治してからのほうがいいと思うのよ」

「それはその通りなのですっ」


 リオはまだ何か言いたげだけど、もう話し合った後だと察して追及はしなかった。

 明日はカフェもあるし、その仕込みの前に契約することに決まった。

 一応初代に目にヒールを掛けてもらって、一旦解散となる。


「……リオが思い詰めることじゃないのよ」

「うん……そうなんだけど。フィエスタは本当にこのまま契約してしまってもいいと思ってるのか?」

「そんなわけないのよ。でも今のままでもシエラはご飯が喉を通らなくて衰弱しちゃうのよ……結果を先延ばししてるだけだとしても、本人の希望に沿ったほうがいいと思ったのよ。シエラ自身が止めようとしてるんだから、私たちに口出しはできないのよ」

「……」


「うむ……話しが難しくてよく分からん。何故みな暗い顔をしている?」

「……シエラは君を好きになったんだ。これは多分、触れたい、触れられたいっていう特別な想いだ。でもアルカナが勇者と恋をしたら潔く身を引く気でいる。魔王の役割を降りる為には相手が勇者じゃなきゃいけないから……君に恋をしたらダメだと、思ってるんだと思う……」

「私が勇者を愛するかも分からんのに、そんな先のことを悩んでいるというのか? お前たちも?」

「……そう、だよ?」

「そんな悩みに時間を割くのは不毛だ。私はもっといろんなものが知りたい。見たい。そして私が愛せるものを沢山見つけたい。シエラはそのひとつになり得るかもしれんということだろう? ならばもっと話しがしたい」


 口ではアルカナのこと気遣ってたけど、私は全然この人のことを知らないんだった。

 思った以上にポジティブな人かもしれない……。


「話しをするのは良いことなのよ! 私もシエラの友達としていっぱい話すのよ!」

「うむ、顔が明るくなったな」

「アルカナも何か相談事があったら聞くのよ。リオにしてもいいけど、私とも話すのよ」

「そうだったな」


「リオは難しく考え過ぎるところがある。第三者が人の恋路をとやかく言うものではない」

「そうだよな……ゼストの言う通りだよ。俺たちのこと、フィエスタがほとんど何も言わなかった理由が今になってようやく分かった。あの時、本当は悶々としてたのか?」


 めっっっちゃしてた。


「キザシも言ってたけどリオは最初から脈ありだったのよ。自覚してなかっただけで。アルカナは……どうかな。恋愛とは別の愛を求めてるみたいだし、相思相愛とは違うかもなのよ。シエラがそれでもいいのかは、私にも分からないのよ」

「別の、とはなんだ?」

「アルカナのは全生命愛みたいな……? 適当な言葉が思い浮かばないけど愛にも恋愛、家族愛、兄弟愛、いろいろあるのよ」

「家族と兄弟も別なのか? 何がどう違うんだ?」

「ううん……相手をどう想いたいかで違ってくるのよ。まぁ人それぞれなところもあるから一概には言えないんだけど。そのうち聞かせて。アルカナがシエラをどう想いたいのか」

「うむ……よく分からんが分かった」


 ふたりの関係がどうなるのか分からないけど、アルカナの感情の機微には特に気を付けないといけない。

 その為にはもっと知らないと。




 翌日、シエラの目の腫れが引いたのを確認して血の契約が結ばれた。


「……アル、カナさん……、アルカナさん! よろしくお願いいたします! シエラ・ストラーダと申しますっ!」


 名前を呼べたシエラの笑顔を見て、これでよかったのだと思えた。


「笑った顔のほうが可愛いな……」

「ひょえ⁉」

「お前は私を愛してくれるのだろう?」

「ひゃ、ひゃい……」


 元々奇声の多い子だったけど、大丈夫か? 顔真っ赤だぞ?


「触れるのを許してくれるのか?」

「ふぁっ⁉ えとえと……! ど、どうぞ……!!」


 手を広げてバッチコーイな体勢。触るのは顔じゃないのかな。今までアルカナは顔とか頭ばっかり触ってたけど。あ、アヴァンシアは違ったか。

 って、ハグしたぁああぁあ!!

 完全に許したらこういう行動に出るのね⁉

 アヴァンシアの狼の姿だと分からなかったけど、さ、触り方エロくない……⁉

 頬擦りだけならまだしも、いやアウトか、頬に唇が! そろそろやめてあげて……!


「アル――っ」


 制止は間に合わず、シエラの頬を吸った。


「うむ。やはり人の肌は良い。……どうした?」

「……な、なんでも……」


 なくはないでしょ⁉ 羞恥でぶっ倒れそうな顔してるよ⁉


「顔が赤い……熱いな。体調はまだ完全ではないのか? それとも、嫌だったか……? 触り過ぎてしまっただろうか」

「あう……だ、大丈夫です……少し、驚いてしまっただけで……嫌、では……ないのです」

「……本当に?」

「……いつでも、触ってください……」

「お前は……可愛いのは顔だけではないな」


 これで付き合ってないとか嘘だろ……。

 両頬を挟んでアルカナはシエラを口説く。

 アルカナの愛情表現が過激過ぎてシエラが骨抜きにされてる。魔性過ぎるでしょ。シエラが雌の顔になってんよ。


「えっと……触り方が、なんていうか……恋人同士のそれだったから、もう少し抑えようか……。ゼスト、俺たちが仕事に行ってる間、頼んだよ」

「……最優先で教えるべきだな。分かった。妖精、お前も来てくれ」

「え?」


 リオたちは仕込みの為に厨房へ行き、初代の転移で私とアルカナは図書室に来た。

 なんで私も連れてこられたの?

Copyright(C)2024.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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