#56 推し活は続く (第二部・完)
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
それから私たちは日常を取り戻した。リオたちはカフェ、初代たちは魔法具の開発。私はやることがなくなって、暇……。カフェで絵を描いてる時が一番楽しかったな……即売会イベントみたいで。私もリーフと一緒に皿洗いに参加したほうがマシだった。
そんなことを思いつつ食堂で絵を描いていると、エントランスのほうで知らない人の声がした。それと初代だ。
こっそり近付いて様子を窺う。
「迷い込んだのならさっさと帰れ。お前たちが恐怖すると影響が出る」
「え、え、え、え、え、えと、私たち、アメイズさんにお逢いしたくて、ですねっ」
「アメイズ……? ああ……」
恐怖心を隠せていないながらひとりが用件を口にする。
え? 私に用事? こんなところまで? 委託させてもらってたお店の人とかかな……そんなに私の悪役演技が真に迫ってた?
「何用だ。危害を加える為ではないようだが……」
「危害だなんて滅相もない! アメイズさんに似顔絵を描いてもらったことがありまして、それに勿論、絵本も読みました! 素晴らしい絵でした!!」
ストーリーじゃないの?
「それで、あの、大変厚かましいお願いなのですが、似顔絵で英雄リオと魔王を描いていただけないかなと……⁉」
「似顔絵を……?」
そんなオタク根性で魔王城までやってきたの⁉ いや嬉しいけど! 初代めっちゃ困惑してるわ!
「初……魔王さま、そのくらいなら聞いてあげるのよ。きっと描いたら帰ってくれるのよ」
「妖……。そうか、任せる」
呼び方困るーーー。
初代が生きてることも妖精が人間サイズになれることもバレるのは面倒だもんね……。結局クソジジイは公表を許さなかったし。妖精の森に帰ったら噂を広めてやろうかしら!
私は彼女たちを自室に案内した。
初代と辛うじて話せていたのはジーニア・バンディット。ジーニアの言葉に隣で頷きまくってた眼鏡のほうがアクア・ソルーナというらしい。歳はふたりとも19。行動的なお年頃ね……。
「絵本の色付きの絵もとても美麗でしたので、似顔絵で描かれたらどんなに美しいか、もういても立ってもいられず押し掛けて申し訳ありません! 演説はシュタインメッツでされていたので魔王城にお戻りになるにはそれなりに日数が掛かると思いまして今日訪ねてみたのですが……いらっしゃってよかったです!!」
オタクの圧が凄いよ……。私以上のオタクに長らく逢ってないから上手く対応できないわ。
「ほらアクアも思いの丈を告げられるチャンスなんてもうないかもしれないでしょ⁉」
「た……確かにジーニアの言う通り、絵も色使いも綺麗でした……が、私はお話しにいたく感銘を受けまして、あれがすべて事実とのことですがもうちょっと詳細に教えていただきたく、お聞かせいただけないでしょうか……ッ」
腐女子たちを目覚めさせてしまったのね……BLにはとても心をときめかせてしまう不思議な魔力があるのよ。分かる、分かるわ……。
いつかふたりの合作で同人誌作ってね……。
「初代魔王さまがまだご存命の時にお話しは聞いていたのよ……。英雄リオにひと目惚れなさった初代魔王さまは近付いても全然怖がる様子を見せない英雄リオに触れられるくらいまで接近して、すぐ後ろにある壁に手を付き、「俺のものになれ」」
「きゃー!!」「きゃー!!」
「初代魔王さまは初恋だったのよ……。自分のこの衝動がなんなのかよく分からないけれど確かめたかった……だから英雄リオに問うたのよ、「触れてもいいか?」と」
「あーッ胸が苦しい!!」
「これが初めてのときめき……!!」
めっちゃ盛り上がる楽しい!!
「話しは尽きないけれど絵も描くんだったのよ。ちょっと待っててもらえるのよ? 軽く質問とかなら答えられるから」
「はぁ……もう今のお話しだけで数日生きていけそうな気がします……」
「ふたりのことを想うだけでご飯が進みそうです……!」
そして絵が完成した後の感想がこれである。
「美し過ぎて死ねる……」
「イケメン同士がこんなに密着してるの見たら私たち捕まるんじゃない? 大丈夫?」
「初代魔王さまと英雄リオの年齢差に比べれば大した罪じゃないのよ」
「そういえば……!!」
「年端も行かない勇者を何万年と生きた魔王が……⁉」
「それは最早大罪では⁉」
「でもそれが、イイ……ッ!!」
分かりみが深過ぎる。
「それじゃ私、魔王さまに複製してもらうよう頼んでみるのよ」
「い、い、い、い、い、頂けるんですか⁉」
「その為に描いたのよ。これで妄想を膨らませるといいのよ……自分で描いてみてもいいのよ」
「私が……っ⁉」
「アクアも自分のときめきに従ってお話しを考えてみるといいのよ……」
「お話しを……作る⁉」
まるで悪魔の囁きでもしてる気分だわ。
ふたりを部屋に残して初代を探す。因みにR18その他は鍵付きの抽斗に仕舞ってある。あのふたりには刺激が強過ぎるでしょう……。
「妖精、人間のふたりはどうした」
「食堂にいてよかったのよ。これあげたいからちょっと複製してほしいのよ」
「……白紙だが……」
「裏に描いてあるのよ」
あ、と思う間もなく初代は紙を表に向けてしまった。
「……これは、随分……」
あれ、初代が照れたポーズを取っている。もっと凄いこと毎晩してるでしょ。この間のバックハグをいちゃいちゃ感増し増しにしただけよ。
照れられるとこっちも恥ずかしくなるからやめて。
「俺も貰っていいか……」
「え⁉ え、いいけど……。気に入ってくれたならよかったのよ」
原画を初代にあげて、私の分を入れて3枚コピーしてもらった。また鍵付きの抽斗に仕舞わなくては。
部屋に戻ってコピーを渡すとどう持って帰ろうかわたわたしていた。紙を知らない世代なら無理はないか……。筒状に丸めると折り目が付かない、とアドバイスをして、ふたりは感謝しきりで魔王城を出て行った。
その数分後に、リオたちが仕事から帰ってきた。
「途中で女の子たちと擦れ違ったんだ。お客さん来てたのか? なんか凄くびっくりした顔されたんだけど、なんだったのかな?」
びっくり……? あれ、まさか英雄リオの似顔絵と似てたからバレ……いや、もしかして、魔王と英雄リオの子どもだと勘違いしたのでは……⁉ 魔王城に向かってのんびり馬車走らせてるんだから身内だと思うよね⁉
まぁ、あのふたりならすべて妄想の産物として消化してくれそうな気がするけど。
リオが実は生きてたとかそういう事実は要らないのよね。当時ふたりが恋に堕ちて愛し合った過程とその後を妄想できるだけで幸せなのよ。分かる。
「妖精の絵が欲しくて態々訪ねてきた。表の幻覚を強化すべきか……」
「そうなんだ! 凄い子たちだな! じゃあフィエスタが新しい絵を描いたのか? 見たいな!」
「む……」
「……うん?」
初代の妙な反応にリオの頭にハテナが飛んだ。
「他の者には見せたくない……」
「えー? ゼストだけズルいぞ」
「リオはいい……」
「あ、俺はいいんだ。なんだろ、気になるな」
「その前に夕飯を作ったほうがいい。後のほうがゆっくり見られるからな」
「それもそうだな。もう少しお楽しみにしておくよ」
「ねぇ、私もリオの反応見たいのよ……」
「む。分かった。後で俺の部屋にともに転移させよう」
初代があんな感じだったらリオも照れてくれるかな……。
引くぞSSR!!
そんな自信はないけど……。
夕食を食べ終わり食器を片付ける。洗い物はキザシとリヴィナに任せて、いつ振りか初代の部屋にお邪魔した。
が、額がもうできてる……⁉ 前に作ったやつ複製したとかかな。
この絵画みたいな扱いやめてよ気恥ずかしいわ……。
デスクの上に置かれた絵を見たリオの反応を窺う。
「……うん、他の人に見せたくない気持ちが分かったよ……。フィエスタには俺たちがこう見えてるのかな? 俺こんなだらしない顔してる……?」
SSR引き当てたぁああ!!
「だらしなくないのよ! これはイメージというかサービスというか……ほぼ願望だから!!」
「でもゼストの笑い方とか凄く似てるよ……は、恥ずかしいな……。これ飾るのか?」
「額に入れてはみたが……飾るには憚られる」
「だよな……」
「飾らなくていいのよ。たまに眺めるくらいがいいと思うのよ」
初代はデスクの抽斗にそっと仕舞う。
今まで何度かこの初代の私室に来てるけど、ここはどっちかっていうと書斎ね。隣の寝室は扉ではなくパーテーションのようなもので区切られている。
でもなんで最初の時この私室に飛んだんだろ。初代はどこでも転移できるし、魔族のみんなもこの部屋に入るの気を遣ってたし、態々トラップ染みた転移魔法なんて必要ないじゃない。
「そういえば、今でもこの部屋直通のトラップって付いたままなのよ?」
「トラップ……? なんのことだ?」
「え? ほら、最終決戦前にリオがここに来た時なのよ」
「……む」
なんだこの反応? 思い至ってそうなんだけど?
「あの時、何かに触ったわけでも踏んだ感触もなかったんだよな……。フィエスタがトラップって言ってたから不思議に思ってたんだ」
え? そうだったの?
リオも初代の言葉を待ってじっと見つめる。
初代は気まずいのか目線を合わせずに白状した。
「絵本を作る際は詳しくは聞かれなかったからあえて言うことでもないと思っていたが……、リオをこの部屋に転移させたのは、俺の意思だ」
「……話しをしようと?」
「それもあるが……、俺に対してどういう発言をするのか、少し、期待があった」
他の魔族たちみたいにリオに褒められたかったの?
「……俺は期待に応えられたのかな?」
初代はリオをまっすぐ見て、「愛しい」と伝える目を向けた。
「だから……お前に惚れたんだ」
「……ほれ……、その言葉は初めて聞くな……」
リオたんがまた照れてる……! SSR大量ゲットだわ……!
「……悪いが、席を外してくれ」
「あー……ね。分かったのよ」
私の足元だけに転移陣が光り、転移する寸前までふたりの会話に耳を澄ませていた。
「ゼスト、俺まだお風呂入ってない……」
「何を今更……恥ずかしがるお前は珍しい。今すぐだ――」
ああっ! 聞けなかった! これ絶対「抱きたい」って言ってた!! 惜しい!!
さて、続きは紙の上に吐き出すか……。
あんなリオたんとかこんなリオたんとかにグイグイ行く初代……今日もゼスリオで寝不足だわ!!
推しの幸せは私の幸せ!! 末永くお幸せに……!!
第二部、完。
第三部も執筆中ですが一旦ここで完結とさせていただきます。
ここまで書くのに半年くらい掛かったので、それよりは早く公開できるかと思います。多分。
お読みいただきありがとうございました!
第三部始まりましたらまたお付き合いいただけると幸いです!
書ききれてない話しを番外編として書きたいな!(ノ≧ω≦)ノ
Copyright(C)2023.鷹崎友柊




