伊予 狐 河野道直
今は道後公園の中に、こんもりとした小さな山のような丘がありますがそこに四百年ほど前、あの山には湯築城という、河野家のお城がありました。
城主には河野通直という名前の方が四人居ましたが、この話は、その三人目の通直のときのお話です。
ある日、道直様の奥方が突然、お2人になりました。このお二人の奥方は、顔はもちろん、背の高さも、声も、何から何まで一緒で誰がみても、どちらが本当の奥方分かりませんでした。
みんな途方にて医者に診せても
「何ぞ魂が分かれるという奇病ではないでしょうか。」などと言い、手のほどこしようもなかった。
その時、通直様は、
「ひとつ考えがあるけん。」
ろ、言い出し、この二人の奥方を座敷牢に閉じ込めてしまわれた。
座敷牢の奥方には何の食べ物もあげてはいけないというので、家来たちは心配しておったら、四目目になって、やっと、
「食べ物を牢内に差しいれよ。」
と、言うたんよ。そして、通直様は、じっと二人の食事ぶりを見ておいでたら、一人の奥方は落ち着いて、箸を運んでおいでるのに、もう一人の奥方は、ガツガツと耳まで動かして食べたした。それを見た通直様は、すぐに取り押さえました。
そしたら、たちまちそれは一ぴきの古狐の正体をあらました。
通直様は、自分をだましたこの古狐に腹が立ってしょうがないけん、火あぶりにしようと思い、庭にたきぎを高く積み上げたんよ。すると、大小三千びきもの狐がお城のねきに寄ってきて、その代表の狐が一生懸命に頼んできました。
「実はこれは、貴狐明神の子孫で四国狐の頭領です。今、焼き殺されたら、きっとご領内に災いがおきましょう。もしお助けくだされば、必ずご恩にむくいましょう。」
と、命ごいをしました。その神妙な様子に通直様も、
「今後四国から出て行くんだぞ。」
と約束させて、この古狐を許しました。大小三千の狐は、まもなく船に乗って、むかいの中国地方にいってしまいましたとさ。
おわり