#43 うだうだ
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
「俺たちが動き始めるのは妖精の絵本製作が終わってからだな。それよりも前に、アリストと勇者はもう少し話し合う必要がありそうだ」
「待ってくれゼスト、今話し合っても多分ぶつかるだけだよ。意見を出し合うとかじゃなくてさ、……身体を動かしたほうがいいんじゃないかな!」
出た、体育会系のノリ……。リーフはいいけど魔王は文系なんだって。
「何故そうなる……?」
「手合わせでもそうなんだけど、相手の性格とか何を考えてるのかが分かってくるんだ。言葉を交わすよりも近付けた気がする……って、リーフは分かるよな?」
「あ、はい……分かります」
「なるほどな……分からんでもない」
「……ゼストが考えてるのとはちょっと違う気がする」
初代の含みのある言い方は完全に夜の話しである。
「アリストは剣は嫌なんだっけ。じゃあ弓にしようか」
会議は解散となり、各々休日を過ごす為にバラける。
私はどこでも書けるし紙とペンだけ持ってリオたちに付いていった。
「絵本ってどのくらいで描けるものなんだ?」
「私も初めてだから分からないけど、お話しは決まってるんだし数か月……半年かな? あれば終わると思うのよ。でも絵をちゃんと描き始める前に初代に監修してもらいたいのよ」
「主人公の気持ちに沿わないとだもんな」
「絵本としての魅力を上げる為ならば多少想像を入れてもいいと思うが……」
「初代の本心を入れないときっと心を動かせる絵本にはならないのよ」
「……人間の心の動かし方などよく知らん。妖精の指示に従おう」
そうこうしていたらすぐに弓道場に着き、髪を纏める。放つ時に絡んだらめちゃくちゃ痛そうだしな。
元々初代だけだったこの弓道場はそんなに広くない。同時に的前に立てるのはふたりまでだ。魔王が向かって右、リーフが左に並ぶ。魔王に背を向けるより背を見られる位置のほうがきっと集中しやすい。
初代が基本的な構えを教えてる間に、魔王が1射放った。その音にリーフの耳が反応する。
流石に初代仕込みの所作が美しい……。
「アリストの真似をして射ってみろ」
初代がリーフから離れる。
魔王の動きを真似ながら弓を引き分ける。剣を使ってるだけあって筋力は十分だ。体幹もブレずに保てている。
魔王が放つ姿まで横目で見ると、的に顔を向け、放つ。
「アリスト外したな。リーフに見られて緊張してるのかな」
「……うるさいぞリオ。気が散る」
「済まない」
全然済まなそうじゃないんだけど。魔王はリオに対して生まれた時から反抗期みたいな態度だったしもう慣れたものなのかな。
勇者の膨大なマナの所為で嫌ってるだけだと思ってたんだけど、なんだろ、今更態度変えられないって引っ込み付かなくなってるだけ?
「勇者は腕に力みがあるな。筋力だけで引こうとするな。それと肩の位置だが――」
「ゼスト」
リーフの肩に触れそうだった手はリオの呼び掛けによって止まった。
リオの嫉妬心からじゃない。魔王を嫉妬させないように触るなと目線で伝えている。やっぱり魔王の気持ちに気付いてるよね。
「引き分けた状態でも的に対して垂直になるよう意識しろ」
「……? はいっす」
リオと私がいる壁際まで下がって来た初代は小声で話した。
「指導に熱が入り過ぎて失念した。ありがとうリオ」
「アリストは……どうするかな」
「……互いに気付いていないままではどうしようもない。そもそも恋愛感情から来るものなのか俺には判断できん」
「俺もよく分かんないよ……」
ふたりともが初恋で結婚しちゃったからな……経験が少な過ぎる。
「……なんか、ふたりとも集中力凄いな」
ふたりが会話をやめれば弓の音と衣擦れしか聞こえない。
集中してると言っても全部的に当たってるわけじゃないけど、お互いの存在を俯瞰して見られている感じがする。相手がそこにいて、何をしてるかが見なくても分かる。ゾーンに入ってるような。
凄く、息が合ってる。
矢がなくなったことに気付き、ふたりは今の不思議な時間を確認するように顔を合わせた。
「……」
「……」
初めてじゃない? リーフがまともに魔王の顔を見られたの。
なん……この……青春の1ページ……。
「うわ……めっちゃイケメンだ」
何その第一声?
それを聞いた魔王の反応は、口元を手で覆って顔を背けた。
え、これ、照れた時の……。
「……俺は多分、お前に恋をしている……」
い……、言ったぁああぁあ!!!
親のいる前で言うとは⁉ 親たちもびっくりしてるわ!!
「……鯉?」
今故意に変換間違えたな?
「僕、言ったじゃないっすか……、中身……心は男だって」
「それほど重要なことか……? お前を女として見てるわけではない。お前の声、表情、言動、すべてが俺の心を搔き乱す。姿が男であってもきっとそうなった。……いや、悪い、これは俺の一方的な想いだ。お前を困らせたいわけではない……俺が傷付くとか、考えなくていい……嫌ならそう言……いや、待て、少し、頭を冷やしてくる……」
告っちゃったことに動揺して弓道場を出ていってしまった。これはひとりにさせたほうがいいな……。リオと初代もどうしたもんかと動けずにいる。
リーフはというと、勢いよくその場にしゃがみ込んだ。
「なにあれ……可愛過ぎでしょ……」
おおぉ好感触だった……。
「イケメンなのになんで可愛いの意味分からん……」
「リーフ……顔真っ赤なのよ」
「……なんか熱いと思ってたっす。風邪かな?」
この期に及んで何を誤魔化そうとしてるの。
「そう思いたいならそうすればいいのよ。相談ならいくらでも聞くのよ」
「なら聞いてくださいよ……なんで親がいる前で言うかなぁ……」
「それは思ったけど」
「リーフも考える時間が必要かな? 勇者だとか魔王だとか置いといて、アリストのこと考えてあげてくれ」
「……はい」
先に親公認になってしまった。付き合ってもいないのに……。
リオと初代は気を利かせて弓道場を出てリーフをひとりにした。私はいるけど。
リーフとふたりきりになるのは久し振りだ。
「……満更ではないような反応だけど?」
「……僕、告られたのとか初めてで……単純に嬉しいっていうか」
「はぁ……甘酸っぱいのよ。でも本当にそれだけ? 好意のない相手から告白されたってなんとも思わないものだと思うけど」
「……そういうもんすか?」
「もしシエラやルーミーにガチの告白されたとしたら、どう思うのよ?」
実際に想像してるのかリーフは腕組みしながら斜め上を見た。
「いや、そりゃ……嬉しいっすよ? 逢ったばっかなのに告られる想像とか申し訳ないんすけど……」
「気持ちは察するのよ。でも私が言いたいのは告白してきた人に対してどう思うか、なのよ。「こいつ可愛い」ってなるのは顔以外でなかなかないと思うんだけど?」
リーフはさっきのシーンを回想してるのか少し黙った。
「いつも口数少ないのに、さっき、なんかめっちゃ喋ってたじゃないっすか。顔にあんま出てなかったけどテンパってたんすよ……いや可愛いでしょ⁉」
「紛れもなくリーフの好みのタイプってことなのよ」
「だって……僕も男……」
「リオと初代だってリアルBLなのよ。ノアも言ってたでしょ? 同性だからナシって決め付けるのは良くないのよ」
「フィエスタさんは腐女子だからそういうことにしたいんすよね?」
「もう! 面倒臭いのよ! 確かに腐女子だけど! 自分に正直にいなさいってことなのよ!」
「正直ったって……」
なんなのさっきからうじうじと……さっぱりしてる子だと思ってたけど恋愛となるとこんなんなっちゃうの?
「嬉しいと感じた気持ちを大切にするのよ……受け売りだけど」
「……誰のっすか?」
「シエラなのよ」
「……フィエスタさんとの説得力の差!!」
「もう! シエラに相談すればいいのよ!」
「待って! 見捨てないでくださいよっ!」
相談に乗ってあげてるのにすぐ茶化すのやめてよ! 真面目に話したくなくなってくるわ!
「……さっきの会議で主張してたリーフの自己犠牲は、魔王への憐憫から来てるわけじゃないんでしょ?」
「れんびん……?」
「憐れみ! 可哀想って意味なのよ!」
もっと本を読みなさいよDK! 話しの腰を折らないで!
「……自己犠牲とか、そんな格好付けたやつじゃないっすよ。僕が我慢すればいいだけならそのほうが楽なんす。誰かの為とかじゃなくて、自分の為っす……」
「それでピンと来なかったのよ……。魔王はずっとリーフの為に公表はしたくないって主張してたのよ」
「え……?」
リーフは会議での魔王の発言を思い返したようだ。あ、マジだ……と気付いて居た堪れなさそうな表情になる。
「初代が言ってた、魔王と同じことしてるって……僕みんなに魔王の為に反論してると思われてたってことっすか⁉」
「そうなのよ。違ったことにびっくりなのよ」
「なんすかその痴話ゲンカみたいな会議……僕はそんなつもり……。確かにリオさんと初代の話しを聞いた時から“魔王”ってキツイ役割だなって思ってはいました。けどだからって人の為に身体張ろうとかいう気概は持ち合わせてないっすよ」
「そう言われるとそんなキャラに見えないけど……私リーフのことよく分かんないのよ。知り合って間もないっていうのもあるけど、魔王以上に何考えてるか分かんないのよ」
「それは言い過ぎっすよ……」
「リーフは気付かなかっただろうけど、魔王はあなたにひと目惚れしてたのよ。分かりやすく」
「……ひと目って、やっぱり女の見た目じゃないっすか」
「姿形じゃなくて……ってこれは魔王に訊くのよ。とにかく、うだうだ考えてる時点で脈ありなのよ! じゃなきゃ普通「有り得ない」って切って捨てるんだから!」
「……ぐぬ」
論破してやったわ!
Copyright(C)2023.鷹崎友柊




