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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.2:夏】結ばれない手 ―彼のカコと彼女のミライ―
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[35]再会と協力

★少し前に投稿しました前話からご覧ください。

「……ですから、アポイントがございませんと、お通しする訳には──」


 ビル一階の受付にて。綺麗めの受付嬢二人とモモ達三人の押し問答が、案の定長いこと続けられていた。


「お願いします! 社長さんの息子さんは私達の知り合いで、今お二人と三ツ矢家のお嬢さんが話し合っていることにも関係があるんです!!」


 モモはカウンターにしがみついて必死に訴えかけたが、


「本当に申し訳ございません。重要な会議の最中ですので、どなたもお通し出来ないのです」


 受付嬢も困ったように同じ台詞(セリフ)を繰り返した。


「モモ、ここは一旦引こう」


 秀成が背後からモモの肩に手を置いた。少女の振り向いた先に映ったのは、車中と同じ自信に満ちたニヤケ顔。ということは、おそらく煙幕ボヤ作戦を遂行(すいこう)しようとの合図だ。


 ──い、いや……それは後で警察に捕まりかねないのでは……?


 こんな大きな企業で放火未遂と勘違いされたら、テロリストと誤解されても仕方がない。モモは依然カウンターに身体を向けたまま、顔だけは後ろの秀成にブルブルと横振りをし、拒絶の姿勢を見せ続けた。


「やぁ、遅れてすまなかったね。途中出席となるが、社長室に通してくれるかい?」


 ──え?


 突如モモの右隣から聞こえた懐かしい温かな声。


 モモは急いで首を二百七十度回転し、そのがたいの良い長身のスーツ姿を見上げた。


「お、お父様!?」

「久し振りだね、明日葉。……ああ、ここでは桃瀬くんの方がいいかな」


 この春にモモを誘拐し父娘(おやこ)ごっこの数日を過ごした高岡紳士が、優しそうな眼差しでモモを見下ろしていたのだ。


「い、いらっしゃいませ、高岡様! ですが高岡様のご出席はお聞きしておりませんが……」


 目の前で繰り広げられた驚きのやり取りで、目を丸くした受付嬢が慌てて来客リストをめくる。


「え? それは困ったな……隼人社長直々(じきじき)の依頼であったから、久し振りに出向いたのだが」


 紳士は受付嬢に見えないようモモに軽く目配せをして、いつもの温和な表情で言葉を返した。


「そう(おっしゃ)いましても……」

「会議開始の時刻と出席メンバーの顔ぶれでも説明出来れば通してもらえるかな?」


 と、困り顔の受付嬢にやや顔を寄せ、周囲に配慮して耳打ちした。女性も聞かされた内容に「確かに」と相槌を打つ。


「悪いがこれ以上遅刻したくないのでね、会議の場所は約束通り社長室でいいね?」


 戸惑う受付嬢を強引にやり込めた高岡は、再びニッコリと微笑んだ。モモの肩を柔らかく包んでエレベーターの方角へ促した。


「あ、あの、高岡様! そちらのお嬢様は……?」


 既に背を向けた二人の後ろ姿に、最後の攻防を仕掛ける受付嬢。振り向いた高岡は、


「私の娘だよ。今回の会議のメインとなる重要人物だ」

「は、はぁ……」


 受付嬢に満面の笑みを置き土産にして、三人を連れ立ちスタスタと歩き出した。


 真っ白で眩しい廊下を進み、振動一つ感じさせないエレベーターで最上階(の54階!!)を目指す。変わらぬ表情で隣に立つ紳士を見上げて、モモは呆然と(つぶや)いた。


「お父様……?」

「団長の……仕業(しわざ)、ですね?」

「え?」


 その問いかけに、今度は逆隣の暮を見上げる。暮は「面白そうだ」という顔をして高岡を見つめていた。


「まぁね。昨夜タマちゃんから電話をもらった時には驚いたが、また明日葉と会えるのだと思ったら、居ても立ってもいられなかったよ。何はともあれ間に合って良かった」

「あ……ありがとうございます!」


 事の真相を得て、モモもようやく我に返った。そしてついに『敵』の本拠地へと辿(たど)り着く。


「思い切って行っておいで。もしもサーカスが解散させられたら、私も尽力するからね」

「お父様……は、はいっ! ありがとうございます!!」


 モモは高岡の広い胸に抱きついた。しばらく紳士の抱擁に包まれて、やがて緊張した面持ちを暮と秀成に戻し、凛と立つ。


「暮さんも秀成君もありがとうございました! ココからは独りで行ってきます。絶対先輩を取り戻してきます!!」

「何か()ったらすぐ呼べよ? ここで信じて待ってるから」

「はいっ!!」


 モモは元気な声で、ピンと伸ばした右手をこめかみに当て敬礼をした。同じ姿勢を返した二人にくるりと背を向けて、社長室の重厚な扉の前まで進んだ。




 力強い握り拳で、『(いくさ)』を始めるノックをした──。




★次回更新予定は九月八日です。

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