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#26 ある一夜

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。




「ゼストに触られた時と違いがあったら俺の答えは見つかる、って……だから、同じように、俺に触ってみてほしいんだ」


 キザシが触れたことへの嫉妬とリオに触れられる許可をもらった歓喜が入り混じってる感じがする。そんなごちゃ混ぜな感情を抑え込んで発せられた声は、ほぼ無感情になっていた。


「あのガキはどうやってお前に触れた」

「……ゆっくり肩を押されて」


 魔王はリオに言われた通り再現してみせる。

 ってか、押し倒すところも再現するんだ⁉

 目線を合わせる為に魔王は片膝をベッドに上げ、衣擦れの音がした。

 馬車の荷台とはまるで違うふかふかのベッドに身を沈めたリオは、少し戸惑っているように見えた。


「それから」

「……えっと、髪に手を差し込むようにして、頭を、撫でて、……」


 リオと魔王の髪質は大分違うと思う。

 魔王は触り慣れないリオの猫っ毛に指を通し、掻き上げるようにして頭を撫でる。

 もうこれキザシのとは別物だ。


「そのまま、頬から……首に」


 耳たぶに触れつつ魔王の掌が片頬を包む。親指がいたずらに頬骨を撫でた。

 首に掛かるとリオは逃げを打つように反対側に顔を背けた。


「……終わりか?」

「いや、……もっと下まで……」


 掌は下に滑るけれど魔王の視線はずっとリオの顔から外れない。

 心臓の真上で心音を聞くように少しの間止まった掌はお腹を斜めに撫で、腰骨の契約紋に向かった。


「そっそこまでは触られてないっ!」


 焦ったように魔王の手首を取ってやめさせる。

 薄暗いからはっきりとは見えないけど、多分、顔真っ赤だろう。


「……あのガキにもそんな顔を見せたのか」

「……どんな顔だ? でも、全然違ったよ……こんなにドキドキしなかった……。意味を持って触れるってこういうことだったのか……。ゼストは、どうだった? 俺に触りたかったんだろ?」

「そうだな……願いは叶ったはずなんだが、……足りない。もっと触れたくなった」

「そうか……俺も、気持ちが分かるよ」


 魔王の肩から流れ落ちた髪の束にリオが手を伸ばす。

 掴まえてないと指を滑っていってしまいそうなくらいサラサラだ。

 毛先を優しく掴むと口元まで引き寄せた。


「もっと触ってほしいし、俺からも触りたいって思うから」

「リオ……」


 魔王の頬に、リオの指先が控えめに触れる。


「俺……ゼストのこと、好きだよ」


 指先が離れてしまわないように魔王はリオの手を取り、手袋で隠された勇者の紋章に唇を寄せる。


「……それは本当か? リオ……」

「これが好きって感情じゃないなら、なんなんだよ……この言葉しか知らないよ。……なんで泣くんだ?」


 目から直接落ちた雫がリオの頬を濡らす。


「分からん……感情が昂ったら出てきた。どうやって止めればいいんだ……」

「昂ってたんだ。ゼストって顔に出ないよな」


 リオはそう言いながら魔王の頭を引き寄せ、抱き締めた。


「ゼストはこんな気持ちで愛しいって言ってくれてたんだな……。今まで触らせてやれなくて済まなかった。本当に俺は酷い人間だ……」

「そんなことはもうどうでもいい。……なぁ、リオ」

「うん?」


 肩口に埋まっていた顔を少し上げた魔王は抱き締められた驚きからか涙は引っ込んでいた。

 これから告げることを予期させるようにリオの唇を親指の腹で撫でる。


「……口付けしてもいいか」


 口……っ⁉ 古風な言い方で逆にドキドキするわ……。


「……い、いいよ」

 ダメと言える雰囲気ではないしな。していいか訊くのってズルイよね。


 お互い目を閉じるタイミングを見誤って見つめ合ったまま唇が触れ、一瞬で離れる。


「やわらかい……いや、うん、当たり前なんだけど……」

「そうだな……思った以上に、気持ちいい。もう少し、いいか」

「……うん」


 ファーストキス甘酸っぱ過ぎる。むずむずする。学生かお前ら。

 セカンドキスは上手く目を閉じられたらしい。唇を離す時キス音が立った。


「……リオ」

「……うん?」


 あ。ヤバイぞこれ。魔王がガチの雄の顔になってる。クッソイケメン。


「歯止めが効きそうにない……ずっと触れていたくなる。もっとお前の深いところまで……」


 ヤ……ヤバイヤバイ!! これ以上は私見てちゃダメなやつ!!


「深い……? ……口の中、とか?」

「ああ……どんな味がするんだろうな」

「ふふっ、さっき食べたスフレの味じゃないか?」

「俺も食ったから同じ味だな」

「スフレ……好きなんだ」


 は……っ! リオまで雄の顔するようになってる……!!

 つまりもう1回味わいたいってことね⁉


 吸い寄せられるように唇が近付いていく。


 そ、その前に私を離脱させて……!


 視界に入るよう動いたら魔王がちらっと私を覗い、唇同士が触れる寸前で転移させてくれた。ご丁寧に私が寝泊まりしてる客室だわ。

 今頃ふたりはキスに夢中になってることだろう……。まさか最後まで行ったりしない……よね? 行きそうな勢いだったけど?

 そこは明日の朝ふたりの様子から推察しましょう……。

 ってか、全然寝られる気がしないわ。今夜も捗るわね。


 とりあえず、お風呂入ってこよう……。




 あんまり寝られなかった翌朝、リオは今日も鍛錬に行くのだろうと思い間取り図を頼りに鍛錬場へ行った。直接入口に来たのは初めてだけど魔術で転移陣が設置されていて簡単に中へ入れた。

 昨日のままエリシオンが真ん中で刺さっている。


「おはようなのよ。まだ喋れるのよ?」

【おはようさん。喋れんで。昨夜(ゆうべ)はどないやった? 封印のふの字も出ぇへんかったんちゃう?】

「お察しの通りなのよ。どこまで行ったかは知らないけど無事に相思相愛なのよ」

【付き合いたてでほな封印しよ、とはならんやろ。最終的にそうなってもすぐってことはないわ。ここに刺さったまんまはちょい暇やけど】

「結局エリシオンは喋れない剣に戻りたいのよ?」

【それは――】


 エリシオンが答える前に、ノアが入口から転移で入ってきた。ざっと見回してリオを探す。


「フィエスタだけ? お兄ちゃんまだ寝てるのかしら……」

【勇者はんの妹ちゃん? 可愛らしい妹がおんねんな】

「……あなたお兄ちゃんの剣? 誰か操っているの?」


 喋る魔物に恐怖しなかったのは聞いたけど、喋る剣にも動じないのね。


【操ってるっちゅーか剣に憑依してる感じかな? エリシオンで通ってるんでそう呼んだってや】

「エリシオンね。ノア・フィールダーよ。面白い喋り方ね」

 フルネームでの挨拶はフィールダー家の作法なの?


 それにしても昨日は魔王をおちょくるような言葉が多かったけど、普通の会話だわ。思ったより会話が成立してる。


 そうこうしてたらリオと魔王が転移で現れた。


「みんな、おはよう」


 どこかほっとしたような顔でノアは微笑みを返す。


「おはようお兄ちゃん。ゼストも。エリシオンって喋れたのね」

「そうなんだ、俺も昨日知ったんだけど」

「それより、型稽古したら試合しましょう! 今日こそ1本取ってやるんだから!」


 エリシオンにあんまり興味ないな? まぁリオとの時間をもっと取りたい気持ちは分かる。

 ふたり息を揃えての型稽古は綺麗で、とても絵になる。格好いい。


「そういえばなんでここにエリシオンを刺したままなの? 試合の邪魔じゃない?」

「あー、俺が触るとマナを吸収し過ぎて喋れなくなるんだって。でも、そうだな……移動させてからまたゼストがインテイカー使えばいいかな」

「お前のマナを喰らわすのは良い気分じゃないが……リオがそうしたいなら、仕方ない」

「ありがとう。エリシオンも後でお礼言おうな」


 リオが柄を掴むと剣全体が淡く光り、やがて沈黙した。壁の近くに横たわらせると、兄妹は試合開始位置に着く。

 ふたりの息遣いが聞こえそうな静けさが訪れ、息を合わせたように同時に飛び出した。

 昨日みんなで観戦した時よりも、リオの動きが変にぎこちない。集中できてない感じもする。

 リオは打ち合いをやめて一旦距離を取った。


「調子が良くないみたいだけど?」

「うん……そうみたいだ」

「それでも、手加減なんてしてあげないんだから……ッ!」


 距離を詰めつつフェイントを入れてくるノアに、リオは防戦を強いられる。らしくない戦い方だ。けれどノアの攻撃は見切っていて当たりはしない。自分の調子が悪く手を出せないなら相手が崩れるのを待つ作戦か。手数が多くなればその分体力は削られる。攻撃が雑になれば隙が生まれやすくなるものだ。

 ノアが剣を振り上げ作ってしまった一瞬の隙をリオは見逃さなかった。態勢を低くし剣の軌道から外れた位置から、突き上げるように腕を伸ばしノアの首元を掠めさせた。


「――済まないっ、大丈夫か?」


 リオが木剣を退けるとノアはへたりと座りこんだ。


「……大丈夫よ。実戦がどういうものか、ちょっと分かっただけ……」


 剣は通常重さで斬る。だから振るのが基本動作だ。リオは実戦で流派の型にはない刺す攻撃法を身に着けている。特に心臓と頭、喉は致命傷を与えやすい。当てる気はなかったとはいえ咄嗟に出してしまうほどノアは強かったんだろう。


「お兄ちゃんは命のやり取りをしていたのね……勇者が嫌になるわけだわ」

「ノア……俺、今でも勇者はやめたいと思ってるけど、ノアとも、ゼストとももっと一緒にいたい。封印して終わりにしたくないんだ」


 リオ……。よかった。まだ一緒にいられるのね。


「……ゼストの気持ちを受け入れたのね。もう、鈍感なんだから……」

「そうだな……ヒールは掛けてもらったんだけどなんか挟まってる感じが取れなくて」


 ん? ちょ、なんて?


「挟まってる? なんの話し?」

「え? 何って違和感の話し……あれ?」


 リオぉおおぉお!!! これ確定じゃんかぁああぁあ!!!


Copyright(C)2023.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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