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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.2:夏】結ばれない手 ―彼のカコと彼女のミライ―
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[24]理由と悟り

 そして同じ頃。団長室でも一人の落ち着いた語り手と、一人の戸惑いを隠せない聞き役が、テーブルを挟んで顔を突き合わせていた。


「モモの入団時を覚えておるかの?」

「? ……はい」


 団長の質問に何とか答える暮。


「モモは本来なら、あの選考テストで不採用となる筈だった。が、凪徒が強く推し──結局パートナーとなるのは凪徒だったからの、奴の強引な決定でモモはブランコ乗りに選ばれた」

「ええ……」


 弱々しく返事をしながら二年と半年前に思いを馳せる。あの凪徒の引かない態度は『異性』としてもモモを気に入ったのだと思い込んでいたからこそ、今まで冷やかしをやめずにきた暮だが、モモが『妹』となると話は違ってくる。


「モモはうちのサーカスには『天才』過ぎた……練習もせずにあれだけ出来てしまうとなると、今まで努力してきた団員達の立場がない。それに女性ファンの多い凪徒に、若い女性をパートナーとして付けることにも抵抗があった。夫人の場合は凪徒よりも先にいたメンバーだったしの、五つも年上なのも幸いして、特に問題はなかったが……」

「はい……。でもそうなると凪徒は、自分の妹と確信したからこそ選んだ、ということですか?」


 暮はテーブルに手を突き、ずいっと上目遣いの顔を団長に寄せたが、


「いや、その可能性は薄いだろうの」


 意外なことに団長のにこやかな表情は、変わらぬままそれを否定した。


「あいつは純粋にモモの舞に魅了され、その才能にブランコ乗りとしての可能性を見出したんだろうよ。モモが初めて現れたのはまだ十四の時だ。凪徒は一度だけ会ったモモの母親かもしれぬ女性の面影には気付かなかった。が、モモが成長するにつれて『それ』が見えてきた……あいつが悩み、戸惑い出したのは最近のことだ」

「はぁ……」


 暮は大きく(うなず)くように息を吐き、背もたれに体勢を戻した。


「ところでモモの『天才過ぎる身体能力』について、凪徒が決めた自分の中での『ルール』のことは知っているか?」

「ルール?」


 胸の前で腕を組み、()りをほぐすように肩を上下させた暮は、きょとんと目を丸くした。


「モモの到るべき目標を高みに上げ、そこに達しない演舞を全て注意する。実際モモはすぐにデビュー出来るほどの技量を持っていたが、三ヶ月を有することになったのも、その後も凪徒から説教されまくっているのもそういうことだ」

「……団員達にモモの天才振りを見せつけないために、ですか?」


 暮の予測に団長は「うむ」と一つ首を上下させた。


 しかし先日の皆の前での説教がいつもの調子とは思わないが、あれほど叱りつけられていてもめげないモモは、凄いと言うより凄まじいな、と暮はつい苦笑した。今どきの若者は叱られることに慣れていない。もしかするとそここそが、モモの天才である所以(ゆえん)なのかもしれない?


「凪徒は「モモが自分の妹では?」と思い悩めば悩むほど、遺伝子検査に手を伸ばせなくなってしまった。元はと言えば、ここにいるのは唯一の肉親を捜すことが目的であったのに……それは自分が空中ブランコを好きな大きさと同じくらい、モモもブランコを好きだと気付いてしまったからだろうの。桜の人間だと分かれば、必ずその追手はやって来る。だから凪徒は去ったんじゃよ、後継者は自分で十分だと、父親に訴えるためにな」


 ──DNA鑑定、か……。凪徒にとってモモが『妹』では困るから。って可能性もあるかもしれないけど、な?


 暮は再び心の奥で苦々しく笑いながら、団長の言葉に相槌(あいづち)を打った。そして思う──自分を犠牲にして騒動が片付くと思うのか、凪徒さんよ?




 ──あいつを探し出さねばならない。




 暮はふぅと溜息を一つついた。気合いを入れ直す意味も込めて、おもむろにカップを手に取り団長におかわりをねだってみた──。




★続けて次話を投稿致します。

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