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#35 命を奪う行為

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。




 結局、リーフの位置は横座りのまま後ろ側になった。ノアが気にするなというので、というか掴んでないと本当に危ないので腰に腕を回す。始めは遠慮がちで自分の両肘を掴むようにしてたけど、速度が上がれば振り落とされないよう必死にノアの服にしがみ付く感じになった。


「今日はこの辺で野宿しましょうか」

「馬怖いっす……ケツ痛い……」

「泣き言言ってたらいつまで経っても魔王城に着かないじゃない!」


 スパルタだな。まぁリーフは現代っ子みたいな軟弱さがあるしお節介焼きたくなるのかもしれない。


「リーフは料理できるの? 一応携帯食は持ってるけど」

「あ、はい……できるっすよ。簡単なものなら」

「じゃあお願いするわ。あ……、ねぇ、ちょっと静かにしてて?」

「はい?」


 ノアは首に下げていた通信用魔石を取り出した。光っているってことは着信が来たんだ。

 通常マナを込めると通信可能になるけどノアにはそれができる程のマナはない。

 2回指で叩くと起動した。


「もしもーし」

〔ノア、今どの辺だ?〕


 リ、リオの声なのよぉおお!! 静かにしてなきゃダメなの⁉ 喋りたい!! リオと喋りたい!!


「明日の昼前にはロータスに着く感じかしら? 何かあった?」

〔それなりに近いな。ブリストルの北西側に森があるだろ? そこで魔物の数が増えてるみたいなんだ。まだ魔素の供給は始まってないけど暴れ始める前に減らしておいてほしい〕

「分かったわ。明日行ってみる」

〔気を付けろよ、頼んだ〕

「うん、おやすみなさい」

〔おやすみ〕


 そこで通信は切れ、魔石の光が消えた。


「ノアー! なんで私たちのこと言わないのよ!!」

「サプライズにしたほうが楽しいじゃない! 驚いた顔見たいでしょ?」


 見たいけど!


「今のもしかして元勇者っすか?」

「そうよ。私のお兄ちゃん」

「遠くの魔物の感知ができるんすか? 凄いっすね」

「ああ、それはゼストの力よ。お兄ちゃんはもう常人以下のマナしかないからそんなことできないわ。ゼストは魔法だけじゃなく魔法具の開発もしてて、この私専用の魔石も作ってくれたの。受信しかできないけどマナのない私にも通信できるようにしてくれたのよ」

「え、マジっすか。そんな人に「発想力に乏しい」とか言われたくないっすね」

「あははっ、確かにそうね!」


 リーフはノアにキャンプ飯をご馳走して、別々のテントで眠った。

 陽が昇るとノアは先に起きて鍛錬を始めていた。相変わらず見惚れるくらい格好いい。陽に剣が光って時々眩しい。

 のそのそと起き出したリーフもそれを見て、暫く真剣な面持ちで見学したあと自分の朝稽古を始めた。

 先に鍛錬を終え汗を拭きながら、ノアもリーフの稽古を見学する。


「見たことない流派だわ……。でも隙のない構えね」

「……あれっ⁉ いつから見てたんすか⁉」

「ふふっ、いい集中力ね。朝ご飯にしましょう」


 朝ご飯を食べたら昨日リオが言っていたブリストルの北西側、ロータスに向っていた私たちからすると南西の森に進路を変える。

 カヴァーリとは離れちゃうけどこれも大事な勇者パーティーとしての任務よね。

 感知はおろか魔法が一切使えない剣士ふたりという偏り過ぎたパーティーだけど大丈夫だろうか。

 数時間で森に着くと馬を降り、警戒しながら奥へと進む。


「魔物が増える原因って交配か空気感染なの。今回は後者の集団感染だろうから風上から攻めて風下に向かいましょう」


 風下のほうへ移動していって数十分、タヌキの魔物を1匹見つけた。


「リーフ、行けそう?」

「……分かんないっすけど、やってみます」

「私もフォローするから安心して。反対側から攻めてちょうだい」

「了解っす」


 音を立てないよう回り込んだリーフは合図のように頷いて、飛び出した。

 びっくりしたタヌキが即座に逃げる。

 リーフがひと振りすると剣先が背中に掠って傷を付けた。負傷しても生きる為に逃げ続けるタヌキをなんとか追い込むと、リーフは目を閉じながら斬った。血が辺りに飛び散るもまだ生きている。


「何をしているの? 留めを刺して」

「……」


 リーフの剣を持つ手が震えている。


「苦しんでるじゃない。早く楽にしてあげて」


 リーフはタヌキの首目掛けて剣を突き立てる。体重を利用したそれは首の骨まで断った。


「一撃で仕留めなきゃ可哀想よ」

「……はいっす」

「……ごめんなさいね、あなたにもタヌキにも残酷なことをさせたわ。でもやらないとこっちがやられるって場面で躊躇しないように経験させておきたかったの。命を奪う行為を……」


 剣から手を放せないリーフの手を握り、ノアは懺悔するように額に近づけた。


「ごめんなさい……。次からは角を狙って。元々動物だった魔物は角を折れば普通の動物に戻るわ……」

「……なんだ、殺さなくても……いいんすね」


 明るく振る舞うようにしながらも、リーフの目からは涙が溢れていた。


「ごめんなさい……」

「もういいっすよ……さーせん、泣いちゃって。ハズ……」


 ずっと手を握られて涙を拭えないリーフは二の腕を使って拭った。


「恥ずかしいことじゃないわ。動物を殺めることに恐怖するとは思わなかったの……。リーフは半分獣人だものね……配慮すべきだったわ……。難しいと思うけど、あんまり恐怖心を持たないで。勇者の恐怖心は魔王への供給量が多いんですって。多分、それに釣られて魔物が集まってくるわ」


 ノアは馬の手綱をリーフに渡し剣を構えた。


「行けそうだったら手伝ってね」


 続々と集まってくる魔物は恐怖心に当てられて目が赤くなっている。凶暴性が増し襲い掛かってくる。

 角を狙いつつ急所を外しながら立ち回るも、数が多く次第に疲れが見え始めた。

 リーフはふらりと立ち上がり刺さったままの剣を引き抜き血を払う。深呼吸を何度かして構える。

 もういつもの呼吸だ。


「ノアさん、行くっす!」

「ありがとう! 助かるわ」


 ノアの立ち回りを参考にしてるのが分かる。けど元々のリーフの戦い方に向いてるんだ。

 確実に角を狙い斃していく。

 角を折ると脳震盪を起こし暫く立ち上がってこられない。目が覚めた頃には普通の動物に戻っているはずだ。

 最後の1匹をリーフが斃すと、ふたりして座り込む。


「……リーフ、携帯食いる?」

「あざっす。貰います」


 ふたりしてもぐもぐと口だけを動かす。


「うま……もっとマズイもんかと思ってました」

「お兄ちゃんお手製だもの。もう他の携帯食なんて食べられないわよ」

「カフェやってるんでしたっけ……行きたくなってきました」

「そうね。もう少し休憩したら向かいましょう……」


 ヒーラーがいたらいいんだけど。

 数で攻めてくる相手だとエンチャントって本当役に立たない。ボス戦くらいしか出番がないのよね……。

 ある程度体力が自然回復すると、リーフはタヌキの亡骸に近付いていった。その傍に剣を突き立て穴を掘る。


「……埋めても他の動物に掘り起こされてしまうわよ」

「弱肉強食っすね……でもそのほうが僕が殺してしまった意味を持てる。……これはなんていうか、自己満っすよ」


 ノアは声を発しようとして、それをやめた。また謝ろうとしたんだろうか。

 リーフはこのファンタジー世界に転生しても領主の屋敷という狭い世界にいて、獣人の冷遇を受けてきたんだろう。急に勇者になって魔物を斃すことになって、処理しきれないことが沢山あるはずだ。ひとつひとつ、自己満足でも対処していかないときっと心が持たない。

 リーフにとってこの埋葬は、決して無意味なことじゃない。


「私も手伝うわ」

「えぇ、いいっすよ。汚れますって」

「いいの……。こんな経験、しないほうがよかったのよ……」

「……僕だって動物の肉を食べます。誰かがやってくれてることなんすよ。今度から有難がって戴くことができそうっす。これも食育ってことで、ノアさんあざす」

「……ポジティブなのね、凄いわ。でも、無理はしないでね」


 変に空いた間を誤魔化すように、リーフは笑って応えた。


「してないっすよ」


 埋葬が終わると馬を連れて森を出て、カヴァーリへと向かう。そこからふたりの会話はあまり弾むことはなかった。ぎくしゃくとまでは行かないけど、何を話せばいいのかが分からなくなってる感じだ。ノアは悩むと口数が減るし誰かに相談もしないと知っている。リーフもそうなんだろうか。

 キャンプをしたり宿に泊まったりしながら数日旅を続ける。

 ある時、リーフが寝る前に私に訊いてきた。


「今更なんすけど、なんでノアさんも300年後の今生きてるんすか? 不老不死になったのは勇者のリオさんだけじゃないんすか?」

「言ってなかったのよ? リオが旅に出てる間アーデンが魔物に襲われたんだけど、その時初代がノアを助けていたのよ」


 リオと擦れ違って一時的に死に別れたこと、ノアの心が壊れてしまったこと、一連の話しをした。


「そっか……。明るい人だと思ってたけどメンタルはあんま強くないんすね。それでか……タヌキの件めちゃくちゃ気にしてますよね」

「……リーフはもう平気なのよ?」

「どうなんすかね……いよいよヤバくなった時に夢に出てきそうっすね」

「リーフはメンタル強い人?」

「いや……普通っす。強くも弱くもないっすよ」


 学校に領主の屋敷に、リーフは社会に揉まれた経験がないのよね。人間関係によって確立する自己を意識するのはもうちょっと歳を重ねてからだろう。


「自分は大丈夫と思ってないだけ危機感あっていいと思うのよ。たまには弱音吐いてもいいのよ……ノアもリオもそういうの下手なのよ。私は何もできないけど、話しを聞くくらいはできるのよ……」

「……弱音吐くのって難しいっすよ。こういうのって結局、自分で整理してかないとダメなんすよ。でも、心配してくれる人が傍にいるっていうのは嬉しいし、支えになりますよ」

「そう思ってくれるなら私も嬉しいのよ……」

「時間が解決してくれたらいいんすけど……今の話し聞いたら楽観視してらんないすね」

「どうするのよ?」

「どうしましょうね?」


 考えてるのか考えてないのかよく分からない子だわ……。

 楽観的なのはそう振る舞ってるだけな感じはするんだけど、人の心を読むのって難しい。スキルでもない限り心の内を理解するなんてできないだろうな。


「明日考えましょう。おやすみっす」

「……おやすみなのよ」


 大丈夫かなぁ……。

 まぁ私にできることはないみたいだし、リーフに任せよう。


活動報告にもSS載せてるのでよければどうぞ。

フィエスタの「スキルでもない限り~」のアンサー的な話し。


Copyright(C)2023.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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