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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.1:春】夜桜の約束 ―プロジェクト“S”を暴け!―
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[4]予告と戸惑い

 翌日は風も止まり、作業をこなすには最高の日和だった。お陰で順調に全てを終えたメンバーが打合せに集まれたのも、まだ陽の(かげ)らない明るい時間。そのためみっちり狭いプレハブに押し込まれもせず、節電のために照明を消された暗いステージでもなく、気持ちの良い屋外での話し合いが悠々とされた。


「──という具合だ。まぁいつも通りやってくれ。……ここから話すこと以外はの」


 ずんぐり小太りで立派な口髭を生やした珠園団長のまとめの言葉に、全員が頷こうと首を振りかけたが、最後の余計な一言が、縦に振る筈の首を横へ(かし)げさせた。


 団長のつぶらな瞳が、斜め左先のモモへと焦点を合わせる。それは右隣の凪徒を経由し、数人先の鈴原夫人に向けられた。


「夫人……悪いが、明日はモモの代わりにブランコに乗ってくれるかい?」


 ──えっ!?


「団長、一体っ!」


 言葉すら発せられなかったモモに代わって、凪徒が声を荒げた。夫人は以前の凪徒のパートナーだ。猛獣使いの鈴原との結婚を機に、ブランコ乗りからの引退希望を出したため、次代を(にな)える人材を育てようと若いモモが採用された。今は猛獣使いに転向し、夫妻で舞台に立つ毎日だ。


「まぁま、落ち着いて。モモの技量がどうこうって話じゃないんだ。実はこんな物が届いての」


 と、一通の封書を中央に置かれた小さなテーブルに広げてみせた。


「『いとしのモモサマを頂きたく(そうろう)。奪われたくなければ、明日の出演は見送るべし』……?」


 ──えっ!?


 二度目の心のざわめき。


 ちょうど文字がそちらへ向いたこともあり目の前の暮が読み上げたが、新聞の切り抜き文字であることと驚きから、その声は随分たどたどしかった。


「いとしのって……うえっ、気持ちわりっ」

「まるであたしが気持ち悪い人みたいな言い方しないでください……」


 まさしく言葉通りの吐くのを我慢するような凪徒の顔に、モモは困惑と(いまし)めの表情を上げた。


「熱烈なファンだと言えば聞こえはいいが……」

「やっぱりストーカーでしょう?」


 メンバーの山から口々に動揺の言葉が洩れてくる。


 明日は大事な初日、それもおおとりのブランコがこんなではと、モモはまるで自分が悪いことをしたかのように首を折り曲げた。


「団長……だからと言って、何も犯人の言いなりにならなくても……」

「それで何か起きたらどうする? だが、ブランコなしのサーカスなんて麺のないラーメンだ」

「もう少しかっこいい(たと)えはないんですか、団長~」


 口々に飛び交うやり取りは、もはやモモの耳には入らなかった。


「モモ」


 それでも自分の名を呼ぶ声にはすぐさま反応を示した。それも凪徒の言葉だ。


「お前、悪いけど休め。こっちで何とかする」

「あ……」


 凪徒が向けた真剣な眼差しは否応(いやおう)も言わせなかった。仕方なく反論の言葉も引っ込めて、モモは静かにコクリと頷いた。


「モモちゃん、大丈夫よ。すぐ捕まえて復帰させるわ。それまで辛抱して」


 いつの間にか夫人は目の前にしゃがみ込んでいて、そのしなやかな手が少女の頬を優しく撫でた。美しく(あで)やかな女性(ひと)。今でもモモのピンチヒッターとして練習を欠かさない夫人だ。何も問題はない。


「すみません、夫人……お願いします」


 弱々しい返事に向けられる花のような微笑み、それをもって団長が打ち合わせを閉める大声を放った。


「モモ、ここは辛抱の。ではこれから凪徒と夫人はブランコの練習、モモはそれを見学しなさい。明日の公演中は舞台裏で待機。必ず誰かと一緒にいること。今回はまだ様子をみることにして、警察には知らせない。だから皆、不審な者を見たらすぐ、わしに知らせるように、以上!」


 全員の返事が一斉に沸き立つ。立ち上がった皆は散り散りに自分の練習場へと流れていった──。




★次回更新予定は三月十五日です。

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