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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.2:夏】結ばれない手 ―彼のカコと彼女のミライ―
73/154

[27]可能と不可能

★少し前に投稿しました前話からご覧ください。

「おいっ、秀成! 俺達は車で追いかけるぞ!!」

「え……? あ、はい?」


 慌てて暮は団長室に飛び込み、「車、借ります!」とソファでうたた寝を始めた団長に叫んだ。鍵をぶん取り部屋から飛び出すや、何の騒ぎに巻き込まれたのか意味も分からず突っ立ったままの秀成を引っ張り走る。駐車場の営業車に乗り込んでアクセルを踏み込み、やがて遠い歩道にモモの小さな背中を見つけたが、助手席の秀成は自分の眼を疑わずにはいられなかった。


「はっ、速!!」

「そうだろ~? 以前団長が言っていたが、ちゃんと専門のトレーナー付けたら、女子百メートルの世界記録、更新出来るだろうって話だぞ」

「ええっ!?」


 額に汗を光らせ真剣に運転する暮の横顔を驚き見つめる。視界に入ったのは楽しそうに口角の上がった口元。再びフロントガラス左端に目を移し、更に小さくなった少女の姿を何とか見つけたが、人ごみをかき分けながら百メートル走の調子で二キロを走るモモに、あの華奢(きゃしゃ)な身体から何処にそんなスタミナが溢れるのか、秀成には全くもって不思議だった。


「団長(いわ)く、どうも筋肉の組織からもう常人とは違うらしい。だからその辺の筋肉あんのか分かんねぇギャルみたいな手足しながら、あれだけの舞を魅せるんだ。モモはやっぱり天才だよっ」


 ──いや……それって、天才というより異星人か異次元人なのでは……?


 秀成は驚きよりも恐怖を感じながら、モモの影を目で追った。さすが国家機密レベルのスパイ養成候補に選ばれる筈だ、とも。(Part.1をご参照ください)


「秀成、駐車違反になっちまうから、車内で待機していてくれ!」


 何とか引き離されずに駅のロータリーに車を寄せ、暮は凪徒の居場所を示したままのスマホを受け取り、モモの後を走った。改札の前で戸惑う少女に後ろから怒鳴り声をあげる。


「モモ! 払っとくから飛び越えていけ!! 凪徒は向こう側のホーム最後尾だっ!」

「……は、はいっ!」


 モモは頭が理解出来ない内に既に飛び越していた。真っ直ぐ進んだホームの右側に、向かい側へ渡る為の階段を見つけて、三段跳びで登り詰める。


 ──先輩……行っちゃ……嫌だ……。お願い……だから──!!


「先輩っっ!!」


 同じく三段抜きで下った階段下から、ずっと先に立つ、一つ頭の飛び出した凪徒の横顔に叫んだ。途端向けられた驚きの(おもて)──先輩──。


「……モ、モ……?」


 モモは再び走り出した。滑り込むように現れた東京行きの準急列車。扉が開き、降車する人の波が押し寄せ、そして──。


「せ……先輩!」


 ()けながら進んだ最後部の車両に、こちらを見つめながらも足を伸ばした凪徒の姿が映った。


「せっ……ぱっ、いぃぃぃっ……!」


 あと一歩、無情にも凪徒を守るように扉は閉まる。ドアの窓から気まずそうな表情で、凪徒は三度口を動かした。


 ──『ご』、『め』、『ん』。


「あ……」


 発車する四角い箱を追いかけるように、モモは凪徒だけを見つめて並走したが、ホームの柱に激突する寸前、追いかけてきた暮に抱きかかえられた。


「モモ……車で追跡するか? 未だ、今なら──」

「……っく……」


 ──駄目だ……手を伸ばしても……今の先輩は、帰ってこない──。


「すみません……暮さん……。大、丈夫……です。サーカスへ……戻ります──」


 それだけ何とか言葉にして、モモは暮の腕の中、両手で顔を覆い嗚咽(おえつ)(こら)えた。




 ──先輩……行かないで──。




 空っぽになった心の中に、列車の到着を告げる駅のメロディが、やけに明るく残酷に響いた──。




★次回更新予定は、ちょっと異例ですが、翌日八月二十七日です。

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