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牙達  作者: 七味酒
第壱章 種蒔
4/14

 数付において、身体改造はほぼ必須である。

 これは従参組に入ったばかりの時に、先輩から教わったことだ。当初は改造に対して抵抗感があった。しかし、時が経つにつれて生身の肉体の限界を感じるし、上の奴らの強さを感じるとその言葉を痛感せざるを得ない。

 この世界では力を買うことができる。かなりの高額だが。

 装備に関してはユウナギ社、改造手術ならイブキ社などと、様々な神武認定の企業から力を得ることができる。問題があるとすれば、どれもこれもとんでもなく高額で、今の俺では何年かかっても買えないことぐらいだ。

 そんな貧乏人のために存在するのが、時雨屋や氷雨屋といった、個人でやっているとこだ。

 当然だが、ユウナギ社なんかと比べれば質はかなり低いし、最悪なケースだと腕に施術したが失敗してそのまま、切り落とす羽目になったとかがある。

 そんなリスクを背負ってまでやらないとやっていけないのだ。

 ま、俺は何もしていないのだが。

 やった方がいいのはわかっているものの、手を出せないでいる。そもそも従参組では薄給過ぎるのもあるが、従参組自体、改造する人自体が多くないからだ。戦闘に参加はしても大体は他の組と一緒だし、俺らが活躍することはほぼない。そうなってくると、改造に金を使うぐらいなら、生活に回した方がいい、という考えになるのだ。

 和田さんは改造を推奨しているのだが、やっているのは悟くらいだ。右腕に機械を埋め込んで怪力になったらしい。おかげで、人一人は片手で持ち上げられるほどにはなったが、精密動作が恐ろしくできなくなっている。箸も使えないようじゃ、かえって不便だろう。今度は左腕もやろうとしているらしいが。

 じゃあ、推奨している和田さんはどうかというと、わからない。聞いてみても、さぁ? とはぐらかされるばかりで、一向に教えてくれない。これではなんで勧めているのかわかったもんじゃない。

 兎にも角にも、金だ。金があれば今みたいに弾丸一つで、病院行きにはならないし、もっと安全な中級、上級地区に住める。

 低級地区も悪くはないのだが、強盗や殺人はそれなりに起こる治安の悪さだし、なにより非統治地区の奴らが近いのが問題だ。先の事件のように碌でもないことに巻き込まれるし、数付もそんなに速く低級地区に行動を起こしてくれない。大体が事後だ。

 ましてや、ここ最近は銷夏党とかが活発ともなれば心配も増す。

 春宵党、銷夏党、暮秋党、冬源党らは、かつて非統治地区の最大勢力であわせて四季党呼ばれていた。神武とは長い間、戦いがあったらしいが、10年前のその四季党が結託して起きた“四季戦争”に敗北して以来、活動はほとんどしていなかったらしい。

 そのまま静かにしてくれればいものを。

 お陰様で今日は松葉杖をつきながらの出勤だ。


「おはようございます」


 と扉を開けて覗き込めば、なにやら賑やかだ。

 それもそのはず。従参組の組員全員が出勤していた。


 "13時から全体会議を行います    和田"


 怪我している俺をわざわざ呼んだのはこのためだったのだろうか? しかし、いきなり全体会議とは……。

 今までそんなことは一度もやったことがない。そんな大層なことをやる必要のある仕事がなかったから。

 肝心の和田さんはというと姿はまだない。

 これもまた珍しいことだ。よくよく思い返せば、いつもこの職場にいるし、帰る時も和田さんは書類と睨めっこしていた。勝手にここに住んでるとまで考えたほどだ。

 程なくして、扉の開く音ともに和田さんが姿を見せた。いつもは真一文字に結ばれた口角が僅かに上がっている。


「すまない、少し所要があって遅れた」


 そう言いつつ、胸いっぱいに抱えられた書類を皆に配り始めた。配りつつも、彼は言葉を継いだ。


「今回集まってもらったのはな、壱組から直々に命令が来たからだ」


 壱組、という言葉にざわつく。数付のトップからの命令ともあれば、それは数付の中でも実力が認められたと言っても過言ではない。そんな思いを見透かしたかの如く、和田さんは言った。


「壱組からとは言っても、従参組だけじゃない。他の二桁にも命令は行く」


 だが、大きな仕事になるのには変わらん、と言いながら手際よく書類を配る。俺は和田さんの言葉に少し引っかかるものがあり、思わず悟に耳打ちをした。


「他にも二桁には命令が行くって、まだ行ってないみたいな言い方だな」


 悟の方はいまいちわかっていないようで首を傾げた。その内容は和田さんにも聞こえていたみたいで、


「その通りだ、谷河原。この情報はちょっとしたルートから入手したものだ」


 あの鉄仮面の和田さんが、不敵に笑い、続けた。


「今回の会議の内容を話すぞ」



 ────



 数付には多くの人が所属する。

 その人数は、俺では把握できないほどで、神武の中でも大きな組織だ。

 個々の戦闘能力の高さは言わずもがな、統率力もピカイチで数付の切り札とも謳われる壱組。

 今でこそ最前線は壱組に譲ったものの、長年の戦闘経験による老練な強者が集まる弍組。

 個々のアクの強さが目につくが、実力自体はとんでもないものを持つ色物の新進気鋭集団の参組。

 ほとんどの素性が不明な不気味な暗殺集団の肆組。

 防衛や護衛に特化した警備のスペシャリストの伍組。

 これらの組は数付の中でもトップクラスの人たちであり、俺らのような下っ端じゃあ目にかかることすら叶わない。それに加えてここから、陸組、漆組、捌組、玖組と続くがこれらの組もまた、恐ろしく強い。しかし、二桁と呼ばれる従組以降は急降下して、戦闘時はまともな戦力として見られていないほど弱い。

 じゃあ、必要ないのでは思うかもしれないが、そこは違うらしい。詳しい理由は知らないが、結局のところ雑用係というのが欲しいだけなのだろう。

 だからこそ、壱組からの命令というのは天変地異の出来事であり、それを不敵に笑いながら話す和田さんは、トチ狂ったようにしか見えない。


「いいか、お前ら。今回の仕事は絶対に成功させなければならない」


 いつになく熱のこもった口調で話す。


「うまくいけば、このクソみたいな場所とおさらばも可能だ」

「あ、あの、和田さん。今までどれだけ仕事しても給料は変わらないのに、なんで今回は?」


 前回、非統治地区のごろつきに殺されかけた新人くんが口を開いた。


「高田、お前の言う通り、今までは固定給だった。その理由はな、従組から渡された仕事だったからだ」

「従組だと問題が?」

「みんな知ってるとは多いとは思うが、従組はクズが多い。名目上はあいつらが処理したことになっている。だから、こんなに安い給料だ」


 従組と言えば、柄の悪さで有名であり、自分達より下の従壱、弍、参組に対しては横柄とも言える行動を多々やってきている。これを咎めようにも上の奴らは二桁にまで気を使う暇はないので、甘んじて受け入れるしかなかった。


「だが、今回は違う。壱組が直接それぞれに命令を下す。そうなると、従組の奴らも手柄を横取りはできまい」

「そ、そうなんですね」

「活躍次第では、組の入れ替えもあり得る」


 一応、数付と言う組織は実力主義であり、成果次第で組が入れ替わる。大きな例を挙げるとするならば現在の壱組がそうだ。かつては参組だったらしいが、四季戦争の活躍を機に壱組に大抜擢されたらしい。


「それにこの情報は俺らが先に知っている。だから、早めに動いてあいつらを出し抜く」

「それでその仕事の内容は?」

「まあ、慌てるな谷河原。昨日の事件の続きだ」


 西区末町の惨殺事件。あまり思い出したくはないが、鮮烈すぎて嫌でも頭の中によぎる。


「どうやら、そのごろつき共には不釣り合いな装備や身体改造があったそうだ」


 そこから、ごろつきだけの行動ではなく、バックに何かがついていたと考えるのが、妥当とのこと。

 その話を聞いてあることを思い出した。


 "にしても、変な依頼だよな。腕と脚を取ってこいって"


 確かにあの時、その会話を聞いた。依頼ということはした人がいるわけだ。


「誰がこの事件の首謀者なのか情報を集めろ、ということだ。そこまで難しい内容じゃない」

「難しくないって……、非統治地区に調査するかもしれないんでよね?」

「まあ、場合によってだな」

「そんなあ……」


 新人、いい加減名前で呼ぼう。高田は憔悴した表情を見せる。気持ちとしては俺も同じだ。非統治地区なんかは碌な話がないから。

 食人文化が平然とあるところがあるとか、足を踏み入れば、内臓どころか髪一本も残らないとか。


「すぐには行かないから安心しろ。非統治地区に行くには許可が必要だからな。正式な命令が下るまでは統治地区内で行動する」

「そんな情報どうやって手に入れたんですか?」

「森さんからだが?」


 秘密ではなかったのか、その情報ルートは。


「お前らも金は欲しいだろうし、今の状況にうんざりしているだろ? 今回は多少なりとも変えるチャンスだ。逃すわけにはいかん」


 和田さんの言葉に今まで、やや消極的だったみんなが乗り気になった気がした。


「絶対に情報を掴んで、成功させるぞ」


 今まで死んだような表情ばかりだったみんなが、活気のある声で返事をしたのだった。

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