#32 また
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
アルメーラは今までにないほど柔らかく微笑みを零す。
「……え。……えっ⁉」
告白されてノアは顔が真っ赤だ。微塵もそういうの考えてなかったんだろうな……。
私もまさかアルメーラが言うとは思ってなかった。
「僕たちはきえちゃうけど、この絵をノアにもらってほしいよ」
「これ、ふたりの……それと、私?」
「フィエスタが僕のきもちに気づいて、かいてくれたんだよ」
「フィエスタ……知ってたの?」
「そうなんじゃないかな? って思って描いたのよ。勝手に描いた絵を人にあげてごめんなのよ」
「そんなこといいのよ……そうなのね……。ごめんなさい、やだ私、全然気付かなくて……っ」
「いいんだよ。ノアのそんな顔がみられてまんぞくだよ。僕のほうこそごめんだよ、最期にこんなこと……たまに思いだしてくれたら嬉しいよ」
「思い出すわ……思い出して、きっと泣くわ。それで、沢山ありがとうって言うわ……ありがとうアルメーラ」
「うん……ノアがきてからまいにち楽しかったよ。ありがとうだよ」
「……っうん」
堪え切れずノアは涙を流した。
アルメーラはそっとハンカチを差し出す。
私はふたりから離れてアルティマの傍に行った。邪魔しちゃ悪いわ。
そんな私に、アルティマはこっそりと話してくれた。
「ノアはよく悪夢にうなされていたの。それをいつもアルメーラが食べて、すごくけんしんてきだったの……。それがむくわれるわけじゃないけど、……きっかけをくれてありがとうなの」
「……私の絵が役に立って嬉しいのよ」
なんだかもらい泣きしそうだわ。
ノアの涙が落ち着くと私は3人にお別れの挨拶をした。
みんなに言って回ったら出立しようかな。
厨房の横を通ると、ローグ夫妻とリオがいた。朝食の片付けはとっくに終わってると思ったけど。
「何してるのよ?」
「うん? いろいろ教えてもらってるんだ。ローグ一族は狼の姿に戻っちゃうから、俺がご飯係りになるかなって」
花嫁修業なの……?
「フィエスタにお弁当作るから出立前に声掛けてくれ。挨拶して回ってるんだろ?」
「そうなのよ。双子は先に済ませたんだけど、みんながどこに行ったか分かるのよ?」
「キザシとリヴィナは図書室でシエラとルーミーは弓引きに行ったよ。ゼストも付き合ったみたいだからアリストもいるかもしれないな」
「行ってみるのよ。ケイ、ラニア、美味しいご飯ありがとうなのよ。一族のみんなにも伝えておいてほしいのよ」
「こちらこそ、あなた方のお陰で“食事をともにする”というゼスト様の願いを思い出せて、感謝しているわ。お元気でね、フィエスタさん」
「いつまでもケイとお幸せに!」
「うるさいぞ妖精! さっさと行け!」
追い出されてしまったわ。照れ隠しかしら。
私はリオに教えてもらった通りまずは図書室に向かった。
読書中だったら迷惑かな。まぁさらっと挨拶したらいいか。
リオが言った通りキザシとリヴィナのふたりがいて、こっちも恋愛方面に発展してくれたら面白いのにまったくそういう雰囲気じゃない。それぞれ本に向かっていた。
「リヴィナ、挨拶に来たのよ」
「あらフィエスタ。もう帰りますの?」
「お昼頃にはなのよ。紙沢山くれてありがとうなのよ」
「あれだけ絵が達者なら紙のない外は退屈だったでしょうに。もう少し差し上げましょうか?」
「アルメーラが消せるペンくれたから十分なのよ。またもし逢えたら紙の補充させてほしいのよ」
「ええ、待っていますわ」
「キザシも、ここまで付いてきてくれてありがとうなのよ」
「別に、俺はリオの飯目当てだったし」
「これからどうするのよ?」
「俺としては店構えてもいいんじゃねぇかって思ってる。リオが不老不死じゃなくなったからな」
「素敵なのよ! いいなぁ……楽しそうなのよ」
「次の勇者次第だな。まぁ、また逢えたら逢おうぜ」
「キザシがおじいちゃんになってたとしても絶対逢いに来るのよ!」
「っはは、気の長ぇ話しだな」
キザシって笑うと本当に可愛い美少年なんだよなぁ……。成長した姿見たい。
さよならは言わずに、私は弓道場へ向かった。
矢を放つ間隔が短い。数人で射ってるようだ。
流石に子ども用の弓はないのかルーミーは見学している。矢が放たれる度に耳がぴっと動く。
2代目魔王は元魔王に教わっている最中だ。
「シエラ、ルーミー、ちょっといい?」
「フィエスタさん! もう行ってしまうのですか……?」
「他のみんなには挨拶済ませたから、ここにいるみんなで最後なのよ」
「寂しい……です」
「私もなのよ……。あ、さっきキザシが言ってたんだけど、お店を構えるのもいいんじゃないかって」
「ほわぁ! 素敵です!!」
「みっ!」
「実現を楽しみにしてるのよ」
「絶対! また逢いましょうねっ!」
「み! みっ!」
そんなに頷いたら首痛めちゃうよルーミー。
どんなふうに成長するんだろうか。また死を選ぶことがないよう祈るばかりだ。シエラが一緒なら大丈夫だとは思うけど……これは願望だ。
「妖精、これを持って行くといい」
「これは?」
話しが途切れたところで元魔王が小さな袋を渡してきた。私にとっては旅行かばんくらいある。
「動物除けの薬草だ。ひと晩では妖精の森には着かんだろう」
「ありがとうなのよ!」
これはとても有難い! 妖精の天敵は動物だ。ちょっとその辺で野宿しようものなら格好の餌食になる。
中を見てみると妖精の森周辺でよく見る草だ。確かここの畑の周りにも生えていた。そんな効果があったんだ。
元魔王の気遣い半端ないわ……。
「多分、アリ……魔王とはまた逢うと思うから、よろしくなのよ」
「……? アリストでいい」
「えっと……不思議に思うかもしれないけど魔王の名前を呼ぶのって勇気がいるのよ……。魂に刻まれた恐怖? みたいなものが邪魔する感じなのよ……」
「ノアと……リオは普通に呼んでいたが?」
「あのふたりは特別だ。何故か俺のことも呼び捨てで呼べている」
「ゼス……ううん、元魔王も呼べないのよ」
「元魔王は妙な響きだな。小娘の“初代”という呼び方のほうがマシだ」
なるほど。魔王って呼ばれるの嫌いって言ってたものね。ようやく役割を降りられたのに呼び続けるのも失礼だ。
「初代! 分かったのよ。そういえば魔王にまだ名乗ってなかったっけ? フィエスタなのよ」
「次の勇者とともに来るのだな……どういうスタンスでいればいいのかよく分からんな」
「どういう勇者かにもよるだろうな。だが妖精はリオのことも含めてすべて話す気なのだろう? ならば見合いだと思えばいい。恋仲か友人か、体裁上敵になるかはアリストが決めればいい」
「ふむ……今考えてもしようのないことか」
なんというか……思慮深い魔王ね。
初代は口調は緩やかだけどなんだかんだよく喋るから、比べると口数が少ない印象を受ける。その分いろいろ考えてそうだなって感じる。
できればネガティブな考えに行って魔物がざわ付かないようにしてもらいたいんだけど……外見的にポジティブには見えないな。
「私も気の合う勇者ならいいんだけど……期待しないで待っててなのよ」
「分かった」
みんなに挨拶を終え、リオのお弁当を持って私は妖精の森に帰った。
1日目は後ろ髪を引かれてあんまり速く飛べなかったけど、契約の影響が消える前までには戻れた。
次の勇者が現れるのは一体何年後になるだろうか。
なるべく早く現れて……と思いながら、紙に絵を描きまくる日々が続いた。
魔王城から帰ってきて、かれこれ15……いや20年? 相変わらず暦が曖昧だけど大して時は掛からずに、勇者は来た。
勇者が覚醒してまず訪れる王都シュタインメッツ城に、私は手紙を出していた。手紙というとちょっと違うけどマナを込めると字が浮かび上がるよう仕掛けが施せる魔石だ。そこには“勇者が現れたら妖精のフィエスタを訪ねるよう言ってほしい”と書いておいた。
その通りにしてくれた勇者は妖精王に私を呼び出すよう言ってくれたらしい。
呼ばれて行った来客の間には妖精王と側近の妖精数人、それと勇者がいた。
まず後ろ姿だけが目に入った。髪はセミロング。服は良くも悪くも普通……ワイシャツにパンツ。あまりファンタジーの住人じゃない格好だ。けどファンタジーならではの、犬耳と尻尾が生えている。獣人だ。
獣人の勇者なんて、今までいた?
「勇者様、あの者がフィエスタにございます」
椅子の丸太から立ち上がりながら振り返った勇者は、目のぱっちりとした女の子だった。
「えーっと、リーフ・アリオンっす。勇者になったみたいなんすけど……え? この後どうしたらいいんすかね?」
なんか……体育会系なのかチャラいのか判断付かない喋り方だわ。
「私を呼んでくれてありがとうなのよ。いきなりで悪いんだけど、私と契約してほしいのよ!」
「なっ何を言うておるフィエスタ! 失礼ではないか!」
今まで勇者と契約できる妖精は妖精王が選定し、その中から勇者が選んでいた。リオとの時は大分イレギュラーで私はたまたま選ばれたに過ぎない。勇者と契約した経歴があっても、私のスキルじゃ妖精王に選ばれることはない。
だったら、自分から名乗り出るしかないじゃない!
「それって願いを叶える代わりに過酷な運命背負う系じゃないっすか? 安易に契約しちゃあかんやつっすよね?」
え……? ネタ?
いやいやそれって、私元ネタ知ってる。
え? まさか。
「……大丈夫なのよ! あなたを魔法少女にするつもりなんてないのよ!」
決定的なワードを聞いた勇者リーフは、開いた口が塞がらないまま私を呆然と見つめた。
この人は……転生者だ。
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