#25 生まれてきてくれたこと
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
「ってことで私絵描いてるから準備手伝えなくてごめんなのよ!」
「朝からずっと手伝ってねぇだろうが」
食堂内は紙を使った飾り付けがいくつかある。みんなで折り紙折ってたのかな。ほほえま。
隅に移動して私はこっそりと絵を描く。リクエスト通り双子はセットで描くわ。絵になるんだよなぁ。それともう1枚。
描き終わると準備も終わってるようだった。いつの間にか魔王が来てる。
この後の流れ私全然聞いてなかったわ。普通に夕飯食べるのかな? バースデーケーキいつ来るのかな?
「ではルーミーさん、リオさんを呼んできてくださいっ」
「みっ」
ん? なんでルーミー?
てってってっと軽い擬音が似合う駆け足で厨房のほうに向かって暫くすると、ルーミーはリオの手を引いて食堂に戻って来た。
手ぇ引いてんのも引かれてんのもめっちゃ可愛いじゃん……。
つーか、目隠し……だと⁉ エッッッ!! 誰のアイデアよ⁉
ちらっと魔王の表情を盗み見たけど、いつも通り表情筋仕事してない……。
リオはいつも魔王が座っている位置に座らされ、それと同時に魔王が指パッチンした。ふっと部屋の明かりが消え、ぽつぽつと魔石の灯りが灯るのみだ。
「リオ、目隠しを外せ」
言われた通りリオが外したタイミングで、厨房からワゴンでケーキが運ばれてきた。蝋燭がゆらゆら揺れている。ケーキはいちごのオーソドックスなものじゃなく、スフレケーキだ。リオの好物なのかな? ノア情報かな?
ザ・誕生日って感じの演出ね。なかなかここまでやり切ることは難しいけど。
リオの目の前に置かれ、真ん中の点いてなかった蝋燭に魔王が魔法で青い炎を灯した。
リオが褒めたからってー! ここぞとばかりに!
「綺麗だ……でも魔法の炎って吹き消せるのか?」
「やってみればいい」
リオがふーっと吹きかけると、他の火と一緒に違和感なく消えた。手品師もできるな魔王。
拍手と「おめでとう」の声がとても温かい。なんて良い誕生日パーティーなの……。
ケーキは一旦下げられ、先に夕食を食べた。リオのから揚げも冷めちゃうしね!
料理がなくなってきた頃、最初に下げられたケーキがカットされた状態でサーブされた。食後の飲み物付きだ。
私は時機を見計らって客室に置いたままだったプレゼント用の絵を持ってくる。それを確認したシエラが進行を始めた。
「ではそろそろプレゼントをお渡ししますよ!」
「やっぱりあるんだな……いいって言ったのに」
「みんなで少しずつお金を出し合ったのでみんなからです!」
買ってきたキザシがリオに箱を手渡す。
「開けていいぜ。使ってもらえりゃいいんだけどな」
「ありがとう。なんだろ? 重いな?」
木箱を開けると、中には美しい黒一色の包丁が入っていた。
「格好いい……!! ありがとう!」
そう来たかぁああ。リオにとっては実用品だし、プレゼントとしては“未来を切り開く”なんて意味もある。封印の道を選ばないでほしいという想いも込められているんだろう。
え? この後に私の絵渡すの? マジ?
シエラが寄ってきて私の背中を押し始める。
やめて、ほんとやめて。
「フィエスタさんのプレゼントはまた別なのですっ」
「え? そうなんだ」
期待した顔向けないで大したことないから……。
「ずっと一緒にいたのに、誕生日知らなくてごめんなのよ……でも、生まれてきてくれたことは本当に嬉しいのよ! ささやかなんだけど……これが私にできる精一杯なのよ」
せめて額かなんかあればよかった……ぺらぺらな紙1枚で本当申し訳ないというか居た堪れない……。
「凄い……これ、俺の絵? フィエスタにこんな才能があったなんて知らなかった」
「ほう……良い絵だ」
「ありがとうフィエスタっ!」
私の絵なんか敵いっこない本物の笑顔が眩しい。喜んでくれてよかった。
「私たちにも見せてほしいのです!」
「みっ」
「私も見たいわ! やだっ素敵!」
「流石に俺のより凝ってるってのは分かるわ」
「え? キザシも描いてもらったのか?」
わいわいしてる隙に、私はアルメーラにお礼の絵を渡した。
「これ、お礼の。もしいらなかったら本人にあげちゃっていいのよ」
「本人?」
1枚目の双子の絵も気に入ってくれたみたいだけど、2枚目のノアの絵のほうが明らかに目がきらきらした。
「なんで……」
「気に入ってくれたならよかったのよ」
「アルメーラはじれったくてしょうがないの。あのゆーしゃの妹なの。言葉にしないとわからないの」
確かにその可能性は捨てきれないな。私の憶測じゃ告られて初めて意識するタイプね。
「わかってほしいなんて、思ってないよ」
静かに、旋律が食堂に響く。
ルーミーの声だ。
スキルの癒しの歌を使ってる。なんでそんな展開になってるんだ?
キザシが髪に隠れた頬を触ってるのが見える。やっぱり傷があったのかな。
歌い終わったルーミーは襟から自分の体を覗いた。
「傷……消えた、です」
「凄いスキルだな……。俺の傷も消えた感じがする……」
リオは自身の胸、心臓辺りを触っている。魔王の魔法が当たった位置だ。
「素敵な歌声だったよ」
「みゃう……。ありがとう……です」
「どうするかは、決まった?」
これからが本題ね。
私は妖精サイズに戻ってリオたちの輪の中に混じった。
「み……、僕、契約しない、です」
「ルーミーさん……」
「身体の成長は怖いけど……心も成長した僕なら、受け入れられるかもしれない、です。今逃げても、みんなを哀しませるの分かってる……です。シエラお姉ちゃんとも、もっと仲良くなりたい……から」
「嬉しいです……、私もなのです」
シエラはなんとかそれだけは声に出して、ルーミーを抱き締める。
「泣かないで……シエラお姉ちゃん。ごめんなさい……」
何度か聞いてきた今までのルーミーの謝罪の言葉とは違って聞こえた。まったく正反対なのに、“ありがとう”に聞こえる響きだった。
「ルーミーは、強いな……」
「み……? リオ?」
「俺も答えを出してくるよ。ゼスト……場所を変えよう」
流石にふたりきりでやるのね。これを見逃すわけにはいかない。
椅子から立ち上がったリオの服にくっ付いて転移に備える。
「……俺の私室でいいか」
「うん。……みんな、今日はありがとう。おやすみ」
転移陣を広げる為にみんなから距離を取ると、ノアが呼び止めた。
「もう逢えないなんてこと……ないわよね? どういう答えになっても、明日また逢えるのよね?」
「大丈夫。もうノアと離れたりしないから、安心していいよ」
「それなら……いいわ。おやすみなさい、お兄ちゃん」
リオと再会できて心は戻ってきたけど、まだ昨日の今日。不安になって当然だ。リオは今日ずっと魔王と一緒だったしノアとの時間を取れてない。リオだってノアと全然話し足りないはず。このまま別れるはずがない。
エリシオンのこともあるし、今夜封印なんてことにはならない……はず。
もう私にはリオが何を得て何を捨てる決断を下すのか、分かんないわ。
みんなの姿が消えて、魔王の私室に転移した。
人感魔石が反応してぼんやりと部屋を明るくする。
すぐ傍に魔王の寝台があった。
「座ってもいいかな」
「ああ……」
「わっふかふかだ」
魔王はどういうわけか立ったままリオを見つめ続ける。出方を見てるのか隣に座るのは憚られるのか。
「……キザシがさ」
え、いきなりキザシの名前出す? 大丈夫?
「俺に触ってくれたことがあったんだ」
「……何?」
リオぉおおそれぶっちゃける必要あるぅうう⁉
「ゼストに触られた時と違いがあったら俺の答えは見つかる、って……だから、同じように、俺に触ってみてほしいんだ」
Copyright(C)2023.鷹崎友柊




