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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.3:冬】触れられた頬 ―○○○より愛を込めて―
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[5]あった事となかった事

 翌朝の食堂、いつになく言葉少なな暮と、相変わらず無言の凪徒、そして何も喋れないモモが、変な空気を発しながら朝食を進めていた。


「……」

「……ん、……ん」

「……?」


 モモは凪徒に一切目を向けず、時々心配そうな顔で真っ正面の暮をチョロチョロ見上げては、その度に暮が「……ん、……ん」と喉の奥で返事をする。そんなヘンテコなやり取りを凪徒は横目に入れながら、(たず)ねるタイミングを計っていた。


「ごちそう様でした……」


 モモは普段より早く、食事の終わりを告げて立ち上がった。


「モモ、何処(どこ)か行くのか?」


 暮が一言尋ね、


「えと、夫人の所へ……」


 その答えに満足そうに、暮は大きく(うなず)いた。


「おい……暮、何か知ってるんだろ? 教えろよ、モモに何が()ったんだ!?」


 モモがプレハブを後にしてすぐ、凪徒は待ってましたとばかりに隣の暮へ問い掛けた。


「何もなかったんだ、お前は安心していい」


 正面を向いたまま黙々とご飯をかき込み、淡々と答える暮。


「何もなかった訳ないだろっ、おいっ──」

「ごちそう様~!」

「暮っ!」


 トレイを持ち上げながら立ち上がった暮が、表情を見せないまま凪徒を見下ろす。


「モモは自分で夫人の(もと)へ行った。それはモモが前向きな証拠だ。だからもう詮索するな。これ以上心配は()らない」


 ──暮……?


 凪徒が呆然と言葉を失っている内に、暮はスタスタと出ていってしまった。残された凪徒は口元をいつものへの字に曲げて頬杖を突き、一つ大きく息を吐き出す。片手で椀を持ち上げ、味噌汁を一気に飲み干した──。




 ☆ ☆ ☆




「夫人……いますか?」


 モモは鈴原夫妻の部屋の手前で、消極気味に声を掛けた。小さなコンテナハウスだが、お洒落(しゃれ)な夫人らしく小綺麗に片付けられ、扉の内側には可憐なレースの暖簾(のれん)が掛かっている。


「モモちゃん? どうぞ入って。私もちょうど呼びに行こうと思ってたの」

「え……?」


 暖簾のスリットから顔を出した夫人が微笑む。既に亭主の鈴原は動物達の世話に行ったらしく、室内には誰もいなかった。


「時間、大丈夫ですか?」

「もちろんよ。今お茶()れるわね」


 夫妻の部屋にはコタツがあるので、勧められた長手に腰を降ろし、布団の中に折った膝を入れると、其処からほんわか温まっていった。


「さ、どうぞ。先日知人から頂いた紅茶なんだけど、とっても美味しいの」


 そうして置かれた繊細なティーカップは、淡いオレンジの薔薇の模様が優美で、そこから香る紅茶もふくよか()(かぐわ)しかった。


「いただきます」


 (なめ)らかなカップのふちに唇をつけ、一口喉を通す。爽やかなマスカット・フレーバーが優しいダージリン・ティー。それだけで胸の奥が癒された気がした。


「とても美味しいです」

「良かった。実はもう暮さんから多少は聞かされているの。とっても心配してたわ、モモちゃんのこと」

「やっぱりそうだったんですか……すみません、ご心配を掛けてしまって……暮さんにも……この後ちゃんとお礼を言いに行ってきます」


 真ん前に腰掛けて同じく紅茶を楽しんだ夫人の柔らかな笑顔に、少し恥ずかしそうな表情を向け、モモは周りの愛情に改めて感謝をした。


「そうね、そうしたら良いわ。それじゃ、詳しく聞かせてもらえるかしら?」


 カップを戻して、モモは再び口を開いた──。




★次回更新予定は十月七日です。

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