キザシ独白
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
俺の母親は売春で生計を立てていて、父親が誰かは分からない。買春したうちの誰かなんだろう。
母さんは街では珍しい金髪の美人で、俺を学校に通わせるほどの余裕はなかったものの金に困るということはなかった。
俺が11歳の時、母さんはある男に惚れ込んだ。まるで青春真っ只中のように毎日楽しそうで、息子の俺からすると別人のような表情に見える。これは良いことなんだろうなと特に干渉もせず、黙って幸せを願った。
母さんはその男を度々家に上げるようになる。最初は結婚を前提として息子の俺への紹介と親睦を深める為かと思っていた。いや、それもあったのかもしれない。
13歳の時、母さんは子宮から身体中に転移したがんで死んだ。治療は一切受けず、綺麗な金髪はそのままで死に化粧を施され火葬された。
残された俺の後見人はその男しかいない。母さんはこうなると分かっていたのだと、今になって思う。
そこから俺の地獄は静かに始まっていた。
男は母さんを亡くしたショックで少しずつおかしくなっていく。酒に逃げ酔い潰れて帰ってくる日が多くなる。それだけならまだよかった。日に日に男の俺を見る目に気味の悪さを感じ始めた。金髪も垂れ目も見た目は母さんに似ている自覚はあった。面影を見ているだけとは思えない視線を受け続け、ある日ついに男が俺に触れた。それが肩だったから単に振り向かせる為の行為だったのかもしれない。俺が必要以上に身体をびくつかせたからか、何がきっかけだったのか本当のところは分からない。
勢いよく引き倒され床に背中を打ち付けた。
男は気持ちの悪い声で母さんの名を呼びながら、俺の髪を指に絡ませる。
恐怖で声が出せなかった。
服を脱がされ始めてようやく抵抗したが、大人の力に敵うはずもない。無理矢理服を剥ぎ取られ身体中を撫で回され舌を這わせられ、頭から足の指の先まで、身体の中までも蹂躙された。
母さんが死んだ時以上のショックを受けた俺は暫く吐き気と戦い、体力が戻らないまま、また犯された。
『いやだ! やめろクソやろう……ッ!!』
次の日も、次の日も、次の日も、次の日も……。
俺を慰みものにしたことで正気を取り戻したのか、男は仕事に向かったようだった。
その隙になけなしの気力と体力を振り絞り、俺は陰陽術の師匠に逢いに行った。家はどこかは知らない。いつも逢っている樹の下に行くと、師匠は折り紙を折っていた。
『キザシ……! 急に来なくなるからどうしたのかと思いましたわ! 何かっ……、何がありましたの?』
『……』
ここまで来たはいいけど、言葉に詰まる。非力な自分が情けない。師匠に話したところでできることは限られているだろう。それに知られることが、酷く恥ずかしい。
俺がいつまでも無言でいると師匠は懐から何かを取り出し、俺の手に握らせた。
『あなたにあげますわ。これは懐刀と言って、お守りとして持つ物ですの。自分自身を守る為に必要とあらばお使いなさい。誰かに向けるのか、己に向けるのかは、キザシ自身がお決めなさい』
『……自分を、守る……』
『あなたにはわたくしのでき得る限りすべての陰陽術をお教えしましたわ。あとはあなたの発想次第。常に考えなさい。そして最善を導き出すのです。わたくしの教え子ですもの。あなたならどんなことだってできますわ。……キザシ、あなたとの日々は、とても楽しいものでした。きっと忘れはしないでしょう』
『ありがとう、師匠……』
何も訊かないでくれて。俺に選択肢をくれて。師匠に貰ったもので人を傷付けてもいいと許してくれて。
懐刀を服の中に仕舞い、俺は家に戻った。また男が俺を襲ってきたら、迷わず力を振るうと決めた。
けれど夕方になって家に入ってきたのは、化粧が濃く裕福そうな見た目の知らない女だった。
合鍵がなければ入れないはず。鍵を持っているのは俺と男だけのはず。ならこの女は……。
『まぁなんて綺麗なお顔なのかしら!』
まっすぐ近付いてきた女は無遠慮に俺に触りまくり、それがあの男と被って混乱と恐怖に陥った。
いつの間にか手首を拘束され、口を押し付けられ何かを飲み込まされた。
身体が痺れ思うように動かない。
その間に女は好き勝手俺を弄り、服を脱がせられる。
『物騒なもの懐に入れちゃって。これはお預けね』
『ま……て』
痺れで舌も動かせない。
俺は何もできないまま女の体内に強制的に埋(うず)めさせられた。
人の体温が、息が、気持ち悪くて仕方ない。
小一時間で満足した女は魔石で誰かに連絡を取った。遠くなる意識の中、あの男が買春の斡旋をしたのだと把握した。
短い気絶から目覚めると手首は拘束されたままで、家具と繋がれていた。
それに、懐刀がどこにもない。
いいように嬲られ続けるくらいなら、自分で命を絶ちたかった。それさえもできねぇのか。
何日も、何日も入れ替わり立ち代わり見知らぬ人の相手をさせられた。
ようやく男が現れた時、殺意しかなかった。
男は斡旋により俺と母さんを同じにしたかったらしい。いろんな人の相手をし、金を得て、最後には男に夢中になった母さんのように。
『ふところ、がたな……はどうした』
『ああ、あんな物どこで手に入れたんだ? 一級品だったから高く売れたよ』
この時、俺の頭は不思議と酷く冴えていた。
師匠が俺に教えてくれたこと。
『薄さと強さのあるものはマナを乗せやすいのですわ。何も紙である必要はありませんの。たとえば葉や花びらそのままでも式として使えますのよ』
たとえばそれは、布であってもいいはずだ。
俺に触れる為に近付いてきた男の服を掴み、マナを込め、操る。
身体を引き絞るように。
目の前で呻き苦しむ男に何の感情も湧かず術に集中する。
男が倒れ込む時、持っていた家の鍵が俺の頬を掠め、痛みが走った。血が流れるのを感じながら、男が動かなくなるまで術を止めなかった。
死んだかは、確認しなかった。
手の拘束も陰陽術を使って壊し、家に隠していた金と、男が持っていた金を持って家を出た。
男が生きていたらと思うと一刻も早く街を出たくて、師匠に別れも言えなかった。
せめて懐刀だけは、取り返さなきゃならない。
師匠が俺自身を守る為にくれた物を、誰かの手に渡したくない。
俺はもう、誰にも俺のものを奪わせたりしない。
懐刀は個人に売れることはなく、骨董品屋をいくつか巡ったらしい。ようやく見つけた場所は伝説の勇者が生まれた町だった。観光地でもあり小さな店より遥かに、個人に売れてしまう確率が高い。そうなったら取り戻すのは容易じゃない。
けれど設定価格が観光地価格ですぐには買い戻せなかった。とにかく早く金を稼がなきゃならない。
そんな時、隣町が魔物に襲われていることを耳にした。討伐報酬が少しでも足しになればと思ったが、相手がドラゴンだったのは不幸中の幸いだった。村長と交渉しギルドから支払われるであろう額より多めに吹っ掛け、ギリギリ目標金額に達する。
出し渋られた時はイラついたが、通りすがりの説教野郎と妖精のお陰で即日で金を得られてラッキーだった。
その説教野郎がまさか、300年前の伝説の勇者だとは思わなかったが。
妖精は俺に恋愛指南を頼みたいと抜かしやがる。同年代の女どもにモテていた自覚はあるが、俺には興味なかった。それよりも師匠との修行が楽しかったし、あれは初恋だった。
俺にはこの歳にしてはやたら経験が豊富になったという事実しかない。それでもパーティーに入ったのは、リオの料理の美味さだけじゃない。ただ、帰る場所がなかったからだ。
そんなその場凌ぎのつもりだったけど、リオの危なっかしさに、放ってはおけなくなっていた。




