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#59 愛されたい

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。


 確かに、魔王と契約すれば双子のように不老不死となってここにずっといられる。リオたちが寿命を迎えるまで、ここで見届けるほうがいいんじゃない……? あの森に帰って一生を終えるより、ずっといい……。

 リオのお陰で700年生きてきたけど……不死になって永遠を耐えられるんだろうか……。妖精がいくら長寿でも、終わりがあるっていうのはある種の救いだ。


「……済みません。悩ませてしまって。私はひとりが心細かっただけなのです……」


 なんだかずっとシエラの様子がおかしい。いつもの明るさはどうしたの?


「私は、魔王さんと、いたいと、思ってしまったのです……」

「……それって」

「どんな人かもまだ分からないし、本当に見た目、というか雰囲気すべてが、私の心臓を跳ねさせたのです……」


 シエラは両手で顔を隠してしまった。

 この声音は恋をしてるというより、懺悔をしているようだ。

 魔王は勇者と継続して関係を持たなければ代替わりできない。シエラはそれを知ってて、リヴィナのように傍で片想いを続ける気なの……?

 こんな、今にも心が潰れそうなシエラが、そんなことできるの……?


「ごめんなさい、私さっき、好き勝手なことを……シエラがそんな想いを抱いてるなんて思わなくて」

「ノアさんは自分の気持ちを素直に言葉にしただけです。謝らないでください。誰がどう思おうと関係はないのです……自分では止め方が、分からないのです……」

「……そんなつらそうに恋を語らないで。シエラの気持ちを否定したりしないわ。……でも、この先もつらくなることが分かってるから、泣いてるんじゃないの?」


 掌で受け止め切れなかった雫が腕を伝う。


「……決めるのはシエラだけど、私には後押しできないわ……」


 私もこの恋を応援なんてできない。

 元相方の話しをしてくれた時も、ルーミーが実質的な死を望んだ時も、シエラは自分の気持ちを押し殺すことが最善だと思ってる感じがした。

 そんなの、不老不死になって耐え切れるの?


「……シエラ、私は3代目と契約してもいいかもって思ったのよ。みんなの最期を見届けることになっても、アルティマとアルメーラのようにここで見届けられることになっても……そのほうが幸せになれると確信を持って言えるのよ。でもシエラはすぐに決める必要はないのよ? 3代目の傍にただいるだけで……、本当に幸せになれるのよ?」

「……幸せ……?」

「同性しか好きになれないこと、シエラ自身が引け目を感じているんじゃない? 人を好きになるって素敵なことなのよ。なんでそれを自分で止めようとしてるのよ?」


 シエラの涙は止まらなくて、返事はなかった。


「……質問ばっかりごめんなのよ。ゆっくり考えたほうがいいのよ」

「……はい」

「み……僕コーヒー淹れてくるです。リオほど美味しくはできないけど」

「済みません……」

「……みゃう」


 ありがとう、じゃないのね。気を遣わせてしまったことを謝ってるんだ。


「顔を洗いに行ったほうがいいですわ。そんな顔をアルカナに見られたくはないでしょう」

「リヴィナさん……私……」

「話しは落ち着いてからにいたしましょう。フィエスタが言ったようにあなたには考える時間があるのですから」


 ふたりは転移でこの場から消え、残った私たちは静かに待った。私たちだけで話し合うことは何もない。

 先にルーミーが戻ってきて、紅茶も一緒に淹れてきてくれたから私とノアも戴いた。

 キザシもコーヒーを飲んだけれど、シエラの分は、冷めてしまった。


 暫くしてリオたちが食堂に戻ってきた。


「済まないフィエスタ。アルカナにばっかり構ってて忘れてたけど、妖精の森に帰らないといけないんだよな? お弁当作るからちょっと待っててくれ」

「リオ、それはいいのよ。さっき考えたんだけど、私、3代目と契約しようと思うのよ」

「……えっ?」


 私の考えをリオに話すと、複雑そうな表情にはなったけど最後には納得してくれた。


「妖精は元々長命であり姿も変わらない。不老不死になっても然程大差ないだろう」

「そっか……。俺もフィエスタとずっと一緒にいられるなら嬉しいよ!」

「アルカナ、血の契約をして魔族を作っておけ。魔族となった者に不老不死のスキルを与えられ、代替わりするまでともにいられるようになる。指先でいい、血に魔力を込め与えるだけで契約は成立する」

「……その妖精は生き長らえる為に契約したいのだろう? 私は、私を愛してくれる者を傍に置きたい」


 こ、断られた……っ⁉

 そういえばリーフも最初2代目に断られてたな……こうなる可能性を考えてなかった。


「愛かぁ……逢ったばかりでそれは難しいかな」

「アルカナの気持ちは分からんでもない……。この先どれほど永い時をともに過ごすのか分からん相手だ。信頼できる者のほうが安心できるだろう」


 えぇ……どうしろって?


「正直に言うとあなたのことを好きになるかは分からないのよ……。だって何も知らないのよ」

「……私も、私のことをよく知らない。うむ……祖父君(おじぎみ)よ、契約後に私から一方的にそれを破棄したらどうなる?」

「む。魔王の血の契約は絶対的なものだ。破棄するような事態になればそれは死を意味する。不老不死だった年月に関わらず従者は息絶える」


 こっわ……。

 人間間での血の契約とは最早別物ね。


「従者の生死を握るわけだな……。それを聞いても妖精は私と契約できるか? もし私のことを嫌いになれば契約は破棄する。その条件ならば飲もう」

「嫌いって……判断はどう下すのよ? 私が演技するかもしれないのよ?」

「……私が気付かないならば演技し続けてもいい。ただ気付いた時、人間たちに被害が及ばないと約束はできん……」


 この人……物騒なこと言ってるけど本質は臆病なんだ。

 凄く愛されたい気持ちが強いのに、自分からの愛し方が分からないんだ。

 生まれたばかりだからなのかは分からないけど……不器用なのかもしれない。


「多分大丈夫なのよ。私は演技なんてしない」

「何故だ? お前が言い出したことだろう」

「言動が嫌いだって思えば正直に言うのよ! そういうので私を知って。その人の全部を好きになるなんてまず有り得ないのよ。嫌いな部分があったとしてもあなたのこと全部を嫌いになんてならない。0か100で考えないで。破棄はリオたちが寿命を全うできたらいつでもしていいのよ!」


 3代目は目から鱗が落ちたみたいな顔をして、そのあと目を細めて笑った。


「現金なやつめ。分かった、契約しよう」


 3代目はワイルドに親指の腹を犬歯で噛み切り、私に差し出した。血が唇に付いてルージュみたいだ。

 掌に乗るようにして、その血を飲む。

 リオとリーフの時と同じように、足首に契約紋が浮かぶ。今まで勇者との絆が刻まれていたそこに、魔王との絆を刻むなんて、不思議な気分だ。

 契約紋に熱を感じながら、私は改めて挨拶をした。


「私はフィエスタなのよ。これからよろしく、……アルカナ」


 魔王の名前を、もう呼べる。ゼストもアリストも、呼べるんだ。

 なんか、凄く、魔族になったって実感する……。


「よろしく頼む、フィエスタ」

「従者のマナをコントロールできるようになったはずだ。アルカナと同じ姿を取れるようになる」

「うむ」


 アルカナは私を掌に乗せたままコントロールしたようだ。

 あれ? 同じ姿ってもしかして……。

 掌から降りて、また尻餅付かないように注意しながら試しに姿を変えるイメージをした。


「フィエスタに犬耳と尻尾が……! 可愛いな!」


 リオたんに可愛いって言われたぁああ!!

 自分でも触ってみると耳だけもふっとしてる。尻尾も意思で動かせた。自分が獣人になるなんて思ってもいなかった……ちょっとアガる!

 差別を受けたことないからこんなこと思えるんだろうな……。

 獣人の姿で羽根は出し入れできるけど、耳と尻尾は妖精サイズに戻らないと消えないみたいだ。


「あ、髪切ってから契約すればよかったのよ……引き摺る」

「とりあえず俺の髪紐貸してあげるよ」

「ありがとうなのよ!」


 髪下ろしたリオたんマジ天使。いやそれはいつもだった。


「……小さくて分からなかったがなかなか可愛い顔をしている」


 可愛い連呼してるのリオからの隔世遺伝かなんかなんだろうか。


「顔とか頭くらいなら触ってもいいのよ?」

「よいのか」

「あんまり髪ぐしゃぐしゃにしないでなのよ?」

「分かった」


 リーフに触れていた時よりも遠慮がちだ。嫌われたくないんだろうな……でも強い好奇心を感じる。

 ああっ耳後ろ気持ちいい……! 犬の感覚ってこんななんだ……っ!

 目を閉じてしまっていると、リオが止めに入った。


「アルカナ、それ以上はダメだ」

「何故だ?」

「フィエスタは手で触るならいいって言ったんだ。舐めることは許可してないよ」


 え⁉ 私顔舐められそうになってたの⁉ リオたんありがとう止めてくれて!!


「……何が良くてダメなのか判断が難しい」

「普通は余程親しい間柄じゃないと触れ合ったりしないし、舐めるってなると、恋人みたいな特別な相手じゃないと嫌悪されちゃうよ」

「リオは……祖父君以外にはしないということか」

「うん? まぁ……そうだな。俺からはそんなに舐めたりしないぞ?」

「リオは舌使いが上手いからやめさせている」


 ゼスト様が爆弾投下なさったぁああ!! 爆死させる気か!! ありがとうございます!!!


「顔を覆ってどうした、フィエスタ?」

「よく分からないけどフィエスタってたまにこうなるんだ。暫くしたら普通に喋ってくれるよ」


 奇声を抑えているのよそっとしておいて……!

Copyright(C)2024.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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