#03 感じた
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
生きる為にはなんにだってお金が要る。
いつまでも私の貯金を当てにしてもらっては困る。推しに貢ぎたいのは山々だけど、私が死ぬまでなんて流石に無理。私も稼がなくちゃならない。
今はギルドも大きくなって大体みんなどこかのギルドに所属して働いている。傭兵だけじゃなくて医療とか商業とか様々な業種がある。フリーでやってる人も中にはいるけど、ギルドを通したほうが信用は上だ。
「リオは不老不死だから14歳のまま成長しないし、童顔で通すにしても10年が限度……ギルドに入るのは得策とは言えないのよ」
大人になって雄みが増したリオたんを見られないのが惜しい……とか思ってる場合じゃない。
「拠点を持つのも難しそうだな……」
「フリーで多いのは傭兵とか旅芸人、クリエイティブ系も流行ってるのよ」
300年前から平和になって以降、娯楽は増えている。とはいえ、私の興味をそそる娯楽は紙の上にしかないのでこの世界は退屈極まるままだ。
「リオにできそうなのは傭兵かもだけど、ツテがないとすぐには仕事にならないのよ……何かお金になりそうな得意分野とか思い付く?」
「剣技くらいしか自信のあるものはないな……。はい、フィエスタの分」
「ありがとうなのよ」
妖精サイズの器に盛り付けられたリオお手製のスープは、私の為に具を小さく切ってくれて愛情を感じずにはいられない。
「ってこれなのよ!」
「うん?」
「移動販売! それなら信用より味で勝負できるし、顔を覚えられることも少ないはずなのよ!」
「お金になるほどの味じゃないと思うけどな……」
【リオの作るものは美味い】
「ゼストまで……。でもありがとうな」
もふもふとした狼の背を撫でるリオはとても可愛く癒されるのだけど、よく考えて、それ魔王だから。
【……あまり撫でるな】
「ふふ、気持ちよくてつい」
魔王たじたじじゃない!
本体はきっとこの愛撫に困惑してるに違いないわ。そんな魔王も良き、とか思う私は完全にゼスリオ推しになってしまったと言わざるを得ない。
【俺の申し出は断ったのに、自分からは触れるのだな……】
「あ……」
【悪い気はしないが、何か、たまらない気持ちになる……】
「す、済まない。軽率だった……」
何をいちゃ付いてるんだこのふたりは。
「あ、もう粉がないな……」
さらりと話題を変えたリオは麻袋に残った少量の魔素粉(まそこ)をほとんど魔王の分のスープに掛けた。自分の分は本当に少量を掛けるだけに留める。リオたん優し過ぎ。
「魔物と全然遭わなくて補充もできなかったからな」
【恐らく俺がいた所為だろう。操ってるだけなんだが気配は消せないらしい。暫く離れていよう】
「そういうことだったのか。とりあえず、先に食べよう」
食べ終わって私たちと距離を取る狼の後ろ姿は、どこか哀愁が漂っていた。
ある程度離れたからか魔物にも遭遇するようになり、というか向こうから寄ってきたような。これ幸いといくつか角を集めた。それを粉状にする器具がないので、昔の鉛筆のようにナイフでガリガリと削っていく。
「ゼスト、いつ帰ってくるんだろうな」
魔物にとってどのくらい離れれば魔王の気配がしなくなるのか見当も付かない。
「離れなくて済む期間が長くなるように沢山角を集めなきゃなのよ。リオと離れる寂しさはよく分かるのよ」
「はは、そうだな。削るのは後でもいいし、できるだけ角を集めておこう」
それから魔王が姿を現したのは、1か月ほど経ってからだった。
【リオ……】
「ゼストか⁉」
森の中で遭遇した狼は紛れもなく魔王で、けれど弱っているような足取りだ。
「怪我でもしてるのか? ってゼストに限ってそれはないか……体調が悪いとか? フィエスタ、鑑定を――」
【必要ない……。ここから東にある村で、魔物が暴れている……】
「それは本当なのよ⁉ 魔王が復活してからもそんな話し聞いてなかったのになんで今更⁉」
【はぁ……っ、悪いが、説明は後だ……】
んん? 確かに体調は悪そうだけどこれはなんていうか、体温が上がってる時のような。
「大丈夫なのか……?」
【あぁ……、だから、急げ……っ】
声が掠れてほとんど吐息なんですけど。
色気駄々洩れてるんですけど。
「教えてくれてありがとう。人に見つからないように気を付けろよ」
東へと走るリオを追い掛け、暫くしてロナート村が見えてきた。ところどころ煙が上がっていて家屋が破壊されているのが分かる。暴れてる魔物は遠目でも確認できた。
ドラゴンだ。大きさからして子どもではあるけど。
「厄介なのよ……」
「急ごう」
魔法に長けた仲間がいない今、実質リオだけで倒すのはかなり骨が折れそう。なんて泣き言は言ってられない。私はリオの支援に徹するのみ。
村の入り口まで辿り着くと村人の悲鳴がよく聴こえる、と思ったら突然リオが足を止めた所為で私はぶつかってしまった。
「どうしたのよ?」
「いや……ううん、なんでもない」
「そう?」
相手が厄介だからってわけじゃなさそうだったけど、あまり見たことのない表情だった。いつものリオだったら悲鳴を上げてる人をすぐさま助けに行きそうなものなのに。
飛行する魔物を倒す常套手段は魔法や遠距離物理攻撃によって地面まで落とすこと。剣士の仕事はそこからになる。
リオはドラゴンの視線の先にある建物の屋根に器用に登った。
剣を構えるけど、無謀過ぎる。これじゃブレスで一発なのよ。
「リオ策はあるのよ⁉」
「うーん……こっちまで来てくれたらいいんだけど」
「ないってことなのよ⁉」
ドラゴンめっちゃこっち見てる。
ブレスの前兆である天を仰ぐ姿に私だけ血の気が引く。
「多分大丈夫だよ。不老不死なら。フィエスタは安全なところに」
いくら死なないからって、なんて無茶を!
「私はもうあなたが死ぬところなんて見たくないのよ! 不老不死でも痛みはあるんでしょう⁉ もっと自分を大切にしなさいなのよ!!」
「……フィエスタ、早く逃げろ」
どうしたらいいの。私が何を言ってもダメなの?
私はリオにとって、なんなの?
「これは……魔法?」
そう呟いたリオの視線の先を見れば、ドラゴンの首を魔法のようなものが貫いたところだった。お陰でブレスは吐かれず巨体は地に落ちる。
ちょうどいいところに頭があり、リオは屋根から降りる勢いのまま角を折った。
ドラゴンの翼、尾、手足に紙のようなものがくっ付いたと思ったらそれらは爆発し、ドラゴンにトドメを刺した。
「魔法じゃない、これは陰陽術なのよ」
「ああ、魔族にも使うやつがいたけど、ちょっと違うな」
「おい、俺の獲物を横取りしようとすんじゃねぇよ」
声がしたほうには、口の悪さからは想像もしなかった金髪碧眼美少年がいた。タレ目に加えて目元のホクロが憎いわ。
妖精の存在はかなり珍しいから、私はとりあえずリオの後ろに隠れた。
「済まない、そんなつもりはなかったんだ。報酬は全部君のものでいいから、この角だけ貰ってもいいかな?」
「あ? お前顔の割に古臭い喋り方してんな」
「そ……そうかな?」
確かにちょっと古風ではあるけどリオたんはこれでいいんですー! そこがいいんですー!
「角くらいならくれてやる。おい、村長いつまでこそこそしてやがる?」
「は、はい……この度は魔物から救っていただき……」
「礼なんざいらねぇんだよ。とっとと金払ってもらおうか」
どこの取り立て屋なの。村も随分な人物と取り引きしたものなのよ。
「ギルドへの申請をしなければ、その、報酬が入らないので、すぐにというのは……」
「約束が違ぇだろ、なぁ? 俺は即日払えるっつーから魔物狩りを引き受けた。違うか?」
「仰る、通りで……」
「ギルドからじゃなくこの村全体で徴収すりゃいい話しだろ」
ごたごたしているところを、リオがズカズカと入っていった。
「少しくらい待ってやればいいだろ? 急いでいるのか?」
「関係ねぇやつが口出しすんじゃねぇよ」
「直接関係はないけど、村の人たちは今夜寝るところにも困るんだ。その上お金まで徴収されたら生きていけない」
「俺は命懸けで魔物狩りをした。それで生かされた村人がどうなろうが知ったこっちゃねぇよ。こいつらは金で命を買ったんだ。その先まで面倒見てらんねぇだろうが」
「……確かに、そうだ。けどそれで誰かが死んだとしたら君だって目覚めが悪いだろう? 自分の命を懸けてまで人を助けることを生業にする理由は、本当に金だけなのか?」
「チッ、っるせぇなだったらテメェが払ってくれんのか⁉」
「そ、れは……」
リオ、私に振るんじゃないのよ。
私は財布なの? そんな残酷なことってある?
「はぁ……仕方ないのよ。出してあげるから村長に誓約させるのよ」
「よ、妖精……っ⁉ これはまた珍しい……」
妖精が森から出られるのは人間と契約するしか方法はない。たまに森から脱走した妖精を助ける為に人間が契約してくれることがある。だから凄く珍しいし、そんな妖精はそのままのネーミングで脱走妖精と呼ばれている。
なんだかいい気はしないけど、まさか勇者と契約した妖精だとは思われないだろう。
契約金の額を聞いてマナ契約を結ぶと、リオに持たせていた私のお金を美少年に渡した。
「これで文句ないのよ?」
「ああ、ねぇよ。よかったな、パトロンがいて」
「もう! 嫌味なやつなのよ! とっとと出ていくのよこの口悪美少年が!」
「あぁ?」
ギロリと睨まれ思わずリオの後ろに隠れた。美人の怒った顔は迫力があるって本当なのね。
村の外へ出ていくのを目線だけで見送り、リオと私は村長にめちゃくちゃ感謝された。比較的損害の少ない家で今晩の宿を勧められたけどリオは断った。
「仲間と逢う約束があるから遠慮するよ。ギルドからの報酬が入ったら知らせてくれ」
「本当に、本当にありがとうございました……! このお礼は必ず」
「村の立て直し、頑張って」
リオは本当に可愛い顔してイケメンだわ。
村から出て暫くすると、歩きながらリオは唐突に謝った。
「何に対する謝罪? お金は一時的な立て替えだし大したことじゃないのよ」
「お金のこともずっと申し訳なく思ってるけど……、フィエスタの気持ちも考えずに、無茶をしようとした……」
「あー……、そっちなのよ」
リオが危険を顧みないのは今に始まったことじゃない。真っ先に敵に突っ込んでいくし周りを守ろうと身体を張る。生きている時だってそれができてしまうんだから、不老不死になった今、まさに怖いものなし。仕方ないことだと頭では分かってる。
それを止めることは私にはできない。
「あの時は頭に血が上っちゃって大きな声出しちゃったけど、そんなに気にしないでいいのよ」
「俺は、自分を大切にする方法が分からないんだ……このやり方でしか戦えない。また無茶したら、済まない」
「リオ……」
「もう死なないからさ。ちょっとは安心していいよ」
言葉にできないもやもやが心を蝕んでいく。
安心なんて、全然できない。
そんな生き方を続けてリオは大丈夫なの? 心が壊れたりしない? 死ねないって、どういうことか分かってるの?
魔王は、永遠の中をどうやって生きてきたんだろう。
村近くの森に入ると魔王の操る狼が姿を現した。
「ゼスト! もう体調は大丈夫なのか?」
【ああ、お前のほうこそ怪我はないか?】
「ないよ。助っ人もいたしな」
【ほう……】
「それで、どうして体調が悪かったんだ?」
場所を変えて、夕飯の準備をしながら魔王の説明とやらを聞くことになった。
【魔物は俺の意思じゃなく勝手に暴れているという話しはしたな。あれらは俺に魔素を供給する為に動いている】
空気中にも魔素はあるけど一番手っ取り早くそして多く手に入るのは人間の恐怖心。だから魔物は人を襲い魔素を角へ吸収している。そしてその魔素は魔王へと供給され、人間でいうところの栄養を得ているのだと言う。
魔物から魔族への供給システムはないけど、恐怖心を感じて魔素を得られるのは同じ。つまりリオもそうなる。
【魔素を多量に取り込むと身体が熱を持ってしまう。お前も村に近付いた時、変化があったのではないか?】
「あ、ああ……。悪寒が走るような……、ゼストと本契約した時みたいな感じだったよ」
【……】
リオたんそれって……、そういうことだよね? 魔王黙らないでくれる? オブラートに包んで話してたのに腰骨へのキスと一緒にしちゃったらもうそれ、あれじゃん
あのキスに感じたって言ってるようなものじゃない……!!
そりゃ12歳から旅に出てるリオに性教育を受ける機会はなかっただろうけど、純真過ぎて説明しづらい!
私から言うのもあれだし同じ快感を知ってる者同士で話してくれないかな。
「あんまり感じたことのない感覚だからどう対処すればいいのか分からなくて、困るな……」
んんんー、困るリオたんは可愛いけどちょっと黙ってようかー。魔王も多分困ってるぞー。
ここは話しを変えるしかない!
「それより! 急に魔物が人間を襲い始めたのはどういうことなのよ⁉」
【あぁそれは、……】
「……それは?」
【魔物は、俺のマイナスな感情を感じ取って魔素を集めようとするらしい……。魔素は薬のようなものだ。摂取すればマイナスの感情を消すことができる……】
傷薬とかじゃないなこれ。媚薬とか麻薬みたいなものだよね?
「えーっと、要するにリオと離れて魔王が寂しいと思ったからなのよ?」
【……そういうことだ】
そういうことだ、じゃないわ! その片想いの所為でどれだけの人間に被害が出たと思ってるの⁉
そりゃ魔王の意思ではないからしょうがないのかもしれないけど、これってリオが受け入れたら世界は平和になるってこと⁉ 逆にフラれたりしようものなら人類は滅びるってこと⁉
全ては勇者に懸かっている……のは昔も今も変わらないか。方向性が違うだけで。
昔と違うのは、魔物を鎮める為に魔王を封印すればリオも封印されるという点。
世界平和の為には封印エンドか、ゼスリオ結婚エンド……ってことね。