#17 助けたつもり
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
「俺は、勇者をやめる為にここに来たんだ……。ルーミーが成長を望まないんだったら、ゼストと……俺と一緒に封印されても構わないって、思ってくれるか」
リオの決意は硬いように見えるけど、本当にまだ迷ってるのかな。
「み。僕は、リオの邪魔をしたいわけじゃ、ない……です。生きていくのは、辛い……です。ごめんなさい……」
「どうして謝るのですか? ルーミーさんの人生です。私たちが口出しできるものじゃありません」
「せっかく、助けてくれたのに……シエラお姉ちゃんたちのこと、だいすきなのに……っ」
「いいんです、いいんですよ」
どんどん溢れてくる涙をシエラがハンカチで拭ってあげる。
そこで、キザシが口を開いた。
「……もしかしてお前、入水自殺しようとした……のか?」
一度キザシに集中した視線は再びルーミーに向けられる。
「……み」
小さく、頷いた。
このやるせなさを、私は知っている。
生き長らえることを本人が望んでいないのに、生きることを強要してしまった。
「ルーミー、ゼストと契約しよう。俺たちにはそれくらいしかできない……」
誰かが手を汚してまでルーミーの命を終わらせるのはあまりに難しい。ルーミーだってそんなこと望まないはずだ。
たとえ約100年毎に封印を繰り返すことになっても、それが最善策に思える。
リオと同じように。
「ごめんなさい……っ」
「謝らなくていいんです……」
シエラはルーミーの頭を抱き寄せる。
「私はルーミーさんと出逢えたことも、こうしてお話しできたことも、とっても嬉しいですよ」
「……僕も、ですっ」
「その言葉だけで十分です……」
ルーミーが泣き止むのを待って、みんな改めて飲み物のおかわりをした。
暖かい飲み物は落ち着くわ。
「お風呂の準備ができたみたいなの」
「お風呂……⁉ お風呂ってあのお風呂なのよ⁉」
無駄に3回も言っちゃったわ!
王侯貴族の限られたお金持ちしか持てないお風呂がこの城にあるだと⁉ いや確かにお城だけど。
……言われてみれば普通にありそうだな。
「封印の前にからだをきれーにしたほうがいいんだよ」
「み……?」
「散歩がてらじょーないを歩いていくの」
転移で一瞬だろうに。
私たちは双子の後をついて廊下に出た。先が暗いわ。温室が明るかったから余計に暗く見える。
けど双子が歩くと、左右の灯りが灯った。
「じ……人感なのよ⁉」
「じんかん……?」
「人の動きを感知することなのよ。なんでこんな技術が……」
「この前まおーさまが作ってくれたんだよ」
「あかりの魔石もすごいけどまおーさまはもっとすごいの」
城に引き篭もりながらもいろいろ開発してたのかしら。知識が豊富で応用もできるとか、仕事できる人だわ。魔王のアイデアがあればもっと魔法技術は発展する。
暫くして入浴場に着いた。入口はふたつ。まぁそうよね。
「ルーミーはどうする? 気になるようならひとりで入るか?」
「みゃ……リオたちと入る……です」
「じゃあまた後でだな、フィエスタ、シエラ」
「はいっ、ゆっくりしてきてください!」
リオがいるから大丈夫とは思うけど、楽しいお風呂時間になればいいな。
っていうか、どうせなら人間の大きさで入りたかった。羽根が濡れちゃうのあんまり好きじゃないのよね。背中が重くなる。
脱衣所で服を脱いで浴室に入ると、立派な浴槽が私たちを出迎えた。旅館の大浴場とまではいかないけど、十分に広い。
「す、凄いです。これ全部お湯なんですか⁉」
「えっシャワーもあるの――ぎゃ!」
「フィエ……、フィエスタさん⁉」
「痛いのよ……なんで尻餅なん……て?」
さっきまで前を隠していたと思われるハンカチが、私の胸元に落ちてきた。
目の前のシエラが大きく……というか同じ大きさになっている。
た、確かに人間の大きさで入りたいとは思ったけど⁉ なんで今⁉
「タ……タオル取ってきますっ!」
〔妖精か? 念話を繋げるのが遅くなった〕
「ま、魔王なのよ⁉」
「……念話ですか?」
どうやらシエラには声が聞こえてないみたい。
通常念話は近場にいる全員に声を届ける魔法だ。パーティーでの戦闘なんかでよく使われる。けど魔王のそれは個人に直接声を届けられるらしい。どういう仕組みなの魔法奥深い。
タオルを受け取ってとりあえず前を隠した。
{リオのマナをコントロールしたと伝えたら、お前を人間サイズにすることから始めてな……]
私を優先してくれたのは嬉しいけど、タイミング考えてリオたん!
〔羽根の出し入れもできるだろう。……契約主であるリオが封印された場合は妖精の姿に戻るが、失効後も何日か契約の影響が残る。その間に妖精の森へ帰れ。用はそれだけだ〕
「えっちょっと⁉ ……切れたのよ」
一方的に念話を切られた。私が何がしかしないとこっちの声は届かないのかしら。
300年前リオが死んだ時も、妖精の森に帰るまでは契約の影響は残ってた。行くところがなかったから帰っただけだけど、のんびりしてたら行き倒れてたかもしれない。今考えると恐ろしいわ。
リオが言ってたように、やっぱり魔王って優しいのね。
試しに念じてみたら案外簡単に羽根がなくなった。背中軽っ!
「妖精さんの時はよく分からなかったですけど、フィエスタさんって美人さんだったのですね!」
「自分で言うのもなんだけど悪くはないのよ。惚れるんじゃないのよ?」
「あ、いえ、私格好いい感じの方が好みなので!」
「まさかの告白してないのにフラれたのよ……。でもまぁ、良い友達になれるってことなのよ」
「……っはい!」
マナを込めるとお湯が出てくるシャワーも凄いけど、シャンプーと石けんも上級品だわ。いちいち感動しながら身体を洗い終え、お待ちかねの入浴!
「身体の芯まで温まるのよ……」
「これは……幸せですぅ~……」
暫く幸せに浸って無言になっていたけど、シエラの声が浴室内に響いた。
「リオさんが、勇者をやめたいっていうのは……フィエスタさんは知っていたんですよね?」
「……初めて知ったのは、私とリオがノーブルの森を一旦離れた時なのよ」
「じゃあ戻ってきた時少し様子が違ったのは……。私、何も知らずとても身勝手なことをしていたのですね……」
「シエラには救われたのよ。私とキザシだけじゃ、旅の間、リオに他の目的なんて与えてあげられなかったのよ」
ただ封印されることだけを目的にした旅なんて、哀し過ぎるじゃない。
料理を教えてるリオは楽しそうに見えた。
「ルーミーさんのこともそうです……。あんなに泣かせてしまったのは、私の所為です……っ苦しいこの世に引き留めておいて、何も生きる希望を示してあげられませんでした……っ」
ルーミーの前では決して流さなかった涙を、シエラはお風呂に落とした。
「とても無力で、何もできないことが悔しいです……っ」
私は泣くことを忘れていた気がする。リオが死んだことが哀しくて泣いたことは何度もあった。300年後の今思うのは、リオのほうがつらいんだから私が泣くべきじゃないってこと。
でも、そういうことじゃない。
自分の無力さを嘆く気持ちはよく分かる。
「私も同じなのよ……リオが、ルーミーが選んだ道を、一緒に見届けるのよ……」
誰かと一緒に同じ気持ちで泣くことは、私にとって必要だったのかもしれない。
お風呂から上がると、魔王の発明品のドライヤーがあったので有難く使わせてもらった。髪が長いと乾かすの大変なのよね。
妖精の時は飛んでたから気にならなかったけど、流石に髪が長過ぎて引き摺る。髪切りたい。
乾かしている間にアルティマがやってきて、服のことについて助言してくれた。身に着けているものも一緒にサイズが変わるから一旦妖精になって服を着たほうがいいとのことだ。
髪はとりあえずシエラに髪留めを借りてでっかいシニヨンを作った。
「フィエスタが大人になってる!」
いやいやリオたん、私元々大人なんですけど? 言葉の綾かな?
「どう⁉ どう⁉ 高級シャンプーのお陰で髪もサラツヤなのよ!」
並ぶとリオより私のほうが背が高い。飛んでる時は大体目線の位置だったけど、リオたんの上目遣い可愛いな!! もうちょっと上を飛べばよかった!
「黙ってれば美人なのに残念美人だな」
「キザシには言われたくないのよ。それよりこの髪なんとかならない? 切ってもいいんだけど」
「リオの髪は切るなっつったのに自分のはいいのかよ」
「いいのよ!」
リオには理不尽に思えるだろうけどごめん、自分のはいいの。
「まったく騒がしいの」
アルティマには妖精どうのじゃなくて普通に嫌われてそうなんだけど。
「僕ハサミ持ってるよ」
「キザシ、お願いするのよ」
「なんで俺なんだよ……切った後の髪どうすんだよ」
「魔法でそーじするの」
「床に落としてもいいよ」
最早掃除のプロねこの子たち。もしかして掃除に関しても何か魔王の発明品があったりして。
キザシはぶつぶつ言いながらもハサミを受け取り、「踏まねぇ程度でいいよな」と返事も聞かずばっさりとお尻辺りまで切った。
「もうちょっと丁寧にやるのよ……!」
「わーってる整えるから動くな」
長いから私は立ったままでキザシが跪いてカットしてくれる。私からは見えないけど絶対ハサミを持つ姿イケてるわ。見た目的に美容師見習い感あるし。
毛先が遠過ぎてカットされる感覚はほぼないけどちゃんと丁寧にしてくれてるのは伝わる。
「もしかして他人の髪切ったことあるのよ?」
「まぁ……母親のはな。お互いに切ってた」
何その微笑ましい母子関係……。キザシから親のこと聞いたことなかったけどお母さんとは良好だったみたいね。
「こんなもんでいいだろ」
「ありがとうなのよ」
上体を傾かせて毛先を見たらちゃんと整えられてる。キザシみたいなパッツンじゃないわ。安心した。キザシのはお母さんがやってくれたのを維持してるのかな。
「大分動きやすくなったのよ。ついでにヘアアレンジとかもできたりしないのよ?」
「お前俺をなんだと思ってんだ……」
「髪の毛であそぶことならリヴィナがくわしいの」
「呼んでみるよ」
そういえば魔王のヘアアレンジはリヴィナの仕事って言ってたわ。最終決戦の時も簪で纏めていておしゃれだった。
「リヴィナって確か、魔王に好意があるだのないだの言ってた魔族か」
「ふぁあ! 魔族にもそんなロマンスがあるのですね⁉」
シエラは結構恋愛脳ね。
そんなことを話していると、転移でリヴィナが現れた。相変わらず面で顔を隠している。
「久し振りだな、リヴィナ」
「お久し振りですわ勇者。それと御一行、の……」
私たちに視線をやったリヴィナは変なところで言葉を詰まらせ、転移で逃げようとした。
「待ちやがれッ!」
キザシが飛び出したかと思えば、リヴィナの手首を取って捕まえる。
え? 何事?
「お前……俺と逢ったことあるよな?」
「ひ、人違いではありませんの……?」
「やっぱり偽名だったんじゃねぇか!」
「ですから偽名ではないと! ……っは!」
「語るに落ちるとこは相変わらずだな……師匠」
ん? なんて? 師匠……って言った? 陰陽術の? え? どゆこと?




