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#04 恋愛初心者ども

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。




「寂しかった……って、俺と一緒にいた時間のほうが少ないくらいだろ? どういうことだ?」

 リオ、本当にそういうことに疎いんだから……。

【俺もこんな感情が自分にあると初めて知った……】


 あぁああぁ恋愛初心者どもがぁああ!!

 生涯オタクの私が言えたことじゃないけどここまでじゃない! 私だって人並みに恋愛は経験してるし、“察する”に関してはこのふたりに比べたらプロよ! これを隣で聞かされてる私の身にもなって⁉

 めちゃくちゃツッコミたいけど我慢よフィエスタ、外野が口出しするのは要所だけが理想!


「魔王は意外に純粋なのよ。リオ、いくら魔王が何万年生きてようがなんでも経験豊富とは思わないほうがいいのよ」

【そうだな……。俺は城の周りの森からは出られないし、活動していられる間は勇者一行が来るのを待つくらいしかやることがない……】


 思った以上に引き篭もり生活だった……。


「通りで戦いになると生き生きしてると思った。私室でのゼストと印象違ってびっくりしたよ」

【その話しはやめろ……思い出させるな】

「もしかして気にしてるのか? 分かってると思うけど俺はああいう性分なんだ。ゼストの所為じゃない」

【いや……俺の所為にすべきだ。……まさか、初めから死ぬつもりだったのか?】

「そこまでは思ってなかったよ。あれは事故だ。ちょっと当たりどころが悪かっただけ。済まない、気負わせることになってしまって……」

【そこまでは……か】


 好意を寄せた相手を自らの手で殺すなんて、事故だったとしても魔王の気持ちを思うと私まで胸が苦しくなる。


【有無を言わせず不老不死にされたこと、お前はどう思っている?】

「……フィエスタに聞かされた時から……これからどうしようかな、って」


 笑いながらそう言うリオは明るく見えるけど、途方に暮れた迷子のようにも見えた。


【……生きるのが辛くなったら、俺を封印すればいい】

「うん……」

【脅しのようになるが、もしお前が己のみを封印すれば新たな勇者は生まれない。俺を封印する者がいなくなる……それが何を意味するか、分かるな?】

「分かってる……、そんな判断はしないよ」

【リオが永遠に傍にいてくれるなら……俺はいつ封印されても構わない】


 く……っ、急に甘い雰囲気出さないで。

 魔王のほうこそ初めから封印される気で勇者一行を待ってたんじゃないの、とか、いろいろ思ってたのが吹っ飛ぶわ。

 口説いてるとかじゃなくて素で思ったこと言ってるんだろうな……。色気の塊みたいな人がなんて性質してるんだ。


「まだどうするか決めてるわけじゃないけど、どうなっても、できるだけ寂しくさせないよ」


 ぐ……っ、リオたんまでイケメンな返し……。

 私だけなの? この会話を居た堪れないと思っているのは……。

 いいからお前ら、はよくっ付け……。




「な……んだ、これは……」

「リオの故郷、アーデンなのよ」


 念の為髪を下ろしフードを被ったリオは自身の故郷の変貌ぶりに言葉も出ないようだった。

 村と言われていたアーデンは、今や観光業で栄える町になっている。そりゃ驚きもするわ。

 その命を持って世界を平和へと導いたリオは英雄として祀り上げられ、像は造られるし魔法絵本になっていたりと、伝説として語り継がれる存在になっている。


「英雄リオの愛剣エリシオンキーホルダーなんかもあるのよ」

「えー……、でもちょっと欲しいな。ゼストにあげたら喜ぶかな」

「喜びそうではあるけど、自分で稼いだお金であげなさいなのよ」

「ごもっとも……」


 魔物の姿である魔王はもちろん町の外に置いてきた。観光客も多いから結構離れたところに。早く帰らないとまたどこかの誰かが犠牲になってしまう。


 リオが生き返ってから1か月以上経つけど、例の土砂崩れの一件から英雄リオ熱が上がってきている。実はあの後空の棺の中にダミーを入れておいたのだけど、騒ぎになっていないからバレなかったらしい。再び丁重に埋葬されたものの、消えた愛剣は盗まれただのなんだの言われている。その所為なのかキーホルダーの在庫も少なそうでバカ売れしてると見える。


 ひと通り見て回り、生家があった場所は外からの見学のみで、入れないように柵で囲われていた。


「時の流れはこうも懐かしさを失わせるんだな……。もうここは俺の故郷とは言えない場所だ」


 寂しそうに笑うリオに何も言ってあげられない。リオの帰る場所はもうないのだから。


「宿に泊まっていく? 久し振りにベッドでゆっくり寝るといいのよ」

「そうだな……」

「夜のうちなら魔王も町に入ってこられるはずだし、後で呼ぶのよ」

「うん、お願いするよ。故郷を見るって目的も果たしたし、移動販売の準備をしないとだな。自信がないって理由でいつまでも無職なのはフィエスタに申し訳ない」

「自信なんて後からでも付いてくるものなのよ」


 観光客向けの宿屋のひとつに入りチェックインを済ませる。

 部屋の鍵を受け取って、客室へは魔法エレベーターで向かう。鍵を翳せば目的階まで直行してくれる、転移魔法の亜種みたいなものだ。


「わー、便利だなー」

「これの開発のお陰で高層の建物も建てられるようになって土地が安く済むのよ」


 宿泊階に着くと、目の前にはドラゴン退治の時の口悪美少年がいた。


「あれ、君は確か……」

「あ?」

「奇遇だな。観光か?」

「あー、あの時の説経野郎か。知り合い面して話し掛けてんじゃねぇよ」


 相変わらず口が悪い美少年だわ。

 魔法エレベーターの陣に入ってくるのでリオは場所を明けて入れ替わりで陣を出た。口悪美少年はすぐに転移して行ってしまった。


「……嫌われているのかな」

「嫌味なだけなのよ。次に逢っても相手にしなきゃいいのよ」

「そういうものか……」


 今まで勇者として周りから期待されるばかりで、リオはああいう態度をされることがなかったかもしれない。リオの性格も人に愛されやすく敵を作りにくいものだから尚更。


 部屋に着いて荷物を置くと移動販売についてその手段やメニューなんかを話し合った。

 夕飯は昼間に買っておいた物で済ませる。魔物の角を入れないといけないリオは外食できないことを少し残念そうにしていた。


 夜も更けてきた頃、魔石を使い魔王を呼ぶ。この魔石は念話の応用で開発された通信装置だ。今や必需品と言えるけどそれなりに高価ではある。魔王が最新魔法具を持ってるわけもなく、仕方なく私が買ってあげた。

 今度魔王城に行った時に絶対徴収してやるんだから!

 魔王が別の部屋に入ってしまわないように窓を開け、近くに灯りを置く。暫くして魔王が窓から入ってきた。


「大丈夫だったか?」

【夜中になってもそれほど暗くないのだな】

「灯りも技術が進んだから夜更しする人も多いのよ」

【……む?】


 何かに気付いた魔王の視線の先を見れば、空中に人形(ひとがた)が浮いていた。

 と思ったら蝶番ごと外れたドアがすぐ傍を通り過ぎていった。壁にぶつかってまた凄い音が立つ。

 動けなかった私と違って流石は勇者と魔王。機敏に避けている。リオは剣を取り鞘から抜く準備までしていた。


 ドアを蹴破った犯人は、口悪美少年だった。


「君……⁉」

「あ? またてめぇらかよ。それよりなんで魔物がここにいやがる」


 私たちへの相変わらずの挨拶の後、魔王と改めて対峙する口悪美少年は表情が強張った。


「……⁉」

「……っ」


 まさか魔王の気配を感じ取って恐怖している⁉ 事情を知ってるからこそリオたんの眉間の皺が色っぽく見える! ってそんなこと思ってる場合じゃないわ。


「ただの魔物じゃねぇな……」

「ま……待ってくれ、こいつに敵意はない!」

「てめぇ何言ってんだ頭湧いてんのか⁉ 仲間でも呼ばれたらこの町にどれだけの被害が出ると思ってやがる!」

「大丈夫だ、寧ろいたほうが寄ってこないし……」

「お前まさか……魔族か? だから魔物を庇ってんじゃねぇだろうな⁉」

「……っそ、そうだ」


 ちょっと待ってリオたんそんなこと言ったら敵認定されるでしょ⁉


「魔王が復活してるって噂は本当らしいな……。魔族なら容赦はしねぇ……」

【おい、そこのガキ。リオに手を出したら俺も黙ってはいられんぞ】

「魔物が……喋った⁉」


 ちょっと魔王まで出張ってこないでよぉおおもう収拾つけられる気がしないからぁああ!


【お前は敏いようだ。俺の正体に察しが付いているのだろう?】

「……っ、ゼスト……あんまり恐怖心を煽るような、言い方は……っ」


 顔が赤くなって若干涙目なリオたんクソかわたまらん……。


【……悪かった。人ひとり分どうってことないんだが、お前にはまだ耐性がなかったな……】

「おいおい……、伝説の勇者と魔王の名前なのは単なる偶然か……?」

「とりあえず、話しを聞いてくれないか……君が何もしないなら、ゼストだって手を出したりしないよ……」


 場にそぐわない息も絶え絶えなリオに怪訝な顔をしつつも、口悪美少年はその場に座った。そして式を床に貼り自身の周りのみの簡易結界を張る。


「話しだけは聞いてやるよ。始末するかはその後だ」

【俺を前にしてよく言えたものだな……】

「ゼスト、折角聞いてくれるんだ。だから、もう……勘弁してくれ……」

【……む。悪い……発言が癪に障るのでついな。態とではない】

「……さっきからお前、様子が変じゃねぇか?」

「う、うん……これは、気にしないでくれると有難い……」


 少しリオの息を整えてから、改めて話しを続けた。


「まず自己紹介しよう。俺はリオ・フィールダー。この村……いや、町の出身だ。300年振りに来てみれば随分様変わりしてて驚いたよ。で、こっちは妖精のフィエスタ。俺が勇者してた時からの仲間だ。それとこの魔物なんだけど、今は魔王ゼスト・ヴェラールが操ってる。仲間……ってことになるのかな? まぁ敵対はしてないよ」

「……情報量多過ぎねぇか。とりあえず、マジの勇者と魔王なんだな……?」

「そうだよ。最終決戦から順を追って話そう。それより先に君のことはなんて呼べばいいんだ?」

「はぁ? 今必要かよそれ。……キザシ・スターレットだ」

「変わった名前だな。故郷は遠いのか? そういえば陰陽術を使うんだったな」

「俺の話しはいい。さっさと続きを話せ」


 リオは最終決戦前の魔王の私室での話しは端折り、生きててほしいからという理由で不老不死にされた、とざっくりと話した。そうして300年を経て息を吹き返したこと、勇者であるリオのマナを感じて同時に魔王も目覚めたこと。魔物が人間を襲う理由も。


「そもそもなんだって魔王はてめぇを生かしたがったんだ?」


 まぁ気になりますよねー。そこを抜きにして語れない話しなのよ。


【本人がいるんだ。俺に訊けばいいだろう】

「……こいつがあえて話さなかったってのはなんとなく分かるぜ。言いにくい理由なんだろ? 魔王にとってはそうじゃねぇみたいだが? お前の反応で大体把握した」

【……話しが早いな】


 え、分かったの? マジで? 理解早過ぎない? 察しのプロどころか神なの?


「お前も災難だな。何万年と生きてるジジイに見初められるなんざ」

「……えっと……見た目は若いぞ?」

「声でそれぐらい分かる。で、返事は保留か? 脈がないならさっさとフっちまえ。いつまでも付いてこられたらただのストーカー野郎じゃねぇか」

「わ、分からないんだ……。誰かを好きなったことがないから……脈がないってどういう心情なんだ?」

「おい待て、俺は恋愛相談される為に話しを聞いたってのか? クッソくだらねぇ……」

「それは置いておいて、あなたは今の話し信じたのよ? 結構荒唐無稽だと思うのだけど」

「あ? まぁ辻褄は合ってる……。不老不死ならあのドラゴンと考えなしに対峙したのにも納得できる。ただの死に急ぎだと思ってたからな」


 そんなこと思ってたのね……。まぁ私もちょっと思ってた。


「同性愛については、特にないのよ?」

「俺には関係ねぇ話しだ。そこの恋愛初心者が魔王に喰われないよう精々気を付けな」


 あー、魔王もその初心者なのだけど……プライドの為に私から言わないほうがいいかな。


【リオを食うつもりはないが? 人は食わん】

「……は?」


 おおお、童貞発言やめてーーー。

 私にはもう止められないわ……。


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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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