#31 妖精たちのこれから
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
エリシオンにマナ残量を確認してもらうと100%時と比べると60%ほどだと言うので、アリストが魔素の塊になるのに20%、今ので20%減ったということだ。正確ではないにしろ同じ魔法を3回も放てばリオのマナが尽きる。
「少し出力を上げてあと2回で終わりにするぞ」
魔王の指示でリオとアリストは同じことを続けた。
3回目が終わると二十歳くらいの見た目にまで成長していた。
成長してもクッソイケメン……。流石魔王とリオの子。
「リオ、平気か。マナは残っているはずだが……」
「うん……お腹が空いたからかな。あんまり元気出ないよ……」
「宝剣、どうだ」
魔王に身体を軽く支えられながら、リオがエリシオンに指先で触れる。
【あー、もううちには確認する術がないわ】
「どういうことだ?」
「! それって」
リオは右手の手袋を外して手の甲を見た。
「紋章が消えてる……」
勇者の証である紋章が消えたということは、もうリオは勇者ではない。
私も自分の足首を確認する。
リオとの契約紋が消えている。リオのマナが契約継続できないほど減ったんだ。
数日の間に妖精の森に帰らないと、私は死ぬ。
魔王は改めて我が子を見つめる。鑑定眼だろうか。
「……妖精、まだ契約の影響は残っているだろう。俺を鑑定してくれ」
「分かったのよ。<鑑定>……、“初代魔王”、になってるのよ。不老不死のスキルと従者の名前は薄くなってる……そのうち消えるのよ」
「代替わりは上手く行ったらしいな。アリストのステータスに不老不死のスキルがある。恐らくリオのマナをすべて取り込めばもう少し成長した姿だったのだろうが、魔王になるには足りたようだ。アリスト、立てるか」
呼ばれて、アリ……、もう魔王になった彼を名前で呼べないわ。
2代目魔王は徐に立ち上がった。ずっと借りてる魔王の羽織がちょうどいい丈になっている。
「魔王になった実感はあまりないが……身体の魔素量が増えた感覚がある」
声変わりしてイケボになっとるぅうう!!
「とりあえずリオの食事と、アリストの服だな。俺のを貸そう。転移する」
「みんなはゼストとの契約が切れたこと、分かるのか?」
「契約紋を見るしか手立てはないな。念話しておくか」
魔王は……ってもう魔王じゃないのか。なんて呼べばいいんだろう。元魔王? 元魔王は城内にいる全員に念話を飛ばし、リオも元魔王も役割を終え、代替わりが済んだことを伝えた。
一旦元魔王の私室に寄って2代目魔王に服を貸した後、食堂に転移するとほぼ全員が夕食の為に集まっていた。
「リオ、大丈夫か? なんか疲れてねぇ?」
「うん……アリストにマナをあげたからあんまり残ってないんだ。お腹空いたぁ」
「アリ……えっ? あの方が?」
「おっきくなってる……です!」
「イケメンがふたりになってんじゃねぇか……親子ってより兄弟だな」
「アルティマ、アルメーラ、お前たちの気持ちはリオから聞いた。あと数日の命をどう使うかはお前たち次第だ。悔いが残らないように過ごせ」
「ありがとうなの……」
「……わかったよ、まおーさま」
「もう魔王ではないぞ」
「私たちのまおーさまはまおーさましかいないの」
「そうか……」
夕食をいつものようにとる。これも契約の影響なのか、魔族たちはまだ魔素粉(まそこ)がないと美味しく感じないようだ。
元魔王は席を現魔王に譲り、全体を見渡せる位置にいるからか2代目魔王はみんなを観察しながら食べていた。
「フィエスタは妖精の森に帰らねぇとヤバいんだよな?」
「寂しくなります……」
「私も寂しいのよ……もし私が生きてる間に次の勇者が妖精の森に来たら、私と契約してくれないか掛け合ってみるのよ。そしたらここにも戻ってこられるし……リオの成長した姿も見たいのよ」
勇者が生まれる間隔はまちまちで推測も難しい。そもそもリオの不老不死期間が長過ぎたし、勇者が生きている間に紋章が消えるなんてことは今までにない。イレギュラーばかりだ。
私の寿命もだけど、リオがいい感じに大人の男性である間に次の勇者来ないかな……切実に。次に逢った時にはおじいちゃんになってるとかちょっと勘弁してほしい。
「次の勇者って……生まれた瞬間はアリストに分かるのかな?」
「分かるだろうな。封印が解けずともマナの波動は強い。それから勇者が成長し覚醒するのに10数年……妖精と再会できたとしてもその年数以上は掛かるだろう」
「結構長いな……。また逢えるのを楽しみに待ってるよ」
絶対次の勇者を説得してみせる……!!
その日はまた客室で寝泊まりして、リオは安定して元魔王と転移で消えた。
ふたり目の心配もないしな……。
翌朝、フィールダー兄妹の鍛錬を見学して、朝ご飯を食べて、さて、どうしようか。
距離的に今日のお昼頃には城を出たほうが安心だろう。
アルメーラが何か行動起こさないか気にはなるんだけど……どっちにせよ双子の最期には立ち会えない。お別れくらいはしておくべきか。
温室に行くようなので私も行くことにした。
「お昼には出ようと思うんだけど、私も一緒していいのよ?」
「そうなの」
「いいよ。僕たちにとっては温室がおちつくよ」
「ここの世話ってどうなるのよ? 魔族のみんなそれぞれ役割分担してたみたいだけど、ふたりはここの手入れなのよ?」
「だいたいは私なの」
「僕はものづくりのほうが好きだよ」
「リヴィナならやってくれると思うの。ここは虫はあんまりいないし、たぶんだいじょーぶなの」
「リヴィナの虫ぎらいはそーとーだよ。昨日きょーりょくな虫よけをつくったんだよ」
大騒ぎする姿が目に浮かぶわ……。元箱入りお嬢様だものね。
「ふたりは何をして過ごそうと思ってるのよ?」
「考えてないの」
「とくべつなことをするつもりはないよ」
「……」
「私たちって死んだら光になっちゃうでしょ? 身体が遺らないのはいいんだけど、生前整理って言って、持ち物を捨てたりあげたりしておかないと残された人がやる遺品整理って結構大変なのよ」
「ずいぶんくわしいの」
「大分昔にね、したことがあるのよ。自分で言うのも変なんだけど、私があげた絵も誰かにあげたらいいと思うのよ」
「だれかに……」
「それはいい案なの。ちょっとまってるの」
アルティマは私の意図を理解して、恐らく部屋へと絵を取りに転移した。
そして凄くお節介を焼いてノアを連れて戻ってきた。そこでようやくアルメーラは察する。
「アルティマ……っ」
「自分でわたすの。それはあなたがもらったものなの」
アルメーラはアルティマから絵を受け取ったけれど、すぐには動けないらしい。
ノアはというと、別れが近いと知ってからどう接していいか分からないような顔をしている。誰かとの別れは突然起こることが多い。その時になってああしとけばよかったと後悔するものだけど、別れがすぐだと知っていろいろやったとしても、きっとその時になって後悔はするんだろう。
結局、その時その時を大事にするしか方法はない。
「ノア、私はノアのころころ変わる表情好きなのよ。リオと試合してる時は凛としてて格好いいし、楽しそうなのよ。それなのにノアが心を閉ざしても支えてくれたふたりに、そんな顔向けてほしくないのよ」
「……フィエスタ。そうよね……私、伝えきれていないわ」
アルメーラより先に、ノアが一歩踏み出した。
「お兄ちゃんにまた逢えてから、ちゃんとお礼を言っていなかったわ。……私、自分で不老不死になることを選んだのに、毎日がつらくて……みんなを心配させてるのは感じてた。けど自分じゃどうしようもできなくて……ごめんなさい。アルメーラ、毎日足を診てくれてありがとう……また歩けるようにしてくれて、感謝してもし足りないわ。無理しないように、私頑張るわ……この足、大事にしたいもの」
アルメーラは意を決したように、息を吸った。
「だいじょーぶだよ……無理しても。もうその足は魔法をひつようとしてないよ。メンテナンスはノアでもできる簡単なものだよ」
「……っえ?」
「僕がノアといたかったから……言わなかったんだよ」
「それって……」
「……すきなんだよ、ノア」
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