#50 シュタインメッツ城へ
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
完成した絵本の試読会の日。
いやもう読まれてる間手汗がヤバイ……お話しはノンフィクションだからダメージはないけど、やっぱり緊張する……!! みんな読み終わるまで別室にいちゃダメ⁉
読み終わった空気を感じ取って最初に発言したのは、キザシだった。
「……これ、2巻ある流れじゃねぇか」
「次も読みたいなっ」
「や、やっぱり2代目魔王については触れないほうがいいのよ……?」
文章はまだ書き込んでないから修正が効く。みんなの意見を取り入れたい。
「やだっ私も出てるじゃないフィエスタっ!」
「絵の感じもとても可愛くなっていますし、フィエスタさんは文章もお上手なのですねっ!」
「タイトルも良いと思う、ですっ」
「あー分かるっす。孤独の独りと唯一のひとりを掛けてますよね?」
わ、分かってくれて嬉しいぃいい。
「公表の際、新たな情報は少ないほうがいい。混乱が少なくなる……。リーフ・アリオンという新たな勇者が生まれた理由が曖昧な分、次代の魔王のことは入れてもいいだろう」
「初代的に修正してほしいとこはないのよ?」
「む……いや、十分ではないか……?」
「ははっ自分が主人公になって照れてるっ」
「……何故お前は羞恥心がないんだ……」
確かに魔王と同じ癖だ。レアだなぁ。
「セリフは実際の言葉を引用していますのでしょう? 最後の「ころさせてしまった」というのは、どういう意味ですの?」
リヴィナの疑問にリオは少し困った顔で笑った。私も一部の人にしか話してないことだ。
リオが答える前に私が発言した。
「リヴィナはどういう意味だと思ったのよ? 子どもに読み聞かせた時、多分同じ疑問が浮かぶのよ。親としてどういう解釈をするか聞きたいのよ」
「そうですわね……。この「魔王」が攻撃した時、「勇者」は態と……」
正解に辿り着いて、リヴィナは最後まで言わずにリオを見た。何も言わないリオに、みんなもその意味に気付いた。
「勇者という役割がどれほど重いものか……子どもと話し合うと思いますわ」
「リオ、こんな形でみんなに知らせてごめんなのよ……。でも、魔王だけじゃなく勇者も重責があって、選ばれてしまったリーフのことを、少しでもみんなが思い遣ってくれたらって、思ったのよ……」
「俺は気にしてないよ。もう過ぎたことだ……ゼストは許してくれたけど、済まないって気持ちはずっと持ち続けるものだと思う。みんな、俺よりもリーフのことを考えてくれ。もう引退した身なんだから」
空気を変えるように、キザシが声を発した。
「修正は特にいらねぇってことだな。じゃあ値段決めようぜ。思ったよりクオリティ高ぇのが出来ちまったから設定が難しいんだが……」
「元々本が高級品だもんな」
「今は骨董品レベルだろ。ワンコインのほうが売り手も買い手も楽なんだがな……」
結局、少し奮発すれば買えるくらい高値に説定された。
え……めっちゃ売れるか不安なんですけど……。
それから売る場所だ。リオたちの店は勿論、カフェの委託販売のお店にも置いてもらって、追加でPOPを作ることになった。
とりあえずはそこから広めて、次の段階はシュタインメッツ王との会談だ。
「まずは謁見許可を貰わなければ進まない。勇者からの話しなら会談を設けてくれるだろう」
「え、僕が許可取りするんすか? めっちゃ緊張するんすけど⁉」
「直接国王と話すわけではないだろう。魔石通信用の窓口があるはずだ」
「そういえば勇者になった時領主さまが通信してたような……。最初は訳分かんなかったからアレでしたけど、こんな重大な目的あると今から緊張ヤバイってマジで」
「俺も行くから大丈夫だよ! 300年以上振りだから国王変わってるよな? どんな人だった?」
「いや髭もっさぁなおじいさんをイメージしてたんすけど……思ったより若いなぁって思いました」
「3年くらい前に代替わりしたのよ。まだ前国王の口出しはあると思うけど、若いほうが柔軟で理解があるかもしれないのよ」
「そうだといいっすねぇ……あんまり喋んなかったからどんな人かは分かんないっす」
「じゃあ早速約束取り付けようか。販売は明日の営業から始めちゃおう。ゼスト、複製いっぱい頼むな!」
なんか現実感増してきた……あぁああぁめっちゃ緊張するぅ……。
「リオさん、シュタインメッツ行ってる間お店どうするんすか?」
「臨時休業かな? 道中移動販売しながら向かおうか」
「じゃあ私も行くわ! 売り子は必要でしょ?」
「ノアはギルドに顔が広いから絵本も売ってくれそうだな」
「任せて! ギルドにも置かせてもらえないか頼んでみるわ」
「もうひとり……ルーミーも来てくれるかな?」
「み? なんで僕ですか?」
「獣人が人間と契約すれば耳と尻尾をなくせること、国王にも伝えておこうかなって。公表するんだろ? リーフがアリストと契約してることはまだ言わないほうがいいと思うんだ」
「分かった、です!」
次々決まっていく……。
魔王城からシュタインメッツまでは移動販売しながらと考えても1か月は掛かる。
会談の日から逆算して出発しなければ。
リーフが緊張しながらも国側と連絡を取り、3か月後に会談が決まった。
それまで絵本を広めていく。
会談で話すことは、
1.絵本の内容が真実であること、
2.絵本を学校で教材にしたり世間に広めてほしいこと、
3.その後に世間に真実だと公表したいので場を設けてほしいこと、
4.エリシオンを折り、中に入った魂を解放してほしいこと、
5.獣人と人間の契約のこと。
なかなか長丁場になりそうなくらいいっぱい話すべきことがある。
上手く事が運べばいいんだけど……なんて思ってるとフラグになりそうだわ。
つつがなく終わりますように!
絵本の販売と同時に、私がカフェの1席を借りてお客さんの似顔絵を描くサービスが始まった……。買ってくれてありがとうのノベルティみたいなものだけど、めっちゃ大変なんだが……? 私から言い出したことなんだけど……腱鞘炎になりそうだわ……。
でも私が心配してたより絵本は売れた。委託販売のほうも捌けたので置く部数を増やしたり、ここまでは順調じゃない?
お店には臨時休業の知らせと絵本販売は続けることを告知した。
そうして2か月程が経ち、私たちはシュタインメッツへ向かう。移動販売中リーフは身バレしないよう隠れてもらった。私が人間サイズになって手伝えてよかったわ。
そしていよいよ、謁見だ。
それぞれ元の姿に戻り城内へと通される。私は城の中に入るのは初めてだ。魔王城も綺麗にしてたけど、こっちは華美な感じだ。調度品なんかで権威をアピールしてるような。これぞお城って感じだわ。
謁見の間ではなく、会談用の円卓がある一室に案内され王を待つ。暫くして、近衛の人たちが扉を開き王が姿を現した。私たちは一度席を立つ。
めめめめっちゃ緊張するぅうう手めっちゃ冷たいんだけど⁉
「お初にお目に掛かり光栄にございます。この度はお忙しいご公務の中、お時間をいただき誠にありがとうございます。ブリストルのギルドに所属しております傭兵のノア・フィールダーと申します」
さ、流石コミュ神ノアさま⁉
そういえばリオもリーフも敬語使えない子だったわ。私もこの語尾になってからまともな敬語は使えない。ノアがいてくれて助かった……。
着席した王が私たちに座るよう促してくれたのでひと言断って着席する。話している途中のノアはまだ座らない。
「うむ。何か勇者から大事な話しがあるとのことだったが?」
「あっ、えと、お久し振り、です。リーフ・アリオンっす……」
「リーフはこのように緊張しているので私から申し上げてもよろしいでしょうか?」
「いいだろう、聞こう」
「お心遣い感謝いたします。お話しの前に、まず陛下にご一読いただきたい絵本がございます」
「絵本?」
先にテーブルに出していた絵本を持って、王の近くにそっと置く。
「これは……紙か。それも随分真新しい……これはどこで?」
「稚拙ながらわたくしどもが作り上げたものでございます」
「なんと? 興味深い……読ませてもらおう」
興味を持ってもらえた。まずは第一歩。
紙をめくる音しか聞こえないよ緊張がヤバイ……!! 事情を知らない人が読んだ感想って、初めて聞くんだ……。
何かツッコまれてもノアさま頼みます……!!
やがて読み終えた王は絵本を閉じた。
「これを私に読ませて、どういう話しがあるというんだ?」
か、感情が読めぇええん!! 表情筋動かさない特殊な訓練でも受けてるの⁉
「これがすべて真実であるというお話しがしたいのです」
「これは……創作だろう?」
「いいえ……。そこに描かれた勇者の妹は、わたくしのことにございます。そしてそこにいるわたくしの兄は、先代の勇者でございます」
「リオ・フィールダーだ。名乗りが遅れて済まない」
安定のタメ口リオ。そんなとこも好きよ……。
「だが……リオ・フィールダーは300年以上昔に魔王に……」
「そうです。絵本のとおり一度死に、不老不死となり生き返りました。そして2代目魔王を生んでからこの17年歳を重ねており、今は32歳でございます」
「何をバカな……! そんな出鱈目を信じると思っているのか⁉ この絵本は300年の空白期間を利用した創作物であろう⁉」
「王様……。俺は勇者に選ばれてから毎日つらかったんだ。だからゼストの攻撃魔法を受けたんだけど……それでも俺のことを愛しいって言ってくれたんだ。これは本当だよ。2代目魔王……アリスト・ヴェラールは俺たちの子だ」
「何が2代目魔王だ……! 聞いたこともないぞ、アリス――、!」
魔王の名前はその恐怖心から呼ぶことはできない。
まさかこんな形で証明できるなんて。
「……ア、リ……」
「魔王の名前は口にできない、です。リオは、別だけど」
「そんなこと、あるわけが……っ」
「わたくしどもはこの絵本の内容が真実であると、世間に公表したいと考えております。魔王に悪意はありません。魔王のマイナスの感情を感じ取った魔物が反応し暴れているに過ぎないのです」
ノアは王の言葉を待ったけれど、反論が出ないようなので切り替えた。
「お考えを整理するお時間が必要なようですので、日を改めさせていただきます。そちらの絵本は陛下に献上いたしますので、また後日、真実を公表することについてのお話しができれば幸いです」
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