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36/81

#36 16年振り

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。




 ふたりはいつものように朝の鍛錬をして、ご飯を食べた。


「昨日の夜フィエスタさんとちょっと話したんすけど、ノアさんに弱音吐いてほしいって言ってましたよ」


 ちょっとなんで私が告げ口されたみたいになってんの⁉


「フィエスタが?」

「……そ、そうなのよ。ノアもリオもそういうの全然言ってくれないのよ……独り言でもいいから吐き出して。言葉にすると考えが纏まったりすっきりしたりするものなのよ」

「……随分心配させちゃっていたのね」

「ひとりで考えても答えが出ないものっていっぱいありますよ。今の悩みの種は僕のことっすよね? だったら僕と話さないとダメっすよ」

「悩みの種だなんて……違うわ。私がもっといろいろ考えてリーフに合った方法を見つければよかったの。私が育ってきた頃と時代が変わってしまったんだもの……やり方も変えるべきだったのよ。乗馬のことだってそう。私は自分軸でしか物事を判断してないのよ……」


 ノアは完璧主義なところがあるのね。1度の失敗を振り返って考えて考えて考えて、自分はなんてダメなやつなんだろうと結論付けてしまう。

 完璧な人間なんていないし、誰にだって失敗はあるのに。


「反省は大事っすけどそれを生かして次どうするかのほうが大事っすよ」

「……次?」

「魔物の斃し方、角を折ればいいって教えてくれたじゃないっすか。だから僕はあの後も戦えた。ノアさんはもう僕に合った方法を見つけてるんすよ」

「そう……なの?」

「そうっすよ。馬の乗り方もアドバイスくれたじゃないっすか。僕のケツがヤワなだけっす」

「……っふ、あはは! お尻がどうこうって話しじゃないじゃない……!」

「え、そうなんすか? ケツ筋鍛えたら痛くないんじゃないんすか?」

「あはははっ違うわよ! 私のお尻硬くないからね⁉」


 明るいノアに戻ってる。もう大丈夫かな……。

 でもお尻の話しで盛り上がってるのはどうなの?


「ふふふ……もう、リーフってば面白いんだから。アリストもきっとリーフのこと気に入るわ」

「いやぁあんまり気に入られても困るというか……」

「そっか。恋愛対象は女性だけなの?」

「そう……だと思いますよ? 今のところ男を好きになったことはないっすね」

「じゃあ女性ならあるの? どんな子?」

「グイグイ来るっすね……えぇっと」


 自分の恋愛には興味ないけど他人の恋バナは好きなのね。

 リーフも律儀に答えてくれようとしてるし。いい子か。


「物静かだけどどこか凛としてて、可愛いけど格好いいみたいな……」

「アリストじゃない」

「魔王なのよ」

「えっちょ⁉ 女の子の話しっすよ⁉」

「タイプからは外れてないってことよ。同性だからナシ、とか決めて掛からないでほしいわ。ああでも、無理矢理くっ付ける気はないから安心して。アリストとリーフを逢わせるのは代替わりが目的じゃないから」

「ああ……はい。友好的な関係くらいでいいんすよね」

「封印することになるだろうから、いつ封印するのか話し合って決めてもらいたいわ」

「なるほどっす……。でも僕、初代魔王の気配だけでビビりまくってたのに、現役魔王と話し合いできるか自信ないっすよ……」


 恐怖で縮こまるリーフとそれに当てられて色っぽくなる魔王……カオスね。

 リオは恐怖心なかったからそんなことにはならなかったけど、それ以前の勇者と初代はどんな感じだったんだろう。体調万全じゃない中手加減してたとか凄いな。


「ゼストと逢ったの?」

「馬でしたけど」

「馬? みんなが言うには魔物を操ってる時と実物って気配に差があるみたいよ? 私には分からないんだけど。フィエスタはどう?」

「その通りなのよ。実物だと表情や挙動が分かる分、敵意がないっていうのも伝わるのよ。ルーミーもそんなに怖がってなかった気がするのよ」

「ルーミー?」

「あ、獣人の子なのよ」

「シエラと契約してるから人間の姿になれるの。お店を手伝っているわ。フィエスタと別れてから大分成長したけど、変わらず中性的なのよ」


 おぉ見たい……。

 あの猫耳を仕舞っちゃうのはとても勿体ないけど、獣人差別されない為だものね。

 もっとみんなの話し聞きたいけどリーフを置いてけぼりにしては悪いわ。


「後のお楽しみにしておくのよ。そのくらいにしといてノア」

「そうね!」

「人間と契約したら耳と尻尾なくせるってことっすか?」

「ええ、そうみたいね」

「僕とノアさんが契約しても?」

「え? 私は無理よ。マナがないもの」

「あー……そっすか」

「やっぱり獣人の見た目は嫌?」

「まぁ……目立ちますし、いいことはないっすよ」


 リーフの声音に影が落ちる。

 話したがってない限り、自分から事情を訊くのって私にはできないわ。


「勇者のマナは膨大だから、それをコントロールできる主側もそれ相応じゃないと契約できないと思うのよ。つまり恐らくなんだけど、魔王くらいしか勇者を従者として契約できないのよ」

「僕の場合詰んでるってことっすね……」

「不老不死が付いてくるだけで詰んでないわよ?」

「いや……え? あー、“永遠”と引き換えっすか……キツイっすね」

「そうね、キツイわ。選ぶならよく考えてね。私みたいに即決しちゃダメよ」

「即決できることじゃないっすよ。え? ノアさん即決したんすか? すげーっすね」

「因みに魔王と契約した状態で魔王を封印したら従者側みんな封印されるのよ」

「え? 諸共?」

「それこそ永遠に封印を繰り返してふたりとも代替わりできないのよ。次期魔王を生まない限りは」

「……リオさん、大分綱渡りしてません? よく丸く収まりましたね」


 初代に対して脈がなかったわけではないけど、確かに綱渡りだ。それでもリオはひとりでどんどん渡って行ってしまった。


「はっきり口にはしなかったけど、リオは最初から初代に殺してもらうつもりだったのよ……」

「そう……だったの?」

「死を受け入れる準備はできていたのよ。だから綱渡りも立ち止まることなんてなかったのよ。結果的に丸く収まったと見えるのは私たちだけで、リオは何を選んでもきっと納得できる答えだったのよ……」


 ノアには伏せておくべきだったかしら。でも今は初代と幸せになってるはずだし、もう過去の話しだ。


「……知らなかったわ」

「初代と一緒に自分自身を封印する気でいたけど、ノアと再会できてリオも救われていたのよ」

「……っ泣かさないでよフィエスタ……」


 絆の深い兄妹だ。良くも悪くも、深過ぎた。


「願いを叶えるのに代償は必要ってことっすね……。僕もどうしたいかちゃんと考えてみます」

「……それがいいのよ」


 そこまで獣人の姿が嫌なんだ……。私が思ってた以上にリーフとしての人生はキツイものだったらしい。

 せめて勇者として功績を残せたら世間の獣人を見る目は変わるかな。

 リーフの代は私が事情を話せたし理解してくれる子だったけど、もっと未来のことも考えないといけない。私が代々伝えていくのも限界がある。

 世界に向けて事実を広めることも視野に入れて考えたほうがいいんだろうか。

 それによってリーフが非難を受けないだろうか……。

 封印についてだけじゃなく、今後について魔王と話せたらいいな。




 それから1週間ほど経って、私たちはカヴァーリの街へと着いた。

 ついに……ついに成長したリオたちに逢える……!!

 ノアに確認したらみんなと別れてから16年経っているらしい。ってことはリオは31歳ね! リーフが15だから別れてすぐに勇者候補は胎児だったのね。転生もその時既にしていた? まぁその辺は今はどうでもいいわ!

 ティータイムのピークを越えたちょうどいい時間に着いたので、まっすぐに湖へ向かう。


「あ、あそこよ、あの赤い屋根」

「可愛いお店なのよ!」


 リオの髪の色のような屋根だわ。既に愛おしい!

 お店の前まで来ると、看板には“Closed”の文字。


「鍵掛けてないから入っちゃいましょ」


 入口から堂々と入ると、来客を告げるベルが控えめに鳴った。

 音に気付いて店内清掃をしていた男女がこちらに視線を向けた。驚いて大声を上げそうだった女性を、持ち前の運動神経で距離を詰め口を塞ぐノア。

 いや、強盗かよ。


「まだお兄ちゃんに知らせないで。静かにね?」


 勢いよく頷くその女性は、よく見るとシエラだった。髪が大分伸びてるけど16年前は二十歳だったしそう変わっていない。

 え、じゃあその隣にいるのってもしかして……⁉


「お久し振りなのですフィエスタさんっ」

「ちょっと待ってシエラ、この長身・長髪・癒し系イケメンは、ルーミーなのよ⁉」

「そうなのですっ」


 コソコソと会話しながら、ルーミーは仕舞っていた猫耳と尻尾を出した。


「お久し振り、です。妖精さんっ」


 声変わりぃいい!!!

 でも「妖精さん」呼びでも全然違和感ない癒しボイス!!


「みみみ見違えたのよっ⁉」


 動揺がヤバイ私。


「リオさんもキザシさんも身長追い越しちゃったんですよ。成長期凄いです!」

「み……身体痛かったです」

「お客さんにも評判なのよっ」

「はっ! ではあちらの方が勇者さんなのですね⁉」


 あまりの衝撃にリーフの存在忘れてたごめん。


「リーフ・アリオンっす……ルーミーさんは猫なんすね」

「み……。大丈夫、ですか?」

「えっ……? ……、あ」


「シエラ、ルーミー、何かあったのか?」


 リーフとルーミーの不思議な空気をぶち壊したのはリオの声だった。足音が近付いてくる。

 向こうが厨房ね⁉ ついに31歳のリオの姿が……!


「なんだ、ノア……か」


 髪が! 伸びてる! ってか、全然変わってない嘘でしょ⁉ もう不老不死じゃないんだよね⁉ 童顔過ぎん⁉


「フィエスタじゃないかっ!」


 花開くような推しの笑顔眩しいぃいい……!!


「え? なんでノアと? シエラとルーミーも早く呼んでくれればよかったのに! 逢いたかったよ! あ、じゃあ君が今度の勇者かな?」


 全然言葉が出てこない間にリオがどんどん話しを進める。ちょっと待って喋りたかったはずなのにまったく思い浮かばない。700年生きてきた中で離れてたのは高々16年でしょ……300年振りの再会のほうがまだ喋れていたわ。こんなタイミングで限界オタク発揮するとは思わなかった。


「リオ・フィールダーだ、よろしく」

「リーフ・アリオンっす……え、なんかめっちゃ普通の人……」


 何を失礼なこと言ってんの。この輝きが見えないの?


「ははっ。普通だよ。リーフだって勇者になったからって普通の人だろ?」

「……あ、はい……」


 即行でリオに絆されたな。流石の人たらしっぷり。


「俺、犬好きなんだ。勿論猫も好きだけど。犬耳可愛いなっ」

「……ッ!」

「垂れてるのもいいわよね。私も気になっていたんだけど……触っちゃダメかしら?」

「ノ、ノアさんまで……ま、まぁ、いいっすけど……」


 ちゃっかりリオも触って、フィールダー兄妹に両耳触られてる図……可愛い。

 リーフは居心地悪そうにしながらも気持ちは良いみたいだ。


「ありがとう。お店の片付けしないとだからお茶も出せないけど、この後城に行くんだろ? そっちでお茶にしよう。もう夕飯の時間になっちゃうかな? 何作ろうかな」


 リオってテンション上がると怒涛のように喋るのよね……そういうとこも可愛いんだけど。

 一旦別れて、私たちは先に魔王城へ赴くことになった。


「リオさんていつも“ああ”なんすか? 仮にも女の僕に可愛いって平気で……」

「いつも“ああ”なのよ」

「お兄ちゃんは人を褒めずにはいられない性分なの。接客なんかさせたら勘違いさせまくっちゃうわ。まったく他意はないから気にしないで」

「あっそうっすよ! 初代魔王と付き合ってるんでしょう⁉ リオさんがあんなんじゃ気が気じゃないんじゃないっすか⁉」


 付き合ってるというかもう結婚してるのでは?


「思ったよりゼストってば心狭いけど、お兄ちゃんだもの。そんな気なしに上手く機嫌取ってるわよ」

「そうなんすね……リオさん最強説ありますね。僕、勝手に魔王のイメージ作ってましたけど、あのリオさんの子どもだと思うとちょっと緊張解れました」

「やだ緊張してたの?」

「しますよそりゃ……」

「耳触っててあげましょうか?」

「それノアさんが触りたいだけっすよね?」


 なんか仲良くなったなこのふたり。


Copyright(C)2023.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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