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#21 グイグイ

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。





 ノアは項の剣を退かすように天井を仰いだ。


「あー! 悔しい!」

「ははっ、実戦経験の差かな」


 妹と話す時のリオは凄く自然体で、これが本来のリオなんだと分かる。私が今まで見てきた姿と、そう変わらない。勇者になってからしか知らなくたって、いつだってリオはリオだったんだ。


「お兄ちゃんはこの300年寝ていたんでしょう? 納得行かないわ」

「寝てたって言っても不老不死だから筋力が衰えるなんてこともないしなぁ」

「そういえばなんでお兄ちゃんが魔族になったのかまだ聞いてないわ」

「あー、えっと……」


 リオはこの話しになる時だけ歯切れが悪くなる。珍しい兄の様子にノアが不思議そうにしている。


「俺から話そう」

 いつの間にか魔王が観客席から下に降りている。

「え? どうして?」

「俺はこの手でリオを殺した……だが死ぬ間際に無理矢理に仮契約を結んだ。リオを愛しく思っていたから……死んでほしくなかった」


 ノアは言葉を理解するのに大分時間を要した。沈黙の間、魔王とリオの顔を交互に見たり考え込んだりした。

 リオはふたりともに視線を合わせない。


「お兄ちゃんがここにいるのはゼストに応える為? それとも勇者として封印する為?」


 核心を突く疑問にリオは即答しなかった。


「……封印する為に、来たんだけど……ノアにも逢えたし、どうしたらいいか分からなくなってる……」

「……私を理由に使わないで」


 魔王への態度からも予想はできたけど、結構言う子だわ。


「ゼストを封印したら俺たちも、魔族も同時に封印されるんだ。ノアはそれでもいいのか?」

「そんなのよくないわ。ないけど、全然勇者としての責任で動いてないじゃない! それなのにどうして封印しようとしてるの? ゼストのこと嫌い? そうは見えないわ。お兄ちゃんがゼストを魔王として見てないのは分かるもの。封印するかしないかで迷う前にそっちをちゃんと考えるべきよ。ゼストの気持ちを知ってて無視するなんて失礼だわ」


 ぐう正論……。

 リオの勇者としての悩みを知らないとはいえ、よく言ってくれたというか。


「あまりリオを責めるな。俺のことはどうでもいい」

「どうでもよくないよ……。ノアが言ってることは正しい。……俺がここにいれば、ゼストは寂しくなったりしないよな?」

「……ああ」

「分かった。封印のことは後で考える。ゼストへの答えをちゃんと出すよ。最初に、約束したもんな……済まないゼスト、俺自分のことばっかりだった……」

「お前はもっと自分のことを優先していい……。お前が悩んでしまうくらいなら俺の気持ちなど忘れてほしいと思っている……」

「そんなこと……できないよ」

「お前は優しいからな……、他人である俺の為じゃなく、ただリオの心にあるものを伝えてくれればいい」

「心にあるもの……?」

「ゼストってば欲がないのね。お兄ちゃん押しに弱いからもっとグイグイ行けばいいのよ!」

「グイグイ……?」

「ノアはなんでゼストの味方してるんだ?」


 魔王がその気になって口説けばころっと落ちてきそうな気はするけど、如何せん何万年と引き篭もりで初恋真っ只中な人に押せ押せなアピールができるとは思えない。素で口説き始めるからいざ口説くと意識した時、すらすらと言葉が出てくるのかしら。


「ねぇ、ゼストはお兄ちゃんのどこを好きになったの?」


 妹強過ぎる……。その質問できるのノアだけよ。


「む?」

「お、おい何訊いてるんだ?」

「リオは俺のことを知りたいと言ってくれた……魔王としてではなく、どういう人物なのかと。俺を見てくれたことが嬉しかった……」

「……ゼスト」

「リオは人の目を見て話すだろう。俺にそうできるやつは今までいなかった。リオにまっすぐ見つめられると心臓を掴まれたように感じて、動悸がして苦しい。だが不思議と不快ではない。いつまでも見つめていてほしいし、俺もそうしていたくなる……」

「ゼストって意外と情熱的なのね」

「そんなこと言われたら、もうゼストの目見れないじゃないか……」


 目を手で覆ってるしこっからじゃ遠くてよく見えないけど、多分顔赤くなってるなこれは。


「やだ。お兄ちゃんが照れてるとこ初めて見たわ」

「寂しいことを言うなリオ……」

「それはズルイだろ……寂しがらないでくれ」


 リオは手を退けて魔王と視線を交わした。

 そんな赤い顔で見つめるほうがズルイでしょうが!!


「あ、えっと……、汗……凄いから、お風呂まで連れて行ってくれないか……」


 転移で来たから場所分かんないもんね⁉ ちょっとその甘えたような言い方やめてよぉおお!! 全然意味違く聞こえるからさぁああ!!

「ちょっとリヴィナ……紙とペン頂戴なのよ……」

「えっ、今必要ですの?」

 この滾りを消化できるのは紙の上しかないわ。


 フィールダー兄妹と魔王が転移してお風呂へ行った後、キザシはぽつりと疑問を投げた。


「リオと魔王見ててつらくならねぇの?」

「……なりませんわ。何年お傍に仕えてると思っていますの? わたくしがそういう対象にならないことなんてとっくに思い知っていますもの。勇者も満更ではないようですし、ゼスト様を幸せにして差し上げてほしいですわ」

「ふーん……」


 そこで、俺にしとかねぇ? くらい言いなさいよ! 絶対言わないだろうけど!


「この城に来るまで疲れが溜まっていますでしょう? 今日はもう眠りましょう」


 全員を転移で客室まで飛ばしてくれて、リヴィナは別れ際に紙と一緒に城内の間取り図をくれた。この客室から食堂までは歩いて行ける距離だ。

 客室は個室なので、私は貰った紙にペンを走らせまくれた。流石にブランクがあり過ぎて感覚を取り戻すのに時間掛かったけど、めっちゃ楽しいぃいい!! 愛が強過ぎてほとんどリオばっか描いてたけどゼスリオも捗る……! あぁ鉛筆と消しゴム欲しい! アルメーラ早く作ってくれないかな……!

 散々描いた後、この紙どう処分するの……と我に返った。




 人間サイズでベッドで寝る久方ぶりの感覚……しかもマットレスふかふかで寝心地最高だった。

 もう十分満足したし、紙を妖精サイズに小さくカットしてから私は妖精に戻った。切ってしまえば何が描いてあったかなんてバレないし!


「フィエスタ起きてるか?」

「入って来てなのよ」


 ノックして呼びにきてくれたリオにドアを開けてもらう。


「あれ? 妖精に戻ってる」

「こっちのほうが落ち着くのよ。言い忘れてたけど、ありがとうなのよ人間サイズになれるようにしてくれて」

「俺じゃなくてゼストのお陰だよ」


 リオはノアと朝の鍛錬をしてお風呂に入った後らしい。シャンプーの香りがする……。

 キザシたちも呼びに行ってみんなで食堂に歩いて向かう。その途中でリオは厨房に向かうと言うので私も一緒に付いていった。


 パンの焼ける良い匂いが漂う厨房内には、ローグ夫妻のふたりのみだ。


「おはよう、朝はケイとラニアだけなのか?」

「まぁおはようございます勇者。ゼスト様は朝が弱いので朝食は凝ったものを作らないんですよ」

「おいラニア、余計なことを言うな」


 確かに朝に強いイメージはないわな。寝起き機嫌悪いかぼんやりしてるかのどっちかね。


「そうなのか。ここに来る前、俺より早く起きてて寝顔見られてたのに。もしかして魔物を操ってるとあんまり眠れないのかな……」

「まったくあのお方はご無理をなさる……。勇者の寝顔なんぞ見ずに身体を休めてもらいたいものだ」


 リオに対してのツンケンな態度だろうけど魔王に対するセリフはめっちゃ優しい……。


「まぁ。好きな人の寝顔を見られる幸せは知っているでしょうに」

「お前は少し黙っていろ!」


 ナチュラルに惚気られてしまった。ケイはラニアに対してはこんな感じなのね。尻に敷かれてるというより掌で転がされている。


「私はそもそも勇者と恋仲になるなど反対なんだ。女の勇者ならまだしも、同じ男など全くもって許容できん」

 魔王のお父さんか何かなの?


 私の周りには同性愛に理解のある人が多かったけど、こういう人のほうが実際には多いだろう。


「俺が女性だったらよかったのか……?」

 懐かしい問い掛けね。私室で魔王がリオに言ったセリフだわ。

「よくないわ戯(たわ)け! 勇者は勇者だろうが!」

 結局性別関係なくね?

「この人はゼスト様を取られたくないだけですよ。私はゼスト様の初めての恋、応援したいわ。何万年と生きてこられた方がようやく巡り合えた、その相手が勇者だなんて、運命としか思えませんもの」

「運命……」

「勿論、あなたに無理強いするつもりはないのよ。ただ、ご自分の気持ちに嘘だけは吐(つ)かないでくださいね」

「うん……誠実でいなきゃと、思うよ。ラニアとケイはなんでゼストと契約したのか、訊いてもいいか」

「まぁ、うふふ」

「お、おい話す気じゃないだろうな?」

「いいじゃありませんか。もう何千年と昔の話しなんですから」


 ばつが悪そうなケイは調理に集中するらしくそれ以降黙った。


 ラニアが言うには、魔物が住むこのアバルト領内でも人間と似たような諍い、いわば縄張り争いが度々あるようだ。ケイが率いる狼の群れが諍いに巻き込まれ、ラニアは瀕死の重傷を負った。


「その頃、幸いにもゼスト様は目覚められていました。この人は私を助ける為に魔王城へ赴き力を借りに行ったのです。誰も魔王城に近付こうとしなかった中、自分を顧みず行動してくれたこの人に惚れ直したわ」


 魔王はラニアの元まで赴き、治癒を施したそうだ。それだけでその場を去ろうとした魔王を引き留めたのはケイだった。


「従者などいらんって切って捨てられちゃったけれど。ふふ。感謝を表す為に何かしたいって申し出たら、食事を一緒にとってほしいなんて可愛らしいことを仰られてびっくりしたわ。勿論そんなことくらいじゃ私たちの気は収まらなくて、血の契約をしてほしいと願い出たんですよ」

「ラニア、長話ししてるからもうパンが焼けた」

「はいはい。城のことが忙しくて最近は食事を一緒にとってないわ……今日は私たちもお邪魔しようかしら? すぐお持ちしますから食堂で待っていてくださいな」

「うん、話してくれてありがとう」


 ケイがめちゃくちゃ嫁さん想いなのは分かったわ。また惚気られたし。

 魔王が手を差し伸べたから今の魔族があるんだ。そりゃ、みんなに愛されるはずだわ。


Copyright(C)2023.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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