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#18 イケメン

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。




 場所を移して、リヴィナにヘアアレンジしてもらいながら詳しい話しを聞いた。


「勇者を不老不死にしてからゼスト様は倒れられてしまいましたが、わたくしたち魔族は封印の効力が消えてからこの200年程、ずっと活動できる状態でしたの。人間の町にも下りて魔法技術の発展を見て回りましたわ。……その合間にキザシと出逢って、陰陽術を教えることになりましたの……」

「あの時は素顔だったじゃねぇか。なんだその面は?」

「これは、その……わたくし思ってることが顔に出やすいものだから……」

「……あー、そういう……」


 魔王への好意は恋愛感情で合っていそうね。

 キザシの声音が一瞬低くなったことに気付いたけど、私が問う前にキザシは続けた。


「で、“サクラ”ってのが偽名じゃねぇと言い張るのはどういう訳だ?」

「……わたくし、元々は人間でしたの」


 リヴィナの前の名前はサクラ・バネット。喋り方からも察していたけど貴族の生まれらしい。リヴィナの暗い色合いの髪は貴族には相応しくない、魔王のような漆黒の髪だと揶揄され、陰湿な嫌がらせを受けていたようだ。


「わたくしは懐刀で自害を試みましたわ……けれど思うように死ねず、何度も繰り返しましたわ。きっと決意が弱かったのでしょう。何度目かの自傷行為でようやく死ねると思った時、ゼスト様は魔物の姿を借りて現れて、こう仰りました」


『自分で捨てられぬなら、その命俺にくれないか。承諾するなら、お前をそこから出してやれる』


「今思えば悪魔との契約のようなお言葉でしたが、ゼスト様の優しさにわたくしは縋ったのです。そしてゼスト様に新しい名前を頂きましたの。サクラ・バネットとしてのわたくしと決別する為に……。わたくしにはリヴィナという名前が世間にどれくらい知れ渡っているのか知る術がありませんでした。キザシにリヴィナと名乗るのは如何なものかと思いましたのよ」


 伝説で語り継がれているのは魔王の名前だけじゃない。今後現れる勇者の為に魔族の情報も同じように継承されている。子どもに魔王や魔族と同じ名前を付けるなんてことはまずないだろう。リヴィナは名乗らなくて正解だった。


「キザシはなんで偽名だと思ったのよ?」

「俺の故郷じゃサクラはありきたりな名前だからな……師匠の言動怪しかったし」


 図らずもありきたりであるサクラという名前の魔族が誕生しなくてよかったってことね。

 それにバネットと名乗っていたら身バレする危険性が大いにあった。そんなことになってたらバネット家は没落していたことでしょう。全く別の名前は、元人間だからこそ必要だった。


「師匠の事情は分かった……けど、なんでさっき逃げようとしたんだ」

「だ、だってまさか勇者パーティーにいるだなんて思いもしないじゃありませんの! わたくし、あの時一生の別れのつもりで言葉を残しましたのよ⁉ どんな顔して逢えばいいか心の準備くらいさせてくださいまし!」

「……魔王言ってねぇのかよ」

「ゼスト様は……恐らくあなたのことでしょうけど、“ガキ”としか呼んだことありませんわ」

「あのやろ……」

「でも……生きてあなたにまた逢えてとても嬉しく思っているのは、本当ですのよ」

「……そうか」


 おう……、キザシが雄の顔をしている……。これは、ガチのやつだわ。

 私がからかっていいやつじゃない。だってリヴィナは魔王のことが好きだって確信してしまった。キザシはきっと何も伝える気はない。

 気付いちゃったけど知らないふりをしたほうが、ふたりの為だ。

 だぁああ失恋したところを目の前で見てキザシとどう接したらいいか分かんないわぁああ!


「こんな感じで如何かしら?」


 私の心が騒いでる間に、ヘアアレンジが終わったらしい。


「フィエスタさん可愛いですっ!」


 自分じゃ見えない。鏡ないの鏡? そう思っていたらアルティマが手鏡を渡してくれた。

 そういえばアルティマは人の心が読めるスキルを持っていたんだった。

 あれっだから私嫌われてるんじゃね?


 鏡の中の私の髪は三つ編みを元に、襟足に近いところでアップスタイルになっている。


「ありがとうなのよリヴィナ!」

「ゼスト様ではここまで遊べないから楽しかったですわ」

「わ、私もお願いしますっ!」


 続いてシエラがやってもらっていると、魔王が転移してやってきた。


「楽しそうだな……」

「……ゼスト」


 対面するのは随分久し振りだわ。本契約の時以来か。

 魔王がリオと目を合わせた時、若干目を細めたのがたまらん……! 視線が「愛しい」って言ってるわこの人!


 それよりもキザシたちは初対面だけど恐怖心は大丈夫かしら。リオがリアル魔王の前でアレな状態になるのはちょっと私の心臓が持たないのでできれば怖がらないでほしいんだけど。


「クッソイケメンじゃねぇか……!!」「めちゃくちゃイケメンです……!!」


 ふたりハモってたけどイケメンは聞き取れた。恐怖心はないようでよかった。

 不思議なんだけど実物は魔物の時ほど禍々しさはない。強キャラオーラは凄いけど。


「イケメン……?」「イケメン……?」


 300年前にはなかった言葉に首を傾げるリオと魔王が可愛い……!


「外見でも内面でも格好いい人のことを指す言葉ですわ」

「そうなのか……時代が流れれば言葉も変わる。日々学ぶことが多い」


 イケメンで優しくて仕事もできる且つ向上心もある。そりゃ、惚れるわ。欠点ないのが欠点じゃないの? ってくらい魔王のスペック高い。

 因みに背も高い。160cmのリオと並んだ時を考えると180以上はあるんじゃないかな。


「俺もゼストは綺麗な顔をしてると思ってたよ。今はイケメンっていうんだな」

「……」


 魔王が無表情ながら反応に困っている。


「それよりもゼスト、ひとつ頼みがあるんだ」

「む……? なんだ?」

「ルーミーと血の契約をしてあげてくれないか」

「み……僕が、言う、です」


 ルーミーは拙いながら自分の思ってることを伝えた。


「なるほどな。リオに封印される為か……。勇者の封印術は対俺用の特別製だ。不老不死を持たない者に使えるのか俺にも分からない……俺と契約したほうが無難だろう。……だが、生きることをやめたいと言いながら不老不死を選ぶ矛盾をお前は理解しているのか?」

「みゃう……」

「人間のものと違い俺との血の契約は上書きできん。お前に、永遠に死ねない覚悟があるのか?」


 ルーミーは黙ってしまった。成長しなくて済む代償はかなり重い。

 けどこれは魔王の優しさだ。ずっと魔王として永遠に生きるしかないつらさを知っているからこそ、生半可な気持ちで契約してほしくないんだ。

 双子もリヴィナも、今までの人生を捨ててでも生きたいと思ったから魔王と契約した。実質的な死を望むルーミーとは正反対だ。


「俺も……」

 ルーミーに代わるように、リオが口を開いた。

「俺も覚悟なんてなかったよ……だから今、ここにいるんだ……。ゼストが言ったことちゃんと考えてみよう。時間は、もう少しあげるから……」

「……み」


 魔王は一瞬だけつらそうに眉間に皺が寄ったけど、気持ちを逃がすように溜め息を吐(つ)いた。


「今夜は泊まっていくといい」


 リオが引き留めようとなのか何か声を発しようとするも、何も口を突いて出ることはなく、魔王は転移して行ってしまった。


「俺、今、ゼストを傷付けてしまったかな……」


 傷付けるとは少し違う気がする。ただリオに、そんな顔してほしくないのよ。


「……っ念話⁉」

 ん? 私たちには聞こえないけどリオに念話が届いたらしい。

「……よかった。俺もゼストと話し足りないよ……。……そうか。ありがとう、アルティマ」

「念話はねんじてはなすの。声にださなくていいの」


 魔王の為に気を利かせてアルティマが念話で伝えたのかな。私には冷たいけどめっちゃいい子。ってこれも聞こえてるみたい。じとっと見られた。


「とまる部屋まで案内するよ」

「夕ごはんまでじょーないを自由に歩いていいの」

「迷子になってもまおーさまが見つけてくれるよ」


 なんだそのリアルかくれんぼ。魔王城内では無敵じゃない。


 いつの間にかシエラのヘアアレンジも終わっている。私ポニーテール好きなのよね。自分でやると髪が重くて頭皮への負担を感じるから見てるほうが好き。歩くと揺れるのが可愛い。


「ふわぁ! お花が付いてます!」


 鏡で自分の髪型を確認するシエラが感激の声を漏らす。

 言われてみれば結んでるところに白い百合の花がある。シエラにぴったりの花ね。

 でもこれは生花じゃない。


「折り紙ですので枯れる心配はありませんわ」

「ちょっと待つのよ、折り紙⁉ そういえば陰陽術って式紙を使うのよ……? ってことは、ここには紙があるのよ……⁉」

「え? ええ、陰陽術では必須アイテムですもの。城内で生産していますわ」


 な……なんだと⁉


「そういえば現代ではもう使われておりませんのよね。キザシも紙の存在を知りませんでしたし。流石は長命な妖精族ですわ」

「そ、それ私にくれたりしないのよ……ッ⁉」

「別に構いませんわよ?」


 高級品で手が届かないままその存在を消し去られた紙が、こんなところにまだあったなんて奇跡か……⁉


「これで書いたり消したりできるペンがあれば言うことないのよ……!」


 消せるなら枚数節約にもなるけど、鉛筆と消しゴムなんてこの世界にあるわけない……!


「書いたり消したり? 面白いはっそーだよ」

「アルメーラはゼスト様に匹敵する開発センスを持っていますものね。何か実現できそうなアイデアはありまして?」

「ひとつの物ではむずかしいけど、……書くと消すふたつの物ならつくれると思うよ」


 なんだってー⁉ 天才かこの子は⁉ 元々そのふたつが欲しいのよ!


「是非作ってもらえないのよ⁉」

「面白そうだしつくってみるよ」


 この子は神かーっ⁉


「……すっっっごくうるさいの……」


 アルティマの抗議の声は聞こえるけどごめん、この興奮抑えられそうにない!!


Copyright(C)2023.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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