#33 転生者
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
「魔法……しょうじょ?」
妖精はこの森の中心にある大樹の実から生まれる。人間のように幼少期はなく、生まれた時から死ぬまで容姿は変わらない。
だから“少女”という概念が存在しない。
ぽかんとする妖精王たちを置いてけぼりにして話しを進める。
「この後どうしたらいいか、私が教えるのよ。リーフ、とりあえずついてきてくれるのよ?」
「わ……分かったっす」
「ま、待たんかフィエスタ! まだ話しは終わってないぞ!」
「契約する妖精は勇者が決めていいのよ? ちょっと話してくるだけなのよ。誰も、私たちに近付かないように言ってほしいのよ」
「な、何を勝手な……!」
「そうしないのなら、勝手に契約して森を出ていくしかないのよ」
「……っ、分かった……1時間で戻ってこい」
「感謝するのよ、妖精王」
脅しておいて取って付けたようなセリフになっちゃったけど、これで静かに話しができる。
私は念の為リオと出逢ったあの泉まで来た。天敵の動物が水を飲みに来るから妖精はあまり来たがらない場所だ。
「私もあなたも訊きたいことだらけでしょうけど……先に確認しておくのよ。あなたは日本からの転生者なのよ?」
「そうっす……えーっとフィエスタ……さんもなんすか? それとも知り合いに転生者がいるとか?」
「私がそうなのよ。他の転生者には逢ったことないのよ……私だけなわけないとは思ってたけど、あんなあからさまに匂わせる人今までいなかったのよ」
「いや、なんすかね、僕全然この世界に馴染めずに生きてきて、周りにも変わったやつだって言われてたんすよね……獣人だし。扱いが雑というか」
昔獣人の多くは奴隷だったことを話すとリーフはあっけらかんと納得した。聞けば人間とのハーフで、獣人の母親が結構な扱いを受けていたらしい。
「その上性転換させられて馴染めっていうほうが無理な話しっすよ」
ん? え、今なんて言った?
「無駄に胸育つし男からの視線の不快さを初めて知りましたよ」
「ちょ……前世では男性だったのよ⁉」
「え? ああ、そうっすよ。DKっす!」
男子高校生……だと⁉ 若いだろうとは思ってたけど……でもリーフとして10数年は生きてるはずなのに中身DKのままじゃん。
まぁ私も人のこと言えないか……。
「随分若いのよ……私も20代だったから死ぬには若かったけど」
「気になってたんすけど、その語尾は前世の時からじゃないっすよね? キャラ作りっすか?」
「若作りみたいに言わないでなのよ。妖精ってみんな語尾が変わってるから私もなんか付けなきゃ「浮く」って思ったから付けたけど、今じゃ普通に口癖になったのよ。妖精としてもう700年は生きてるから」
「え⁉ めっちゃ先輩じゃないっすかスゲーっすね⁉ でもそれじゃなんで契約のネタ知ってたんすか?」
それは私も引っ掛かったところだった。
「次元が捩じれてるとしか言えないのよ。大体同じ頃死んで、ここに転生した時期がバラバラってことかもなのよ。私たちが生きてた日本とは平衡世界ではないってことなのよ」
「なんか難しい話しになってきた……」
「そういえば勇者に選ばれるのは剣技に才がある人だって聞いたんだけど、何かやってたのよ?」
「ああ、僕これでも剣道の大会で何度も優勝してるんすよ!」
この喋り方は体育会系のほうだったか。
「転生してから剣なんて振ってこなかったんで鈍ってるかもしれないっすね。ルーティーンの筋トレはしてましたけど!」
「じゃあここからはこの世界の理と、勇者と魔王の話しをするのよ」
初代に教えてもらった理と、リオと初代の恋物語。いつまでも語っていられないから要所だけだけど。
「もう勇者が魔王と戦う必要はないのよ。言ってしまえば魔王がネガんなきゃ世界は平和なのよ」
「そうなんすね。いや実は城に行ったのに初期装備なんもくれなくて「どう戦えって⁉」って思ってたんすよね。戦わないでいいんならひと安心っす」
「本来ならエリシオンっていう宝剣を授かるんだけど、リオの墓標になってたエリシオンは今は魔王城にあるからなぁ……王様に話すわけにもいかないのよ」
「今の話し、広めちゃまずいんすか?」
「えっ?」
言われてみればこの事実を人間が知れば対魔王の構図は崩れる。魔王の機嫌を取っていればいいんだもの。
でもみんながみんなそうポジティブに受け取ってくれるとは限らない。魔王の本意じゃなかったにせよ、魔物に襲われた被害者、その子孫たちがどう思うか。
「それは危険なのよ。いろんな考えの人間がいる……それに共通の敵がいると人間同士の争いが減るのも事実なのよ」
「あー……、それはなんか分かります……。ひとり敵がいると周りは団結しだすんすよね……」
ハーフでも獣人の見た目だから標的にされやすかっただろう。
この世界に友人はいるのかな。
「私も新しい魔王がどんな性格なのか分かってないからアドバイスとかはできないけど、友人になるお見合いだと思って逢いに行ってほしいのよ」
「そっか! 何も僕が魔王とくっ付く必要はないっすもんね! それは次の勇者に任せますよ。でもなんで態々逢いに行かなきゃいけないんすか?」
「私がリオと逢いたいからなのよ!」
「え? 僕を踏み台にするつもりっすか?」
「だから私と契約してほしいのよ成長したリオたちを見たいのよ!!」
「私欲まみれじゃないっすか。でも、いいっすよ。魔王と友達になるのが勇者の役割なら一応頑張んなきゃっすよね」
新しい勇者がいい子でよかった……。
私たちは妖精王の元に戻り、血の契約をする許可をもらった。その場で契約すると持てるだけの資金と紙を持って、すぐに妖精の森を出る。あとは魔王城に行くだけだ。
もうちょっとでリオたちにまた逢える。どんな大人になってるだろうか。今は30過ぎくらいかな。正確な年齢が分からん。
お店は出してるのかな。魔王城の前に寄りたい。
ああ、楽しみ過ぎる。
「魔王城まではどうやって行くんすか? シュタインメッツとかこのピアジオ領へは馬車が送ってくれたんすけど」
通話用の魔石が一般化されてから主要の街にひとつずつ配られ、連携が取れるようになっている。小さな村に勇者が現れたって1日あれば着く範囲の街に行けば王都と通信できる。それでお迎えが来たんだろう。便利になったものだ。
「シュタインメッツまでは馬車で送ってもらうのよ。そこからはヒッチハイクか歩き? タクシー的な馬車もあるけど結構いい値段なのよ。魔王城まで遠過ぎるし」
「長旅になるんすねぇ……」
「その前に剣くらい用意するのよ。それと、紋章を隠す手袋と顔隠せる外套もなのよ」
「なんで隠密行動なんすか」
「きっと王様がお触れを出しててリーフが勇者だと知れ渡っちゃうのよ。目立ち過ぎてまっすぐに魔王城に行ったってバレたら面倒なことになるのよ」
「なるほどっす……フィエスタさんってやっぱ大人っすね」
「DKに言われてもあんまり嬉しくないのよ」
城下町に着くと旅の資金として王様が与えてくれたお金で必要物資を揃え、今日のところは一泊することになった。
そして翌朝、早速出発しようと城門まで歩いていると、街の人たちの噂が耳に入ってきた。新しい勇者が獣人ということで疑念の声が多い。悪気なく獣人を下に見てる人もいる。
噂っていうのは本当に嫌いだ。
「早く行くのよ」
「大丈夫っすよ、このくらい。日常茶飯事っす」
リーフの外套に隠れながら、どんな顔をしてこの噂を聞いているのか気になった。
リオみたいに心を隠すのが上手い人だったら、私は気付けるだろうか。
のんびりと徒歩で、たまにマラソンしながら着実に魔王城へ近付く。体力は流石でマラソンも結構な速さで走ってる。
そろそろ日が暮れるという頃、テントが張れそうなちょうどいい場所を見つけた。アウトドアが好きだったらしくテキパキと作業しぱぱっとキャンプ飯も作ってしまった。リオほどじゃないけど普通に美味しい。
「大学生になったらソロキャンしてみたいなって思ってたんすけど、夢半ばで死んだんで今ちょっと楽しいっすよ。実質ソロではないすけど」
「ソロキャンて何するのよ?」
「いや何って……素振り?」
「それどこでもできるし。ただの自主練なのよ」
剣道に熱心なのは分かったわ。才能もあったけど努力もできる人なんだろう。
「……――っ⁉」
「えっ何? どうしたのよ?」
急に辺りを警戒しだして私も見回してみるけど分からん。ハーフ獣人だから気配に敏感なんだ。
この過剰反応は、魔物?
「なんか……ヤバイやつ近づいてくるっす……。肌がざわざわする……」
なるべくゆっくりとした動作で剣を手に取り構えた。背筋が伸び、試合直前のように相手を見据えるとその場に立った。
実際に剣道の試合を見たことはないけど、こんなに綺麗なんだ。道の付くスポーツの所作って美しい。
冷や汗を流しながらも深呼吸して気持ちを落ち着かせている。
【お前が新たな勇者だな】
「ッ……」
リーフの身体が大袈裟に震えた。
この感覚久し振りだ……。
「その声、初代なのよ?」
焚き火の灯りが届くところまで来るとようやくその姿が見えた。いつかのユニコーンだ。
「初代って……初代魔王っすか⁉ 馬だったんすか⁉ いやユニコーン⁉」
「これは魔物を操ってるだけなのよ……」
【……今度の勇者は獣人なのだな】
「リーフ・アリオン、ハーフ獣人なのよ」
【背に乗せて運べたら速いと思ったのだが……難しそうか】
「確かに速そうだけど……リーフ、どうするのよ?」
「いや、僕は全然急いでないんで……折角っすけど」
【分かった。リオにはそう伝えておこう。日中カヴァーリに着いたら湖に寄っていけ。そこにリオの店がある】
「お店! 実現してるのよ⁉」
【名はcafe Fiesta】
わ、私の名前ぇええぇえ!!! みんなの愛を感じて発狂しそう!!
何気に初代が初めて私の名前発音したし!!
「ありがとうなのよ教えてくれて! リーフ! 明日からもっと走るのよ!」
「えぇ……わ、分かったっすよ……」
【アリストのやつ、勇者のマナを感じ取ってから緊張しているらしい。魔物が暴れるかもしれん。気を付けろ】
緊張って……。まぁ魔王からしたら膨大なマナを持つ勇者は敵だと刷り込まれてるのかもしれない。初代は魔王歴が長過ぎて慣れたのかな。
それだけ言うとユニコーンは姿を消し、リーフの冷や汗も次第に乾いていった。
「あれが初代っすか……低レベルな僕が勝てる相手じゃないっすよ」
「戦わないからレベルなんて関係ないのよ。それに現魔王はリーフと同年代なのよ? 戦闘経験がないとこも同じなのよ」
「そ……そうっすね⁉ 問題は魔物のほうっすよね……襲ってきたら斬らなきゃいけないんすね……」
魔物とはいえ動物を斬ったことなんてないだろう。
元々ファンタジー世界の住人だったリオとは違い、リーフにとっては高いハードルだ。私だってできる気がしない。
「初代ほど禍々しくはないのよ。半分獣人のリーフからしたらどうか分からないけど……。今まで魔物に遭遇したことないのよ?」
「いやぁないっすねぇ……。僕パノス領の領主の屋敷で使用人やってたんで外に出ることもあんまなかったんすよ」
「使用人って……メイド?」
「その言い方はやめてください……それを認めるとアレがメイド服ってことになるじゃないっすか……」
アレってどれよ。私の想像してるやつじゃないの? ただメイド服着てた事実が黒歴史ってこと?
「勇者になって何が嬉しかったってアレを着なくていいってことっすよ……いや外に出られたのも同じくらい嬉しいっすけど」
「まぁなんにせよ、狂った魔物をいきなり相手するより暴れてない魔物見つけて練習してみるのよ」
「剣振るのも久し振りっすからね……フィエスタさんも魔法で援助とかしてくれるんすよね?」
「え? 私エンチャントしかできないのよ」
「……使えねぇっす!!」
「うるさいのよ!!」
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