シエラ独白
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
私の家は狩猟で生計を立てていて、幼い頃から父に弓を教わっていました。弟たちはあんまり熱心に取り組んではいなかったですが私は弓にとてもハマって、父の仕事に付いていくのが楽しかったのです。父のパーティーの方たちにも可愛がってもらえました。
その中のおひとりに、とても綺麗な女性がいました。同じ弓使いで彼女の腕にも憧れましたが、所作や喋り方も素敵で真似をしたりしました。
弓の構えを教わった時、その手に触れられて私は異常に心拍数が上がったのです。それを悟られないように注意を払っていたのですが、不自然に距離を取ってしまってなんだかぎこちなくなり、父の仕事に付いていくのをやめてしまいました。
それでも彼女のことが頭から離れず、私は考えます。どういう状況で自分がどうなってしまったのかを思い返し、今尚彼女へ向けているこの気持ちの正体はなんなのか。
私は彼女のことを恋愛対象として好きなのではないか。
見つけたそのひとつの可能性が正しいのか、いろいろなことを試してみました。好きってどういう感情なのか訊いたり、異性に対してその感情を持つのか、彼女以外の女性にはどうなのか。
そんなことをしている間に、彼女は遠征で遠くに行ってしまったと父から聞くことになります。
何も分かってないながら、私は静かに泣きました。
私が気落ちした理由は両親にも分からなかったことでしょう。上手く言葉にできる気がしなくて黙っていたのです。
暫くしてこれが失恋による哀しさだと気付き、やはり私の仮説は正しかったのだと思いました。
ただ彼女がたまたま同性だっただけなのか、女性しか好きになれないのかは判断できないまま。
私は現実逃避するように弓に一層打ち込み、父のツテで仕事をするようになりました。
そうして出逢ったのが、解体士さんでした。
良いお友達になれたらいいなとパーティーを組んだものの、私は友達以上のことを望むようになりました。けれどそれは歪んだ感情に思えて、必死に押し殺すことを選びます。一緒にいられるだけで幸せな気持ちになるのは本当なのです。
いつまでも続いてほしいという願いは、とても儚く散りました。
彼女は男性と恋に落ち、その人と一緒になり子どもも授かりました。
『自分の中にもうひとつ命があるなんて不思議……。シエラもいい人見つけなよ』
『はいっ。どうか幸せになってください』
『ふふっ、もうなってるや』
自分のお腹を撫でる彼女はとても幸せそうに笑って、他に何を言えばいいのか言葉が見つかりませんでした。
私も普通にするべきです。彼女のように子どもを作って両親を喜ばせてあげるべきです。
そう思ったところで、私は弓くらいしかできないととても今更に焦りました。女性としてあまりに魅力に欠ける。それくらい自分にも分かります。
そんな私が誰かに選ばれるなんて、あるはずがなかったのです。
『迷惑掛けちゃうかもだけど、ギリギリまで仕事するからこれからもよろしくね』
『い……いえいえ! 大事なお身体に何かあっては大変ですっ! 仕事のことはお気になさらないでください!』
今まで通り接するなんてできそうになくて、私はパーティーの解散を申し出ます。
その後は、失恋の実感がどんどん湧いていって、何もする気が起きず、食べ物も喉を通らないようになりました。数日そうしていると、弓を引きたくてたまらなくなりました。集中して何も考えずにいられる手段として私は弓に逃げたのです。
けれどやはり空腹状態では碌に力が入らず、1日にそう何体も捕れませんでした。その上お肉の鮮度が悪いと言われどこにも売ることができず、まったくお金になりません。このまま続けても仕方ないしもう帰ろうかと思って森の出入り口に行くと、その日は移動販売の馬車が停まっていました。
妖精さんが差し出してくださった試食はとても美味しそうでつい戴いてしまいます。喉を通らなかった数日が嘘のようにどんどん食べ進めてしまいました。なんでか次から次へと試食を食べさせてもらえて、そのどれもが美味しくて、自分も作れたら少しは女性としての魅力が上がるのでは……。そう思って調理した方に弟子入りを志願しました。
女子力を上げて普通の幸せを掴む、その第一歩として。
リオさんが魔王さんからのお気持ちに悩む姿に後押しをしたくなりました。同性を好きになってもいいのだと。けれどリオさんは初めから同性ということは気にしていなくて、そのことを気にしていたのは私のほうだったのだと気付きました。
普通とは、なんでしょうか。
普通の幸せは私にとっての幸せに成り得るんでしょうか。
私は身体も心も女性です。そんな私は身体も心も男性の方でないと幸せになれないのでしょうか。
そんなことないはずです。
リオさんと魔王さんはこんなに心を通わせられる。勇者と魔王というお立場であっても、心は自由です。
幸せはきっと、自分で決めていいのです。
だから私、女子力にこだわるのはもうやめます。女子だからこうあるべきに縛られず、自分が興味を持てることに取り組んだほうが楽しいです。
リオさんのお陰で料理を作る楽しさを知りました。そういうのを増やして、自分を知っていきたいです。
その最中(さなか)であるリオさんも魔王さんも、勿論ルーミーさんも、私は応援しています。
性別による役割も立場も、何かと押し付けられることは多いです。人と違うと奇異の目を向けられる生きづらい世界です。そんな世界で少しでも楽に息ができるように、何かお手伝いができたらと思います。弓くらいしか取り柄のない私が烏滸がましいかもしれません。それでも、何かしたいのです。
みんな違って当たり前だし、そのままでいいんだよって、受け止めることはできます。
私も自分を受け止め始めたばかりですが、少しだけ心が軽くなった気がしています。
このパーティーの中では、キザシさんが一番自分をよく分かってるように思います。年下とは思えないくらいで、今までいろいろあったのかもしれません。
私たちの会話は御者をしていても聞こえていたはずです。
何を思ったでしょうか。




