#38 元勇者VS.現勇者
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
翌朝、リオはリーフを誘って鍛錬場へ行った。
ノアも一緒に素振りや型稽古をして、初代と魔王は転移で送ってくれたついでに見学だ。
やはりと言うべきか元勇者VS.現勇者の試合が始まる。
お互い普段のんびりした性格だけど試合だと別人だわ。ふたりとも格好いい。
ノアと一度手合わせしたからか流派独特の剣筋は読めている。けれどリオの無駄を削ぎ落した動きにギリギリ付いていけている感じだ。なかなか攻撃の手を出しづらそうにしてる。間合いを取ろうとしてもリオがすかさず距離を詰めてくる。
リーフが反撃しようとした時、一瞬の隙を突いてリオが一撃、寸止めした。
「……っはぁ、リオさん強っ!」
「ははっありがとう。ノア以外でこんなに打ち合えたの初めてだよ。勇者に選ばれるだけあるな」
「こんなの毎日相手してたらノアさんもそりゃ強くなりますね」
「ノア、ちょっと……」
「ん? 何よ」
何やら耳打ちをし始めるフィールダー兄妹に周りがハテナを飛ばす。
「やだっ、ちょっとリーフこっち来なさい!」
「はい?」
ノアに手を引かれて向かった先に私も付いていく。小さな部屋の中は簡易的な更衣室になっていた。
「いくら心は男性だって言っても身体は女性なんだからね⁉ 気を遣いなさいよ!」
「気?」
「透・け・て・る・の!」
「……あ」
元々薄着だしシャツが汗で貼り付いている。改めて思うけど、リーフの胸デカイな。流石に刺繍の可愛いやつじゃないけど下着は下着だし透けてるのはちょっと……いやかなりエロい。
リオはどこの時点で気付いてたんだろうか。
「インナーくらい着なさいよね……私の貸してあげるわ」
「え、いいっすよこの後お風呂行きますし」
「転移で、でしょ? ゼストかアリストに頼むんだから、透けてるまま男性の前に出る気?」
「……さーせん。貸してください」
「もうっ」
女性の下着が透けて見えているという事態はDKとして気持ちが分かるだろう。
リオと初代はいいにしても、魔王はどういう反応になるのか。
「リーフ胸大きいんだから視線を集めやすいのは自覚してるでしょ? そんな無防備だといつか痛い目見るわよ」
「はい、気を付けます……」
ロッカー的な棚には替えの服が常備されてるらしく、そこからインナーをリーフに貸した。着替えの間私とノアは鍛錬場に戻ると、何事かと初代と魔王がリオの傍まで来ていた。
「お兄ちゃんありがとう。キツく言っておいたわ!」
「うん……ちょっと戦いにくかったな。早めに決着着けようとは思ったんだけどなかなか隙がなくて。リーフはそういうの無頓着なのかな」
「……フィエスタ、言っても大丈夫かしら?」
「寧ろ知っておいたほうがいいのよ。本人も隠してるわけじゃないし」
「なんの話しだ?」
本人のいないところでカミングアウトするのもな、と着替えて出てくるのを待って一応リーフに確認を取った。
「あー、自分で言いますよ。僕、身体はこんなですけど中身は男なんすよ。リオさんさーせん、気が付かなくて……」
「ああ、そうなんだ。それでかぁ」
「……ノアさんといい、驚かな過ぎじゃないっすか?」
「何人か知ってるからな、自分の性別に違和感がある人。でも改めて難しい問題だなって思うよ。リーフは女性として見られたくないんだろ? 多分それを先に知ってても今みたいにどうしても異性として見ちゃうこともあると思う……気を悪くさせたなら済まない」
「いやいや! 今のは全面的に僕の所為なんで!」
「……リーフ・アリオンは、男なのか?」
魔王が話しを理解できていないようだ。アルティマとアルメーラとはほとんど話さなかっただろうし、心と身体の問題を抱えてる人がいると思ってもいなかっただろう。
リーフは相変わらず魔王と距離を取って、更にノアの後ろに隠れている。試合中は集中してて気配にビビることもなかったのにな……。
「心の話しだよ。アリストは自分のこと男性だって自認してるだろ? リーフも同じなのに、生まれた時から女性の身体だったってことだ」
「そんなことがあるのか……人間は脳が発達し過ぎた所為でいろいろ問題が出てるのかもしれんな」
科学的な話しになった……。
リーフの場合前世の記憶から来るものなんだけど、もしかしてジェンダー問題ってそんなスピリチュアルな原因もあったりするのかな。
魂や輪廻転生ってフィエスタになる前から信じてるほうなのよね。
「見た目の性別で判断できることって少ないよ。リーフはリーフとして接すればいいだけだ。……さっきみたいのは気を付けてほしいけどな」
「さーせんした……」
初代と魔王はリオが何か言わなくてもリーフとノアが更衣室に消えたことで大体の事情は把握したらしい。
「じゃあお風呂から出たらお見合いしようか」
「それ、本気だったんすね……」
「うん? 冗談だと思ってたのか? でも結婚相手を探すやつじゃないぞ。お互いを知る為だ。ノア、先にリーフにお風呂譲ってもいいかな?」
「いいわよ。じゃあもうちょっと剣振っていくわ。ゼストでもアリストでもいいから迎えに戻ってきてね」
「お風呂から出たら温室で集合しよう」
リオとリーフは初代の転移でお風呂場に行き、私も一緒にお風呂に入るとか謎だからノアの見学で鍛錬場に残った。なんでか、魔王も残ってるんだけど。
「アリストも振る?」
「いや……お前の鍛錬を見てると気が紛れる。邪魔なら出ていくが……」
「やだっ、もしかしてまだ緊張してるの? 実際逢ったらこんなもんかって思ってくれると期待していたのに」
「お前には分からんだろうが……あのマナ量を見たらやはり相反する者だと実感した。纏っているマナが眩しくて直視できん……」
「なんだか好きな人について語ってるみたいだわ。直視できない程だなんてゼストから聞いたことないもの」
待って待ってノア、自覚させるようなこと言わないで!
「……恋愛感情について書かれた物語はいくつか読んだ。だがどれも俺には理解できなかった……リーフ・アリオンに対するこれは恋愛感情だと思うか?」
「知らないわよ」
相変わらずバッサリ言うなぁ……。魔王、相談する人間違ったな。
「アリストがリーフをどう思ってるかなんて、自分の心に訊いてみるしかないじゃない。私が判断できることじゃないわ」
「……父上も似たようなことを言っていた。どうすれば心と話せるんだ?」
「まずはリーフのことを知らないとね。情報収集と分析は得意でしょ?」
「ふむ……なるほど」
それからノアの鍛錬を静かに見学し、折を見てお風呂場に転移。ノアと別れると温室に転移した。既にリオたちがいて、テーブルには朝食が並べられている。
「アリスト、食べながら話そう」
席はリーフと魔王ではす向かいに、真正面を避けた位置だ。それでも昨日の夕食の時に比べれば大分近い。リーフはすぐに逃げられるようになのか腰の掛け方が浅い。背筋はめっちゃ伸びてるのに首だけ下げてる。スマホ首じゃない。
リオが手を合わせて一応食事がスタートした。
「急に自分のこと話せって言われても難しいと思うから、先に俺のことを話そうか。リーフはフィエスタからちょっとは聞いてるのかな?」
「はぁ……まぁざっくりと。初代とのこととか」
「じゃあフィエスタに逢う前から話そうか」
リオは過去を自分から話したことがなかった。私も初めて聞くことだ。いつだったか母親がいないとは言っていたけど、両親ともを早くに亡くしたらしい。
「俺たちを育てて剣技も教えてくれた村長(むらおさ)には感謝してるけど、俺にとって大事なのはノアだけだったんだ……。だから勇者に選ばれて旅に出ることになって、ノアと長く離れたこともなかったから精神的に大分来ちゃって……」
なるべく明るく話そうとはしてるけど、当時のつらさを感じ取れてしまう。
「俺にとって魔王の存在って、救いだったんだ……」
「……救い」
「魔王を終わらせられるのは勇者だけなのと同じで、勇者を終わらせられるのは、魔王だけなんだ。だから、……恐怖心なんてなかった。全部、終わりにしてほしかった……」
「リオ……もういい」
「……はは、暗くなっちゃった、済まない。リーフは勇者になる前はどんな感じだったんだ? 今の時代だと学校に通ってたのかな?」
空気を変えるように努めて明るくリーフに話しを振る。
「いや……僕はパノス領の屋敷で働いていました。僕の母が領主さまと、まぁ……秘密の関係ってやつでして」
「リーフは隠し子ってことなのよ?」
「そうっすね。認知されるわけないっすよ。でも生まれてここまで成長できたのは間違いなく領主さまのお陰っすね……同僚の、母と僕への当たりが強いことを知って、関係がバレない程度に庇ってくれてたみたいっす。僕が勇者だと分かったら掌返しで公表しましたよ。不倫を知って奥方さまがどうしたか僕は知らないっすけど」
泥沼じゃん……今屋敷どうなってんの?
「働いてたってことは剣はどこで覚えたんだ?」
リオが核心を突いてくる……!
リーフは一瞬思考が止まったみたいだけどすぐに嘘を組み立て真実を交えて話した。
「領主さまの稽古を見てたんすよ! いや実際剣握ったの旅に出てからで、ほら、マメとかできたばっかりっすよ」
「本当だ。見ただけであれだけ動けるって凄いな。目も勘も良いし、リーフのは才能って感じするな」
「いやいやリオさんには敵わないっすよ」
「じゃあ魔王については伝説で知ってるくらいなのかな? パノス領辺りで魔物が暴れたことってないか」
「ないな。あの辺りは周りはほぼ海だ。山や森に比べると動物自体少ないだろう」
「単に僕がビビリなだけっす……」
「次はアリストの番だな。……あれ? 緊張してる?」
涼しい顔に見えるけどリオには分かるのね。
「俺が……」
ひと言言い掛けると、リーフの身体が少し揺れた。
「……俺が話すと怖がるだろう」
「リーフ、俺の服掴んでていいぞ。大丈夫だって、アリストは何もしたりしないから。耳、触っててあげようか?」
「……リオさんが触りたいだけっすよね……それノアさんも言ってましたよ」
「ははっ」
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