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#24 宝剣エリシオン

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。




 宝剣エリシオンは勇者以外が持つとめちゃくちゃ重くなるらしい。勇者の活動期以外は王都シュタインメッツ城の宝物庫に保管されている。長年使われずともサビず、使われていても刃零れひとつしない。手入れの必要がないというのは、考えればおかしなことだ。魔術である程度劣化を防げたとしても、単なる剣ではないのは明白。


「変な感じがしたら手放せよ、リオ」

「え? うん、分かった」


 魔王はエリシオンに向けて掌を翳す。

「<インテイカー>」

 スキル名の発音とともに発動した魔法を鑑定してみる。相手のマナを吸収する魔法のようだ。


「わっ……剣が!」


 勝手に震え始めたエリシオンからリオは手を放す。けれど地面に落ちることはなく、柄を上にして浮遊した。

 不気味過ぎる……実は呪われた剣だったりするの?


「リオの手から離れたらマナを喰らえないだろう? いつまで抵抗が持つか見ものだな」


 魔王めっちゃ余裕……流石。ってか最終決戦並みに生き生きしてる。この姿、とても魔王然としてるわ。


 エリシオンのほうを鑑定してみると、さっきまでは見えなかったスキル、インテイカーが表示されていた。同じ魔法をぶつけたことで隠蔽が解けたのかな。

 空中でがたがたと震えていた剣はマナが尽きるのかそのまま落下し、刃が地面に刺さった。


「俺の魔法から直接吸収しようとしたぞ……こいつ豪胆だな」

【っだぁああぁあもうなんてことしやがるんやクソ魔王が去ね!!!】


 ……ん? 知らない声がどこからか……。


【マナが尽きたら剣として使い物にならなくなるやろうが⁉ うち宝剣なんやけど⁉ 国の宝なんやけど⁉ うちがおらんかったら人間なんて即行滅びるんやからな分かってんのか⁉】


 関西のツッコミ激しいよ……。今までこんなツッコミ入れられる人いなかったから新鮮過ぎる。

 ってか、エリシオンの中身こんななの? 声質が幼女なんだけど?


「エ……エリシオン?」

「悪霊の類か……? 騒がしいやつだ」

【っだぁもうバレてもうたやないか! しゃーない。ちょいと勇者はん、うちに触れてマナくれへん?】

「リオはお前の餌ではない。こんなやつにくれてやる必要はないぞ、リオ」

【心の狭い魔王やなぁ。うちが勇者はんと常に一緒におるからって嫉妬せんといて醜いで?】

「……<インテイカー>」

【待って待て待て待ってそれだけは堪忍や!】

「ゼスト、あんまり怒ると魔物が……」

「む……」

「エリシオン……でいいんだよな? ゼストを煽るようなことはやめてくれ。君だって人間に被害が及ぶのは本意じゃないだろう?」

【正直人間なんてどうでもええねん。うちは歴代の勇者とその仲間と旅して面白おかしく生きれたらええんやもん】

「……君も役割を与えられた存在なんだな。お喋りが好きそうなのに今までずっと黙ってて、つらくはなかったか?」


 エリシオンは一瞬言葉を詰まらせたようだった。


【今喋れてんのはマナが少ななったからや。こんなん初めてなんやで……喋り方も忘れてもうたかもしれんって思う程やった。いや全然喋れてるけど。びっくりやでほんま】

「俺が触れたらまた喋れなくならないか?」

【なるやろな……うちの意思と関係なくマナの吸収は始まってまう。だからはよ触れて。勇者はんの手めっちゃ好きやねん】

「ふざけるのも大概にしろ」


 魔王の声がひっくい……。イライラしないでお願いだから。リオに触れられずに我慢してる側からすれば逆撫でする発言だと理解はできるけども。


「俺がなんで魔王城に来たかも知っているだろう? 勇者はもう生まれない。エリシオンも役割を終えていいんだ。君は本当はどうしたい?」

【さっきのマナ纏って魔法使うん楽しかったやろ? またやりたない? 初めての感覚やったわ……なぁ、もう1回せぇへん?】


 なんだこの色仕掛けみたいな言い回しは。態となんだろうけど。


「君がしたいならもう1回するよ。でもその後は? 喋れない剣に戻りたいって本当に思うんだったら叶えるよ」

「……お人よしが過ぎるぞ」


 リオは魔王に向けて謝るような笑みを向けた。


【代替わりの激しい勇者はんには分からんやろな……この役割に疑問とかごちゃ付いた感情持ってちゃやってられへんねん。もうそういう生き方を受け入れるしかないんや。久し振りに喋れておもろかったで。ありがとう】

「……答えになってないぞ」

【せやから戻りたい言うてるやん】

「言ってないじゃないか!!」


 リオの怒声って初めて聞いた……。魔王もびっくりしてる。


「……済まない、大きな声出して。……君と同じように永く役割を全うしてきたゼストは、変わったよ。君もそんなものに縛られる必要なんてないじゃないか。もう……うんざりなんだ。そんな生き方を強制されるなんて、間違ってる……」

「リオ……」


 リオが誰かを否定したことってあったっけ。ありのまま受け止めて否定はしない感じだったのに。


【……せやかて、どないするんや。勇者はんしかうちを持たれへんのやで? ずっとここに刺さっとけって言うん? 相手おれへんなら喋れる状態でおってもしゃーないやん】

「……す、済まない。そこまで考えてなかった……」

【考えてなかったんかーい!】


 たまに見切り発車するんだよなぁ……後先考えてないのよね。なかなか感情的に突っ走るタイプよ。


「城の周辺までなら転移で行けるが。話し相手がいるかは知らん」

「そうか……魔族たちも封印されちゃうしな」

【……そのことなんやけど、封印の前にしとくことあるんやろ? さっさと答え出してきぃや。それまではここで待ってるから】

「え? ああ、まぁそうか……ひとりにしちゃうけど思う存分喋っていてくれ」

【勇者はん、うちをただのお喋り好きやと思てへん?】


 封印する前提でずっとリオは話してるけど、魔王への気持ちに気付いても考えは変わらないのかな。変わらないと思ってる……だけ? 封印エンドしか見えてなくて突っ走ってるだけなんじゃ?

 これはゼスリオ結婚エンドもまだ全然消えてないってことでは⁉

 だからエリシオンはリオが答えを出すのを待つって言ったのか。結婚エンドなら城の中には不老不死の話し相手がいる。


「そろそろ夕飯だ。厨房でいいか」

「えっ? もうそんな時間か。エリシオン、またな」

【精々気張りや~】


 リオにくっ付いて、私たちは厨房に転移してきた。既にローグ一族が準備を始めている。


「リオ、あいつのこと苦手に感じていただろう」

「ちょっとだけな……。周りにはいないタイプだったから」

「新たな一面のお前がこんなに早く見られるとはな」

「ゼストばっかりずるいなぁ」

「少し得をした」


 笑って……る? 表情はそれほど変わってないけど声がそんな感じだ。


「……声を上げて笑うゼストとか見てみたいな」

「む? 腹の底から笑った記憶はないな」

「はは、想像もできないや。じゃあ、また後で」


 リオってなんで別れ際こんなあっさりしてるんだろ。

 厨房に入るとみんなに挨拶をして、から揚げを揚げ始めた。魔王はそれを少し見つめた後転移でどこかへ消えた。

 相変わらず会話そのものがいちゃ付いてたな。このふたりが本気でいちゃ付いたらどうなんの? 糖度ヤバない?


 私が厨房にいても邪魔だからみんなを探しに行く。食堂に行くと大体みんな集まっていた。


「キザシとリヴィナがいないようだけど?」

「あ、フィエスタさん! ふたりは街にお出掛けに行ったようなのです!」


 こ、こっちもデートだと……⁉

 私がいない間に……気になる!


「ゆーしゃへのプレゼントを選びにいったの」

「それとこれ、渡したかったよ。まだ試作品だけど」


 アルメーラが取り出したのは、鉛筆と消しゴム……って言っていいのか分からないけど魔法文具だ。妖精サイズのミニチュア版まである! 気が利き過ぎでしょ!


「ありがとうなのよ⁉ 試し書きしてみていいのよ?」

「どうぞだよ」


 隠し持っていた紙片をポケットから取り出す。妖精サイズでA4くらいの大きさだ。実寸の何分の何かまでは分からないけど。

 紙に適当に文字を書き、消してみる。ただ擦るだけで消えた! 魔術なの⁉ 原理分からん!


「完璧なのよ! あ~リオのプレゼント描き直したいのよ!!」

「プレゼントに何か書いたのですか?」

「私絵を描くのが好きなのよ。でも一発描きって下手クソで……」

「絵……ですか?」


 ペーパーレス化してから作られた魔石で読む本は、文字や線が光って空中に浮かび上がるようになっている。白い紙に黒い線で描いた絵はまったく馴染みがないだろう。


「この紙貰うのよ」


 私は人間サイズになり、机に置かれていた紙に絵を描いた。

 物を手に持つだけじゃ無理だけど身に着けていれば服もサイズ変化してくれるの地味に有難いわ。


「凄い……キザシ、ですっ!」

「こ、これが紙に描いた絵なのですね! 似てます! キザシさんです!」

 見た目の特徴が多いからキザシにしたのは正解だったわ。

「俺がなんだって?」

 転移だと急に現れるからびっくりするわ。勝手にモデルにしてごめん。

「お帰りなさいです! フィエスタさん絵がお上手なのです!」

「待って待ってこのくらい長年練習すればある程度描けるのよ……」

 あんまり褒められ慣れてないから居た堪れない……。


 キザシも私の絵を見てびっくりしたようだった。


「長年練習して身に付けたスキルなんだろ? なんで自信持てねぇのか分かんねぇな。少なくともお前くらい絵が描けるやつ今の時代にいねぇよ」


 キ、キザシに褒められたことって今まであったっけ……。褒め言葉になってるのか微妙な気もするけど。


「あ……ありがとうなのよ……」

「で、なんで俺なんだ? リオじゃねぇの?」

「リオはもう描いたのよ。誰を描いたのか分かりやすいのがキザシだと思って……このペンの試し描きだったのよ」

「あー、アルメーラが作るって言ってたあれか。すげぇ。消せんの?」

「っぴゃあ! 勿体ないのです!! 消さないでください!!」


 あぁなんかこれ前世でも見たな……。描いた本人は気に入らないと躊躇いなく消せるから。


「アルメーラへのお礼に何か描きたいのよ。アルティマと一緒のがいい? それとも魔王なのよ?」

「ゼ、ゼスト様も絵にできますの……⁉」


 おっと違う人が食い付いた。

 あのガチのイケメンを描くのは相当気合入れないといけない。でもある程度似せられるはず……昨日も今日も18禁はいっぱい描いたんだけど。リヴィナには見せられないやつ……。


「……気にいってくれてよかったよ。それなら僕は、アルティマと一緒の絵が欲しいんだよ」

「……アルメーラ」


 心の声を聞いたのか咎めるような呼び方だった。

 本心じゃないってこと? 遠慮、とかじゃなくこの場で言いにくい相手が誰かいるのかな。

 それって、え? 大分絞られるから私分かっちゃったかも……。


Copyright(C)2023.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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