[16]探索と告白
「おーやっと着いた着いた」
暮は降車し、一つ伸びをした。
「さて~凪徒とモモは……? もう先に行っちまったか」
眉毛の高さに手をかざし辺りを見回したが、あの背高ノッポと茶色い髪のコンビは見つからなかった。
「大丈夫です、暮さん。僕、凪徒さんの財布に発信器仕掛けておいたんで」
と、平然と凄いことを言ってのけた秀成が自分のスマホを覗き込み、リンと暮を連れて歩き出す。
「おい……何でお前が凪徒の財布にそんなもん付けてるんだよ」
暮は恐る恐る問い質した。春の誘拐事件でハッキングまでした秀成のオタク振りは、凪徒から聞かされている。暮もそんな秀成を敵には回したくないな、とは思っていたのだが、既に凪徒自身がそんなことになっているということは、敵と見なされてしまっているのか?
「んー、あんまり意図があってやったことではなくて、飽くまでも興味本位と言いますか。ちょうどいいモルモットが目の前に落ちていたと言いますか……」
──あいつの財布はこいつのモルモットなのか!?
秀成の視覚範囲に私物を放置するのはやめよう── 一つ学んだ暮は、心に留めるように胸に手を当てコソっと息を吐いた。
☆ ☆ ☆
その頃、凪徒とモモは──。
「お前、どうして……?」
凪徒は花火を見上げていた視線を、モモの前まで登ってきた杏奈へと向け問いかけた。白い浴衣地に濃い翠の笹の葉がいやに艶っぽい。襟足を緩く纏め、衣紋を少し多めに抜かれたうなじは、周りの視線を集めていた。
「忘れたの? 近くに別荘があって、今はそこに滞在してるの。あなた達のショーも楽しんだわよ。──あの木曜の最後の公演」
「……やっぱり、あの時いたのか」
杏奈は扇子をヒラヒラと揺らしながら、その後ろでウフフと笑った。振られる度に匂い立つ奥ゆかしい白檀の香りがモモの鼻をくすぐった。
「何はともあれモモちゃんをキズものにしなくて良かったわね。責任を取ろうって言っても無理な話でしょうし? それで……このデートはその『怪我の功名』なの? それともブランコから落としたお詫びかしら?」
扇子で隠された口元は笑っているのかは分からなかったが、明らかに瞳は意地悪そうに細められている。モモはその挑戦的とも言える質問に慌てて、
「あ、あの、ここには他のメンバーと来ているんです。先に着いてしまっただけで……」
「モモ、お前は何も言わなくていい」
背後から右肩に置かれた凪徒の手と言葉で、モモは話半ばにして言葉を途切らせた。
「ふうん、まぁいいわ。でも二ヶ月後には私も混ぜてくれないと困るわね。ほら、約束の期日。忘れてないでしょ? ナギ」
「あんな約束は無効だ。俺があの家から縁を切ったあの時からな……お前だって納得いかない筈だ」
妖しく微笑む目つきの杏奈と、言葉の雰囲気からまだ落ち着きを保っている目には見えない背後の凪徒。その狭間で戸惑うモモは、上から照らし雄姿を見ろと呼びかける華々しい炎の舞に、目を向けることも出来ず立ち尽くしていた。
「あっ、いたいた! モモたーん!!」
花火の音と音の静寂の間に、ずっと後ろから甲高いリンの呼ぶ声が聞こえた。モモは咄嗟に振り返ったが──
「おじ様の言葉は絶対だって言ったでしょ? そろそろ目の前の『彼女』にも釘を刺しておきたいから言っておくわ。……ね、モモちゃん、私、ナギの『いいなずけ』なのよ」
──え……?
背後から近付く暮達三人と、モモの視線が杏奈の潤んだ紅い唇に釘付けになった刹那。モモには間違いなく数秒時間が止まった気がした──。
★続けて次話を投稿致します。




