#29 欲の開花
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
「俺、サンドイッチでも作ってゼストのところに行ってくるよ」
「お部屋の前までは転移で連れて行けますわ。中に入れてくださるかはゼスト様次第ですけれど」
「ありがとうリヴィナ。お願いするよ」
とりあえず朝食をとり終えると、リオは厨房のありものでサンドイッチを作った。ラニアはコーヒーを淹れ、トレンチに乗せた状態で食堂に戻ってくる。
私も付いていこうとリオの肩に座り、リヴィナの転移で連れて行ってもらった。
すぐ傍には、城の主の部屋とは思えないくらい普通のドアがあった。
リオがノックして声を掛ける。
「ゼスト、少しでも食べないか? サンドイッチ作ってきたんだけどどうかな?」
暫くして、解錠された音がした。魔法で開けたのかと思ったらどうやら手動だったらしい。魔王がドアを開けて顔を出した。
「ありがとうリオ。……入れ」
「いいのか?」
リヴィナは私たちと距離を取って一礼し、転移して消えた。
「それほど難しい術式ではないからな。それに、ひとりで食事をとるよりお前と一緒にいたい」
「それじゃお邪魔するよ」
恋仲になっても魔王の甘いセリフをスルーするところは変わらないリオ、安定過ぎて安心する。
魔王は私の存在にも気付いてるはずだけど、入れてくれるのね。
まぁいやらしいことするわけでもない……とか思ってる間に顎クイからの流れるようなキス!! 私のこと空気だと思ってるの⁉
「フィエスタもいるんだぞ……」
「このくらい見せても構わないだろう」
ファーストキスもばっちり見てました……とは言えない。
「俺はいいけど、ゼストのそういう顔は他の人に見せたくないな」
リオの独占欲きゅんです……ッ!!
「お前こそよくはないぞ。分かった、人前では自重しよう」
トレンチを受け取った魔王はデスクに置き、軽く腰掛けてサンドイッチを頬張った。
口の開け方が控えめだからかな。なんか品があるんだよな……。
今のパーティーはみんなパクパク食べるから余計差を感じるのか、魔族のみんな品が良い。
「お前も座ったらどうだ」
「え? 俺には高い机だな」
「俺の膝の上のほうがいいか?」
「何言ってるんだ? もっと高くなるじゃないか」
リオのスルースキル、好き……!
トレンチとは反対側の開いてるところに、リオは「よっ」と声に出して座った。
目線の高さが大体同じになった。真横に魔王の顔あるの新鮮……。
「ルーミーが言うには、赤ん坊がいるのと似た気配がするんだって。これが本当に次期魔王になるなら……ゼストはどうするつもりなんだ?」
「……術式を組みながらそれも考えていた。代替わりの方法が分かったとしても実現させるのは決して容易ではない。それに、俺との契約が切れれば魔族はみな元の姿に戻るだろう。……俺の我儘を通していいものか、迷っている」
「……みんな、ゼストと一緒にいたいって言ってたよ。たとえ死ぬことになっても……」
「……双子のことか」
「アルメーラは“僕たちのことは気にしないでほしい”って言ってた。魔族のみんなのことも次期魔王のことも、いろいろ気掛かりはあるんだろうけど、ゼスト自身がどうしたいのかもう答えは出ているんだろう? 誰もそれを否定したりしないよ」
「みな、俺に甘過ぎる……」
「愛されてるんだよ。俺もそのひとりだから、ゼストを甘やかしたい気持ちは分かる」
じ……と魔王の視線がリオに向けられる。
なんで無言? 無表情やめて?
「甘やかしてくれるのか」
「うん? いいよ。何してほしい?」
「……口付けしたい」
「それはダメだ」
ねぇ魔王、私の存在忘れてるよね?
「術式できてからな。今体液吸収しちゃまずいだろ?」
「む……分かった、すぐ組む。取り出す術式しか組まん」
「ははっ、早めに頼むよ」
なんて人参作戦だよ。リオって掌で転がすの上手いタイプなんだな……。もしかして夜もこんな感じで魔王を煽りまくって朝までだったんじゃ……?
今まで性的なことに対して積極性は見られなかったけど、経験を経てリオの性欲が開花したのか……⁉
これはまた紙を消費する事案だわ……!!
大きな紙に魔法陣が描かれ、その一番外の枠に魔王の血が一滴落とされる。線が光ったと思ったらすぐに消えた。
「これで取り出す準備はできた。みなにも話すか……その前にリオ」
「うん?」
「もういいんだろう?」
「うん、いいよ……俺もしたかったから。でもフィエスタを転移させてからな?」
強制的に締め出されました。
キスだけで終わるのか甚だ疑問だわ。
みんな集まってるところに転移させてくれたのか、温室でティータイムの真っ最中だった。
「フィエスタさん! おひとりですか?」
「術式はできたのよ。魔王からも話しがあるだろうけど、魔素の塊を取り出すことになったのよ。リオたちはちょっと……遅れるのよ」
「あー分かった、それ以上言うんじゃねぇ」
相変わらず察しの神ね。
双子のティーポットから分けてもらって紅茶をいただいた。お昼とりそびれたけどスコーンで十分だ。妖精サイズだと少しの量でいい。
それほど時間を開けずにリオと魔王、それと念話で呼ばれたであろう魔族全員が揃った。
「お前たちの中には不服に思う者もいるかもしれないが、リオの腹の中にある魔素の塊を取り出すことにした。その影響で俺との契約が切れる可能性がある。魔王の役割を降りる勝手を許してほしい」
了承の意なのか、魔族たちは片膝を付いて頭(こうべ)を垂れた。
代表してケイが言葉を告げる。
「私たちはゼスト様に救われた身。血の契約がなくなろうとも、お傍に仕えたい気持ちに変わりはございません」
「感謝する……」
「勿体なきお言葉です」
「……今ここで術式を発動させる。有事に備えろ」
非戦闘員は十分に距離を取り、戦える者はそれぞれ武器を構え、ケイは人狼へと姿を変えた。
武器を置いて来ちゃった私たちパーティーはキザシに結界を張ってもらう。リヴィナも2重で張ってくれた。
さっきまでの優雅なティータイムが嘘のように緊張が走る。
魔法陣を描いた紙を広げ、その中心にリオが立たされる。
魔王が両手を翳し魔力を込め始めると魔法陣が光り始めた。
「……っう」
「リオ、耐え難かったら好きな姿勢を取れ。少し、我慢してくれ……」
リオはお腹を押さえながら蹲り、片手を魔法陣に付いた。
痛いのだろうか。気持ち悪いのだろうか。魔素を取り出す感覚なんて想像も付かない。
額にはじわりと玉の汗が浮かんでいる。
光り続ける魔法陣の中へと魔王が入っていき、リオのお腹に触れた。
「抵抗を見せている。リオ、引っ張り出すぞ……」
「う……ゼス、あ゛……ッ!!」
仰け反るリオの身体を魔王が支え、お腹から黒い靄が引っ張り出されていく。
すべて出ていくとリオは肩で息をしながらその靄に注視した。
これが次期魔王……? 取り出すのが早かったから形を成してないのかな。
「……ステータスが見えん。名前がない所為かもしれんな」
「名前……、ゼ、スト……、アリ、……アリスト・ヴェラールって、どうかな?」
「悪くない。性別も分からんからな。中性的で良い名前だ。アリスト・ヴェラール」
魔王が名前を発音すると、私の鑑定でもステータスが見れるようになった。
と同時に、黒い靄が人の形へと凝縮されていく。
ついに姿が……って、この大きさ、赤ちゃんではないな? 5歳とかくらいの身長じゃないかな。
アリストの閉じられていた目が開き身を起こす。きょろきょろと辺りを見回すからこっちにも顔が見えた。
「ゼストが子どもになったみたいだ……っ!」
黒髪ロングに少し釣り目気味で確かに魔王の雰囲気はある。
「くせ毛と眉毛はお前似だろう」
ガチの新人親の会話だ。
魔王が自分の羽織をアリストに掛けてあげた。
裸だから分かったけど男の子だったな。
「敵意はないな。お前は自分が何者か分かっているのか?」
「……アリスト。つぎの魔王だ。おまえはいまの魔王か?」
「そうだ。お前の父親に当たる」
既に言葉も喋れるのね。
子育て奮闘記みたいなことにはならなそうだ。
「父上か……。さきほどからこっちを見ているあのものはなんだ?」
「リオだ。お前の……片親だ」
「よろしくアリスト、リオ・フィールダーだ」
アリストはリオから隠れるように魔王を盾にした。
「あいつは、きらいだ」
リ、リオが自分の子どもに嫌われたぁああ⁉
めちゃくちゃしょぼんとしちゃったじゃない!
「恐らくマナが膨大な所為だろう、あまり気にするなリオ」
「そ、そうか……勇者の力がなくなれば近寄ってくれるかな……なくなるんだよな?」
戦闘態勢を解いたみんなは適度な距離からアリストを見た。
「既に顔が完成されてます……」
「この歳でこの色気とか末恐ろしいガキだな」
「なんて可愛らしい……流石ゼスト様のお子ですわ。子ども用の服を仕立てなくてはいけませんわね」
「よろしく、ノア・フィールダーよ」
コミュ力お化けノア流石ね。真っ先に挨拶して握手を求めた。
アリストはノアの顔と手を交互に見て、握手に応えた。
「リオとかいうもののえんじゃか?」
「ええ、妹よ」
「おまえはふしぎだな……マナをかんじない」
「先に生まれたお兄ちゃんに取られちゃったんですって」
「おまえのことはすきだ」
「やだっ」
「ノアのほうに懐いてる……」
リオと同様にアルメーラがショックを受けてるんだけど……。どうにかしてよ。
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