#53 Xデー
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
Xデー当日。
シュタインメッツ王から重要な宣言があるとお触れが出されていたお陰で、会場の広場には埋め尽くさんばかりの人に溢れている。
この公表は魔石により各主要都市へ音声が届くようになっている。恐らくそこでも人が集まっているだろう。
国の何割に当たるかとか全然分からないけど、めっちゃ沢山の人が言葉を待ってるってことだ。
私とリーフは通信用魔石が埋め込まれた小型のイヤリングを付けている。初代のセンスがいよいよ天才的だわ。ある程度周りの音も拾えるようになっていて、魔王たちにも状況が分かる。
『僕がいろいろ言われたとしてもアリストが怒んなくていいっすからね? 演説中に魔物が暴れたら台無しっすから』
『……俺は聞いていないほうがいいかもしれない』
『聞いてないほうが気にしちゃわないか?』
『僕がもし落ち込んで帰ってきたら慰めてください。慰め方でも考えといてくださいよ』
『……お前が頑張ってるのに、そんなこと考えられない』
『絶対、アリストはいい人なんだって分かってもらうから……見守っててください』
『……分かった。だが、お前や父上たちが俺を分かってくれてるだけで十分なんだ。あまり、頑張り過ぎるな……』
時間になり、シュタインメッツ王が壇上に上がった。
「みな、よくぞ集まってくれた。今回このような場を設けたのは勇者リーフ・アリオンの希望によるものだ。その内容について私は先に報告を受けている。その上でみなにも聞き届けるべきだと判断したことを先に宣言しておく。勇者リーフ・アリオン、壇上へ」
「頑張るのよリーフっ、私も後で行くのよ!」
「はいっす……!」
リーフが壇上に上がると王へ、そして民衆へ一礼ずつして中心まで歩いて行った。
王は安全の為一旦壇上から降りる。
「……わたくしに発言する許可を与えてくださったシュタインメッツ王陛下、そして集まってくださった聴衆のみなさまにも、深く感謝を申し上げます」
第一声は練習通り上出来よ!
「数年前からとある絵本が流通し始めました。『ひとりの魔王のはなし』という絵本をお読みになった方も多いのではないでしょうか。まだお読みになっていない方の為に簡単にあらすじをお伝えします」
勇者が出てきてなんで流行ってる絵本の話し? と疑問はあるだろうけどとりあえずまだ静かに聞いてくれている。帰る人はいなくて、足を止めてくれる人が増えた。
「魔王は城に来る代々の勇者に話しを聞き、自分のネガティブな感情が魔物をざわ付かせていることに気付きました。そして魔王はそれを抑える為日々の生活を工夫しています。魔法の研究をし、魔物の姿を借りて人間の街を見て周り、何人かの人を助け、魔族としました。そうして何万年という月日が経ち、運命と出逢いました。のちに英雄と呼ばれる勇者と恋に堕ち、2代目魔王を生んだのです――。わたくしが今回この場を借りて申し上げたいのは、これがすべて真実だということです。わたくしは魔王に直接逢いました。そして彼に悪意がないことを知ったのです。この絵本を描いたのは、魔族である彼女です」
段取り通り私も壇上へ上がりリーフの隣に立つ。一礼して、人の多さにちょっと眩暈がした。よくリーフは普通に喋れたな……。
「わたくしが2代目魔王さまと契約しております魔族、アメイズと申します」
フィエスタまんまじゃ妖精としてもカフェとしてもマズイから偽名だ。大分掛け離れた名前をリオに付けてもらった。びっくりさせるって意味だ。由来が可愛い……。
練習の成果もあるけど畏まった言い方だとあの語尾は出ないらしい。
「この事実を伝えるべく、いろんなところで布教させていただきました。わたくしの絵本を販売してくださったお店の方々には言葉もない程感謝しております」
悪役に聴こえるかな? 上から目線風に喋ってるんだけど?
『フィエスタ、本当にそんな演技で行くの?』
『できるだけ私に非難が集中したほうがいいのよ。アメイズって人間は元々いないんだから私のことは気にしないでなのよ』
『演技派っすね……。僕なんか言葉遣いだけで精一杯っすよ』
『委託を受け入れてくれたお店にもギルドにも、迷惑掛けちゃいけないのよ』
魔族と聞いてから聴衆の私への目線はかなり強いものになっている。めっちゃ睨まれてる。もしくは恐怖している。
魔王の体調は大丈夫かな。
「フザけるな!!」
民衆のひとりが野次を飛ばすと、次々と声が上がった。
「悪意がないからって許されると思ってんのか⁉」「さっさと封印しちまえ!!」「魔族の女を捕らえろ!!」「何考えてるか分かりゃしねぇ!!」「勇者の責任を果たせ!!」
そんな声の一方で、2代目魔王という存在への不安や生まれた経緯について疑問を口にする人もいる。
ざわざわして収拾が付かなくなりそうだ。
王様助けてよ! と思っていると、リーフが大きく息を吸った。
「みなさまは、勇者がどれほどの重責を負っているか考えたことがあるでしょうか。10代で親元を離れ旅をし、国民からの期待を背負い、魔王を封印するまで戦い続けることを余儀なくされる……。自分がもしある日突然勇者に選ばれたと言われたらどう思いますか。僕だって不安で仕方なかった……。だけど魔王と戦う必要がないんだとしたら、その道を選ぼうとするのは当然だと思いませんか!」
「勝手に正当化してんじゃねぇよ!!」「逃げてるだけじゃねぇか!!」
「逃げることの何が悪いんですか⁉ じゃああなたが代わりにやってくれるんですか⁉ 魔王の名前を呼べもしないあなた方が魔王に立ち向かえるとは思えません! 自分には関係ない、他の誰かが、勇者がやってくれる、そんな他力本願を正当化してるのはあなた方ではないのですか! ……英雄リオが魔王の攻撃を受け一度死んだのは、勇者の役割から解放されたかったからです……この事実を知って尚勇者を責めますか。逃げることはそんなに悪いことですか。……誰にでも怖いものはあるはずです。勇者だけがそう思うことを許されないのなら、それは勇者を人間だと思ってないのと同義です。僕は、人間です」
「お前は獣人だ!」「そうだ! 人間もどきが!!」「人間を語るんじゃねぇよ!!」
「獣人の耳や尻尾は……可愛いじゃないっすか⁉」
リーフ、それは台本にないやつ……。
ここまでちょろちょろアドリブ挟んでるけど大体台本通りだったのに。
あまりの発言に野次飛ばしてた人も二の句が継げないでいるわ。
「犬や猫が好きな人は多いでしょう⁉ その特徴が付いてる人間なんて、触りたくなる可愛さでしょ⁉ なんで獣人を見下してるのか意味が分からないっす! 人をいじめて気持ちいいっすか? 胸が空きますか? 精神安定に他人を使わないでもらいたいっす。自分がされたらどう感じるか想像もできないんすか?」
「……リーフ、ちょっと冷静になって。ケンカ腰なのよ」
〔鬱憤が溜まっていたんだろう……少しはすっきりしたか?〕
「……全然言い足りないっすけど! まぁ、少しは」
〔確かに触りたくなる可愛さには同意だが〕
「今、ちょっと、そういうのやめて……」
魔王のお陰で途端に冷静さを取り戻せたみたい。自分が如何に場違いな主張をしたかも自覚できたかな。
「つまり……獣人だって勇者だって魔王だって心のある人間なんす! 傷付くし、恋もする! みなさんと何が違うんすか! 見た目や役割は生まれた時からある程度決まってて変えたくても変えられない。それでも、人間であることに変わりはないっす!」
「魔王が人間? 何をバカな!」「どれだけの人間が被害を被ったか分かってんのか!」「魔王を出せ! 謝らせろ!!」「魔王に懐柔されたんじゃないか?」「誰にでも尻尾振るってか」「あの身体で誘惑したんだろ? 流石獣人だな」「魔王も所詮男ってわけだ」
「僕は! 2代目魔王アリスト・ヴェラールのことが好きになりました!! 顔はイケメンで物静かなのに照れて早口になったり顔を背けたり、めちゃくちゃ可愛い人です!!」
おぉい、リーフさん?
「アリストのこと何も知らないのに悪く言わないでほしいっす!!」
〔……公開告白しちゃったな〕
〔リーフ……〕
イヤリングからリオと魔王の声がする。リーフにも聞こえたはずだ。ちらっと盗み見ると顔が真っ赤になっていた。
「僕は身体は女性ですが、心は男性っす……。同性であるアリストを好きになるなんて有り得ないって思ってました。でも実際逢ってみたら、性別なんて関係なくなって。アリストは……いろいろ僕に配慮してくれます……とても優しい人っす。僕は、3代目魔王を生むつもりです。それは人間が好きな人との間に子どもが欲しいという感情と変わりません! 好きな人と一緒にいたいから封印なんかしません!」
大きな野次は聞こえないけどざわ付きは大きい。きっとこれからどうなるか不安なんだろう。
私が最後の締めのセリフに入る。
「わたくしたちが絵本を広め、この事実を公表したのはこの先の未来の為です。魔王さまが心穏やかに暮らしていければ人間のみなさまに被害が及ぶことはありません。今後生まれる勇者とも戦いは望んでいないのです。わたくしたちがみなさまに申し上げたいことは、魔王さまと勇者を重責から解放し、争いをなくしたいということだけです。なので、みなさまは特に何もしてくださらなくて結構です。ふたりへの過度な期待や恐怖をせず日々をお過ごしいただければいいんですから。何か異論はありますか? 今この演説も魔王さまはお聴きになっておいでです」
私は自分のイヤリングを指さして示す。
「今までの魔王さまへの侮辱、ひいては愛するリーフへの差別的発言、すべてをお聴きです。魔王さまのお言葉を頂戴しわたくしが代弁いたしますので、異論があれば仰ってください」
魔王が聴いてると知れば大人しくなるものね。
「なければこれで失礼させていただきます。ご清聴ありがとうございました」
一礼してさっさと壇上を降りる。
もぉおお緊張したぁああ早く帰りたいぃいい!!
リーフも続いて降りて、入れ替わりでシュタインメッツ王が上がった。
「随分アドリブ入れてたのよ。冷や冷やしたのよ……」
「いやだってあいつらムカついて……」
「思ったより本番に強いのよ。びっくりしちゃったのよ」
「フィエスタさんも堂々たるものでしたよ?」
〔お疲れさま。美味しいご飯作って待ってるから、早く帰っておいで〕
「それは楽しみなのよ!」
通信はそこで切れ、私たちはシュタインメッツ王の最後の言葉を聞く。
「最初に宣言した通りみなにも周知させるべきだとこのような場を設けた。絵本をまだ読んでいない者がいたら貸し出しをしているからそちらで一読してくれ。今後委託販売している場所では在庫限りとなり、購入・貸し出しは王都でのみ取り行う。……予も、勇者とは、魔王とはどういう存在か考え直すきっかけとなった。みなには、平穏に暮らしてもらいたい。それは勇者も魔王も獣人も同じだ。この願いがみなも同じであることを祈る。――今日この日をもって、勇者と魔王の戦いの終息宣言をする!」
民衆から次々と拍手が上がる。勇者に任せっきりだったとはいえ戦いを望んでる人は少ないはずだ。これからは闇雲な不安を抱えなくていいと知ればきっと受け入れてくれる……。この場が解散した後、絵本を読み返したりしてそれぞれに考えを纏めるだろう。
そのうち勇者とか魔王とか気にせずに過ごしてもらいたい。
はぁ……終わった。なんとかやり遂げたわ。
とりあえずリーフも、私が人間サイズになった時も、リオたちと親しくするのはダメだ。もうカフェには顔を出さないほうがいいだろう。
「君たち……ひとつ訊いてもいいかな?」
「だっ誰っすか⁉」
「怪しい人なのよ⁉ 衛兵は⁉」
いきなり背後から現れた髭面で髪も伸ばしっぱなしの男性は、演説で触れなかった部分を訊いてきた。
「リオ・フィールダーは……、生きているのか?」
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