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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.3:冬】触れられた頬 ―○○○より愛を込めて―
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[9]まどろみと衝撃

「ん……あ……ああっ!? すみません~!!」


 それから三十分程した頃、いきなりモモが飛び起きて大声を上げた。


「あ、モモ? 目が覚めたのね。大丈夫よ、ゆっくりしていて」

「茉柚子さん……お、お帰りなさい」


 半身だけを起こして周りを見回したが、園長は席を外していた。自分の両隣には未だ眠りに落ちたままの子供達が数人いるが、幾人かは目覚めてまた何処(どこ)かへ遊びに行ったようだ。


「あのね、モモ。ちょっと話があるのだけど、良いかしら?」


 一段高くなっている畳敷きからフローリングに降り立ち、茉柚子の(くつろ)ぐテーブルに近付く間に問い掛けられた。──何だろう? 茉柚子さん、あたしの目を見なかった……?


「はい……では、ちょっとお手洗いだけ行ってきます」


 モモは(わず)かな不安を感じながら、(うなず)く茉柚子を背にして、数部屋先の化粧室に向かった。




 ☆ ☆ ☆




「モモ」


 用を済ませて再び廊下に出たモモを呼び止めたのは園長だった。


「あ、はい。さっきはすみませんでした……久し振りに一緒に遊んでたら眠くなっちゃって……」


 振り向きざま照れ臭そうにはにかむ。


「みんなと遊んでくれて嬉しかったわ。それより……茉柚子がこれから話すことなんだけど……」

「はい……?」


 園長は一度床に目を落とし、モモを見上げて少女の両手を取った。


「お願いだから『自分』の行きたい道に進んでちょうだい。わたし達のことは二の次にして、()くまでも『自分』の心の(おもむ)く方へ……良いわね?」

「え? は、い……?」


 モモは園長の潤んだ瞳に胸の詰まる想いがした。一体これから何が話されるのか? 茉柚子といい園長といい……明らかに楽しい話でないことは予測された。


「お願いよ。お願いだから『自分』を大切に……約束よ」

「は、はい」


 念を押されて意味も分からぬまま了解したモモを、園長は解き放し茉柚子の(もと)へ促した。歩を進めながら今一度振り返った先の園長は、いつになく小さく弱々しい姿に映った。


「お待たせしました、茉柚子さん」


 モモは再び部屋に戻ったが、昼寝組は跡形もなく消え、茉柚子だけが背を向けて座っていた。


「あの……お話って?」


 茉柚子の右隣の椅子に腰掛け、少し高鳴る鼓動を忘れたいように早速問い掛ける。


「ね、モモ。サーカスから此処までのバスに乗って、街並みが変わったことに気が付いた?」


 茉柚子は目の前にお茶を差し出しながら話を始めたが、露骨に本題に入るのは避けた様子だった。


「あ、はい。近く新幹線の駅が出来るって聞いてますし、随分都会になってきたなぁって」


 茉柚子の横顔がモモの言葉を聞いて、相槌を打ちながら一度目を伏せた。


「そうなの。それでね、この辺り一帯が大きな複合施設に変わることになったのよ。ショッピングモールや映画館、それに劇場も出来るの、凄いでしょ?」

「ええ……はい」


 ──この辺り……一帯?


 茉柚子のテーブルに置かれた両手が結ばれて、グッと力が込められた。ゆっくりと上げられた悲痛な面持ち、瞳には涙が溢れて、その一筋が落ち、モモは慌てて自分のハンカチを差し出していた。


「モモ、お願いよ。私達を助けると思って……戻ってきてくれないかしら……サーカスを辞めて」


 ──えっ!?


 此処一年弱で一体何度目の金縛りになるのか──モモはまたもや息の根が止められていた──。




★次回更新予定は十月十九日です。

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