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#23 おうちデート

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。




 魔王の気配の所為で動物も魔物も見当たらず、森での散歩は穏やかに終わった。

 城の離れには塔があり、本城よりも高く設計されている。


「見張り台のようなものだ。本来の用途で使うことはまずないが」


 内壁に沿うように螺旋状になった階段をリオは楽しそうに登る。

「秘密基地みたいだ!」

 どちらかというとお姫様が幽閉されてそうよ。


 塔の中心部には小部屋があり階下のほうには食料の備蓄があった。上のほうは小部屋はあれど中は空。最上階は見張り台に相応しく360度見渡せるようになっていた。


「凄いな……良い眺めだ。ゼストが見ている世界を少しだけ覗けた気がする」

「……人間とそう変わらんだろう」

「え? こんな凄い城に住んでる人少ないだろ?」

「む……広いだけだ」

「やっぱり俺、ゼストのこと全然知らないんだなって思った……。この森のことも、ゼストの他人への配慮も、弓が引けることだって……。ここのみんなゼストのことが好きだって言ってたぞ」

「……畏怖の念だけではないのは分かっている。俺には家族と呼べるものがなかった。今のあいつらとの関係は疑似的なものであっても気に入っている……」

「済まない……俺がそれを終わらせてしまう」

「謝ることではない。言っただろう、お前が永遠に傍にいてくれるなら封印されても構わない。あいつらを巻き込んで悪いとは思うが……最後くらい自分の為に動いても、許してくれるだろう」


 リオは額を押さえるようにして俯き、表情を隠した。


「なんで……俺だったんだ」

「……勇者に選ばれたことか」


 リオは反応しなかったけど魔王は続けた。


「歴代の勇者はマナの量が膨大であることに加え、剣技に才のある者ばかりだった。宝剣エリシオンが勇者を選定している可能性もあるが本当のところは俺には分からない。俺が魔王になった理由も分からないんだ……神がいるのだとしたら、そいつの気まぐれなのかもしれん」

「……他の人が魔王だったらって、思ったことはないのか」

「……ないな。こんな役割を負える人間はそういないだろう。適役だったということだ」


 リオは顔を上げた。泣き出しそうな目を魔王に向けて。

 魔王はそんなリオに目を細めて見せた。


「……そんな顔をするな。俺はお前が勇者に選ばれてよかったと思っている。俺を終わらせに来てくれて、ありがとう……リオ」


 目の淵で堪えていた涙が頬を伝っていく。


「俺は……魔王がゼストでよかったなんて思えない……。魔王が人間の敵であってくれたら、迷わずに役割を果たせたはずだ……。ゼストが俺なんか好きになるから、どうしたらいいのか分からなくなった……。リオ・フィールダーとして好きになってくれたことは嬉しいよ。でも、だからこんなに迷ってるんだ……。魔王が他の誰かだったら、多分こんなに苦しくならなかった……」

「……悪い」

「違う、ゼストが悪いんじゃない……」

「リオが俺のことで苦しんでくれることが嬉しい。今、魔王でよかったと初めて思っている。……勇者は必ず魔王と対峙する。きっとお前に逢う為に俺は今まで魔王をやってきたんだ……」

「そんな……わけ」

「お前が愛しくてたまらない……永遠に俺の傍にいてほしい」

「ゼスト……」


 魔王は自身の服の袖を使ってリオの涙を拭った。そして濡れた袖に唇を寄せる。


「お前の涙は綺麗だ……。いつにも増して瞳が輝いて見える。その涙を誰にも見せたくないと思う程に……愛しい」

「……俺、ゼストの前以外で泣いたことないよ……。こんな、弱音みたいのも吐き出したことなかったんだ……。俺と同じ抗えない役割を持ったゼストなら、受け入れてくれそうな気がして……なんでも話してしまう。ゼストは……泣いたりするのか?」

「記憶がないな……お前を手に掛けた時は、泣いたかもしれん。あまりよく覚えていない」

「……済まない」

「……罪の意識を抱えているならその言葉を受け取ろう。そしてお前を許す。どんな理由があろうとな」


 またリオの目から涙が溢れてきて、自分の袖で拭うように目元を隠す。


「許さないでくれ……俺はゼストに、酷いことをした……っ」


 やっぱり、あの時リオは死んでもいいつもりで飛び出したんだ。

 想いを寄せてくれてる人に自分を殺させるなんて、どれほど残酷なことか。


「……それは聞けないな。狡いと思われるかもしれないが、お前が俺と契約してくれたのは贖罪の気持ちもあったのだろう。それを利用したんだ。今お前とこうして過ごせていることがこんなにも嬉しい」

「ゼストは……ズルイよ。こんな俺のすべてを受け入れようとする……」

「死なせてやれなくて悪かった……。俺もあの時は自分のことしか考えていなかった……お互い様だ。自分を卑下する必要はない。……顔を上げろ、リオ」


 腕を退けても落ち続ける涙をリオは手で拭うけれど、なかなか顔は上がらない。

 魔王は下から覗き込むように地面に膝をついた。


「いろんな表情をするお前を見ていたい。泣き顔だけじゃなく、俺しか知らないリオの表情を、もっと知りたい……」

「俺も、もっと知りたい。ゼストのこと……」

「今夜中に何かひとつでも引き出して見たいな、新たな一面のお前を」

「……うん」




 お昼の時間になったのでふたりのデートは一旦終わり、私だけ客室に戻ってささっとサンドイッチを戴いた。

 私に即日用意できるプレゼントと言ったら、絵くらいしかない。


 でもその前に、なんだったのあの見張り台でのふたりの会話は⁉

 全力で息潜めてたけど鼻息荒くなりそうで呼吸止めてたわ!! 物理的にも精神的にも死ぬかと思ったわ!!

 リオに思い出を、とかそんなんじゃなくていつも通り口説いてただけじゃない! もう口説くというよりプロポーズしてたよね⁉

 ふたりに全然そんな気なかっただろうけどもう、性的な話しにしか聞こえませんでした……ッ!!

 ベッドの中でやれよ! いやあんな明るいところで堂々と話してくれたお陰で私が盗み聞きできたんだけども!

 プレゼント用じゃない絵が量産されていく!! 捗りまくる!!


 ひと通り吐き出してプレゼント用の絵も描き終わると、リオを探しにまず食堂に向かう。するとちょうど厨房のほうからリオが出てきたところだった。

 から揚げの仕込みしてたのかな。


「お待たせ。転移で行くのか?」

「ああ」

 ちょちょちょちょっと待って!


 ギリギリ魔王の転移に間に合い、着いたのは鍛錬場だった。


「あれ、フィエスタ。用事は終わったのか?」

「そうなのよ。これから何するのよ?」

「ゼストに魔法を教えてもらうんだ」


 ああ、使いたがってたものね。魔王はいわば魔法に関するスペシャリストだから適任だわ。


「基本的には体内のマナを意識しイメージを具現化する、それが魔法と呼ばれる現象だ。イメージの間に無意識に魔力変換されるからそこはあまり難しく考える必要はない。まずはマナを意識することからだな」


 魔王は人差し指を立て、炎を具現化させた。


「青い炎格好いい……」


 たまに厨二発言するリオたん可愛い。


「む……注ぐ魔力の密度で温度が変えられる」

「密度?」

「波のようなものだ。分かりやすく言えば1秒間緩やかに魔力を注げば温度は低く、素早く注げば高くなる。始めは赤いほうがイメージしやすいだろう。密度のことはとりあえず考えるな」


 言いながら白、黄色、赤と魔力の密度に比例して温度を下げていった。ここまで色をコントロールできるのは魔王くらいだ。


「勇者は身体に収まりきらないマナを常に纏っている状態だ。そのお陰で病気になりにくかったり怪我の治りが早かったり何かと恩恵はあるが、マナのコントロールは容易ではない。俺が抑えておいてやる。指先に意識を集中させろ」


 指先の炎を消した魔王はリオに向けて掌を翳した。

 リオは人差し指を立てたまま目を閉じ集中に入る。剣技の鍛錬の時と同じ呼吸だ。


「指先が……温かい。わっできてる⁉」


 目を開けた時一瞬だけ見えたようだけど、集中力が切れてすぐに炎は消えた。


「魔法を使ってるの見てると派手な印象があったけど、こんな繊細なことやってたんだな……」

「戦闘中に集中力とイメージを持続させる為にも詠唱は効果的かもしれんな。言葉自体にも魔術的な力がある」

「魔術? 魔法と魔術って違うのか?」

「魔法は現象、魔術は結果を得る為の仕組みだ」


 この鍛錬場の結界も森の幻覚も、陰陽術も魔術の類らしい。一度マナを込めれば効果が一定期間続く。式紙は予め紙や葉にマナを込め、術者によって解放されることで使えるもののようだ。


「魔術は応用が効いて何かと便利だが、上級者向けだな。さっきの炎をもう一度出してみろ。少し出力を上げる。指先を壁に向けろ」


 言われた通りリオは指先を壁に向ける。

 親指立ててると指鉄砲みたい。霊的な丸いアレが出そうよ。

 今度は目を閉じずに壁を見つめている。

 と思ったら、放たれた青白い炎が壁一帯を埋めるように燃え広がった。


「……上手いな。魔法の才もありそうだ」

「本当かっ? 魔法が得意なゼストに褒められると嬉しいな!」

「火の性質をよく分かっている。扱う属性を理解していなければ自由に魔法は使えないからな」

「もしかして料理のお陰かな? 火加減は得意なんだ」


 魔法ってこんな庶民的なものだっけ?

 妖精は属性魔法が得意な子も中にはいるけど基本的には1スキル特化型だ。私はエンチャント、アルティマは読心術、アルメーラは夢喰い。人間みたいにいろんな属性魔法を使えたりはしない。ちょっと羨ましいわ。


「なるほど……普段の生活の中にも鍛錬方法はあるんだな。その想像力があれば他の属性魔法も労せずできそうだ。リオが使ってみたい魔法はなんだ?」

「んー、一番興味があるのは治癒魔法だ」

「む……俺も一応は使えるが……、使いたいやつがいるのか?」

「うん……傷跡をなくしたりできないかな?」


 ルーミーの身体の傷かな。キザシの陰陽術で傷口を塞ぐことはできても、傷跡までは消せなかった。


「広く使われるヒールは本人の自然治癒力を高めることを目的としている。薄めることはできるが完全に消すとなると……、獣人が使える癒しの歌はその効果があるな」

「ルーミーのスキル?」

「なんだ、妖精は鑑定で見ていないのか」

 え。見てないけど。

「俺は鑑定の上位互換である鑑定眼を持っている。初見の相手のスキルを確認する癖が付いていてな……恐らく小娘と血の契約をした時に付与されたスキルだろう。血の契約で付与されるスキルは唯一無二になり得る特別な魔法が多い」


 し、知らなかったぁああ。

 300年前と違ってパーティーバランスなんて考える必要がなかったから、リオの友達を鑑定する発想がなかった。


「上位互換って、鑑定は唯一無二じゃないのか?」

「勇者と妖精の血の契約時のみに付与され、詠唱が必要でない点では特別だが、何分古い魔法だからな。研究を進めたら俺も使えるようになった」


 研究する時間は沢山あっただろうし、暇潰しでやってたらできたんだろうな……。


「因みにスキルの違いってなんなのよ?」

「そうだな……見ようとしなくても見える。鑑定が虫眼鏡なら鑑定眼は目そのものだからな」

 なるほど。


「さっきのでリオのステータスに火属性魔法が追加されてるぞ」

「えっスキル名はなんなんだ?」

「炎海(えんかい)。広範囲魔法だな」

「炎の海か! 格好いい!」


 こんなテンション上がってるリオたん珍しい。そんなに魔法に憧れてたのね。


 因みに普通はスキルを使おうとすると頭に詠唱とスキル名が浮かんでくる。新しいスキルを覚えたと気付くのは既にあるスキルを使おうとした時だ。


「剣にマナを纏わせられれば両手持ちのリオでも魔法を使いながら剣を振るえるだろう」

「刃が燃えるってことか⁉ やってみたい!」

「木剣だと燃えてしまうぞ……」

「エリシオン取ってくるよ」


 リオが泊まった客室に置いたままだった愛剣を、魔王の転移で行ってすぐに戻って来た。

 鞘から抜くと構え、意識を集中させる。


「……」


 魔王は無言だけど、表情が険しい。どういう感情なの。


「凄い……剣が燃えてる! ――っ<炎海>!!」


 スキル名を叫び剣を振るうと、数メートル離れたところで炎の海が広がる。マナを放ったことで刃の炎は消えた。

 スキル名叫んでみたかったのね……可愛い。


「リオ、なんともないか」

「え? さっきよりはマナを消費した感じはするけど、大丈夫だよ」

「元々が膨大だからな……だが多用するのは危険だ。その宝剣はお前のマナを吸収している」

「……それってどういうことだ?」

「マナを放とうとしてると察知しやめさせようとした……勇者のマナを餌にして生きているのかもしれん」

「餌……剣が生きてるのか?」

「鑑定眼ではそこまで見えないが……ぼやけている部分があるな。スキルを隠蔽するスキルがありそうだ」


 え……なんかきな臭い話しになってきたわ。


Copyright(C)2023.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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