#48 進展
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
改めて人間サイズでリーフと魔王の絵を描いてあげた。喜んでくれて何よりよ……。
結局絵本製作はほとんど進まずにリオが新商品の試食を持ってきた。
「フィエスタが……大人になってる⁉」
だから元から大人なんだってば。
リオの新商品を食べながら、お互いの気持ちを確認した上で契約したことを事後報告した。
流石にリオも初代も驚きが隠せていない。今日の午前中だけで怒涛の展開よ。
「お互い納得できたなら俺たちからは何も言うことないよ」
「拡大魔法も使わなくてよくなったな。確かに絵本の出来が大分変わってくる……。では今後の流れについて纏めよう。絵本が完成したのち、広めつつシュタインメッツ王との交渉に行ってもらう。更に世界中に広めた頃合で勇者が真実を公表する……。それまでは代替わりするな。お前が勇者でなくなれば意味がない。お前が15のまま成長していないことで信憑性も上がるだろう。何か質問はあるか」
「あの……代替わりってどの程度でどうなってするんすか?」
「正しく検証したわけではないが……ひと晩休憩なく体液吸収し続けると微かに存在し、二夜目でほぼ確定する。この時にアリストを取り出すと4歳程だった。単純計算すると十夜目で魔素を取り出した時点で代替わりは完了するだろう」
10日間は最速だけど、普通朝までヤらないから。ふたりが体力お化けなだけだから。
「え……朝まで? 嘘でしょ? 魔王の体液に媚薬的な効果があるとかっすか?」
「うん? どうかな? ゼスト、あると思うか?」
「言われてみれば興奮剤や中毒のような作用があったのかもしれんが、リオが貪欲なだけという可能性も捨てきれん」
「日中も欲しいなんて思わないから中毒ではないよ」
ふたりして明け透けに言うなぁ……。滅多に恥ずかしがらないんだよなぁ。
「代替わりするまで結構回数いるんすね……」
「体内のマナ量はエリシオンが量ってくれるから、供給のついでに視てもらえばいいよ」
【うちをマナ残量測定装置みたいな位置付けにせんといてや】
「俺もシュタインメッツ王との交渉に付いていくよ。エリシオンのことも話してくる。解放できるようにお願いしてみるよ」
【……そこはリオはんに任せるわ】
「……リーフの中に魔素が溜まるまでの間に……」
ずっと黙っていた魔王が発言する。みんな続く言葉に注目した。
「普通に子どもができたりしないのか……?」
は……ッ!!
リオと初代と違って、男女じゃん⁉ 寧ろ新しい魔王の前にデキちゃうじゃん⁉
初代が考え込み、リオは結論を待つ。リーフは「そうだった……!」みたいな顔して固まっている。
「……魔王という存在が複数になることは有り得ないはずだ。血を分ける従来の手段で子ができるとは思えん……調べたわけではないが、子種はない可能性がある。もしできたとしてもそれは魔王にはならないだろう」
「セリカの時のようなことにはならないんだな」
「俺たちは身体エネルギーがマナではないからな……魔素が生命を作り出せるエネルギーかは怪しい」
「そうか……」
ん? ちょっと残念なのかな?
代替わりすると子どもが大人で生まれてくるから、育てる楽しさみたいのは味わえないしな。
「そうだ、妖精が人間サイズになったなら渡しておこう。アルメーラのように自身が妖精サイズになれんからな……どうしたものかと思っていた。どういうペンか聞いていなかったから2種類試作した。とりあえず赤と緑だ」
初代が取り出したのは軸にインクが入った普通のペンと、インクが小瓶に入ったもの。筆は別に用意されていた。つけペンというよりこれは……。
「こっちの小瓶は水分量によって濃淡が付けられる」
絵の具じゃぁああん!! しかも水彩だとぉおお⁉ 初代が天才過ぎる……!!
興奮を外には出さずに生唾を飲み込みながら試し描きをする。黒ペンの滲み具合とか絵の具の上からペンで描いたり……は乾いてからじゃないと難しいか。
っていうか発色良い!!
リオの試食用に出されたお皿に赤と緑を混ぜてみると、ちゃんと茶色になった。
「色が変わった!」
「そういう使い方もできるのか……」
赤を多めにして淡くしたらギリ肌も塗れるんじゃね……⁉
「めちゃくちゃ良いのよちょっと待ってリオ塗ってみるのよ!」
描き慣れたリオをぱぱっと描いて塗っていく。普通のカラーペンのほうも細くて後れ毛も影も表現しやすい。この2種類が大正解過ぎる。
「フィエスタさん神絵師じゃないっすか……!」
「こうも使いこなすとは……想像以上だ」
「凄過ぎて言葉が見つからないよ! 凄い……! 俺だっ!」
喜ぶリオたんが私のご褒美です。
「他に必要な色はあるか」
「混ぜられるなら青と黄色さえあればなんとか……あと、白があると有難いのよ」
「白いペン……? お前の発想力には驚かされる。絵に特化したものだからか……?」
修正ペンとか一般的過ぎるから忘れてたけど、普通ペンって字を書くものだもんね……。白の必要性がないんだ。
でも、ホワイト欲しいじゃん……?
「こんなに綺麗な絵と色だったら絶対売れるよ! いっぱい作らないとな!」
「絵本の絵はここまで描き込まないのよ……?」
「これコピーとかできるんすか?」
「複製魔法がある。複製の複製はできないがすべて原本から複製すれば問題ない」
著作権守られてるー。偶然だろうけど。
「キザシさんは安価でって言ってましたけど、あんまり安過ぎだと怪しくないっすか?」
「値段はできてから決めるのよ……まだ描いてないうちから決められるとプレッシャーなのよ……」
「そうだな。完成が楽しみだっ!」
それから暇を見つけては文章を決め、初代にヒアリングしながら纏めた。1ページごとの構図を考え終わると、本の綴じ方を相談した。幸いにもここには図書室があり製本方法のサンプルは沢山ある。
それからようやく、絵を描き始めた。
ホワイトの有難みが凄い……!! やっぱ表現広がるわ……。
数ヶ月ほど描き続けたある日、客室で黙々と作業を進めているとドアがノックされた。
「フィエスタさん、今大丈夫っすか?」
「リーフ? どうぞなのよ」
「……リオさんからの差し入れっす」
「ありがとうなのよ! じゃあ休憩にするのよ」
紅茶の香りで癒やされる。
ラニア直伝の紅茶はリオが元々淹れていたものよりも美味しさが増している。リオはコーヒー党だから仕方ないって思ってたけど、流石はカフェのマスターだわ。
ところで、リーフの様子がちょっと変だ。
「……何か用があるんじゃなかったのよ? 差し入れは口実でしょ?」
「え……なんで分かったんすか」
「いつまでも出て行かないからなのよ」
「えーっと、その……魔王のことなんすけど……」
また恋の相談? あなたたちもう結婚したようなものじゃない。
「あれから全然進展しないんすけどどうしたらいいっすかね⁉」
「あ……あなたたちまだ清い関係なのよ⁉ もう何か月経ったと思ってるのよ⁉」
リオたちなんて両想いだと分かったら秒だったのに⁉
「僕だってそう思いますよ! でも全然キス以上のこと求められなくて……、僕ってそんな魅力ないっすかね⁉」
心配になるのは分かるけど、そのデカイ胸持ってて何言ってるのかしら。ケンカ売ってるのかな?
「……前、魔王は許しがないと触らないって言ってなかったのよ?」
「……あ、あれまだ生きてたんすか⁉」
「そもそも向こうからのアクション待ってないで自分から行けばいいのよ。ファーストキスだって押せ押せだったじゃない」
「あの時はだって……魔王があんまり可愛い反応するからつい……」
「“つい”でいいのよ。リーフが押したら魔王だってその気になるのよ。我慢してるだけなのかもなのよ?」
「僕からって……な、何すればいいんすか……」
「私に言わせる気? 元男だったらどうすれば善くなるかくらい分かるでしょう? 襲い受けもアリなのよ」
「受け攻めで言わないでもらえます……?」
「そういうの気にするなら腐女子に相談しないで」
「僕が襲って魔王がネガったらフィエスタさんの所為っすからね……?」
「ネガる要素ある? 上手く行ったら私に感謝しに来るといいのよ」
「すげー上からぁ……」
リーフは一応感謝の言葉を残して部屋を出た。
その日の夕食めっちゃそわそわしてた。
食べ終わると何やらリーフが魔王を見つめている。すると暫くして魔王のほうがちょっとびっくりした顔になった。
もしかして念話してた? 念話で誘ってた?
あー、照れる前に転移で行っちゃった。
翌朝、リーフは鍛錬場に現れなかった。魔王もだ。まさかとは思うけど……。
みんなで食堂に行くとふたりは既に着席していて、私の姿を見つけたリーフが凄い速さで私を拉致って行った。
こんだけ動けるなら朝錬しに来なさいよ……。
「リーフ! 手痛いのよ!」
「あっさーせん……」
「私に何か言うことでも?」
繋がれていた手を解かれ、その手でリーフは自分の顔を覆った。
「僕、オンナにされちゃった……」
んんん? 惚気?
「それは嬉しいの? 哀しいの?」
「え……嬉しい、のかな?」
「知らないのよ。心まで女性になったって話しじゃないんでしょ?」
「僕は今でも男のつもりっすよ……でもなんつーか、まざまざと女であると突き付けられたというか……」
これは複雑な話しだ。心も身体も女性だと認識してる私にはすべてを理解してあげることはできない。
「後悔してるってこと……?」
「いや、それはないっすよ……ただ心の整理が付かないというか……」
「身体を繋げる行為だけ取ってみれば男も女も関係ないのよ。戸惑う気持ちは分からなくもないけど、魔王はリーフの女性としての形を好きになったわけじゃないのよ。ちゃんとりーフのこと理解して接してるんでしょ?」
「そうっすね……僕が胸に触られたくないって言ったらずっと手を出してきませんでした……」
紳士~。こんな豊満なものを目の前に……。って、あんまり胸のこと言われたくないか。
え? 胸は触られてない?
「……ねぇ、リーフが突き付けられた女性性ってなんのこと?」
「え? だから……股間に握るものがないことっすよ」
ないほうかぁああ。まぁ、うん、いろいろBL読んできてなんとなく察したわ。元々あるのが普通だったしそうなるかぁ……。敏感な部位触ると落ち着くってやつね。
「15年間ない状態で過ごしてきたのに今なのよ……?」
「転生してからずっと自慰してないんすよ⁉ どうやって興奮抑えたらいいのか分かんなくて! 出したら頭冷えるとかじゃないじゃないっすか⁉ 女性の方は一体どうしてるんすか⁉」
「もうそれセクハラなのよ……。他に触ると落ち着くって言われてるのは……、お腹とか唇なのよ」
「……え、何それエロくないすか? 自分の興奮抑える為に相手を興奮させたら本末転倒っすよね?」
「魔王はセーブしてくれないのよ?」
「いや……めっちゃセーブもセーブ、僕が音を上げたら後始末に掛かるんすよ」
「それに不満なのよ?」
「不満は、ないっすよ……ベッド綺麗にしたら僕にくっ付いて手繋いできて……いやめっちゃ可愛い!! 僕の彼氏イケメン可愛い!!」
「惚気るなら私はもう行くのよ」
「あぁ待ってください!! フィエスタさんがアドバイスしてくれたの感謝してるんすよ……やっぱりアリストは僕が許可してないから触らなかったみたいなんす。あざっした!」
名前呼びになっとるぅうう。
恐怖心がなくなったなら目も合わせられるようになったのかな。
そういえば魔族のみんなは初代のこと「様」は付けてたけど名前は呼べていたのよね。契約すると恐怖心が薄れるものなのかもしれない。
「みんなの前でも名前呼びしたら進展したのバレバレだからやめたほうがいいと思うのよ」
「……っあ。念話で伝えとこ」
ふたりの雰囲気で察するくらいがちょうどいいのよ。
改めて、個別念話便利……。
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