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#02 そんなんR指定

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。




 リオの身支度を整えたはいいけどとりあえず食べ物だ。その後に服を調達しなくては。身体は不老でも服の傷みはどうしようもない。いつまでも推しにボロを着せておきたくはない。

 食材調達に森を散策していると、茂みが揺れた。リオはすぐさま剣を構え出方を伺う。

 そこから現れたのは、熊だった――小熊の魔物。見た目は可愛らしいけれど油断は禁物。いくら魔王の力が届かず弱まってるとしても魔物は魔物だ。


「なぁフィエスタ……」

 ころころと、魔物は果物を転がして寄越した。

「……これ、俺にくれたと思うか?」

「……<鑑定>」

【その必要はない】

「っ魔王なのよ!」


 魔物を介して話し掛けてきたのは紛れもなく魔王の声。そしてステータスには“操士者”に魔王の名前がしっかりと書かれていた。


「何故こんなことを……」

【腹が減っているのだろう?】

 ばっちり思考感知されてるのよ。

「そうだけど……。うん、これは受け取るよ、ありがとうゼスト」

 リオたんマジ天使。

 さぞかし魔王もそんなリオたんにきゅんきゅんしていることだろう。


「さっきフィエスタから世界は平和になったと聞いたんだが、人間を襲うのはやめたのか?」

【俺もさっき起きたところでな……】

「この300年ずっと寝てたのか⁉」

【そうだが……? お前もだろう】

「そう……だけど?」

 暫くお互い噛み合ってないことを察して黙った。


 やがて魔王はこの世の理を語り始める。


【お前たち人間の封印が何故解かれるか知っているか?】

「え? 魔法の力は術者の死後も永遠に続くわけじゃないからだろ?」

【それもあるが、根本的な原因はそこではない。勇者の施した封印は勇者によって解かれる。つまり、次代の勇者が生まれた時に生じる強力なマナに反応して封印は消え、俺は目覚める】

「魔王が復活すればまた勇者も現れる……それは逆だったということなのよ?」

【そうだ。そして昨夜、お前が生き返った時に俺の意識が戻った】


 この300年魔物が大人しかったこと、新たな勇者が生まれなかったこと、すべて魔王が勇者に不老不死の呪いを掛けた為。

 この世の理を、たったひとつの感情で覆してしまったということ⁉


「ゼストが意識を失ってたのはなんでだ?」

【……お前の心臓を貫いてしまった直後、俺は酷く動揺して、……不老不死の力を与えれば生きながらえるのではと、無理矢理に仮契約をした。リオが許諾していない為に勇者の膨大なマナが暴走し、影響を受けたのだろう。それはお前にも当てはまったはずだ】


 あの時リオのステータスは確かに“死亡”と書かれていた。ステータスを見たのはそれが最後で、もしかしたら不老不死の呪いが身体に定着するまで時差があって、どこかのタイミングで“臨死”や“仮死状態”に変わっていたのかもしれない。


「仮契約というのは? 本契約とは違うのか?」

【本契約するには当人の承諾が要る。そして仮契約のままだとそのうち失効し、……お前は死ぬ】

「……考える時間は、そう長くないのか」

【正確には分からない。……早いうちにもう一度俺の城に来い、リオ】


 不老不死になるかすぐに死ぬか、酷い選択肢なのよ。

 だけど魔王はただ一途にリオを想ってのことだ。私も不老不死の力を持っていればきっと同じことをする。

 リオには生きていてほしい。それが単なるエゴでも。


「……ゼスト、あの時の答えがまだ出せていないんだけど……、もう少し待ってくれるか」

【……時間が欲しいか】

「ああ……。だから、するよ、本契約」

【……待っている】

 魔物はふと我に返ったように私たちの前から逃げ去った。

「いいの? リオ……」

「この呪いはゼストの善意だろ。その気持ちを踏みにじってまで死を選びたくはない。それに、フィエスタをまた哀しませたくないしな」

「……お人よしなのよ」

「そういえば思考感知について訊くの忘れたな」


 ただリオの気持ちが知りたかっただけなんじゃないの、なんて流石に野暮で口にはしなかった。

 その後何度か魔物が食べ物を運んできたりしたけど、リオは丁重に断っていた。




 私の貯金をリオの新しい服と装備に充て、魔王城へと赴いた。その間魔物は一切襲ってくることはない。リオはいわば賓客なのだから当然だ。


 開け放たれた門を潜りエントランスへと入る。

「とりあえず最後に戦った場所に向かえばいいか――な?」 

 喋ってるうちに転移させられたのは、魔王の私室だった。

「びっくりした……」

 リオにくっ付いててよかったのよ。


 部屋を見渡せば魔王は寝台に腰掛けていた。装備と言える装備はしていない。所謂私服。

 そしてポニテである。

 黒髪ロングポニテの画力(えぢから)よ! うなじが美しいったらないわ!

 前に見た時の、緩くひとつに纏めて片側に流してるのも大変風情があって好みだけども、これはこれで良き!


「よく来たな、リオ」


 ほぼ無表情だけどどことなく嬉しそうなのなんなの! リオたんに逢えて嬉しい気持ちはめっちゃ分かるけど!

 魔王は指でこっちまで来いと指示してきた。

 やん、イケメン……。


 リオは礼儀を重んじて腰の剣を壁に立て掛けてから魔王の眼前へと立った。


「印はどこに出ている?」

「ここだ」

 服の上から指し示すと魔王は口元を覆って何やら考えた。

「……印が出る箇所は人によって違う……。本契約する為には、印に俺の体液……簡単なのは血か唾液だ。それを吸収させる必要がある……」

「吸収……?」

「一滴ほどだが、……どちらがいい?」

「えっ⁉」


 血ならまだ指の先とかで触れればいいけれど、唾液って、結構濃厚なキスってことじゃん⁉ リオたんの腰骨の出っ張りにキスってそんなんR指定だわ!! よく考えて選ぶのよリオたん⁉ でもちょっと見てみたいとか思ってないんだからね!


「……じゃあ、唾液で」


 リオたぁああん⁉

 く……純真無垢なリオたんが魔王によって穢されてしまう……たまらん。

 薄い本を分厚くして出版したい!!


 そんなことを思ってる間にリオたんがズボンのベルトを外し始める。


 待って待ってこれ私見てていいやつ⁉ 魔王が理性ぶっ飛んで雪崩れ込んだりしないよね⁉ すぐ目の前ベッドなんですけど⁉


「もう少し近くに来い」


 素直に従ったリオたんは魔王に契約紋を見せた。


「……凄い恥ずかしいな、これは……早くやってくれ」


 出現率0.001%のSSR照れるリオたん来たぁああ!!

 私の前で全裸見せても平気だったリオたんと同一人物なの⁉ 私がまったくそういう対象じゃないから⁉ えっ魔王は対象内ってことなの⁉


 魔王がリオたんの腰を軽く引き寄せ顔を近づける。

 その隙に、視界に入らないよう注意して魔王の頭上に手を翳すリオたん。

 これは封印の。その為に顔を伏せる必要のある唾液を選んだのよ⁉


「リオ……」


 唇が触れる寸前、魔王が名を呼ぶから私もリオも身体がぎくっと固まった。


「この状態で俺を封印すれば、お前も封印されるぞ……この体勢のまま、だ」

 思考感知。

 そりゃ、バレるわ。

 ってかこの体勢で永遠に動けないって、クッソ恥ずかしいじゃん。

「それは……やめておくよ」

「お前たちは本当に無知だな……。だが第3の道に気付いたのは悪くない。どれを選ぶにしても、お前の犠牲は必要になるが、……今一度問う。永遠に生きるか、即刻死ぬか、封印されるか、どれを選ぶ?」

「俺は……、死にたくないとも生きたいとも思ってないんだ……。もう、一度死んだ身だしな……」


 リオ……?


「お前には分かってるんだろう? ゼスト」

「……ああ、お前は、誰かの為にしか生きられない。酷く、利他的な人間だ……」

「……それが、俺だ」

「リオ・フィールダー……」

「……っ」


 魔王は契約紋に唇を触れさせた。

 微かに鳴る水音が私まで羞恥心を煽られる。


「熱……っ」


 熱を帯びるのは契約成立の副作用だ。

 リオたんエッッッなんて思ってない思ってない。


 魔王はようやく寝台から腰を上げ、その身長差でリオを見下ろした。


「お前が、愛しい……」


 ふぇ⁉ 唐突の愛の告白⁉


「……ありがとう。でも、待ってくれるんだろ?」

「時間は永遠にある……何年でも、何百年でも待とう。どんな答えであれ、お前が生きていればそれでいい」

「……ありがとう」


 どこか複雑な思いがありそうな謝意だった。

 たまにリオは、どこかに消えていってしまいそうな危うさを見せる。いつも前向きだし仲間を鼓舞したり全民(ぜんたみ)に優しい勇者の鑑のような人だけど、もっと、弱い部分も見せてくれたらと思うのは傲慢だろうか。

 もう長いこと生きてきて退屈でたまらない、そんな世界を変えてくれたリオに、誰よりも幸せになってもらいたい。それは魔王もきっと同じだ。


「思考感知は外しておいた……。あれは自動で付くものだからな……お前の心は気になるが、覗かれるのは良い気分ではないだろう」

「……優しいんだな」

「……そう言われたのは初めてだ……」


 魔王、照れてね? もうちょっと表情筋仕事して。


「それと、俺との契約によって、マナを多量に含む人間の食べ物が口に合わなくなるだろう。これを掛けるといい」


 寝台脇のチェストから取り出された麻袋をリオが受け取る。


「これは?」

「動物が魔物となった時に現れる角を粉状にしたものだ。足りなくなれば狩ればいい」

「いろいろと済まない。……必ず、答えは出すから」

「いつでも来い……答えが出ていなくても。俺はお前に逢いたい」

「……うん、分かった」


 魔王は名残惜し気な雰囲気だったけどリオは壁に立て掛けた剣を取りに離れた。


「俺も、ゼストと話すのは楽しいよ。またな!」

「……ああ、また」


 転移によりエントランスへと私たちは帰された。

 捨て台詞の破壊力が凄まじい流石のリオたんだわ。


「これからどうするのよリオ?」

「一度故郷のアーデンに帰ろうかな。知り合いはもういないけど、300年経ってどうなってるか見てみたい」

「魔法技術も大分発達したから驚くのよ」

【リオの故郷か、俺も行ってみたい】


 リオの傍にはいつの間にか、魔物の狼が尻尾を振って座っていた。


「自然に会話に入ってこないでなのよ⁉」

【む。驚かせたなら悪い。付いていっては迷惑か?】

「うーん……魔物連れは流石に目立つよな……。人に見つからなければ大丈夫かな?」

【気を付けよう】


 なんてこった。勇者と妖精と魔物(魔王)のパーティーなんて聞いたことないのよ。

 でもこの狼は、ちょっと可愛い。


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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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