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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.3:冬】触れられた頬 ―○○○より愛を込めて―
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[1]光と影

 桜財閥のトップであり凪徒の父である桜 隼人(はやと)社長と、三ツ矢財閥の令嬢、三ツ矢 杏奈(あんな)の壮大な結婚式。そして珠園(たまその)サーカス隔年恒例の慰安旅行も(とどこお)りなく終わり、年を越して新しい地での興行が千秋楽を迎えた頃には、木枯らしの吹きすさぶ真っ白な真冬の真っ只中だった。


「う~~~さぶっ!」


 この時期には日本全国の中でも温暖な地域を回るよう巡業が組まれているのだが、今季は例年にも増して厳冬だ。最終公演を終えた独身メンバーは身を小さくこごめ、プレハブのストーブを中心にたむろっていた。


(くれ)さん、陣取り過ぎですよ~もう少し僕にもスペース分けてください!」

「お前、未だ若いだろっ、年寄りは大切にするもんだ」

「こんな時だけ年寄りぶって~」


 秀成(ひでなり)のぼやきに突っ込む余裕もなく、(こご)える指先を温める男達。反面女性陣がてきぱきと準備を始めていた物とは……?


「あ、それ! オレも食べたいっ」

「食べるんだったら自分で用意してください~」


 ストーブの上に置かれたのは、アルミホイルに包まれたサツマイモやバターの乗ったキノコだった。


「何だよ~気が利かねぇな!」

(なま)けてあったまってばかりいるからですっ」


 そんな誰かれともなく始まるやり取りは、ケンカ腰でも微笑ましかった。調理の片付けを終えたモモも一団に加わり、楽しそうに皆の様子を見守る。


「そう言えば……」


 そんなモモが視界に入り、暮がふと尋ねたが、


「次の場所って、モモのいた施設の近くじゃないか?」

「え……? あ、はい」


 ストーブに背を向け温まっていたモモが振り返り、立ち昇るバターの香りの先に向けた面差しは、少々バツが悪そうだった。


「モモ、この二年半に一度も施設に顔出してないよな? 幾ら卒園したとはいえ、小さい妹や弟代わりがまだいるんだろ? たまには会ってきたらどうだ?」

「は、い……」

「?」


 いつになく歯切れの悪いモモの返事に、其処にいた全員が首を(かし)げた。──何か不都合でもあるのだろうか?


 確かに時折スケジュールのタイミングによって発生する長期休暇に入っても、モモが帰省場所として施設を訪れることはなかった。団員達は、まだ安月給のモモには交通費だけでも厳しいのだろうと推測していたが、今回は公共のバスでも行ける程度の距離だ。むしろ喜んでも良いだろうに、と皆が皆思い始めてしまう。


「モモ」

「は、はい」


 言葉もなく徐々にうなだれてゆくモモの頭上から、降ってきた自分の名前は凪徒(なぎと)の声だった。


「今まで連絡しなかった訳じゃないんだろ?」

「はい。園長先生には時々手紙を書いています」


 見上げて答える表情には嘘の色はない。が、凪徒も微かに引っ掛かる何かに気付いていた。


「移動すれば誰だってサーカスの存在には気付くんだ。公演前か休演日にでも挨拶に行ってこいよ。世話になった場所なんだから」

「……はい。すみません」


 其処でアルミホイルから漂ってきた焦げ臭さに気付き、慌て出した面子(メンツ)のお陰で話は途切れてしまったが、モモの(ほの)かな(かげ)りはしばらくその顔から消えなかった。




「ごめんね……(こう)ちゃん……」




 香ばしいさつまいもを口にしながら、苦々しい口元から(ささや)かれた名前と謝りの言葉に、モモは罪悪感で胸が一杯になっていた──。




★次回更新予定は九月二十三日です。

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