#27 いい最終回だった (第一部・完)
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
「リオ、悪い。やはりやり過ぎた」
「謝ることじゃないよ。俺も際限なかったし」
ふたりして体力お化けだもんね……。
え、待って、もしかして朝まで……? 初夜飛ばし過ぎじゃない?
「随分打ち解けたのね……お兄ちゃんの壁がなくなってる」
「壁……なのよ?」
「人当たり良いし人たらしだけど、お兄ちゃんが心を開いてる感じがする人って少ないのよね」
言われてみれば自分と他人で線引きしてるのはたまに感じたけど、私に対してどうだった? 第三者目線なら気付けるんだけど……。
「ノアから見て、私に対してそれって感じるのよ……?」
「やだっ、不安にさせちゃった⁉ パーティーのみんなには感じないわよ!」
よ、よかったぁ……。推しに壁作られてたなんてショック過ぎでしょ……。
「そろそろエリシオン喋れるようにしてあげよう」
「……分かった。<インテイカー>」
吸収を始めると剣は柄を上にして立ち上がり、暫くすると落ちて地面に刺さった。
【ちょいちょいちょい吸い過ぎ吸い過ぎ!! 刃零れしてまうやろが⁉】
「……悪かったな」
【全然謝ってへんやん⁉】
「ゼスト、あんまりいじめるなよ。手も足も出せないんだから可哀想だろ」
【せやで! 口しか出されへんのやから、ってやかましいわ!】
見事なノリツッコミだわ。リオの言葉がまるで振りだったかのようだ。
「やかましいのはお前だ」
「エリシオン、俺はもう君で戦うことはしないよ。使う者がいなくなるけど、君はどうしたいんだ? 本心を言ってくれ」
【んんー、ちーっと昨日とは状況がちゃうねん……。さっき勇者はんに触られた時感じたんやけど、どうもおかしいっちゅーか……よう上手いこと説明できひんわ】
「状況が違う?」
「またいいようにはぐらかしているだけだろう」
【まぁなんにせよ、まだ全然喋り足りへんからこのままにしてほしいんやけど……、ええ?】
「うん、いいよ。みんなにも紹介しないとだな」
エリシオンが何を感じたのか、結局はっきりしないまま話しは纏まった。
何を考えてるのか読めない剣だわ。アルティマなら分かるかな。
魔王の転移でフィールダー兄妹はお風呂へ行き、私とエリシオンは食堂に送ってもらった。上手いこと壁際に転移していてエリシオンは壁に立て掛けられた。
魔王の配慮やべー……。
朝食を食べに続々とみんな集まってくる。
エリシオンはテーブルからはちょっと離れているから誰も存在に気付かない。
義足の調整を終えたノアと双子が転移で現れると、やっぱりアルティマは気付いた。
「知らない声がきこえるの」
「しんにゅーしゃだよ? まさか」
「それ、エリシオンだわ。お兄ちゃんの剣喋れたんですって」
「? 今まで声なんてしなかったの」
「おはよう、アルティマ、アルメーラ。エリシオンが言うにはマナが少なくなったから喋れるようになったんだって。心の声まで聞こえなかったんなら、喋れない時だと意識がない状態なのかな?」
【意識がないわけやないけど、思考が纏まっとらんから読心術で読めへんかったんやろ。周りの声は聞こえとるけどそれにツッコミ入れたりはできひん。喋り方忘れとるかもってのはそういうことや】
ぼんやりとして夢を見てる感じなのかな。
はっきりとした意識の中何万年と役割をこなせるのは稀有な存在のはずだ。エリシオンがどうやって選ばれたのかは分からないけど、そうすることで役割を永く続けさせる意図があったのかもしれない。
誰かの意図。
私がこの世界に転生してきたのも、もしかして神ってやつが本当にいて、どう動くか見て楽しんでいるんじゃ?
なんて、アニメの観過ぎかしら。
「妙な喋り方するんだな。方言か?」
「初めて聞くイントネーションでも理解できますね」
【よろしゅうな、キザシはんにシエラはん、それとルーミーちゃん!】
「みゃう……?」
「なんでルーミーだけちゃん付けなんだ?」
【えぇ? かわえぇ子には“ちゃん”付けたいやん?】
「……俺こいつ苦手だわ」
苦手認定はやっ。
そんで本人目の前に言い切っちゃうとこがキザシらしいというか……。
「皆さん、朝食にいたしましょう? もう準備できていますわよ」
いつの間にか来ていたリヴィナは、みんながエリシオンを囲んでいる間に魔王のセットをしていたらしい。
今日の髪型は定番の片側流しスタイルに緩い三つ編みアレンジが加わっている。
よき……。今日も良い仕事ね。
朝食を食べながら、リオは結論を話した。
「……俺、もう少し勇者を続けることにするよ。この役割から逃げたいって思いよりも、大切にしたいものができたんだ」
「……役に立ったか? 俺のアドバイスは」
「うん。ありがとうキザシ」
「それならよかった……が、おい、まさか魔王に馬鹿正直に話したんじゃねぇよな?」
魔王がずっとキザシを睨んでる。睨んでる? 無表情過ぎて分からん。
「す……済まない。同じように触ってもらうのになんて説明すればいいか分からなくて……」
「お前な……。何もまったく同じようにする必要はなかっただろ……」
「お前の言動が気に食わないのは今に始まったことではない。上書きができてよかった。だがお前は今すぐリオに触れた記憶を消せ」
「無茶苦茶言ってんぞ」
「ゼストって独占欲強いよな。俺しか見えてないのは嬉しいけど」
なかなか独占欲の見える発言だ。リオが惚気ている。なんか微笑みが……幸せに溢れてる。
周りにお花飛んでない?
「……リオ、ここに住んでくれるのか?」
「うん? ノアもいるしそうできたらいいな。みんなはこれからどうするんだ?」
同棲の話しがさらっと別の話題になってしまった。
「ちょっと待って、私お兄ちゃんと移動販売の旅してみたいんだけど!」
私含め、パーティーのみんながハッとする。
リオが封印の道を選ばないのならみんなが望んでいた旅の続きができる。
魔王も魔物の姿で付いてくればいい。リオと性的ないちゃ付きはできないけど。
「ノア……足のちょーせいはどうするんだよ」
「アルメーラも付いてくればいいじゃない! 町に出れば調整がいらなくなるアイデアが生まれるかもしれないわ」
「まったくわかってないの……」
アルティマがぼやくのも無理ないわ。
義足の調整はアルメーラにとって大事なノアと接する機会なんだろう。
「流石に定員オーバーだろ。今でもギリギリなんだぞ」
「そんなに大きい馬車じゃないからな。買った時は俺とキザシと狼1匹だったから」
「馬も増やさねぇとあいつ1頭じゃ可哀想だろ」
「ちょっと、そんな余裕ないのよ」
最近ようやく黒字に転じてきたばかりなのに、買い替えとか買い増しとか簡単に言わないでほしい。
「……出資くらいならできるぞ」
パトロンの登場だと……?
「そういえばゼストたちってお金はどうしてるんだ? 自給自足にも限界あるよな?」
「元から城にあった食糧や宝物品を使っていたが、人が増えてからは自分で稼ぐようになった。魔法具の技術を売ったりして安定的に金を得ている」
全部じゃないにしても人間の暮らしに貢献していたのか……。魔法技術の発展の一助になっていたのね。
仕事もやり手かよ……ぐうの音も出ねぇ。
アバルト領外に行けない魔王に代わり、リヴィナが人間と交渉したそうだ。
「馬車はどうにかなりそうだけど、どうする?」
「……アルティマ」
「私はいかないの。のじゅくや馬車のなかで寝るなんてむりなの」
「……僕も、いいよ。型げーこ? みたいなはげしい運動をしなければ、だいじょーぶだよ」
アルティマがじとっと見てる……。
何100年とこんな感じで進展しなかったのがよく分かる。今更関係性を変えるっていうのも大分勇気のいることだとは思うけど……歯痒い。
「早速旅の準備をしなくちゃ! 何日分の服を持っていけばいいかしらっ?」
「旅行じゃないんだから荷物は最小限だぞ?」
「俺も魔物を捕まえてこよう」
「操るのって消耗が激しいんだろ? 1か月くらいしたら城に戻ってこようか」
「……お前にも触れられんしな」
「え? 休養しに戻ってくるはずだろ?」
また朝までヤる気だな?
リオが満更でもなさそうに笑ってる。
「俺にとっては休養になる」
「本当かな?」
「さーて、準備するかぁ」
「ですです」
いちゃ付き始めるふたりの意識を戻そうとキザシたちがあからさまに動き出した。
「じゃあ準備できたらエントランスに集合しよう」
またリオと、みんなと移動販売の旅ができるなんて、これ以上のハッピーエンドはない。
俺たちの旅は終わらない……ああ、いい最終回だったわ。
【あれ? うちは留守番なん? ちょぉおお連れてってーやぁ! 喋れんくてええからぁああ!】
旅を終えた1か月後に起きる事態を、この時は誰も想像さえしていなかった。
第一部、完。
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