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#42 外堀埋めまくられた

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。




「俺が公表の役目を負うよ」


 勇者以外が何を話したところで誰も耳を貸さない。単なる与太話しとしか思ってもらえないだろう。

 つまり、


「それって……先代勇者のリオ・フィールダーだってことから公表するってことなのよ……?」

「そうだよ。全部話す。そしたらリーフが非難されることはないだろ? フィエスタも妖精のみんなから冷たい目を向けられることはない。どうかな?」


 どうかな……って、そんなの、どうなるのかすぐには想像できない……。みんなも考え込んでいる。

 きっと初代とは昨日話してるんだ。なんの動揺もなく聞いている。

 リーフは何か言いたそうだけど二の句が継げないでいる。


「ゼストの意見も聞くよ。人間たちはどんな反応になると思う?」

「まぁ、まず信じてもらえないだろうな。だが300年の空白期間のこともある。辻褄が合っていることに気付く者が一定数いる。それと禁断の恋というのは民衆の受けが良い」


 キザシもシエラも案外すんなりと受け入れていた。そういう人たちは他にも絶対にいる。


「ここからがデメリットだ。獣人でなくともリオに非難の声は上がる。リオは……あまり精神的に強くない。お前が塞ぐ姿は見たくないのが俺の本音だ……」


 獣人ほど差別的な言葉は少ないだろう。リオは一応英雄とまで祀り上げられた存在だ。それでも裏切り行為だとか魔王に操られてるだとかきっといろいろ言われる。

 私の想像以上のことをするのが人間だ。戦争をしたくない人が大多数なのに、少数派の意見が押し通ったりする。そういう世界だ。


「公表した場合について、先にアリストが被るデメリットを話そう。こちらに戦う意思がないと分かれば勇者を特定した時点ですぐに寄越し、封印しに来るだろう。問題は勇者誕生から覚醒までの間だ。魔王の機嫌を取ろうと考えるやつらも出てくる。貢物、生贄は捧げられると考えていい。それが煩わしく思惑とは逆に人間に被害が出る可能性がある。放っておけと言っても何かやらねば落ち着かず何かしら干渉してくるだろう。……なるべく穏便に済ませようと考える者がいれば争いを考える者もいる」


 初代は一度仕切り直し、この先は心して聞くように言った。


「不老不死である魔王を終わらせられるのは勇者の封印術のみだ。アリスト暗殺の線はないにしても危険なのは俺たちだ。魔王に加担する者として命を狙われるだろう」

「アリストがマイナスの感情を持ってしまったら人間が被害に遭うのに?」

「アリストを感情がある人間だとは考えない。やつらにとっては魔王でしかないんだからな。先に人間を襲ったのだからやり返すのが当然、という思考回路だ。リオが公表するならば店の従業員は何も知らなかったで通すほうがいい。それでもお前たちの肩身は確実に狭くなる。一番気掛かりなのはセリカだな……学校でイジメに遭う可能性が高い。学校だけに留まらず、誘拐や脅し、最悪は見せしめにされることも有り得る」


 全員の血の気が引いていく。

 セリカはもう学校に行っていてこの場にいないのは幸いだった。とても聞かせられる内容じゃない。


「リオが公表するデメリットはかなり大きい。こうした過激派を抑える最善の有効手段はシュタインメッツ王に協力を仰ぐことだ。どの程度動くかは分からんが、そうした者らに重い罰を与えると公言させる……それでも実行に移すやつはいる。油断はできんだろう。随分長くなったが、自分の意思を決める為に何か聞いておきたいことはあるか」


 みんなセリカの話しを聞いて口が重くなっている。公表なんてしないほうがいい、そんな空気だ。

 リーフが公表し犠牲になったほうがいいとさえ思えてくる。でもそれは魔王が反対してるから実現はしないだろう。

 それなら次の勇者に託すしか……。


「決まりだ、父上。公表はしない」

「待ってください! 何も、今すぐ公表するわけじゃない……たとえばセリカちゃんがもっと大人になってリオさんたちがおじいちゃんになってからでもいいっすよね? お店はもう畳んでるだろうし、被害はもっと抑えられます!」

「確かに公表のタイミングによってはそうなるな。だがアリストの封印はどうする気だ? 平和が訪れ何十年と経ってから公表しても不信感が募り、真実を受け入れようとはしないだろう。それとも公表する直前までアリストを封印せずに勇者でい続ける気か?」

「……何か問題ありますか」

「……16年しか生きていないアリストの精神はまだ不安定だ。長い間お前が勇者としての責務を果たしていない状況に人間たちは気付く。そしてどう思う? やはり獣人に勇者は務まらないとお前は益々見放される。その後に公表しても何故早く封印しなかったとお前への批判が強くなるだけだ」

「いいっすよ僕がどう言われたって! 公表しなければ魔王は勇者と、そ……そういう関係にならないと永遠に戦い続けるんすよね⁉ そのつらさは初代のほうが分かってるでしょう⁉ 次にどんな勇者が来るか分からないんだから、僕がやったほうが確実っすよね⁉」

「……何故お前がそこまでする必要がある? つい先日逢ったばかりだろう。お前自身が進んで犠牲になろうとするのは何故だ?」


 初代の問いに、リーフはぽかんとした顔をした。今気付いた、みたいな顔だ。

 え? 無自覚なの?


「……アリストがお前と同じことをしてるのも分かっていないのか?」

「……同じ? だって意見は食い違って……」

「……まぁいい、お前自身で考えろ」


 リーフももしかして魔王のこと……? 自覚は全然ないみたいだけど可能性あるな。代替わりまでできちゃったりして……。

 ふたりがくっ付こうがどうなろうが勇者と魔王の関係はこの先も続く。何か行動を起こさないと繰り返すだけになることに変わりはない。


「ちょっと、いいか」


 そう言って挙手したのはキザシだった。セリカの親として何を話すんだろう。

 みんなの視線が集まる。


「場を作って公表したとして、全国民が一斉に聞くわけじゃねぇだろ? こっちの主張が広まっていく間に捻じ曲げられる可能性がある。だからそれよりも前に、下準備がいるんじゃねぇか?」

「下準備って?」

「たとえば、フィエスタが絵本を作って世界中に売る」


 は……はぁああぁあ⁉ 何がどうなってそうなった⁉


「初代を主人公にすれば世界の理も心情も含めて子どもにも分かりやすく伝えられる。それを売って真実を広める。フィクションだと思われても構わねぇ。周知させられればいい」

「絵本って魔石で見るやつか? フィエスタみたいに繊細な絵は表現できないと思うけど」

「紙でいいだろ。無料配布だと流石にやり過ぎだから金は取る。ただし安価でな。過去の遺物である紙を使えば話題性十分だろ?」


 やり手経営者かよ……! いや実際そうなのか!


「ゼスト、どう思う?」


 待って私の意思を先に訊かないの⁉


「いきなり真実を突き付けるより先に周知させるのは良い手だな……ガキのくせに経営の才はある」

「普通に褒めらんねぇのかてめぇは」

「絵本を広め、セリカが十分成長したのちにリオが公表すれば今のところ最小限のリスクに抑えられる。封印のタイミングは追々考えるとしよう……。この戦略は魅力のある絵と心を掴む物語が必要になる……妖精の腕に掛かっているとも言えるな」


 な、なんか責任重大なんですけどぉおお⁉


「ふたりはどうかな?」

「……俺は、それで構わない。父上たちが危険に晒される可能性は消えないが……遅かれ早かれ死に別れる運命だ。受け止められるよう心を鍛える」

「うん……親のほうが早く死ぬものだからな」

「……結局、僕ができることってないんすかね……」

「アリストが心穏やかでいられれば多分誰にも何も言われないよ。だからリーフにできるのは、勇者でい続けること、だよ。俺は耐えられなかったから……リーフもつらくなったら誰にでもいいから言ってくれ。どんなタイミングであってもアリストを封印して勇者をやめていい。後のことなんて考えずにさ、俺たちのことを頼ってくれ」

「……はいっす」

「遅くなったけど、フィエスタ、やってくれるかな?」


 Noって言える雰囲気じゃないぃいいぃい!!

 外堀埋めまくってから訊かないでよぉおおぉお!


「わ、分かったのよ……やるだけやるけど、あんまり期待しないでなのよ……。それと! これだけは言わせてもらうのよ! カラーペン作って!!」


 白黒の絵本とか恋愛ファンタジーが台無しじゃん! アルメーラじゃなくても初代なら作れるはず!


「色か……発想がなかったな」

「抽出するのはお花でも果実でもなんでもいいのよ。1本1本別の色でペンを作って。子どもも楽しむ絵本なんだから見た目も華やかなほうがいいのよ?」

「分かった、作ってみよう。これだけは必要という色はあるか」

「リオの赤髪と翠眼の色は絶対作って!」

「それは最優先だな」

「主人公はゼストなんだよな……? まぁいいか……。みんな、それでいいかな? 少しでも気掛かりなことがあれば言ってくれ。勿論後々出てきてもちゃんと聞くよ」

「あの……ひとつ質問よろしいですの?」


 キザシと同じく挙手をして発言したのはリヴィナだ。


「絵本には字が付きますわよね? 今この世界の識字率はどうなっていますの?」

「学校制度が始まったのが大体半世紀ほど前だ。高齢になればなるほど識字率は低い。学校で子どもに教え、その子どもが親や祖父母に教えてくれればいいんだがな。ひと先ず絵本を手に取る機会のある親世代から広めることになるだろう。学校で教材として扱われるにはシュタインメッツ王に頼むしかない」

「絵本の広まらない世代の反乱に注意ですわね」


 流石にセリカのことが心配なんだろう。

 タイミングがいつになるかは分からないけど少なくとも30年以上は水面下での活動になる。そうなれば字を読めない年代はある程度寿命を迎える。上手く行けば初代の恋物語と世界の理が世界中に周知される。

 なんか凄い計画だ……本当に責任重大だよ大丈夫か……。妖精サイズの絵しか描けないよ……。リーフが魔王と契約してくれればまた人間サイズになれるんだけど……。

 ん? 望みなくはない?

 実際のところどうなんだろ。リーフの気持ちが全然分からない。

 まぁ私がまずやるべきなのは、初代の恋物語を纏めるところからかな……。二次創作のマンガなら描いてたけど絵本製作は初めてだよ……。

 でも、ちょっとわくわくする。


Copyright(C)2023.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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