表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.2:夏】結ばれない手 ―彼のカコと彼女のミライ―
87/154

[41]披露宴と墓参り

★少し前に投稿しました前話からご覧ください。

 それから全員が立ち上がり、去る者と見送る者の様々な挨拶がテーブルの上を飛び交った。


「しかし、私の演技もなかなかのものだっただろう? 自分の口から「()(しろ)」という言葉が出てきた時には、我ながら(おのの)いたがね」


 隼人は後頭部を掻きながら自画自賛して笑ったが、


「まったく……本当に悪魔に()りつかれたかと思ったぜ」


 ──同感……。


 呆れてぼやく凪徒の背後で、暮と秀成も口元をヒクヒクと歪ませた。


「モモちゃん、私、貴女を諦めた訳じゃないわよ。気が変わったらいつでもいらっしゃい。一ヶ月で社交界デビューさせてあげるから」

「あ、ありがとうございます……」


 杏奈はモモに近付き、宣戦布告にたじろぐモモを強く抱き締めた。途端ゲンナリとする凪徒と、目の前の光景に絶句する暮と秀成。──そうだ……このお姉さんの『両刀使い』疑惑はまだ晴れていなかった……。


「十月二十六日、君達も来られるなら是非おいで願いたい。タカちゃんも桃瀬君といかがかな?」

「あ……あたし達も、良いのですか? その時期ならサーカスの移動中なので、何とかなるのではないかと……」


 モモの言葉が暮の(うなず)きでにこやかな笑顔に変わる。隼人と杏奈にお礼を言ったモモは、見守る高岡紳士に同意を求める視線を上げた。


「私も大丈夫だよ、明日葉」

「お父様に買っていただいたワンピース、着ていきますね」

「それは楽しみだ! で、ハヤちゃん、式場はどこだい?」


 再び戻された隼人へ集中する全員の目線、その時凪徒には一瞬嫌な予感がよぎった。


「ああ、杏奈が大好きでね、東京○○○○ー・リゾートを全て貸し切った」


 ──……やっぱり……──。


 目を閉じ、軽く右手でこめかみを押さえる凪徒。


「え……っと……それって、あの『夢の国』……ですよね?」


 ──そんな所、全施設を、それも日曜日に貸し切れるものなの?


「まぁ、三ツ矢と桜のネームバリューがあれば──」

「おやじっ! 会社の力をプライベートに利用すんな!」

「あらん……怒られちゃったわね、隼人さん。でもナギ、これは一世一代の大イベントでしょ?」


 確かに日本四大財閥中の二家、その当主と、一方は大切にされてきたであろう一人娘が婚姻を結ぶとなれば、それは日本経済を根底から(くつがえ)すほどの威力となり得るだろうが──意外に真面目な凪徒と悪戯(イタズラ)好きな杏奈のやり取りを見て、モモは大きな目を思わず白黒させてしまった。


「あ、あの……先輩のお父様」


 やがて雑然と駆け巡っていた皆の会話が落ち着いた頃、モモが静かに声をかけたのは隼人だった。


「先輩のお母様にも、ですけれど……母に救いの手を差し伸べてくださったこと、見ず知らずのあたしを娘にしてくれようとしてくださったこと……本当に、ありがとうございました!」


 今一度深い礼を捧げたモモの頭上に、降り注ぐ温かな声。


「芙由子は椿さんと同じく優しい心根の持ち主だった。それも理由の一つだが、きっと心から君を娘として迎えたかったのだと思うよ。彼女は子供が大好きだったからね」


 そして次に後頭部へ与えられた感覚は、凪徒の大きな掌だった。


「先輩……?」


 ゆっくりと体勢を戻し、その手の先を(あお)ぎ見る。


「おふくろの墓参りに付き合うか? 今日は命日なんだ」

「は……はいっ、是非!」


 いつになく柔らかで優しい凪徒の瞳は、「これが先輩のお母様の笑顔なんだ」とモモに確信をもたらしていた──。




★現状『夢の国』は閉園後でないと貸し切りは無理のようでございます。




★更に続けて次話を投稿致します。


そちらが夏編最終話になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ