[41]披露宴と墓参り
★少し前に投稿しました前話からご覧ください。
それから全員が立ち上がり、去る者と見送る者の様々な挨拶がテーブルの上を飛び交った。
「しかし、私の演技もなかなかのものだっただろう? 自分の口から「依り代」という言葉が出てきた時には、我ながら慄いたがね」
隼人は後頭部を掻きながら自画自賛して笑ったが、
「まったく……本当に悪魔に憑りつかれたかと思ったぜ」
──同感……。
呆れてぼやく凪徒の背後で、暮と秀成も口元をヒクヒクと歪ませた。
「モモちゃん、私、貴女を諦めた訳じゃないわよ。気が変わったらいつでもいらっしゃい。一ヶ月で社交界デビューさせてあげるから」
「あ、ありがとうございます……」
杏奈はモモに近付き、宣戦布告にたじろぐモモを強く抱き締めた。途端ゲンナリとする凪徒と、目の前の光景に絶句する暮と秀成。──そうだ……このお姉さんの『両刀使い』疑惑はまだ晴れていなかった……。
「十月二十六日、君達も来られるなら是非おいで願いたい。タカちゃんも桃瀬君といかがかな?」
「あ……あたし達も、良いのですか? その時期ならサーカスの移動中なので、何とかなるのではないかと……」
モモの言葉が暮の頷きでにこやかな笑顔に変わる。隼人と杏奈にお礼を言ったモモは、見守る高岡紳士に同意を求める視線を上げた。
「私も大丈夫だよ、明日葉」
「お父様に買っていただいたワンピース、着ていきますね」
「それは楽しみだ! で、ハヤちゃん、式場はどこだい?」
再び戻された隼人へ集中する全員の目線、その時凪徒には一瞬嫌な予感がよぎった。
「ああ、杏奈が大好きでね、東京○○○○ー・リゾートを全て貸し切った」
──……やっぱり……──。
目を閉じ、軽く右手でこめかみを押さえる凪徒。
「え……っと……それって、あの『夢の国』……ですよね?」
──そんな所、全施設を、それも日曜日に貸し切れるものなの?
「まぁ、三ツ矢と桜のネームバリューがあれば──」
「おやじっ! 会社の力をプライベートに利用すんな!」
「あらん……怒られちゃったわね、隼人さん。でもナギ、これは一世一代の大イベントでしょ?」
確かに日本四大財閥中の二家、その当主と、一方は大切にされてきたであろう一人娘が婚姻を結ぶとなれば、それは日本経済を根底から覆すほどの威力となり得るだろうが──意外に真面目な凪徒と悪戯好きな杏奈のやり取りを見て、モモは大きな目を思わず白黒させてしまった。
「あ、あの……先輩のお父様」
やがて雑然と駆け巡っていた皆の会話が落ち着いた頃、モモが静かに声をかけたのは隼人だった。
「先輩のお母様にも、ですけれど……母に救いの手を差し伸べてくださったこと、見ず知らずのあたしを娘にしてくれようとしてくださったこと……本当に、ありがとうございました!」
今一度深い礼を捧げたモモの頭上に、降り注ぐ温かな声。
「芙由子は椿さんと同じく優しい心根の持ち主だった。それも理由の一つだが、きっと心から君を娘として迎えたかったのだと思うよ。彼女は子供が大好きだったからね」
そして次に後頭部へ与えられた感覚は、凪徒の大きな掌だった。
「先輩……?」
ゆっくりと体勢を戻し、その手の先を仰ぎ見る。
「おふくろの墓参りに付き合うか? 今日は命日なんだ」
「は……はいっ、是非!」
いつになく柔らかで優しい凪徒の瞳は、「これが先輩のお母様の笑顔なんだ」とモモに確信をもたらしていた──。
★現状『夢の国』は閉園後でないと貸し切りは無理のようでございます。
★更に続けて次話を投稿致します。
そちらが夏編最終話になります。




