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28/81

#28 気配

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。




第二部




 1か月の移動販売の旅を終えた私たちは魔王城に戻ってきた。それぞれの客室で休んだけれど、リオは魔王の私室に呼ばれたようだ。

 魔物操って消耗してんじゃないのかよ……お盛んだな。


 翌朝、改めて食堂に会した。

 ノアは双子にお土産話しを沢山してるみたい。アルメーラがそこはかとなく嬉しそうに聞いている。


【お帰りー。楽しかったようやなぁ……うちのこと完全に忘れとったやろ?】


 恨めしそうに言われても、宝剣持ち歩くほうが危険だわ。勇者以外には重過ぎて窃盗されることはないにしても、もしバレればこっちが窃盗罪になりかねない。リオの墓標だったのに紛失したままってことになってるんだから。


【うち、自分でマナ回復できへんねやんかぁ。ちょっとだけ供給してくれへん? ボロになってまう】

「え? そうなんだ。指先で触るくらいでいいのかな?」

【ありがとうさん。いつもお前にばかり苦労をかけて済まへんなぁ】

「うん? そんなでもないよ?」

【ちゃうやん! そこは“それは言わない約束でしょ”、が正解やで!】

「……何かのクイズだったのか?」


 困惑してるリオたんかわ。

 見てるだけなら楽しいけど自分に降り掛かったら面倒そうだな。


 リオが軽く触れるとエリシオンは考えるような沈黙の後、魔王に進言した。


【なぁ、今って魔王が勇者はんのマナコントロールしてるやん? 一旦それやめてみてくれへん?】

「……何を企んでいる?」

【人聞きの悪いこと言うなや。ちょっとばかし確かめたいことがあんねん……】


 本当に何を考えてるのか分からない人だ。人かどうかはともかく。

 魔王は訝しがりながらもリオに向けて掌を翳し、マナのコントロールを解除したらしい。


【見た目は変わっとらんな……せや、そこの妖精はん、勇者はんを鑑定で見てくれへん?】


 え⁉ 急だな……。一体なんなの?

「<鑑定>」

 私と同時に魔王もリオを鑑定眼で見たようだった。

 気になったのはリオのステータスではなく、身体の変化だ。


「なんなのよ……? リオのお腹の辺りに何か……魔素の塊? みたいのが見えるのよ」

「……マナは丹田から全身へと運ばれる。通常ならばマナが濃く見えるはずだが……、妖精、俺はどう見える? 自分を鑑定することができない」

「分かったのよ。<鑑定>……ううん、似てる、けど……流れてる感じがするのよ? でもリオのは留まってるみたいだし……?」


 魔王は顎に手を当てて思案する。

 一番知識があるんだから魔王頼みだわ。

 これは私の勝手な想像だけれど、いつだったかリオと魔王は身体エネルギーが違うという話しをしていた。マナといういわば光の身体エネルギーを膨大に有しているリオは、不老不死になってから闇のエネルギーである魔素を日常摂取するようになった。それが原因で身体エネルギーが闇寄りになってると考えられなくもない。

 それにしたって魔王とちょっと違う感じなのはなんで?


【これはひとつの可能性の話しやねんけど、勇者はんの勇者としての力がのうなって来てる感じがすんねん。その原因はやっぱり魔王やと思うねんやんか。なんか変やなと思たことない?】


 ちらりと魔王に視線を投げるリオに気付き、魔王が応える。リオにも思うところがあるみたいね。


「……契約時以降、追加で体液吸収をさせたことがなかったが、……それが原因か?」


 おっ……と、え? 吸収したの? なんか凄い発言してるぞ。


【まぁ、勇者はんは今までになく永いこと勇者でおったから、力が自然に消滅して新たな勇者に代替わりするって可能性もなくはないけど、え、今? って感じやん? いっちゃん変化があったんはおふたりさんがイチャコラし始めたことやろ?】

「えっと……つまりどういうことだ? 俺は勇者じゃなくなるのか?」

【ええか勇者はん、落ち着いて聞きよ? 要するにや、デキちゃったんちゃう? ってこと】


 は……はぁああぁあ⁉

 それはエリシオンの冗談とかじゃなく⁉ マジで言ってんの⁉


「デキた……? 何が?」

【もうとぼけんでもええやんっ、ふたりの愛の結晶やんかっ】

「愛……結晶……?」

「ちょ、ちょっと待ってよお兄ちゃん……え⁉ 嘘でしょ⁉ 赤ちゃんできたの⁉」

「……冗談、だよな? なぁエリシオン? 俺、男だし……」

【まだ可能性の範疇やて。鑑定で分からへんのやったら経過観察するしかないやろ】

「ゼ、ゼスト……」


 ずっと黙って聞いていた魔王はリオの困惑した顔を見つめた後、恭しく跪いて手を取った。


「どういう状況になったとしても、俺がなんとかする。リオはリオの望むように生きろ……お前を支え、永遠に傍にいよう」


 まんまプロポーズじゃん⁉ このタイミングでする⁉ めっちゃ責任取るって言ってるじゃん⁉

 ちょっと待って追い付かない。頭がまったく回転しない。

 あの魔素の塊が赤ちゃんだと⁉ どう考えても普通の子どもじゃないしそれ産んでも大丈夫なやつ⁉ ってかこのまま育つの⁉ そのうちリオのお腹突き破って出てきたりしないよね⁉


「……もし、本当に子どもだとして、それは……次期魔王ってことになるのか?」


 魔王は跪くのをやめ、リオの手を取ったまま答えた。


「……分からない。仮にそうなるとしたら、俺が持つ不老不死のスキルは受け継がれ、なくなるのかもしれん」

「魔王の役割から解放されるかもしれないんだな……」

「今となってはこの役割があってもなくても構わないと思える。お前がいるからな」

「お腹のものがなんなのか調べるのもどうするのかも、ゼストに任せるよ」

「……分かった」


 魔王の代替わりはこの世界にとって初めての出来事だろう。

 今まで誰とも深い関係にならなかった魔王には、こんな人間と同じような代替わり方法があったと知る術がなかったんだ。

 本当にリオとの間にできた子どもだとして、その子に魔王の役割を押し付けることになるのは魔王にとってもリオにとっても、複雑な心境じゃないだろうか。役割という重責を知っているふたりだからこそ。


「ゼストとの子どもだったらちょっと見てみたい気もするけどな」


 好奇心で物を言うのはやめなさいリオ⁉


「む……それはそうだな。俺の不老不死のスキルがなくなるようなことになれば、お前の成長も進むだろう。大人になったリオも見てみたい」


 雄みの増したリオ……だと⁉ 何それめっちゃ見たい!!

 ネガティブ方向にばっかり考えてたけど、夢があるなこの展開!!


「黒い塊を取り出すものと消し去るもの、両方の術式を組んでみる。参考までに宝剣、1か月前と比べてリオのマナの変化はどうなっている?」

【いちゃ付きはもう済んだんか? 人前でようやるわ。えーっとほんで? マナの変化やっけ? うちの感覚になってまうけど今までが100やとすると80くらい? になっとる気ぃするわ。その基準で言うと一般人は10も行かへんからまだまだ膨大ではあるんやけど】

「1か月で20か……大分ハイペースだな」

【単に夜に気張り過ぎなだけちゃう?】


 それは有り得る……。


「む……。今から作業に入る。リオは朝食をとってゆっくりしていろ」

「え? 食べないのか?」

「食事しなくても体調に変化はないから大丈夫だ」

「無理するなよ……」


 魔王は転移で食堂から消えた。

 あーこれ今夜もしたいから急いでるんだな?

 どんな理由にしろ、リオのマナ量と魔素の塊の成長がどう関係してるか分からない以上、早めに対処するに越したことないか。

 本当にお腹を突き破られたりしたら、そんなところ見たくないしリオに痛い思いしてほしくない。


「口挟める余裕ないくらい混乱してたわ。お前はどこもおかしく感じてねぇのか?」

「妊娠するとにおいに敏感になったり悪阻(つわり)があったりすると聞きますが……」

「自覚症状とかはないよ?」

「本当にデキてんのかも分かんねぇしな」

「みゃう……リオ、僕はちょっと感じる……です。お腹に何かいる感じ……」

「えっ?」


 そういえば獣人は気配に敏感なんだっけ。

 魔王にあれだけビビってたんだから似たような存在があるなら気付くよねそりゃ。


「お腹に赤ちゃんがいると、僕気付くです……。リオのも似た感じ、です」

「それっていつからなんだ?」

「旅に出た日……です。でも24時間経ったら契約時の身体に戻るって思って、……でも気配は薄っすらとずっとあって、なんだろ? って思ってたです」


 男であるリオの身体にまさか子どもがいるとは思ってなかったんだろう。


「今朝になって気配がもっとはっきりした……です。旅の間に変化はなかったのに……」


 昨夜の出来事が原因なのは明白ね……。

 魔王の体液吸収によってリオのお腹の魔素の塊は、存在感を増しているということだ。このまま続ければどんどん成長していくんだろう。


「こりゃ、現実味帯びてくんな……。魔王がそいつをどうするかは知らねぇけど。勇者のマナ20%減らしても産まれてこねぇんなら、魔王が代替わりするには勇者と継続的に関係を持たねぇといけないってことだよな? 次期魔王も相当苦労しそうだな」

「そうか……そういうことになるのか」


 歴代の勇者は男性が多いけれど稀に女性もなり得る。

 次期魔王の性的指向にもよるけど……なんだか最終決戦がお見合いみたいになるのね。


「魔族のみんなにも影響があるかもしれない。……どう思う? 最終的な決断はゼストに任せるとは思うけど」

「わたくしは不老不死でなくなったとしても、ゼスト様のお傍を離れる気などありませんわ」


 それはそうよね。

 ローグ一族も同意見のようだ。


「私たちも、そうするの。あの森にはもどりたくないの……」

「僕たちはこの姿をたもてなくなったら数時間でうごけなくなるよ……。それでも、死ぬならここで死にたいんだよ」


 魔王との契約が切れれば、妖精の森に帰るか力尽きるかの2択しかない。

 私も他人事じゃない。

 もしリオが次期魔王にマナを吸収され過ぎてしまえば、契約が継続できなくなる。そうなれば私も森に帰らないと生きてはいけない。

 リオの成長した姿を見られないなんて……。

 上げて落とされたわ。

 もう今ごちゃごちゃ考えてもしょうがない。なるようにしかならないのよ。


「ゼストはそれを知ったらどうするだろう」

「考えいたらない、なんてことないと思うの」

「ゆーしゃとの子どもが見たいならそうすべきだよ。僕たちのことは気にしないでほしいよ」

「そんなの……寂しいわ」


 ノアの呟きに、アルメーラはとても控えめに微笑みを零した。

 死に別れることになっても言わないつもりなのかしら。伝えても迷惑になると思ってるのかな。気持ちは分かるけど、せつな過ぎでしょ……。


ブクマ・評価ありがとうございます!

第二部のほうが長いので引き続きお付き合いいただければと思います(´ω`⋆)。


Copyright(C)2023.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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