[38]敵と味方 〈Ha♡A〉
呆然と立ち尽くす二人の影に、笑い出す腰かけたままの二人。その一人である杏奈がおもむろに立ち上がり、隼人の隣に佇んだ。
「私が、杏奈と結婚するんだ」
「あん」
隼人の腕が杏奈の腰に絡みつき、杏奈がわざとらしく色気のある声を上げた。
「ああ? ……ちょっと待て。どういうことだ……?」
モモを懐に抱え込んだまま身体を二人に向けた凪徒は、まったく意味が分からないという顔をした。
「お前がやっと『行き先』を決めたようだから、そろそろ種明かしをするとしよう。杏奈と私は以前から、お前の公演を時々見に行っていた。で、気付いたんだ。お前が『結論』を出せずにいることを。随分と臆病になったものだな。だから一芝居打ってみたんだよ。お陰でいい『きっかけ』になっただろう?」
背もたれに沈めていた上半身を起こし、膝の上で肘を突く。その両手に顎を乗せ、意味深な上目遣いを投げる隼人。凪徒は一瞬たじろいだが、隼人のソファの肘掛けへ腰かけた杏奈に視線を移した。
「杏奈……兄貴を殺したのは、おやじみたいなもんじゃないかっ。何でそんなおやじと──」
「貴方、分かってないのね。まぁ仕方ないかしら。ずっと目を背けてきたんだから」
杏奈も微笑みを絶やさず凪徒に答え、隼人に愛情の込もった視線を落とす。
「この人も十分苦しんだのよ……タクが死んだ時も、貴方達の母親──芙由子さんが亡くなった時も、そして貴方が出ていった時も……。独りにされてしまった隼人さんを支えてきたのは、この私。それで気付いたの。この人も被害者だったって。隼人さんもタクと同じだった……父親に企業家として育てられて、散々叱りつけられて……いわばアダルトチルドレンだったのよ。貴方達に上手く愛情表現出来なかっただけで、本当は愛に溢れていた」
そうして隼人の背後に回した右手が、整えられた彼の髪を撫で、そのまま頬を経由して右肩に回された。
「そんなこと、信じられる訳がない。だったら何でおふくろを裏切ったんだ!」
「それは……」
杏奈もそこに理由を見出せなかったらしく、困ったという顔色を見せたが、
「私は、芙由子を裏切ってなどいないさ」
依然自信を漲らせ、微動だにしない隼人が言い放った。
「どういう意味だ!? あんたは昔俺達に『妹が出来るんだ』と、妊娠中の女性に会わせたじゃないか!」
凪徒はモモの肩に乗せた手に力を込めた。刹那モモも凪徒の腕の中で萎縮してしまう。──自分の母親……かもしれない女性──。
「凪徒。お前が今そうやって大事そうに守っているその少女……桃瀬君と言ったかな? 彼女は確かにあの女性の娘だろう。とても面影があるよ。だがね、私の子供ではない」
「「「えええっ!?」」」
隼人の爆弾発言に途端上がった声は、凪徒、モモ、そして……杏奈、だった。
「は、隼人さん?」
「悪かったね、杏奈。でも『敵を欺くには味方から』と言うだろう? 凪徒もすっかり信じ込んでしまっていたし、面倒だからそのまま計画を進めてみたんだ」
そうしてニッコリと笑ってみせた表情は少し若返って、まるで在りし日の拓斗みたいだ、と呆けながらも杏奈は思った。やがて隼人はそんな杏奈から、同じく鳩が豆鉄砲を食らったようなモモの顔に目を向ける。
「君の母親は椿さんといった。これから全てをお話するとしよう。立ち話もなんだから座りたまえ。それと……扉の向こうに、二……三人か? おいでいただいても構わないよ。呼んでおいで」
「は、はいっ」
モモはハッと我に返り、ついしがみついていた凪徒の身体から、頬を赤らめてパッと離れた。隼人の言葉の意を汲んで、慌てて扉に駆けていった。
──あ……あたしっ、先輩の『妹』じゃなかった……!!
三人に背を見せ走るその面には、隠しきれない喜びが刻まれていた──。
★いつも大変お世話様になっております<(_ _)>
隼人と杏奈について、かなり戸惑われた方も多かったと思います(以前の連載時でもそうでしたので(^_^;))
こちらに関しましては二話先の四十話にてご納得いただけると思いますので、どうぞそれまで何卒ご辛抱くださいませ!
★以降は2014~15年に連載していた際の後書きです。
先日お仕事ご多忙中にも関らず、以前から手掛けてくださっていた『ラスボス隼人パパ』と『セクシー杏奈』のイラストを、ついに完成させてくださいました!!
希都サマ♪ これまた素敵なアツアツカップル絵、誠に有難うございました☆
2014年12月2日 朧 月夜 拝
★続けて次話を投稿致します。




