[2] 〈N♪〉
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「ココだヨー、入って入って」
モモ達独身女性の部屋は、凪徒達独身男性の部屋の真向かいだった。宴会の間に整えられたのだろう、既にふっくらとした布団が敷かれている。
「……リン? モモ、大丈夫?」
入室した途端、入口から秀成の声が呼び掛けた。リンは待ってましたとばかりに「ヒデナー!」とピンク色の声を上げて、戸口に駆け寄ってしまった。
「あ、おい! リン~何処に寝かせりゃいいんだよ!」
「ドコでもイイヨー、ヒデナー来たから行ってくるネ~! ナッギー、モモたんのことヨロシク!!」
「ちょっ……ったく!」
自分はモモがこうなった原因でも理由でもないのにと、凪徒は舌打ちをしながら、一番隅の掛け布団を剥いで、モモを静かに横たえた。
「おーい、モモ、大丈夫か~?」
一応声を掛けてみるが、目を覚ます気配はない。
──暗くして、自分の部屋で待機するか。
と、考えを巡らし腰を上げかけたところ、
「ん……気持ち、悪い……」
モモがいきなり眉間に皺を寄せた。
「モモ? 吐くか?」
──トイレにまで連れていかなきゃいけないのかよ~……。
凪徒はゲンナリしながら再びモモの首と膝の後ろに手を差し込み、
「う……うっ……」
「え? モ、モモ? ちょっと待て! も少し我慢しろ!!」
慌てて持ち上げた途端──
「う……うっそで~す!」
──はぁ……!?
依然目を閉じたまま、ニコニコ顔のモモが元気良く飛び出させた言葉に、凪徒は一瞬呆然自失した。浮かんだ少女の身体から手を引き、数センチだけ落下させてやる。
「お前~! 眠った振りして、俺をおちょくってるのかっ!?」
が、起きる気配もないので、どうやら寝言だったらしい。
「こいっつ、こうしてやるっっ!」
凪徒は左手でモモの鼻を摘まみ、右手はまるでガマ口の財布を閉じるように、上下の唇を指で挟んで、モモの呼吸を妨げた。
「ふ……んっ……ん──っ!!」
さすがのモモもそれを払いのけようと、必死に両手で指にしがみついたので、数秒後には凪徒もモモを解き放してやったが……。
「く……苦し……もう、食べられません~……」
──食べ過ぎで呼吸困難に陥ったとでも思ってるのか?
呆れて怒る気も失くしてしまう。
「酔ってあんな醜態が出てくるなんて……そんなに俺のデコピンが恐怖だったのかよ……」
しばらくしてモモは静かな寝息を立て始めた。その柔らかな寝顔を見下ろし、やがて凪徒の心にも穏やかなしじまが立ち込める。ゆっくりと右手を上げ、そっとモモの頬に触れる。
──杏奈が触りたくなるのも、分からない訳でもない……な。
モモは無意識に、その凪徒の手の甲に指先を落とすと、ふっと唇に笑みを湛えた。
──しっかし、息を止めても目覚めないんだったら、違う方法で口塞いでやれば良かった。
==え!? そ、それって……凪徒さん?==(作者の声)
「ゆっくり休めよ、モモ。……明後日から……またビシビシ鍛えてやるからなぁ!」
そう呟いて、口の際を鋭角に上げた凪徒の表情は、まさしく魂を奪いにやって来た死神の微笑みそのものだった……!
その後の凪徒が胸元の合わせをめくって見たとか、モモの腿(笑)をチラと覗いていったとか……そんな色気のある事実が有ったかどうかは、作者も知らぬところでございます。
がっ!
リンが退出した後の凪徒の様子は、案の定、暮・秀成・リンに観察されておりました……アーメン!
【Part.3に続く】




