#46 雑……談……?
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
「お前が俺と……そういうことを望まない限り、契約はしない」
魔王が着替えを済ませて転移してきた。そのままリーフの傍まで行くと借りていた髪紐を返す。
「……さっき、聞こえてました? 哀しませるつもりはなかったんすよ……さーせんした」
「俺も……簡単に心が揺らいでしまった。まだまだだな……」
「初恋ならば仕方ないだろう。俺も似たようなものだった」
似たようなものだったっけ……? 初代はひとりで暴走してたじゃない。魔王のほうが全然可愛げあるわ。
魔王が自分の席に座ると初代が話しを続けた。
「俺が封印のタイミングを決めるのを後回しにしたのは代替わりの可能性があると思ったからだ。もう少し仲を深めてから判断しても遅くはない」
リーフの様子から察するにもう好きの部類だと思うけど、元々男性で性的指向がストレートだったからいくら身体が女性でも魔王を受け入れられるかは別問題だ。
リオと初代の時は恐らく、体液吸収の量が尋常じゃなかった。だから1日、2日で魔素の塊ができるのが早かった。まぁ言っちゃえば、回数が必要になる。1回我慢すれば……とかじゃない。気持ちが伴わないとリーフは勿論、魔王もつらくなる。
リーフの気持ち、それが一番大事だ。
「自分ができることを見つけて……焦っちゃったのかもしれないっす。さーせん、もうちょっと考えてみます……」
「ひとりで考えないでくれ。頭だけで考えたって自分の気持ちは見えてこないから……。いろんな人の話しを聞いたり、アリストのことを知っていけばきっと答えは出るよ。俺も結構掛かっちゃったんだけど」
「……因みにリオさんは決め手みたいのはあったんすか?」
「うん? あったよ。キザシが教えてくれてさ、ゼストに同じように触らせて感じ方に違いがあれば「好き」ってことだって」
「……は?」
「その話しは今になっても良い気はしないな」
「キザシと全然違ってドキドキしたよ」
「僕、今惚気けられてます……?」
「そうだけど、自分で訊いたことなのよ」
「あれ……封印する気だったリオさんがなんで方向転換したかが訊きたかったんすけど……」
「リオの返答は強ち的外れでもないのよ……」
「触られたらもっとって欲が出ちゃって……ははっ、あの時は若かったなぁ。朝まで止められなかったよ」
惚気過ぎだから……!! DKにはちょっと刺激が強過ぎだから!!
「今でもたまにするだろう」
「不老不死じゃなくなったら睡眠不足になるから寝たいんだけど」
「む? 求めてるのはお前のほうだろう。俺が寝かせていないみたいに言うな」
なんそれ捗る。
「もう惚気はいっすよ!! じゃあリオさんは……初代に、その……入れられることに抵抗とか、なかったんすか?」
「ううん……流れでそうなっちゃって「入らないよ」って思ったんだけど、ゼストがしたそうだったから……俺も気持ちよくなってほしかったし」
「さーせん自分から訊いといてあれっすけどもういいっす……」
「済まない、余計なこと言ったかな」
私としては初夜話しが聞けてありがとうございますなんだけど、抵抗あるかないかだけでよかったのよね。
どことなく魔王も居た堪れなさそうにしている。そりゃ親のこういう話し聞きたくないわな。
「抵抗がなかったわけじゃないけど、相手のことを想えるかどうかだと思うよ」
「想う……」
リーフは呟きながら魔王を見た。
魔王はそれに気付いただろうに、少しだけ顔を背ける。恥ずかしいのかな? どんな顔すればいいのか分からないのかな?
「リーフは……なんでアリストがマイナスの感情を持ったか分かってるのかな?」
「……正直、分かりません。なんで僕の価値を過大評価してんのか……こんな普通の人間、リオさんたちに守ってもらう価値ないっすよ」
リーフは守られたくないって何度か口にしていた。大切な人が自分の為に犠牲になったことがあるのかな。屋敷でのこともそんなふうには話してなかったのに。
「俺は、手の届く範囲の人ならみんな守りたいって思うよ。たまたま近くにいた人だって守る。価値があるかないかじゃない。リーフは自分のこと好きじゃないんだろうな……。俺もそうだったからなんとなく分かるよ」
「リオさんが……?」
「きっとそれは自分で判断するものじゃないよ。価値は周りの人が見出してくれるんだ。リーフに価値があるって思ってる人はいるよ。アリストも、俺だってそうだ。今までリーフを守ってきてくれた人がいるんだろ? その人たちの気持ちまで否定しないでくれ。君が今ここにいて自分のできることを探しているのは、その人たちに報いたいって気持ちもあるんじゃないか? でもきっとリーフに見返りを求めていた人なんていないよ。君は今のままでも十分愛されているんだ。そう受け止めるだけでいいんだよ」
リーフは俯いて目を隠すように手を翳す。ぽたぽたと雫がリーフの膝を濡らす。
リオはそっとハンカチを渡した。
「さーせん……、リオさん最強説伊達じゃないっすね……」
「だからなんだよその説」
いつもの軽口だけど、少しは心が軽くなったかな。
なんか、つらそうだった人が泣いてくれると安心できる。もっと吐き出してもいいのに。
「なんとなく、言いたいこと分かりました……。魔王が本当に僕のこと好きなんだなってことも」
魔王がいつもの照れる仕草をする。
「嬉しかったっすよ、哀しんでくれて。フィエスタさんも」
今は私のことどうだっていいのよ。
「お前は……この城にいるしかない俺とは比べものにならない多くの経験をしてきたのだろう……。仕方のないことだが……リオよりも俺がお前の力になりたかった」
「……この人自分のセリフは恥ずかしくないんすかね……」
リーフまで参ってるじゃない。あなたたち何やってるの? もうくっ付けば?
まぁこれ以上私たちができることはないな。リーフの決断を待つことくらいだ。
「もう大丈夫そうだな。今日はこれで解散しよう。俺これからお店の新商品の試作作るんだけど、みんなはどうする? 味見役募集してるよ」
「私はここで絵本製作進めてるのよ。試食もさせて!」
「そういえばフィエスタさんの絵見たことないっす」
「……私今から字書くんだけど?」
「前に描いてもらった絵なら飾ってあるよ」
「え、見たいっす」
「待って飾ってるのよ⁉ それ見せるくらいなら今から描くのよ!」
「え? なんでだ?」
リオには分からないだろうけど16年前の絵とか捨てたくなるわ。あの時はブランク明け直後だったし今のほうが絶対上手くなってる。この16年ずっと何かしら描いてたから。
「できたら俺にも見せてくれ」
「試食楽しみにしてるのよ」
初代はリオと一緒に厨房に行き、私とリーフ、魔王が残った。
「……描いてる間見ないでほしいのよ」
「鶴の恩返しっすか。見てても結局小さ過ぎて見えないっすよ」
「俺が拡大魔法を使える」
拡大……だと? なんか綺麗な絵になりそうにないけど、絵本もそんな感じになるって目安になるかも。A4じゃなくてもう少し大きな紙にするか……。
ふたりが契約して私が人間サイズにならなくても、初代は元から拡大魔法使うつもりだったのね。
「じゃあふたりは雑談でもして待っててなのよ」
「雑……」
「談……?」
息合ってんなぁ。
「フィエスタさんはいつから絵描いてるんすか?」
結局私の話しか……まぁいいけど。
「子どもの頃からずっと。勉強そっちのけなのよ」
「フィエスタさんは実は勉強できない人なんすか?」
「うるさいのよあんなの人生の役に立たないのよ」
「妖精の寿命は長いが……何百年も描いているのか?」
「あー、えっと……今じゃ紙はここでしか作られてないから長い期間描けなかったのよ。何百と続けてたらもっと上達してたんだろうけど」
「十分達人の域だと思ったが……」
「達人て」
全然そんなんじゃないから……!! 前世でいろんな絵を見てるだろうリーフの私への期待が膨らむからやめて!!
「私なんてただ趣味で描いてるだけなのよあんまり期待しないで……ほら、描けたのよ」
「早っ」
「そこに置け、……<エンラージメント>」
拡大された絵は、やっぱり線ごと太くなってるから微妙な出来だわ。ピンぼけ写真みたいな。
アルメーラが作ってくれた妖精サイズのペンは人間の筆圧じゃ砂になりそうなくらいかなり細く作ってくれてはいるんだけど、拡大することは想定されてない。そりゃそうだ。
「……上手いっすけど、感動できない出来っすね……」
「拡大しちゃったらこんなもんなのよ……」
「飾られた絵の線はもっと細かったが……?」
「あれは私が人間サイズになって描いたからなのよ」
「そうか……リオがマナをコントロールできたからか」
「……どゆこと?」
事情を知らないリーフの為に一から説明した。勇者は膨大なマナを扱うのが難しいこと、主側が従者側のマナをコントロールすることで勇者でも魔法が使えること。従者側が主側の姿に寄せられるのはもう知ってるから割愛。
「じゃあ僕も本当は魔法が使えるってことっすか⁉」
「リオは才があったが……扱えるかはやってみなければ分からん」
「使ってみたいっす……本当に“永遠”だけがネックっすね魔王との契約は……」
「私もまた人間サイズになれたら嬉しいけど、絵本の絵はもっと簡略化するのよ。ちょっと待って……こういうのはどうなのよ?」
再び魔王がエンラージメントを使い拡大する。
「おー、ちみキャラっすね。さっきより見れる」
「ううん……これでもいいけど細いペンでなぞればもっといいのに。でも色塗ってからじゃ……ううん」
「流石出来にこだわりますね」
「だって全世界に売り出すのよ……? 下手な出来のものを世に出すなんて私を殺す気なのよ……?」
「え、下手なもの出したら死ぬんすか?」
「少なくとも引き籠るのよ」
「クリエイターめんどくさっ」
「お前たちは……随分仲が良いな。逢って間もないだろう」
特に嫉妬してるわけでもなさそうだ。単純な疑問かな。
「なんすかね? フィエスタさんは普通に話しやすいっすよ」
「リーフがツッコんでくれるから会話のテンポが良く感じるのよ。私別にボケてるつもりないんだけど。リーフがツッコミ体質なのよ」
「え、知らんかった……」
「ツッコミ……ボケ? 会話を弾ませる技術か何かか?」
「まぁ、そんなとこなのよ。エリシオンもよくツッコミ入れてるのよ?」
「ああ、あの騒がしい宝剣……」
【聞こえてんでー!】
「あれがツッコミなのよ。リーフと会話弾ませたいならボケればいいのよ」
【乱暴やな】
「……ボケとは、具体的には?」
めっちゃ弾ませたいんだなぁ……この発言でもう私もエリシオンもツッコミたくてうずうずしてるんだけど。
「魔王はそのままで、天然路線でいいのよ……」
「天然……?」
「ほらリーフ、ツッコんで」
「いや無茶言わんでくださいよ……可愛いとしか言えない……」
ダメだ、ツッコミのキレがなくなってる。
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