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30/81

#30 パンケーキ

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。




「腹は空いているか」

「……すいてないな」

「俺は空いてる。リオもだろう?」

「うん。なんだかお腹がすっきりした感じがして空っぽだ」


 魔王はアリストを抱き上げると温室の出口に向かう。

 魔王が子ども抱っこしてるの尊い……。

 リオが厨房に入ると魔王も立ち入った。今はローグ一族は出払っているし気兼ねする必要がないからだろう。

 旅の間中は魔物の姿で、とはいえ、いつもリオの調理を見てたし日常の光景……なんだけど、子どもがいるだけで幸せ家族にしか見えない……!!


「なにをつくっている?」

「パンケーキだよ。あんまり食べると夕ご飯が入らないからな」


 作ったメレンゲを生地に入れてさっくりと混ぜる。ふわしゅわになるやつ。余ったメレンゲはトッピング用なのか砂糖を加えた。


「ゼストって甘いの平気か? スフレも食べてたから大丈夫か」

「大量に食いたいとは思わないが、脳が疲弊してる時は欲しくなるな」

「だよな。俺はゼストほど頭使ってないけど、食べたくなったんだ」


 ふつふつしてきた生地をフライ返しで引っ繰り返していく。綺麗な焼き色だわ。お皿に移すとバターをひと欠片、じわりと溶けていくところにメレンゲがトッピングされた。

「メープルシロップはお好みでな」

 最後に魔素粉(まそこ)を振り掛け、なんかめっちゃおしゃれな見栄えになった。


「先に持って行ってくれ。コーヒー淹れていくよ」


 言われた通り魔王が片手にトレンチを持って厨房を出ていく。親子の様子が気になって一緒に食堂へ行った。

 上手いことトレンチをテーブルに置くと、アリストを椅子に座らせた。配膳しながら「リオが来るまで待っていろ」と告げる。

 アリストの分までちゃんと用意されていて、目の前に置かれてちょっとわくわくしてそうなんだけど。可愛い。お腹空いてないんじゃなかったの。

 リオがコーヒーとホットミルクを持って、それぞれのお皿の近くに置き、席に着く。


「いただきます」


 もうリオが家長だなこれ。

 魔王まで手を合わせたのを不思議そうに見ていたアリストもそれを真似した。

 超いい子かよ。


「フィエスタもあげるよ」

「ありがとうなのよ!」


 魔素粉を後掛けにしたのはおしゃれな見栄えだけじゃなく、掛かってないとこを私にくれる為だったのね!

 至福……。

 スコーンでお腹は満たされてたけどこのパンケーキならまだ入る。


 アリストのパンケーキはナイフとフォークを使うふたりに比べて小さ目に焼かれていて、ひと口でも食べられる大きさだ。私含めて美味しそうに食べるのを見て、アリストはそのうち手を付け始める。

 ひと口頬張ると目がきらきらと輝いた。次にメープルシロップを掛けてふた口目。


「! ……っんま」

「口に合ってよかった」

「おまえはきらいだけど、これはわるくない」

「そっ、かぁ……」


 胃袋を掴んで仲良くはなれなかったかぁ。


【何を幸せ家族やっとんねん! うちにも紹介せんかい!】


 そういえばずっと食堂にいたんだった。喋らないと本当存在感ないわ。


「済まないエリシオン。次期魔王のアリスト・ヴェラールだ。アリスト、あの剣は代々勇者が使ってきた宝剣エリシオンだ」

「剣がしゃべっているのか。さわがしいやつだ」


 魔王と同じこと言ってる……可愛い。


【かわえぇ顔して中身魔王やんか……。次期魔王て言うたけど、実際代替わりするのはどんなタイミングか分かってんの?】

「分からん。アリストは分かるか」

「わからん」


 小首傾げるの可愛いぃ。

 アリストに対して可愛いとしか言ってない気がする。でも子どもが魔王と同じ口調なのどう考えても可愛いでしょ。


【なんらかの条件がまだ揃とらんてことやろな。取り出すの早すぎて勇者はんのマナがまだ足りへんのかもしれんな】

「俺のマナが……? エリシオンみたいに触ったら吸収されるのかな?」

「そんなスキルはもってないぞ」


 まるで触るなと言わんばかりの睨み。こんな嫌われてちゃリオが可哀想だわ。


「俺が宝剣にインテイカーを使った時は吸収したマナを魔力に変換しそれを素にインテイカーを使い循環させていた。マナと魔素は水と油のようなものだ。本来混じることはない。だというのにリオのマナを吸収した結果魔素の塊となった、その原理が分からん」


 魔王が言うならもうお手上げじゃない。

 ってかインテイカーってそんな複雑なことやってたの。


「俺の体液が何か作用していそうだが……たとえば今リオに俺の体液吸収をさせたとして、リオの身体から離れたアリストに影響するとは思えん」

【普通にふたり目いきそうやんか】

「マナと魔素、どっちも魔力に変換できるんだろ? 魔力にしたら別の身体エネルギーに変換したりできないのか?」

「……随分突飛な発想だな」


 リオたん説明聞いてた? 水から電気ができたって油にはならないでしょ。

 ん? でも待って、火力発電って石油を燃料に燃やして出た蒸気で発電させるから、水になるよね?

 それってマナから魔素へなら変換できるってこと?

 まぁ魔素とマナを水と油って表現したのは単なる比喩だと思うけど。


「いや、だが……できそうな気がする。魔素と魔力の結び付きは強い。魔力変換されたマナを放出すれば空気中の魔素を取り込み、術者から離れても魔法の現象は暫く消えない。集まってくる魔素をアリストが取り込められれば身体エネルギーに変換できるかもしれない……」

「そうなのか? よく分かってないんだけど、言ってみるもんだな」

「やはりお前との会話は楽しい。俺にはない考えを沢山知れる」

「ははっ、うん、楽しそうだな」


 魔王の表情の変化、私はまだ見極められないんだけど、楽しそうらしい。


「また術式を組むのか?」

「そうだな……組まなくてもやりようはある。人肌程度まで密度を落とした炎をアリストに放てば効率的に魔素を取り込めるだろう」

「……それ大丈夫なのか? 炎の中で息できるか?」

「リオはマナを纏っているから感じないだろうが、城の外は高濃度の魔素に満ちている。俺たちにとっては森にいるのと変わらない感覚だろう」


 だから森に行った時、リオのフードに隠れてただけなのに疲れたのか。

 妖精の森は反対に高濃度のマナに満ちている。だから勇者は入ってこられる。

 リオと契約して人並み程度にはマナの薄いところでも平気だけど、人間の住む町に比べると城内のマナはとても薄い。一番濃いのは双子がよく行ってるらしい温室だ。あそこは居心地が良かった。


「アリストはどうかな? 試してみてもいいと思えるか?」

「父上が言うのなら、かまわん」

「俺がリオのマナをコントロールするし、失敗はしないだろう。リオには才がある」

「……ほれたよくめではないのか」

「難しい言葉知ってるなぁ……」

「多少あったとしても筋が良いのは事実だ。かなりのマナを使うだろうから鍛錬場へ移動するか」


 パンケーキを食べ終わるとリオは食器を片付けようとしたけど、魔王が念話で誰かにやっておくよう伝えたらしい。ローグ一族かな。


「念話か? 便利だよな」

「そうだな。だが今後は個人念話はできなくなる。契約紋を利用しているから血の契約を交わした者と、その者の従者関係にある者としかできん」


 だから私も魔王の念話が届いたんだ。

 契約紋から声を伝えるってことは、骨伝導みたいなもん?


「今は魔石があるしそう不便はないだろう」

「そうなのよ! 魔王に買ってあげた魔石の代金返してなのよ!」

「む? 分かった、アリストの件が終わったら返そう」

 危ない危ない、すっかり忘れてた。お金のことはちゃんとしないとね。


 私たちはエリシオンが立て掛けてある壁の周りに集まる。

 リオのマナ残量を把握する為にいてもらわないと困るからね。

 鍛錬場へと転移した。

 真ん中辺りでリオとアリストが一定の距離を開けて対峙する。魔王はリオの傍に立ちマナをコントロールする。


「掌で密度を落とした炎を練習してみろ」


 リオが掌を見つめて暫くするとソフトボールくらいの大きさの炎が出た。それを魔王が触ってみる。


「できているな。炎海は広範囲で効率が悪い。炎を放った先で火柱が立つイメージをしろ」

「火柱か……うん、分かった」

「マナの出力を上げるぞ。密度を維持しろ。今と同じくらいにできたらアリストに向けて放て」

「うん……、いつでもいいよ」


 人に向けて魔法を放つのは初めてだ。アリストに怪我をさせない為にも魔法に集中しようとしてるのが分かる。朝の鍛錬のような呼吸を使っている。

 魔王のコントロールも蛇口をゆっくり捻ってる感じがする。

 炎が赤くなったりオレンジになったりを繰り返し、やがて安定した。


 リオがアリストを見据え、掌の炎を放った。

 アリストに当たるのを合図に火柱が立つ。通常であれば上昇気流が起こるけれど空気が温められたほどでもないこの炎では然程風は起きない。

 その中にいるアリストは苦悶の表情を浮かべ、ついには膝を付いてしまった。


「なぁ、アリスト苦しそうじゃないか? 大丈夫か?」

「炎の所為ではない。知っているだろう、魔素を多量に取り込むと身体が熱を持つ。魔素を取り込められている証拠だ」


 魔王にそう言われてもリオの心配は消えない。

 一度放たれた魔法は術者の意志で消せない。ただ見つめるしかなかった。


「俺の言葉が信じられないか? リオの魔法は上手くできている。自分に自信を持て」

「違うんだ……ゼストじゃなくて、俺は俺を信じられないんだ……」

「お前は時々自分自身を卑下した発言をするな……他人のことを褒めるのは自分にないものが眩しいからか?」

「俺にはなれない、できないから凄いって思うのは当然だろ……? そう思うものが人より多いんだ。俺なんか、取るに足らない人間だよ」

「……お前は自分のことが嫌いなのだな」

「……だから、なんでゼストが俺を好きになってくれたのか、今でも不思議だよ。ゼストは理由を話してくれたけど、俺以外にきっといるよ……もっといい人が。先に出逢ったのが俺だっただけだ……」


 リオの自己評価が低いのは感じていた。“俺なんか”という言葉はよく耳にした。

 人間たちに勇者だリオ様だと持ち上げられた時、戸惑いが隠せていなかった。急に世界が180度変わったように思えたのは想像に難くない。

 私も自己肯定感低いから人のことは言えないけれど、だからこそリオの気持ちが分かる。

 そんなことないって何度言われても、響かないこと。


「お前と出逢えるまで何万年と掛かったんだぞ。お前だけでいい」

「……そ、そうだったな」

「まだ15だろう。自分の可能性を決め付けるには早過ぎると思うが?」

「可能性……なんて」

「決め付けるな。移動販売も魔法も自信なんてなかったんだろう? それでも成功している。その体験を積み重ねていけば自信に繋がる。自分のことが嫌いでもいい。そんなお前のすべてを俺が受け入れよう」


 イケメンンン……。

 こんなに想われてみたい。


「ありがとう……今のままでいていいって言ってくれて」

「お前がお前だから愛しく思うんだ」


 結局いちゃ付きで終わった頃、アリストを纏っていた炎が消えた。


「なんか……成長してる?」

「成人になるくらいまで続ける必要があるのかもしれんな……まだステータスは次期魔王のままだ。アリスト、休憩にするか? それとも続けるか?」

「はぁ……っ、だいじょうぶ、だ……続ける」


 少し成長したし元々あった色気が駄々洩れている……!

 いけないもの見てる感覚になるわ……。めっちゃ見るけど。


Copyright(C)2023.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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